ユニクロが2024年から本格的に始めた古着販売が苦戦している。ライターの南充浩さんは「洗濯・染色といったコストがかかったり、仕入れが安定しなかったりとさまざまな課題がある中で、最大の壁はユニクロ以上の店舗数を持つ『あの古着店』がすでに日本各地にあることだ」という――。

■ユニクロが古着再販で大苦戦
衣料品業界では近年、環境意識の高まりとともに、廃棄削減という目的からリユースを主眼とした古着ビジネスに注目が高まっています。自社の中古商品を回収し、再販売に乗り出した大手アパレルも何社か出てきました。
そんな中、国内最大手のユニクロが2024年から本格的に自社中古商品の回収・再販売に乗り出しました。
ところが、今のところ古着を取り扱っているのは3店舗に留まっています。出店攻勢のスタートダッシュに定評のあるユニクロがなぜ計画通りの出店を果たせないのでしょうか。今回はリユース衣料・古着ビジネスの難しさについて考えてみたいと思います。
■希少品の高い古着と、安さを求める古着
ファッショントレンドとしての何度目かの古着ブームは、2020年ごろから再び盛り上がりを見せ始めました。そのためメディアでも「古着ビジネスの盛り上がり」のような特集が組まれることが増えました。
一口に「古着ブーム」と言っても、大きく分けると2種類あります。
一つはファッション需要に向けた「ブランド古着」や「ビンテージ古着」です。これは比較的高価格で販売されます。もう一つは、ユニクロが昨年から乗り出したような「自社の中古品を回収販売する古着」です。
リユース販売業態と言ったほうがニュアンスは伝わりやすいでしょうか。こちらは低価格で販売されることがほとんどです。
付け加えると、ノーブランド品を比較的安価なファッション用として販売する古着ビジネスもあります。東京・下北沢や大阪・アメリカ村に軒を連ねる古着屋がその代表でしょう。軍からの払い下げ品なんかもここに含まれます。
■古着の収益化に苦戦している
メディアで報道される場合はこの両社がまぜこぜになって「古着ビジネス」と語られてしまうことが多々あります。
2010年代後半からの「古着ブーム」として報道されるのにふさわしい事例は本来、ファッション需要向けとなります。これらがまぜこぜに「古着ブーム」として報道されるため、各社の回収販売によるリユース事業も「ブーム」なのではないかと錯覚されがちであるように感じられます。
ただ、実際のところ、新品販売をする各ファッションブランドに比べて、ファッション古着販売店もリユース販売店もほとんど(すべてではない)が規模をあまり拡大できていないのが全体的な傾向といえます。
4月11日にテレビ東京の「ガイアの夜明け」でユニクロのリユース事業の現状とその課題について特集がされました。2024年9月から自社リユース商品販売の全国展開を目指してスタートしましたが、現状はまだ東京・世田谷、福岡、前橋の3店舗に留まっています。
3店舗目が前橋南インター店に開設されたのは昨年10月のことで、そこから半年間、現在に至るまで出店がありません。
3店舗目でストップしたままとなっています。事業が進まない理由の多くは「上手く収益化できていない」ということであり、この放送でもそのように語られていました。
■回収した古着を再販売するまでにかかるコスト
一般的に想像されているよりも古着を販売するためのコストはかかります。ユニクロの場合は一般客から回収した中古品なので商品仕入れに関しては無料です。しかし、持ち込まれた物をそのまますぐに販売できるわけではありません。
まず、検品です。汚れや破れ、ニオイなどをチェックする作業が必要です。どこも破れておらず、きちんと洗濯して汚れを落としてから持ち込んでくれるという善良な人ばかりではありません。むしろ、していないとみなして検品することが必要です。検品するということはその時点で人件費が発生します。
次に洗濯するので洗濯代がかかります。さらにユニクロの場合は染め直しも行う場合もあるので染め直すための染色工賃がかかります。
もちろん染色工場への輸送費も発生します。
番組内では洗濯・乾燥を繰り返したためにサイズが縮んだケースも紹介されていました。その場合は採寸し直してサイズタグを付け替えることも必要となり、それらの人件費や付け替え工賃も発生します。
工業用機械を動かすための燃料代・電気代も年々高騰しています。最後にアイロンをかけますがここにも工賃が発生します。ついでに言うと、染料代や交換用のタグ代もコストとなります。
■元値1990円の古着に2000円は付けられない
これらを合算して利益を確保するとなると、ユニクロといえども個人的には店頭販売価格を平均3000円くらいにしなくてはならないのではないかと想像します。「じゃあ3000円で販売すればよいのではないか」と考える人も多いでしょうが、ユニクロの商品を一律に3000円で販売するのは難しいのです。
理由は、ユニクロでは新品の定価が3000円未満の物も多く存在するからです。Tシャツだと値引きなしの定価はだいたい1990円です。値下げ処分品Tシャツなら990~1290円で買えます。新品を1990円で買えるのに、いくら染め直しているからといって、わざわざ3000円を払って買う人がどれほどいるでしょうか。

そのため、染め直し品だとしてもある程度安く売らねばならないのです。番組内でも「店頭販売価格2000円」に設定しようとして、その商品の元値が1990円だったことが発覚し行き詰まるというシーンが出てきます。
こだわりを求める人は「高くても買うべきだ」と思われるでしょうが、消費者全員の意識が高いわけでは決してありません。価格合理性に逆らってまで買いたいという人のほうが少数派です。そのため、ユニクロといえどもリユース品販売では収益化に苦労し、3店舗目を開設してから半年間も出店が止まったままになっているといえます。
筆者としては、このコスト面を解決するには相当頭をひねる必要があり、今後の全国展開の速度は相当ゆっくりしたものになると見ています。
■古着特有の「雑然とした感じ」がユニクロと合わない
新品服にはない古着ビジネスの難しさはさまざまありますが、その中から一つ挙げるとすると店頭に並べるための商品が揃いにくいことがあります。新品ビジネスであれば、決まった型数と枚数を仕入れるなり、SPA方式で製造するなりが可能ですが、古着は毎回どんな物が仕入れられるのか、枚数も型数もわかりません。
また新品のように同じ型がサイズ違いで複数枚揃うということも難しいため、店頭の陳列は雑多で粗雑に見えやすくなります。それこそが古着店の魅力の一つでもありますが、気に入った商品を探すのが面倒と感じる消費者もいます。また「雑然とした店頭が当社にはふさわしくない」とユニクロは判断したと先のテレビ放送でも伝えられており、ここもユニクロがリユース店を急速に拡大できない点だといえます。
■無印良品の古着は…
実は自社リユース品を販売するという取り組みは国内低価格ブランドの中ではユニクロよりも無印良品のほうが先に手掛けています。
無印良品は2015年から「ReMUJI(リ・ムジ)」というプロジェクトを始めています。
公式サイトによると、現在の店舗数は34店舗となっています。10年間で34店舗ですから、1年平均で3~4店舗の出店が続いて来た計算になります。
この「リ・ムジ」は着用できる服は紺・黒に染め直して販売し、着用できない服(汚れ・破れ・ニオイが酷い物)は再生原料にすると公表されています。15年のスタート当初は紺色のみの染め直しだったと記憶していますが、後年に黒も追加されたようです。
このリ・ムジも無料で回収した自社中古品ですから仕入金額はかかりませんが、それ以外の工程でコストが発生するのはユニクロとまったく同じです。ユニクロよりは幾分店頭販売価格は高くはあるものの、同じ低価格ブランドに位置する無印良品もリ・ムジの店頭販売価格設定に苦労していると考えられます。
そのため、無印良品でさえ1年間で平均3店舗出店できるのが関の山といえるほどの収益性なのだと解釈できます。また染め直して店頭に並べても、コンスタントに売れるとは限りません。私も含めて古着に興味のない消費者は多くいます。売れなければその分在庫を抱えることになりますので、収益性はさらに圧迫されます。
ですから、リ・ムジの推移を見ているとユニクロも今後10年間で30店舗前後の出店ができれば御の字というのが現実的なペースだと考えられます。

■ブランド品の古着は売りやすい
同じ古着ビジネスでも、ある程度の高価格で販売できるのがファッション需要向けのブランド古着やビンテージ古着です。ただ、こちらも新品分野の有名ブランドに比べると小規模です。ティンパンアレイという企業が展開する「ラグタグ」あたりが最大手ではないかと思いますが、こちらは2018年に買収されワールド傘下になりました。
公式サイトによると、年商規模は20年3月期で53億2479万円、24年2月期で約59億3977万円とあります。コロナ禍の売上高減少も経験したと思われますが、それを差し引いても約4年間で6億円の増収です。新品ビジネスに比べると拡大速度は遅いといえ、それだけブランド古着も新品ブランド品に比べると売れにくいことがわかります。
ただ、ユニクロなどの低価格帯の古着と違い、ブランド古着は先に述べた洗濯やアイロンがけなどのコストは店頭販売価格で回収できます。何せ、元のブランド品の価格が高額ですから、その半額くらいに設定したとしても消費者からは「安い」とみなされるのです。例えば定価1万5000円のブランド服が古着で8000円くらいに下がっていれば「安い」と消費者には感じられます。
■カジュアル古着店は飽和状態
下北沢やアメリカ村に軒を連ねているノーブランドからビンテージ品、ミリタリー品までを幅広く扱うカジュアル古着屋も注目されていますが、こちらは個人経営的な小規模店が多く、そろそろ飽和状態だとも業界内から指摘されています。
この分野で近年成長著しいのが大阪を拠点とした「JAMトレーディング」でしょう。年商は23年11月期で30億円強にまで拡大したと報道されています。現在では東京にも原宿、渋谷、下北沢に合計4店舗進出しています。ただ、このような成長企業もあるものの、多くが個人経営店や数店規模に留まっている場合が多く、ブームの沈静化が見え始めているため、今後淘汰される小規模店は増えるのではないかと思われます。
■「セカンドストリート」がすでに全国にある
一方で、古着店の最大手チェーン店がすでに存在しており、新品服需要規模には遠く及ばないであろう古着需要の規模を考えると、それだけである程度十分ではないかとも考えられます。その最大手チェーンとは、ゲオホールディングスが展開する「セカンドストリート」です。
セカンドストリートは現在、都心から田舎のロードサイドまで全国に850店舗強あります。この850店舗という規模は国内ユニクロ(792店舗/25年2月末現在)よりも多くなっています。新品との市場規模を考慮すると、古着のライト層を取り込むのはセカンドストリートだけで十分ではないかと考えられます。
新品販売にはない各種の難しさに加え、850店舗強という最大手のセカンドストリートが存在してしまっている現状において、古着ビジネス・リユースビジネスに新規参入して規模を拡大するのはかなり難しく、圧倒的な資本力を誇るユニクロの足踏み状態も実はあまり不思議ではないといえます。
環境対応の美名のもとに古着ビジネス、リユースビジネスへの注目が高まったものの、現時点ではビッグビジネスにはなり得ていません。それは先にも述べたようにコスト吸収の難しさや仕入れの不安定さに原因があるとともに、古着やリユース服に興味がない消費者が相当数存在し、私も含めてそちらの方が多数派ではないかと思われることも大きいといえるでしょう。
破れや汚れ、ニオイが酷くて到底売り物にならない物が何割も含まれており、その廃棄ロス・処分ロスも非効率化に拍車をかけています。ユニクロや無印良品でこの有り様ですから、新規参入のプランもなかなか組み立てにくいというのが実状です。

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南 充浩(みなみ・みつひろ)

ライター

繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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(ライター 南 充浩)
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