秋篠宮家の長男、悠仁さまが筑波大学に入学され、メディアで取り上げられることも増えている。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「悠仁殿下が将来、天皇として即位されることがあたかも既定の事実であるかのような報道が目につく。
しかし、欠陥ルールに基づく皇位継承順序を、揺るがぬ事実であるかのように受け止めてしまうのは問題だ」という――。
■悠仁さまをめぐる報道の問題点
秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下がめでたくご成年を迎えられ、筑波大学に入学された。それにともなって、このところ悠仁殿下をめぐる報道がにわかに増えた。それ自体は結構なことだ。
しかし、1つ気になることがある。
それは悠仁殿下が将来、天皇として即位されることがあたかも既定の事実であるかのような報道が目につくことだ。
もちろん、今の皇位継承のルールによれば、天皇陛下の次の皇位継承者は秋篠宮殿下であり、その次が悠仁殿下という順番になる。しかし、そのルールが重大な構造的欠陥を抱えている事実は、すでに広く知られていることではないだろうか。
■欠陥ルールに基づく皇位の継承順序
明治の皇室典範で歴史上初めて、皇位継承資格を「男系の男子」に狭く限定した。
前近代には、よく知られているように10代8方の女性天皇がおられた。さらに古代の大宝・養老律令では、「女帝の子」は女系の親王・内親王とし、その皇位継承資格も認めていた。
その実例が奈良時代の元正天皇だ。
この天皇は父親の草壁皇子が即位しないまま亡くなり、母親の元明天皇が即位された後を受けて、「女帝の子」=女系の内親王として即位されている。
ところが明治の皇室典範で、皇位継承資格が“男系男子”だけに狭められた。そうすれば当然、皇位の継承が不安定化する。
それを補う仕組みが、新しく採用された「永世皇族制」(世代を問わず子孫は皇族となる。ただし弊害があり後に修正)と、古代以来の側室制度と非嫡出子、非嫡系子孫にも皇位継承資格を認めるルールを維持することだった。
たとえば、明治典範を定められた明治天皇も、その典範のもとで即位された大正天皇も、ともに「側室の子」だった(明治天皇の母親は中山慶子(よしこ)であり、大正天皇の母親は柳原愛子(なるこ))。
今の皇室典範では、さすがに旧時代的な側室制度を前提とした非嫡出子、非嫡系子孫が皇位を継承する可能性を排除した。にもかかわらず、それと“セット”でなければ維持できないはずの、明治の皇室典範で新しく採用された「男系男子」限定ルールの方は、うっかりそのまま踏襲してしまった。
明らかに“ミスマッチ”な仕組みと言わざるをえない。
そのうえ、社会の晩婚化・少子化は進む一方だ。
この構造的欠陥のために、次の世代の皇位継承資格者がわずかに悠仁殿下お1人だけという、現在の皇室の危機を招く結果になってしまった。
このルールをいつまでも維持できないことは明らかだ。

■皇室の未来が行き詰まってしまう
今の皇位継承順序は、もともと持続可能性を期待できない、欠陥ルールに規定されたものにすぎない。にもかかわらず、この順序に手をつけずそのまま固定化すると、どうなるか。
あらためて言うまでもなく、皇室典範が抱える構造的欠陥を是正する道が閉ざされる。その結果、やがて皇室には悠仁殿下ただお1人だけが残される事態に陥る。
そのような未来があらかじめ見えていて、しかも「男子」出産を迫る強烈な重圧が予想される場合、失礼ながら悠仁殿下の結婚のハードルは極めて高くなってしまうだろう。そうなれば、皇室の未来は行き詰まるほかない。
したがって、もし皇室の存続と皇位継承の安定化を望むなら、今の皇位継承順序を決して固定化してはならない。
現に、これまで国会でも皇室典範の改正が繰り返し検討課題とされてきた経緯があり、今もまさに現実的な政治課題であり続けている。その点に無頓着な報道を多く見かけるのは残念だ。
■秋篠宮さまは「悠仁天皇」を望んでいない
そもそも当事者の秋篠宮殿下ご自身が、欠陥ルールを前提とした継承順序の固定化を望んでおられないように拝察できる。
何よりも秋篠宮殿下のご年齢からして、実際に即位される場面はリアルには想定しづらい。
秋篠宮殿下は天皇陛下よりわずかに5歳お若いだけ。
なので、仮に天皇陛下が上皇陛下の前例にならって85歳で退位される場合、秋篠宮殿下はすでに80歳か79歳というお年だ。それから即位されるシナリオは普通に考えてあり得ないだろう。
また、ご自身のお気持ちとしても、即位されるおつもりはないように拝察できる(プレジデントオンライン令和4年[2022年]4月29日公開拙稿 皇位継承順位は第1位でも「秋篠宮さまは即位するつもりはない」と言えるこれだけの理由 など)。
今の皇室典範のままでも、皇室会議の議決によって皇位継承順序の変更は可能だ(第3条)。制度上、秋篠宮殿下が即位を辞退されることは決して不可能ではない。
そうすると、天皇陛下からいきなり傍系の悠仁殿下に皇位が移るのか。秋篠宮殿下はそのことも望んでおられないのではないだろうか。
その理由はおもに2つある。
1つは、秋篠宮殿下が皇族の役割において男性皇族、女性皇族の区別はないと考えておられることだ。
もう1つは、皇位継承は本来、「直系」によるべきであるとお考えである事実だ。
■「女性皇族、男性皇族の違いはない」
順番に説明しよう。まず、前者から。

秋篠宮殿下は悠仁殿下がご誕生後の平成18年(2006年)のお誕生日記者会見で、記者からの質問に対して次のように述べておられた。
「質問にありました女性皇族の役割についてですけれども、私は私たちと同じで社会の要請を受けてそれが良いものであればその務めを果たしていく。そういうことだと思うんですね。

これにつきましては、私は女性皇族、男性皇族という違いはまったくないと思っております。ですから、女性皇族だから何かという役割というのは、私は少なくとも公的な活動においては思い当たりません」
このようにお考えであれば、天皇、皇后両陛下に現にお子さまがおられるのに、ただ「女性だから」という“だけ”の理由であらかじめ皇位継承のラインから外される、現在の時代錯誤な欠陥ルールについて、それを当然の前提とするような感覚をお持ちではないはずだ。
■「秋篠宮家の跡取り」としての男子
次に後者について。これについては、先ごろ刊行された江森敬治氏の『悠仁さま』(講談社ビーシー/講談社)に興味深い記述が見られる。同氏は秋篠宮殿下と最も近い関係にあるジャーナリストとされている。
「じつは、結婚当初から、秋篠宮さまの周囲では“早く男子を”という声があり、私の耳にも届いていた。しかし、それはあくまでも『秋篠宮家の跡取り』としての男の子であって、皇位を受け継ぐという、そんな大それた考えで発言されたものでは毛頭なかった」「私は、秋篠宮さまの一貫した姿勢や発言の裏に、宮さまの“次男としての自覚”を感じている。殿下は結婚によって(親元を離れて)自由な立場を得て、公的な活動だけでなく、好きな研究や勉強なども追究したいと願っていた。

その理由は、皇位継承云々という問題は、天皇家においては元来、長男の担当、領域であって、次男が口出しすべきものではない。
こうした厳格な自覚を、弟である秋篠宮さまは強く持っている」
秋篠宮殿下の皇族の役割に男女の区別はないという考え方と、傍系である“次男としての自覚”を突き合わせると、秋篠宮殿下が皇位継承の「あるべき姿」についてどのようにお考えかが、見えてくる。
■「悠仁さまの即位」自明視への違和感が表れている
秋篠宮殿下はこれまで、例年の記者会見で、悠仁殿下が将来、天皇として即位されることをあたかも既定の事実であるかのように扱う質問に対して、ほとんどかたくななまでに、真正面からの回答を控え続けてこられている。将来の皇位継承者にふさわしい適性を身につける、いわゆる「帝王学」(帝王教育)についての質問へのお答えも、つねに避けてこられた。
これらは、おそらく秋篠宮殿下が不誠実であるとか、無責任なのではないだろう。そうではなくて、将来における悠仁殿下の即位を自明視することへの、強い違和感によるものではないか。
その違和感は、天皇、皇后両陛下のお子さまが男女の別に関係なく、皇位を継承されることがふさわしいと考えておられるために生まれるものだろう。
■「帝王学」が不在
先の『悠仁さま』は、悠仁殿下がこれまで秋篠宮家でどのような教育を受けてこられたかを、詳しく記述している。だが、そこには「帝王学」にあたる教育が、見当たらない。
天皇陛下の場合は、学習院初等科・中等科の頃に碩学(せきがく)の宇野哲人・精一父子から『論語』の素読と通釈を学ばれている。また高等科に進まれてからは、学習院大学の児玉幸多学長や黛弘道教授、東京大学の笹山晴生教授などから、「天皇の歴史」を独自に学ばれた。
さらに天皇、皇后になられるご両親のもとで、“将来の皇位継承者”として薫陶を受けてこられた事実は大きい。
悠仁殿下の場合、少なくともこれまでは、それらがほぼ欠けた状態のように見える。

『悠仁さま』では、平成最後の天皇誕生日(平成30年[2018年]12月23日)に詰めかけた国民たちに交じって皇居での一般参賀を経験されたことを、「生きた帝王教育」として特筆大書している。しかし、一般参賀に加わることは、今のルールでは皇位継承資格を持たない姉宮たちも、それぞれご成年前に経験された出来事だ。
だから、皇族として貴重な経験だったに違いないものの、“帝王教育”という表現は少し言いすぎだろう。
■愛子さまの帝王教育
また、同書では次のような記述もある。
「きっと悠仁さまもご両親の仕事に打ち込む姿などから、自然に多くのことを学ぶに違いない。ご家族と一緒に暮らすことが、何よりも悠仁さまにとっての大切な『帝王教育』なのかもしれない」
しかし、このような記述は逆に、将来おそらく即位されることはないと思われる秋篠宮殿下をはじめとする「ご家族と一緒に暮らすこと」すら、あえて「帝王教育」と表現しなければならないほど、ほかにそれにあたる教育がとくに行われていなかった事実を伝えている。
一方、敬宮(としのみや)(愛子内親王)殿下は誠心誠意、公的なご活動に取り組まれる天皇、皇后両陛下から薫陶を受けながら、これまで育ってこられた。
またご卒業後の昨年は、過去の天皇が亡くなられてから節目の年ごとの「式年祭」の前に行われる、祭典の対象となる天皇の事跡についての専門家によるご進講を3回、両陛下とご一緒に受けておられる。
さらに今年は、皇宮警察本部の「年頭視閲式」にも、両陛下とともにお出ましになるという、皇嗣の秋篠宮殿下すらできない経験を、積まれている。
これらこそ「帝王教育」の表現にふさわしいのではないか。
■「夫婦と親子で身分が違う」検討中のプランの問題点
現在、国会では衆参両院の正副議長の呼びかけにより、全政党・会派の代表者が一堂に会して、皇室制度の改正が検討されている。しかしその中身は、多くの国民が望む安定的な皇位継承につながる「女性天皇」への制度改正とは、隔たった方向のものだ。
単に皇族数の減少に“目先だけ”歯止めをかけようとする弥縫策でしかない。
そこで検討されているプランの1つは、こんな中身だ。
内親王・女王について、これまでのルールを変更し、男性皇族と同じように結婚後も皇族の身分を保持することとする。しかし一方で、その配偶者とお子さまは、男性皇族の場合とは違って一般国民に位置づけるという。
近代以来、家族は同じ身分という構成原理が採用されてきた。だから、一般国民の家族に皇族が混在したり、皇族の家族に一般国民が混在したりすることは、これまでまったくなかった。ところが政府・自民党などは、女性皇族の家族のケースだけ、それをあえてくつがえそうとしている。
配偶者やお子さまが一般国民なら当然、国民としての自由や権利が保障される。自由に政治活動やビジネス、宗教活動もできる仕組みになる。
しかし、そのような制度を設けると、夫婦や親子など家族は社会通念上、“一体”と見られがちなので、公正中立、不偏不党が求められる皇室の立場と鋭く矛盾するおそれがある。
■憲法違反の疑いが残る「養子縁組プラン」
また別に、80年近くも前に皇族の身分を離れたいわゆる旧宮家系の子孫男性に対して、養子縁組で皇族の身分を与えるプランも、検討されている。
しかし、皇族の養子縁組は皇室典範によって禁止されている(第9条)。にもかかわらず、国民の中から特定の家柄・血筋=門地(もんち)の者だけに例外的・特権的に養子縁組を認めて、結婚を介さないで皇族の身分を取得できるようにする。そんな方策だ。
このような制度は「国民平等」の原則に反し、憲法が禁じる「門地による差別」(第14条第1項)にあたる疑いが、権威ある憲法学者である宍戸常寿・東京大学大学院教授によって、すでに指摘されている。そうした指摘を受けて、衆議院での立法実務をサポートする衆議院法制局も、憲法違反の疑いが否定できないことを明言している(3月10日、第5回全体会議)。これらの事実は重大だ。
しかも、養子縁組に同意する当事者が実際にいるのかどうかも不明だし、奇妙なことに政府はこれまで、当事者の意思確認はしないと主張している。
■欠陥の放置が招く、悠仁さまへの「非人道的な要請」
どうして、すべての党派が集まる全体会議でこのような見当外れの議論をしているか。理由は簡単だ。
政府・自民党などが、今の欠陥ルールによって規定された、敬宮殿下を外して秋篠宮殿下から悠仁殿下へと皇位が継承される流れを、「ゆるがせにしてはならない」という考え方に凝り固まっているからにほかならない。
一夫一婦制で少子化なのに「男系男子」限定というミスマッチな構造的欠陥を放置して、しかも皇室の存続を望めばどうなるか。
たとえば悠仁殿下に対して、次のような非人道的な要請が平然と突きつけられることになる。
「皇室においては、お世継ぎづくりが最優先です。……いっそ学校など行かずにいち早くご結婚いただくことが何よりに優先事項ではないでしょうか。……

『悠仁親王殿下は留学されると良い』と言う人は、わかっていないか偽善者だと私は断じます。……

今の状況で悠仁親王殿下に何かあれば、誰がどのように責任を取るのでしょうか」(倉山満氏『決定版 皇室論』ワニブックス)
■男系男子へのこだわりは皇室の方々を苦しめる
これは、常軌を逸した特定の論者による、孤立的な暴論に見えるかもしれない。だが、「男系男子」限定ルールを不動の前提とする限り、避けがたく出てくるタイプの議論と心得るべきだろう。
しかし、悠仁殿下はすでに筑波大学に進学された。さらに海外留学については、何よりもご両親でいらっしゃる秋篠宮、同妃両殿下がそれを強く希望しておられる。
昨年(令和6年[2024年])11月25日の両殿下のトルコ公式訪問前の記者会見では、お2方そろって次のように述べておられた。
「長男には海外で学ぶ機会を得てほしいと思っています」(秋篠宮殿下)

「若い時に、もし機会があれば、海外で生活を送り、また、そこの大学で、学校で学ぶ機会があれば良いのではないかと話すことがあります」(紀子妃殿下)
悠仁殿下ご本人もご成年記者会見で、海外留学に前向きな姿勢を示唆しておられた(令和7年[2025年]3月3日)。
まさか両殿下や悠仁殿下ご本人に対して、「わかっていないか偽善者だと……断じ」るつもりだろうか。
男系男子限定にこだわると、上記のような暴論が平気でまかり通ることになる。これは一例にすぎないが、男系男子限定ルールに固執することが、いかに皇室の方々を苦しめる結果になるかをよく示している。
■世襲なら「愛子天皇」が最も自然
皇位は、親から子への継承を軸とする「世襲」とされている。そうであれば、天皇、皇后両陛下にお子さまがおられないならばともかく、現にお健やかでご聡明というレベルをさらに超えた、人々に笑顔の連鎖を生み出す敬宮殿下がおられるのだから、次の天皇にはこの方が即位されるのが最も自然であると考える国民が多くて、当たり前だろう。
しかも皇位継承の安定化のためには、先に述べたように「男系男子」限定ルールの見直しが欠かせない。その見直しによって構造的な欠陥が解消すれば、「直系優先」の原則(皇室典範第2条)によって、ただちに敬宮殿下が皇位継承順位第1位の「皇太子」(皇嗣たる皇子)の地位につかれる。それは次の天皇が敬宮殿下に確定することを意味する。
そのためには、欠陥ルールに基づく皇位継承順序を、あたかも揺るがぬ事実であるかのように受け止める錯覚から、早く抜け出すことが必要だ。

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高森 明勅(たかもり・あきのり)

神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録

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(神道学者、皇室研究者 高森 明勅)
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