ゴールデンウィークが明けたら、次の祝日である7月の海の日までは2カ月以上もある。元気に乗り切るためにはどうすればいいのか。
産業医の武神健之さんは「GWをどう過ごすかによって5月以降の働き具合が変わってくる。連休中は3つのポイントを意識してほしい」という――。
■GWの過ごし方で5月以降のパフォーマンスが変わる
こんにちは。産業医の武神です。春は変化の季節とよく言われます。特に4月は、入社・異動・転勤・転職などで、働く人の環境がガラッと変わる時期です。新しい職場、新しい上司や同僚。慣れないことに囲まれ、気づかぬうちに心身ともにエネルギーを消耗している方も多いのではないでしょうか。
そんな慌ただしい1カ月を終えたころにやってくるのがゴールデンウィーク(GW)です。長年産業医をしていて思うのは、GWをどう過ごすかによって、5月以降の元気の度合い、働き具合が大きく変わってくるということです。15年以上の産業医面談の中で私は「4月の変化や疲れを5月に引きずってしまう人」と「5月も元気に駆け抜けることができる人」との違いを数多く見てきました。その違いは、このGW中の過ごし方にあります。

今回は、4月に環境が変わった人が、5月以降も元気に働き続けるために、GW後半に意識してほしい3つのポイントについてお話しさせていただきます。
■この時期は「詰め込む」よりも「整える」
1.仕事の勉強は、“好奇心ベース”で軽く取り入れる程度がちょうどいい
「新しい仕事についていけるか不安」「まだ覚えきれていない業務がある」――そんな気持ちから、GW中もつい仕事の勉強をしたくなるかもしれません。実際、真面目で責任感の強い方ほど、勉強熱心であることが多いです。
でもちょっと待ってください。4月に新しい職場・部署・環境に変わった人は、ただでさえ緊張や気遣いで多くのエネルギーを使ってきています。表面上は元気でも、無意識下でかなりエネルギーを消耗しているはずです。この時期にやらねばという意識や義務感で仕事の勉強を詰め込むと、エネルギー回復のタイミングを逃してしまい、“疲労の上塗り”になることが多いのが実情です。GWまでがっつり勉強に取り組むと、疲労の回復が遅れ、GW以降にどっと反動が来ることもあります。
この時期に大切なのは詰め込むより整えることです。GWは“仕込み”じゃなく“仕切り直し”のタイミングです。“学ぶために頑張る時間”ではなく、“元気に働き続けるためのリズムを取り戻す時間”です。なので、勉強は気が向いたら程度で十分です。

産業医のおすすめは、「気になることを軽く調べる」「仕事の本はカフェでめくる」といった軽い学びです。やらなければいけない等の義務感からではなく、好奇心からのインプットが不安をやわらげ、心の余裕にもつながります。
“勉強するならカフェでする”ぜひ、覚えておいてください。
■出かける方がいいのか、家で過ごすべきなのか
2.遊ぶ? 休む?――五感を喜ばせる過ごし方が、ストレス回復のカギ
「どこかに出かけたほうがいいのか、それとも家でのんびり過ごすべきか」――GWの過ごし方として、私が毎年多くの人に聞かれる質問です。
これに対する私の答えは、「どちらでも構いません。ただし“心身の回復”を意識すること」です。
私が、不安やストレスに上手に対処できている人たちを見てきて、彼・彼女らが実践しているストレス対処法のひとつに「五感で区切る」というものがあります。これは、自らの視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を刺激し、緊張感を和らげる(区切る)方法です。仕事日(日常生活)とは違う感覚で自らを刺激し、自らの緊張感を区切りリラックスするのです。そうすることで、心身の疲れを解消する方法です。
■半日は家で休む「ハーフ外出」もおすすめ
この「区切り」は心の再起動にもなります。特に4月から新しい環境に入った人は、まだ“仕事モード”がずっと続いている状態なことも多いですので、一度しっかりオフにすることが回復には必要です。
ライブに行く、自然に触れる、近場でも遠くでもいいから温泉につかる、普段は行かないような美術館で静かな時間を過ごす――こうした非日常の感覚の体験は、交感神経優位(緊張状態)だったモードを副交感神経優位(リラックス状態)に切り替えるスイッチになります。
また、「1日中外出」をすると逆に疲れが溜まる人には、午前中は家でのんびり、午後に近場へお出かけ、という“ハーフ外出”もおすすめです。もちろん、その逆もいいと思います。誰かと会う場合も、GW後半は無理に気を遣う相手ではなく、「安心できる人」「なんでも話せる気心の知れた人」と過ごすことを優先しましょう。
“五感に普段とは違う刺激を与えてみる。”ぜひ覚えておいてください。
■7月の海の日までに「楽しみの予定」を入れておく
3.次の“楽しみの予定”を入れておくと、心が軽くなる
GW後半にぜひ取り組んでほしいもう一つのことが、「次の楽しみな予定を立てる」です。
大切なのは、海外旅行や大きなイベントではなく、ほんの小さな楽しみ――「来月は新しいカフェに行ってみる」「月末にごほうびランチ」などでいいので、心がふっと明るくなる予定を1つ(以上)入れておくことです。先に小さな楽しみを置いておくことで、今を乗り切りやすくなります。
GWが終わると、次の祝日は7月の海の日(7月21日)で、実はこの間2カ月以上は、1年の中で一番長い「祝日がない期間」となります。この約2カ月間の長丁場を、元気に働き続けるためにも、私はこの間に“休暇”を上手に取り入れることを推奨しています。(詳しくはこちらの記事をお読みください)
旅行に行けることに越したことはありませんが、旅行でなくても大丈夫です。
具体的には、6月に1回美味しいものを食べに行く予定を入れておく、有給休暇を数日申請しておく、何か楽しいイベントに参加することを決めておくなどです。こうして未来に楽しみを予約することで、今のしんどさも通過点に変えられます。海の日までの2カ月間の労働期間を小さく刻むことができるのです。
■疲労がたまる前に「給水場所」を用意しておく
大切なのは、疲労がたまってからや自律神経のバランスが崩れてから楽しみの予定を入れたり休暇を取ったりするのではなく、その前に楽しみや休みを取り入れることです。マラソン選手は42キロを最速で走るために、喉が渇いてから水を飲むのではなく、あらかじめ給水場所やタイミングを決めています。仕事は短距離走ではなく、長距離走です。自分で給水場所、すなわち楽しみ予定や休暇を決めておくことで、自分に合ったペース配分で1年を通して走り続けることができるでしょう。適度な自己管理をしてこそ、長く元気に働き続け結果を出せるのだと思います。
ぜひ皆様も、GWが明けてから海の日まで思いっきり働くためにこそ、間に適時、休暇や楽しみな予定を入れてみてください。ポジティブな予定があることで、未来に向かって心が前を向きます。そして、いま直面している不安や疲れも、「そこまで頑張ればいい」と具体的な“通過点”に変わっていきます。
GWももう後半になります。
ぜひ、ここに挙げたGW後も元気に働き続けるための工夫を取り入れてみてください。勉強は好奇心を満たす程度、五感を刺激していつもと違う感覚を味わう、そして、小さな楽しみを今後の予定に組み込んでおく。これからもしっかりとした自己管理を心がけ、適度に休みを取り入れながら、充実した毎日を送っていただけることを願っています。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)

医師

医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

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(医師 武神 健之)
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