※本稿は、和田秀樹『50歳からのチャンスを広げる 「自分軸」』(日東書院本社)の一部を再編集したものです。
■現代医療は専門分化が進みすぎている
私たちの健康を守るうえで、医療の果たす役割は非常に大きいです。かつては命の危険に晒されていた感染症などにかかっても死を免れることができるのも医療の進歩のおかげです。ただ、医療への過剰な依存は、健康を脅かす危険をはらんでいます。
医療はビジネスでもあります。製薬会社や医療機器メーカーとの癒着から、患者が人為的に作られる面もあります。病院に行けば行くほど、余計な検査をされ、なんらかの効能はあるものの一方で体に害もある薬を飲まされ、ときには命を縮める。決して荒唐無稽な話ではないのです。
特に問題なのが、現代医療の「専門分化」です。
現代の日本では、医療業界の専門分化が進み、心臓や肺、胃腸などの臓器ごとに医師が専門分化し、各分野の診断や治療の技術を高めることを重視しています。病院に行くと臓器別に特化した無数の診療科が並んでいます。
しかし、専門的な臓器ばかりを診ていると総合的に患者の体を診察できなくなるデメリットも生まれています。医師が専門以外のことを知らないため、日本は「総合診療ができる人材」が不足しているのが現状です。
■体をパーツに分けて考えていては全体のバランスが崩れる
たとえば、長年糖尿病を専門としてきた医師が開業し、内科・小児科と標榜したとしましょう。医師免許があれば専門外の科を掲げることは法律的には問題ありませんが、専門外の病気に自信を持って対応できるとは限りません。
その場合、自分の専門外の臓器については、治療マニュアルのような本にしたがった治療を行うことになるので、過剰な薬の処方など患者の健康を損なうリスクが高まります。
専門医といっても、その分野の試験に受かっただけで、それ以外の知識はほとんど保証されていません。ただ、多くの患者は、「医者のいうことは絶対」と考えていますから、過剰に薬を飲み、体調を崩してしまう患者が後を絶たないのです。
医療現場の実態を見ていると、専門医たちの「縦割り意識」の強さには驚かされます。専門外のことには興味がないし、責任も取れない。だから患者を次から次へとたらい回しにします。挙句の果てには、「あなたを診られる医者はうちにはいません」と平然と言い放ちます。
本来、人間の体は、臓器が独立して機能しているわけではありません。全身がつながり、関連し合いながら、ひとつの生体システムとして働いています。現代医療は、こういうシステム論の考え方に反しています。まるで体を部品の集まりのように扱い、ひとつひとつを個別に治療しようとしています。これでは、特定の箇所がもしよくなっても、体全体のバランスは崩れてしまいかねないのです。「木を見て森を見ず」の医療だと言えるでしょう。
■専門医の大半が検査データだけを頼りに投薬している
体調が悪いから、医者に行って薬をもらう。みなさんの中にもとりあえず薬を飲めば安心という人は少なくないはずです。
もちろん、薬は命の危機を救ってくれるときもあります。たとえば、抗生物質が実用化されたことで細菌による感染症で命を落とす人は劇的に減りました。
ただ、薬というのは諸刃の剣であることも忘れてはいけません。
しかも、専門医たちのほとんどが、患者の話に耳を傾けず、検査データだけを気にして薬を出す。こうした姿勢では、患者の抱える問題の本質を見抜くことはできません。
臓器別の治療で最も怖いのが、過剰投薬のリスクです。心臓の薬、胃腸の薬、血圧の薬……。さまざまな症状に対して、次から次へと薬が処方されていく。気が付けば、1日に10種類以上の薬を飲んでいた、なんてケースも珍しくありません。
■医者の言うことを鵜呑みにせず自分で見極める
考えてみてください。薬というものは、どんなに良薬でも、必ず副作用があるものです。
ですから、医者の言うことを過剰に信用せず、ご自身の体調と相談しながら治療方針を判断する姿勢も必要です。たとえば副作用で体調が悪くなるようなら、医者に言われても無理に薬を飲み続ける必要はありません。医者から言われたからといって鵜呑みにせず、ご自身に合うかどうかを見極めましょう。
実際、患者によっては薬の飲み合わせで、かえって体調を悪化させることもあります。それにもかかわらず、多くの医師は、自分の専門分野の治療にしか関心がない状態です。ましてや、東洋医学のような「非科学的」と思われている治療法には、まったく目を向けようとしません。こうした西洋医学への盲信が、患者の側の医療への過剰な依存を生み、医者のほうもその理論を疑うことがありません。
■消費者目線で医師を選ぶ姿勢がこれからは必要
医学の世界では「個人差」が無視されがちです。ある治療法が多くの患者に効果があったとしても、全員に当てはまるわけではありません。それにもかかわらず、医者は「多数派」の治療を画一的に勧めてしまう。
医学は、結局は確率の問題です。たとえばある薬が、100人中70人に効果があったとしても、30人には効果がないことはよくあります。その30人にとっては、薬を飲むことはまったくのムダになります。それどころか5人に1人は副作用などでもとより悪くなることも往々にして起こります。
そんな「確率」に振り回されるくらいなら、むしろ自分の感覚を信じるほうがいいでしょう。「この薬を飲んだら調子が悪くなる」と感じたら、処方された通りに飲み続けるのではなく、一度医師に相談してみましょう。それでも「大丈夫だ」と言われたら、別の医師にセカンドオピニオンを求めてみるのもひとつの手段です。
医者の多くは薬を変えてくれないので、医者に相談せずに試しにやめてみるというのも大事な手段です。やめて調子がよければそれでいいし、悪くなれば戻せばいいだけです。こうすれば無駄な医者代もかかりません。そうやって医師を「消費者目線」で選ぶという発想が、これからの時代に求められているのかもしれません。
■「糖尿病=カロリー制限」だけが本当に正解か
そもそも、医者は健康法についてそこまで詳しくありません。医学部で栄養学をほとんど学びません。医師は、薬を出すことには熱心ですが、食事指導となると及び腰です。一般論に終始しがちです。その栄養学というのも、何を減らせとは言っても、何を足したら元気になるなどというアドバイスはまずありません。
たとえば、多くの医師は糖尿病の患者さんには画一的にカロリー制限を指導します。ですから、その人の生活習慣や嗜好を考えず、ただ我慢を強いるだけになりがちです。そんな指導では、長続きしない人もいるし、そのストレスで免疫力を落とす人もいるでしょう。
また、糖分は脳にとっては重要な栄養素なので、かえって脳の調子が悪くなることもあり得ます。薬を出すだけでなく、食事療法なら、もっと柔軟にアプローチできるはずです。患者さんひとりひとりの個性に合わせて、オーダーメイドの指導が本来は可能です。そうすれば、無理なく実践できるはずです。
「医食同源」という言葉があるように、食べものは病気を防ぐ「予防薬」であり、病気を治す「治療薬」でもあります。薬に頼る前に、まずは食生活を見直す。そんな視点を、医師ももっと持つべきでしょう。
■健康診断で異常値が出ても過剰に不安がらなくていい
おそらく、みなさんの中には「そうは言っても、健康診断の結果が悪ければ薬は飲まなきゃいけない」と思われている人も多いでしょう。ただ、医者が薬を出すか出さないかの検査の基準値は製薬会社の影響を受けてとしか思えないような形で恣意的に設定されている面が否定できません。
検査で異常値が出ても必要以上に不安がることはありませんし、基準から外れたからといって即病気とも限らないのです。個人差が大きいことを理解し、ご自身の体調と相談しながら冷静に判断することが肝要です。
医者任せ・検査数値至上主義の医療を盲信するのではなく、ご自身の体と対話しながら、納得できる医療を選ぶ目を養うことが何より大切だと言えるでしょう。「体調が悪いのに我慢する」のも「数値が悪いからと過剰に心配する」のも、医者や検査への過剰な依存が生んだ弊害です。
50代のみなさんはまだ薬漬けになっている人は少ないはずです。これまでの常識を一度リセットして、「検査データ至上主義」から脱却し、「自分の体の声」に耳を傾けてみてください。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)