俳優・野呂佳代がドラマで引っ張りだこになっている。ライターの吉田潮さんは「主人公の親友や右腕がハマり役で、こんな友達がほしい!と思わせる演技力がある。
その原点には、不遇だったアイドル時代に培った能力がある」という――。
■野呂佳代躍進の10年で起きたこと
野呂佳代の快進撃が止まらない。
現在放送中のドラマ「銀河の一票」(フジ)では黒木華とともに、熟練の演技で話題を呼んでいる。ビオレハンドソープの新しいCMでは俳優・前原瑞樹と登場、商品イメージを格段に向上させた(ドラマに引っ張りだこのふたりを起用する花王、うまいな!)。
元AKB48という華やかな黒歴史、鳴かず飛ばずの潜伏期を経て、この10年で順調に番手を上げてきた。バラエティ番組での当意即妙な返しが有名だが、俳優としての評価もうなぎのぼり。なぜ野呂佳代は飛躍を遂げたのか。その答えはこれまでの軌跡の中にあった。
この2カ月、テレビでは野呂佳代祭りだ。
フジテレビでは「ドッキリGP」(4月18日放送)にドラマの番宣のテイで出演。この番組で何度も仕掛けられているので察知してはいたようだが、目隠しされて両方の鼻の穴にワックスのついた綿棒を差し込まれると、抵抗せずにすんなり受け入れ、秒で「キタ……」と呟く。綿棒を鼻にさしたままで、女優の意気込みを語ったのだ。
「あたしのキャリアの邪魔をしないで!」と怒るまでが企画であることを受容している。プロだよ……と感心した。
■黒柳徹子にも発揮された天性の愛嬌
また、5月27日放送「徹子の部屋」にも登場。小学校時代に嫌がらせや無視をされたものの、勝ち気な母に「やり返さない対処法」を教わったこと、AKB48のオーディションには2歳サバを読み、縦に伸ばして細身にした写真を送って合格したことなどを朗らかに語った。
ステージ初日のハイタッチ会では、ファンに「アイドルとしての自覚あんの?」と怒られたことも明かした。怒られることは愛情として受けとめ、アイドル向きの体型ではないことを逆手にとって、やってきたという。
トークも抜け感を装備。黒柳徹子がツッコむ前に自らツッコむという腕前を披露。幼少期の写真には「おしっこ漏らしちゃって怒られているところ」と自虐解説(言わんでええのに)。「子どもの頃は習い事を7つぐらいやっていて。水泳、ピアノ、硬筆、そろばん、習字……あと2個ぐらい足りないんですけど、やってました!」と流す。「女優になりたかった」と話し、徹子に「女優ってどなたを見て、いいって思ったの?」と聞かれて「浅野温子さんとか武田鉄矢さんとか、安達祐実さん……」と答えている。
なぜ鉄矢を入れた?
この抜け感は天性の愛嬌でもあり、たとえ嫌な目に遭っても度胸と忘却力で乗り越えてきた感もある。固執せずにすべてを包容するような雰囲気が画面から滲み出ていた。この持ち味、実は役者としても存分に活かされてきた。
■こんな友達がほしい!
女優・野呂佳代の10年を振り返って、5文字に集約してみた。それは「温・食・医・恋・毒」である。まず、野呂佳代本人に最も近いと思わせる「温」。人としての温かみ、信頼感、親近感を携えて、主人公の親友や右腕を好演してきた。
「こんな友達がほしい!」と思ったのは、『きみはペット』(2017年・フジ)だ。
主人公・巖谷スミレ(入山法子)の親友で、子持ちの白妙ユリ役。スミレは東大&ハーバード大卒の才女で新聞社勤務。若い男性・モモ(志尊淳)をうっかり拾ってしまい、恋も仕事も思いがけない方向に進むという物語。
スミレは聡明だが、恋愛偏差値は底辺で不器用の権化。
そんなスミレにご飯を作って持ってきたり、タロット占いで助言したりと、甲斐甲斐しいのがユリだ。子育てで忙しいはずなのに、スミレが精神的な危機を迎えるとさりげなく支えてくれる。個人的には女優・野呂佳代の第一印象はこのユリだった。
■伝説が始まったフジの深夜ドラマ
また『こんな未来は聞いてない‼』(2018年・フジ)では、主人公で高校生の花園佳代(田辺桃子)を未来から叱咤激励に現れる30歳の佳代を演じた。
高校時代に気後れして恋愛に発展しなかったせいで、30歳になっても独身だと文句を言う。タイムスリップモノのお約束をガン無視、過去を積極的に変えようとする過干渉っぷりだが、おかしくて切ない。フジ深夜枠で女優・野呂佳代伝説は始まったのだ。
女子大生たちが酷い目に遭い、復讐を企てる「SHUT UP」(2023年・テレ東)では、性暴力被害者の女性を支援する自助グループ代表役(明瞭で温かい声に説得力あり)、『西園寺さんは家事をしない』(2024年・TBS)では家事スキルゼロの主人公(松本若菜)の幼馴染役。「クラスメイトの女子、全員好きでした」(2024年・日テレ)では主人公(木村昴)の同級生で、3児を育てる肝っ玉母ちゃん風の橘文香役。どの役も「適温の配慮と優しさ」を感じさせたのである。
■デリバリーを頼みすぎて殺される
ダイエット番組をクビになったり、料理動画を配信してきた野呂佳代。初期は、その柔らかいフォルムと「食」を繋げるキャスティングも多かった。

「科捜研の女」Season19(2020年・テレ朝)では、鮨・ピザ・中華とデリバリーを頼みまくって殺された被害者役。劇中にダイエット番組も出てきて、完全なる野呂シフト。野呂佳代ありきの回だった。その後も「食べることが好き」な設定を背負うことに。
似合うという意味で覚えているのは『ザ・トラベルナース』(2022年・2024年、テレ朝)で着ていた服である。ポップな食べ物柄のTシャツ(鮭の切り身や練乳など)が可愛くてね。芸人・渡辺直美がプロデュースしたブランドPUNYUS(プニュズ)のTシャツで、これを着こなせるのは野呂佳代無双、と思ったよ。
そうそう、女性誌『la farfa』(現在は休刊)ではプラスサイズモデルとしても活躍。特にマニッシュな着こなしが予想外に素敵だったし、保険外交員や区役所窓口にこういうシゴデキ女性がいそうだなというリアリティもあったことを思い出す。
■リアリティのありすぎる看護師役
メリハリのある動きも持ち味のひとつ。それが「医」療従事者役に実にしっくり。
ナイト・ドクター』(2021年・フジ)ではベテラン看護師役。
セリフは少なくても、テキパキとキビキビという擬音が聞こえてきそうなほどの安定感と説得力。前述の『ザ・トラベルナース』では我が道を行く看護師役、そして『アンメット』(2024年・フジ)では麻酔科医役を演じた。
初恋DOGs』(2025年・TBS)では動物看護師役、日曜劇場『リブート』(TBS)では、別人に造作を変える凄腕形成外科医、つまり闇医者役もこなした。緊急時にうろたえない度胸、白衣やユニフォーム姿もすっかり板についていたっけ。
一方で、実は教員役も増えている。熱血教師ではなく、色恋沙汰の難あり教師だ。聖職でも間違える、人間味あふれる役を体現。貫地谷しほりと神尾楓珠の密かな名作「顔だけ先生」(2021年・フジ)では、男子生徒(若林時英)と一線を超えてしまった教師を演じた。
総スカンを喰らうリスクもあったが、野呂佳代は観る者に寛容な心をもたらした。尊い純愛だったからか、自虐マジックが功を奏したのか。第6話は神回と言ってもいい。
もうひとつは『なんで私が神説教』(2025年・日テレ)で演じた学年主任の教師で、教頭(小手伸也)と不倫している役だ。
コミカルな立ち位置で、不倫してはいるが諦観と失笑と同情を誘った。
■「銀河の一票」は代表作になる
そして現在放送中の「銀河の一票」ではスナックのママだが、前職は養護教諭。都知事を目指して奮闘する役どころだが、もう毎回泣いてるのよ、野呂佳代が。その涙はすべて温かくて優しい。自分も命を絶とうとして救われた過去があり、困っている人をほうっておけない、そんな月岡あかりを熱演。野呂佳代のこの10年の集大成的な役どころで、間違いなく代表作になると確信している。
「徹子の部屋」で今後挑戦したい役を聞かれ、「恋愛ドラマのヒロイン、月9の恋愛ドラマやりたいです」と話した。「言う分にはタダなんで」と付け加えて笑いを誘うも、案外実現しそうな気もする。そもそもフジテレビ系との相性はいいし、今までの役も実は恋愛市場の最前線にいる設定が多かったから。これが「恋」だ。
強烈で最も刹那だったのは、大河『光る君へ』(2024年・NHK)のぬい役。藤原道長(柄本佑)の従者・百舌彦(本多力)と逢引きする女だ。セリフはなくても、あの逢引顔は忘れない。『光る君へ』で一条天皇を好演した塩野瑛久の不倫相手を演じたのは「不倫をコウカイしてます」(2020年・テレ朝)だ。既婚者をつまみ食いする色気と、打算的な図太さ、危機回避能力の高さが半端なくて快哉を叫んだよ。
また、看護師役でも、イケメンや筋肉に目敏く反応する設定だった。合コンに行けば野呂佳代だけがモテる場面も。恋愛市場の最前列に並んでいる自覚をもち、適度な色気を発する女を体現し続けてきたので、恋愛モノ主演のオファーがあってもおかしくない。あとは事務所の戦略と力量次第だ。
■女優・野呂佳代の礎を築いた芸人
「野呂佳代出演作にハズレなし」という呼び声も高いが、その礎としてはバカリズム脚本の影響が大きいと思われる。
ブラッシュアップライフ』(2023年・日テレ)で演じた、あだ名が活用形の同級生役(ミサゴン→ゴンミサ→ゴンちゃん)、そして『ホットスポット』(2025年・日テレ)で演じた、手癖と往生際の悪い、でも不思議と多幸感のある女性役は、物語の主軸に関係ないものの、きっちり爪痕を残した。
ひとさじの鈍い「毒」とでも言おうか。記憶に残る名脇役でもある。
役者としての実力はすでに太鼓判をおされている。シングルも子持ちも演じるうえで垣根がなく、自然体の演技も評価されているし、朗らかな色気も重宝されている。
是枝裕和監督の映画『怪物』(2023年)や『箱の中の羊』(2026年)にも出演。『怪物』では主演・安藤サクラのママ友役(噂好きの表情が秀逸)、『箱の中の羊』では建築家の主人公(綾瀬はるか)に二世帯住宅の建築を依頼(義母の金で豪奢に)する夫妻役を角田晃広とともに演じた。立派な「カンヌ女優」である。
遅咲きではあったが、今や元AKB48の中でも出世頭に。作品や脚本、監督にも恵まれ、選ばれるようになった。主演作ももちろん観たいが、記憶に残る面白い役や、さらに飛躍できる難役に出合えることを願っている。

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吉田 潮(よしだ・うしお)

ライター

1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)
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