■ローソンが始めた「冷凍おにぎり」の味わい
「おにぎり、あたためます」という人が増えていくかもしれない。ローソンが2月から都内の約400店舗で、冷凍おにぎりの取り扱いを開始した。
ローソンへと足を運ぶとおにぎり売り場に見慣れないPOPを発見した。何でも、冷凍食品売り場にて冷凍おにぎりを販売しているという。そのPOPに導かれるまま足を運ぶと、確かに冷凍おにぎりがある。
販売しているのは4種類で、いずれも常温で同じ具材のおにぎりが存在する。
価格をみてみると、「焼さけ」の冷凍は279円(税込み、以下同)、常温(「金しゃりおにぎり 焼さけハラミ」)は297円。「わかめごはん」の冷凍は140円、常温(「わかめごはんおにぎり」)は167円だった。
味に差はあるのか。「焼さけ」と「わかめごはん」を、冷凍と常温で一つずつ、計4つ購入して食べ比べてみた。
まず、パッケージについて。
■鮭の風味が増す
あたため時間はどうか。店舗に設置している高出力の業務用電子レンジを使えば、いずれも1分未満であたためられる。焼さけであれば45秒、わかめごはんは40秒だ。一方、家庭用の電子レンジであたためる場合は2分前後必要だ。
肝心の味は、焼さけとわかめごはんで印象が分かれた。焼さけは、鮭の風味が増し、熱感のあるご飯との一体感が高まっているような印象だ。常温のものと比較して、あたためた分の付加価値を感じた。一方のわかめごはんは、やや外側が固くなっているような印象を受けた。
ローソンでは今回の発売に先立って、2023年に都内と福島県の一部店舗で冷凍おにぎりを実験販売していた。そもそもの狙いは物流の効率化だ。2023年12月より、チルド・低温商品を店舗へ配送する回数を「3回」から「2回」への切り替えを実施しており、さらなる効率化を目指して発売した。
商品本部で企画開発に携わる、西川大樹氏(製造管理部マネジャー)は次のように話す。
「常温のおにぎりや弁当は賞味期限が短く、多頻度で店舗へ輸送する必要がある商品です。これらを冷凍すれば物流の効率が高まり、店舗での食品ロス削減にも寄与できるのではないかと考えました」
■「おにぎりの温め」を求める意外な県
約20度で保管する通常のおにぎりと比べ、冷凍おにぎりは12カ月程度と長く保存できる。西川さんによれば、冷凍おにぎりは保存が利くため、コメの仕入れのタイミングを調節しやすく、通常のおにぎりよりも1割から2割ほど安く販売が可能という。また、具材は通常のおにぎりと同じだが、米については一部仕様が異なるそうだ。
2023年の実験販売では「焼さけ」、「赤飯おこわ」(149円)、「五目おこわ」(154円)、「鶏五目」(138円)、「胡麻さけ」(138円)、「わかめごはん」の6種類を展開。
都内に加えて福島県で販売した理由は、マクロミルが発表している調査結果で、全国のうち最も「おにぎりを温めるか聞かれる」地域だったからだという。
ちなみに冷凍おにぎりは、常温で販売しているおにぎりをそっくりそのまま冷凍し、包装を変えて販売している。
冷凍の方法には「緩慢凍結」と「急速凍結」の2種類があり、今回は凍らせるまでの時間を短くすることで、あたためたときに製造直後の味となるように後者を選択している。
■意外な層にヒットした
西川氏によると、特に苦労したのは「焼さけ」だ。具材が大きいほど、あたためたときにおにぎりの形が崩れやすい。レンジアップする時間を5秒刻みで地道に検証し、最適なあたため時間を特定していったという。
詳細な販売数は非公表だが、約3カ月の販売期間で想定の1.5倍を販売。西川氏は2つの需要をうまく獲得できたと振り返る。一つは「ストック」のニーズだ。
西川氏によると、ふだんおにぎりや弁当を販売している常温ゾーンと、冷凍食品のゾーンは客層が異なる。前者は「すぐに食べられる」という即食ニーズが高い。反対に、冷凍食品は家にストックしておくニーズが高く、常温商品と比較して高齢者の購入が多い傾向があるという。
これまで常温の販売だったことでおにぎりが捉えられていなかった客層に、冷凍することでアプローチできたわけだ。
物流の効率化というそもそもの狙いだけでなく、新たな客層の開拓という望外の結果を叩き出したことで、すぐにでも販売網を拡大したかったという西川氏だが、その後1年半とかなり間が空いての本格展開となった。半導体不足もあり、製造場所の選定と設備の導入に時間がかかってしまったのだ。
■現在の売れ行きは…
この間にブラッシュアップを行い、冷凍方法を変更。実験販売時は「バッチ式」と呼ばれる、食品をトレーやラックにのせて冷凍室に入れる方式だったところ、ライン式に改良している。
従来は冷凍室におにぎりを出し入れする必要があり、製造から冷凍までの時間がかかっていた。おにぎりの製造→包装→冷凍を一つのラインでできるようにしたことで、製造→冷凍の時間を短縮して、より製造時の味わいを損なわないようにしたという。
また、実験販売時の人気に基づいて6種類から4種類(「焼さけ」「鶏五目」「わかめごはん」「胡麻さけ」)にラインアップを絞り込んだ。
こうして1年半というかなり長期の期間をへだて、2月に満を持して発売した冷凍おにぎり。どのような結果が出ているのだろうか。
2月末時点の結果を率直にいうと、認知不足もあり実験販売後に想定した数値を下回った。実験販売時は積極的にPRしていたが、今回は比較的静々と発売した影響もありそうだ。
■米価格上昇の救世主になれるか
冷凍おにぎりの人気も変動した。実験販売時にトップ人気だった焼さけではなく、胡麻さけとわかめごはんの販売が伸びているという。当時と比較して物価高がさらに深刻化しており、消費者の生活防衛意識が高まったことで、より安いものに人気が集まっていると西川氏は分析する。
とはいえ、悲観はしていない。これまで冷凍おにぎりといえば、複数個が1袋に入ったセット商品がメインだったのに対し、今回の冷凍おにぎりは個包装だ。近年は「個食」の需要も高まっている。「おにぎり屋」を掲げてきたローソンのおにぎりは、ブランド力も高い。
2025年度にはさらに販売網を広げるとともに、既存のおにぎりを使わずゼロベースで開発する「冷凍専用おにぎり」の投入も見込んでいる。
2002年に「おにぎり屋」ブランドを立ち上げ、コンビニ業界の中でも積極的におにぎりに取り組み、「悪魔のおにぎり」といったユニークな商品も生み出してきたローソン。
直近5年でおにぎり関連の販売数は順調に成長しているというが、米価高騰による値上げもあって、消費者の視線は厳しくなりつつある。
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鬼頭 勇大(きとう・ゆうだい)
フリーライター・編集者
広島カープの熱狂的ファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。
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(フリーライター・編集者 鬼頭 勇大)