老後資金の中心となる退職金はどのように受け取るべきなのか。一般社団法人確定拠出年金診断協会の分部彰吾さんと山上真司さんによる『確定拠出年金 退職金で損する人得する人』(ワニ・プラス)より紹介する――。
(第2回)
■出口戦略の目安は「100マイナス年齢%」
定年が近づいてくると、どう資産を保全していくかが重要になってきます。
たとえば、同じ20%の下落でも、20代の年金資産100万円のときの20万円の損失と、50代の年金資産2000万円のときの400万円の損失では、資産的にも精神的にもダメージが大きくなってくると思います。
他にも、せっかく運用が好調だったのに、定年目前で○○危機が起こり、一気に元本割れしたらどうですか?
ですので、定年に向けて「企業型DC以外の資産も考慮し、運用商品をどう見直していくべきか」をしっかり考えることが重要です。これを出口戦略と言います。
出口戦略は非常に難しく、保有している資産やライフプランによって、戦略が異なってきます。
あくまでも参考ですが、一般的な目安として持つべきリスク資産の割合は「100-年齢%」と言われています(長寿化により「120-年齢%」で考えることもあります)。
たとえば、30代の人なら「100-30=70」で株式の比率は70%、50代なら「100-50=50」で50%、70代なら「100-70=30」で30%の比率で株式を保有し、それ以外は債券や預貯金などの安定的な資産を持ちましょうということになります。
■いつDC受け取りがベストなのか
このように、「若いときは株式メインでリスクを取って積極的に運用し、年齢を重ねて定年が近づいてきたら、リスクを取らずに安定を求める運用に変えていく」というフレキシブルな運用をすることが望ましいでしょう。
ただし、この考えは企業型DCだけではなく、預貯金やその他の金融資産とトータルで考えます。ライフプラン、リタイアメントプランによって大きく変わってきます。そのため40代、50代でも、企業型DC以外に預貯金などのリスクの低い資産をしっかり保有されている場合、企業型DCは株式メインで運用継続していくケースもあります。
定年時に加入資格を喪失した時点で、記録関連機関から「老齢給付金の給付請求に関するご案内」が届きます。
年金資産を受け取る場合、記録関連機関に「受給申請」を行います。その際に、一括受け取り、年金受け取り、一括+年金受け取りの選択が必要です(後述します)。

※記録関連機関の連絡先は、定期的に送られてくる「確定拠出年金のお知らせ」などに記載されています。
企業型DCは、定年後も最長75歳まで受け取り開始を延ばすことができ、継続運用することができます。
■3つの受け取りパターン
たとえば、定年時に運用成績がイマイチなため、もう少し運用して相場回復まで待ちたい。企業型DC以外の資産で当面の老後生活費はカバーできるので継続して運用したい。そのようなシーンで活用することができます。
継続運用したい場合は、定年時に「受給申請」をしなければ、年金資産はそのまま継続運用されます。受給申請はいつでも行えますが、受給申請をしていない場合、70歳、74歳に記録関連機関から通知が来ます。75歳まで受給申請をしない場合、一括受け取りのみとなります。
企業型DCの受取方法には、「一時金受取」「年金受取」「一時金+年金の併用受取」の3パターンがあります。
年金資産を「一時金」として一括で受け取る場合は「退職所得控除」、分割して「年金」として受け取る場合は「公的年金等控除」の対象になるのです。


■税金がかかる金額
「一時金」として一括で受け取る
一時金の形で受け取る企業型DCは、退職時にまとまったお金を一括で受け取れる従来の「退職金」と同じ扱いになるため、「退職所得控除」の対象になります。退職所得控除の額までは非課税で受け取れます。退職所得控除の額からはみ出た金額は課税対象となります。
退職所得控除の額は企業型DCの加入期間によって異なります。加入期間が20年以下だと1年あたり40万円(80万円に満たない場合は80万円)、それ以上の期間は1年あたり70万円で計算されます。
たとえば企業型DCへの加入期間が15年の場合、退職所得控除は20年までの控除の「40万円×15年=600万円」になります。
30年の場合は、20年までの控除「40万円×20年=800万円」と「20年から30年までの10年間の控除「70万円×10年=700万円)」を合わせて、退職所得控除は1500万円になります。
加入期間が長いほど退職所得控除額が大きく、受けられる税制優遇も多くなるのです。
さらに、一時金でもらう場合、受け取り額が退職所得控除額を超えると、超過した金額の2分の1に税金がかかります。
たとえば、加入期間が30年(退職所得控除額が1500万円)の人が、企業型DCで仮に2500万円を受け取ると、非課税額を超えた額(1000万円)の2分の1となる500万円に対して所得税がかかってきます。
年金資産が非課税額を超えると、出口の受け取り時に税金がかかるケースが起こり得るので、税金を考慮したプランニングが重要です。
■手取りが少なくなるリスク
「年金」として分割で受け取る
企業型DCを分割して年金として受け取る場合は、公的年金を受給する際に適用される「公的年金等控除」の対象になります。

「厚生年金等や企業型DC等の受け取り額-公的年金等控除の額」が雑所得として課税されます。
年金額が所得になるため、将来的に、所得税・住民税の税制改正や、社会保険料の改正などがあった場合に、手取りが少なくなるリスクがあります。
■「一時金」と「年金」を別に受け取ると…
「一時金」と「年金」を併用して受け取る
企業型DCを受け取る際には、資産の一部を「一時金」で受け取り、残りを「年金」として分割で受け取るという「併用スタイル」も選択することができます。
たとえば、一時金で受け取ると退職所得控除額をオーバーしてしまう場合、非課税になる金額を一時金として受け取り、非課税額を超えた部分を「年金」として受け取る、といった対応も可能になるわけです。
加入期間が30年(退職所得控除額1500万円)の人が2500万円の資産を受け取る場合、非課税額の1500万円を一時金に、超過分(1000万円)を年金にする。こうすることで退職所得控除の満額適用を受けることが可能になります。
また会社によっては、企業型DCとDB(確定給付企業年金)の両方が導入されているケースもあります。DC、DBともに一時金で受け取る場合は、いつ受け取るかによって退職所得控除額に影響が出てくることがあります。
DCとDBを同じ年に受け取ると、両者は合算されて「ひとつの退職金」とみなされることになります。
■80万円の退職所得控除
たとえば、60歳で定年退職する人が、DBの退職金2500万円とDCで積み立てた1000万円を一時金として受け取るとしましょう。
もし同時に(同じ年に)受け取ると、合計金額が3500万円となり、退職所得控除額(加入年数40年の場合、退職所得控除額は2200万円)を大幅に超えてしまいます。非課税枠をいくら超えたかによって税率が変わるため、金額が大きいほどかかる税金も高くなります。

こうしたケースでは、DBとDCを受け取る年を1年ずらすことで税金を抑えるという選択肢もあります。この場合なら、DBの2500万円を60歳で受け取り、DCの1000万円は1年遅らせて翌年61歳で受け取るのです。
そうすると、DCの受取時にも新たに「80万円の退職所得控除」が適用されます(年を跨いで、異なる種類の退職所得を受け取る場合、最低80万円の退職所得控除が適用されます)。
そうすることで、少しでも税金を抑えることができるというわけです。
退職所得控除を最大限に活かした効果的な節税を行うためにも、受け取るタイミングを検討することが重要になります。

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分部 彰吾(わけべ・しょうご)

一般社団法人確定拠出年金診断協会代表理事

1990年大阪府生まれ。甲南大学マネジメント創造学部を卒業後、リース会社へ入社。その後保険代理店を経て、独立系ファイナンシャルプランナーへ。知識を研鑽していく中で、新卒入社した企業で加入していた確定拠出年金の運用を放置し損していたことに気づく。それ以来、確定拠出年金で損をしている方が多いことに疑問を抱き、一般社団法人確定拠出年金診断協会を設立。「確定拠出年金診断士」を全国に800名以上輩出。育成した専門家とともに世の中を変える活動をしている。


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山上 真司(やまがみ・しんじ)

一般社団法人確定拠出年金診断協会理事

1986年東京都生まれ。中央大学商学部を卒業後、セキスイハイムに入社。その後、プルデンシャル生命を経て、独立系ファイナンシャルプランナーへ。「おかねで損する人をゼロに。」をコンセプトに、住宅・金融両面の実務経験に基づく資産の最適化支援に従事。紹介のみで個人1000世帯・法人50社超の課題解決を行なってきた。一人ひとりの相談者の課題解決だけでは、社会全体を良くするには限界があると感じ、当協会を含む法人2社を起業。より多くの方へ正しい情報を届ける事業を展開している。

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(一般社団法人確定拠出年金診断協会代表理事 分部 彰吾、一般社団法人確定拠出年金診断協会理事 山上 真司)
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