※本稿は、遠藤健司、奥野祐次『こんなに痛いのにどうして「なんでもない」と医者に言われてしまうのでしょうか』(ワニ・プラス)の一部を再編集したものです。
■なぜあなたの身体に「痛み」が生まれるのか
背骨が曲がっていることが痛みの原因ではありません。曲がったままバランスが崩れている状態で固まってしまっていることが痛みの原因なのです。
首や背中の痛みの人間の体は動かないと不具合が発生することを軸性疼痛といいますが、姿勢からくる軸性疼痛の対処法についてお話ししたいと思います。
子どもはよく動きますが、人間の体はじっとしているのに適した構造にはなっていません。そのため長時間同じ姿勢でいると、いろいろな「不具合」が起きてくるのです。その極端な例が、長時間の飛行機旅行で発生する脚の血栓(エコノミークラス症候群)です。筋肉の収縮が少ないと脚の血流が低下して、血栓が発生してしまいます。
同じ姿勢を続けがちで、あまり動かさない上半身の筋肉のファシア(※)には多かれ少なかれむくみが生じており、そのせいで本来の「ゆるさ」が失われ、コリや痛みといった症状が引き起こされます。逆に言えば、コリや痛みを感じるのはファシアがむくんで硬くなっている証拠なのです。
(※ファシア:疎性結合組織。
■解決策は「揉む」「叩く」ではない
多くの人は、コリや痛みを感じる箇所を揉んだり、叩いたりすることで解消しようとするでしょう。しかし、肩こりと同様に、痛いた気持ちいいからといって強く揉んだり叩いたりすると、その筋肉のファシアが傷んでさらに硬くなってしまいます。
一時的には回復したように思えても、結果的にはさらなるコリや痛みに悩まされることになりかねません。コリや痛みは揉んだり叩いたりしても解消しません。大事なのは、むくみを流してファシアをゆるめ、筋肉の動きをよくすることなのです。
そこで、ここからは効果的にファシアのむくみを流す方法をご紹介します。
コリを流す、というイメージから、「押し流し」と名づけました。痛みやコリを感じる場所の筋肉の流れを意識しながら、たまったむくみを「押し流す」のが目的です。
押し流す方向は上から下、下から上のどちらでも大丈夫です。繰り返し数回やってください。リンパなどの血管外のむくみを毛細血管に戻すのが目的なので、細胞に存在するむくんだ部分をしぼり出して毛細血管に戻す感覚でやってみてください。
■身体の痛みに効く栄養素
ファシアをゆるめる体操は、ファシアにうっ滞したむくみや老廃物を取り除き、体の動きをすっきりさせ、痛みが楽になります。また、精神面にも良い方向に影響します。
また、加齢による筋力低下によってリンパの流れが悪くなることもむくみの原因として挙げられます。血行をよくするために、運動や半身浴を行ない、根菜類・香味野菜など体を温めるものを食べるように心がけましょう。
カリウムの多い食事を取ることも有用です。お酒の飲み過ぎ、就寝前の水分・塩分の取り過ぎ、睡眠不足、血行を悪くする締めつけのキツい衣類の着用は避けましょう。
ファシアは頭から足先まで、Xの組み合わせで体を支えています。下の図を参考に痛む部位を探して、Xの流れに沿って押し流しをしてみましょう。
■首、背中の「押し流し法」
では、痛みを発生する動きと押し流し方法を解説していきます。
首を左右に振ると痛い=肩甲挙筋の押し流し
このタイプの人は、首の後ろ、後頭部から肩甲骨にかけてついている「肩甲拳筋(けんこうきょきん)」がこっています。下を向き、肩甲拳筋を伸ばしながら首の後ろを、上から下に向かって押し流します。テニスボールを手で押し当てて、上から下に転がしてもいいでしょう。
脊柱起立筋には背骨をまっすぐに保つ働きがあります。前かがみになったときに背中に痛みを感じる場合は、この筋肉のファシアにむくみがある可能性が高いと思われます。
前かがみになって脊柱起立筋を伸ばし、背中から腰、お尻にかけて上から下へのむくみを流し、ファシアをゆるめていきましょう。
脊柱起立筋の押し流しは体を前かがみにして、痛みを感じるところで止めます。そのままの姿勢で、背中の真ん中から腰、お尻にかけて、強くさすりながらむくみを流していきましょう。親指のつけ根に力を入れると効果的です。
■テニスボールでしっかり奥まで
前かがみになるとお尻が痛いとき=大臀筋の押し流し
大臀筋はお尻の盛り上がりを形づくっている大きな筋肉で、骨盤を起こす働きがあります。前かがみになるとお尻が痛い場合には、脚をクロスさせて大臀筋を伸ばしながら、内側から外側に向かって押し流しをします。
大臀筋の位置がわかりにくい場合、お尻に力を入れてみたときに盛り上がる場所が大臀筋です。
また、皮下脂肪が邪魔になって「押す力が筋肉に届いていない」感じがする人はテニスボールを使うとしっかりと効かせることができます。運動は「骨盤振り子運動」が効果的です。
■脇腹の痛みには
上体を左右に倒すと痛いとき=腹斜筋の押し流し
上体を横に倒すと痛みを感じる人は脇腹にある「腹斜筋」がこっています。腹斜筋は体を前から横にかけて支えています。
上半身を患部と反対側に傾けて、腹斜筋を伸ばします。そのうえで腰骨と肋骨の間を後ろから前に手のひらで押し流しましょう。
体がふらつく場合は、下のイラストのようにテーブルなどに手を置いて行ないます。このタイプでも「骨盤振り子運動」が効果的です(本書参照)。特に脚を前から後ろに回すときに脚を上げている側の腹斜筋を使っていることを意識しましょう。
■腰痛だと思ったら「いつの間にか骨折」
歳を重ねて身長が低くなるのは、骨、筋肉、関節の変性が原因となっています。一般的に40歳以降になると、10年ごとに約1センチの身長を失います。
特に70歳以降は、さらに急速に身長が低くなると言われています。
なかでも注意しなければならないのは「いつの間にか骨折」。ただの腰痛と思っていたら自分で気づかないうちに背骨が骨折していることがあるのです。身長はその目安の1つになります。若い頃より身長が3センチ以上縮んでいたら、すでに骨折している可能性があります。
背骨を骨折すると、背中が丸くなり猫背になります。骨折自体による身長の低下は1センチ程度であっても、姿勢が悪くなることで3センチ以上低下してしまいます。また、1カ所の骨折があるとドミノ現象が発生し、その後コラムに上下の脊椎を骨折しやすくなります。特に骨粗しょう症があると、ドミノ現象が発生しやすくなります。ドミノ現象を予防するためには、骨粗しょう症治療をきちんとしなければなりません。
結果として背中が丸くなると、体が前かがみとなりバランスが悪くなるため、腰痛(特にお尻のまわり)が起きます。骨盤が前に傾いてしまうと足の上がりが悪くなり、つま先が地面にぶつかって転びやすくなるわけです。
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遠藤 健司(えんどう・けんじ)
東京医科大学整形外科准教授
1988年東京医科大学卒業。1992年米国ロックフェラー大学ポスドクとして留学(神経生理学を専攻)。1995年東京医科大学茨城医療センター整形外科医長、2007年東京医科大学整形外科講師、2019年准教授。厚生労働省特定疾患対策研究事業OPLL研究班、自賠責保険顧問医、日本腰痛学会評議員なども務める。腰部脊柱管狭窄症、頚椎後縦靭帯骨化症、脊椎内視鏡手術、脊椎腫瘍、首下がり、骨粗鬆症、脊髄神経生理、椎間板、筋線維、ファシアの研究に取り組む。『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)、『1分で美姿勢になる ファシア・ストレッチ』(青春出版社)、『肩・首・腰・頭 デスクワーカーの痛み全部とれる 医師が教える最強メソッド』(かんき出版)ほか著書多数。
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(東京医科大学整形外科准教授 遠藤 健司)