■「買いたい気持ち」を高める方法
近年、消費者は単に製品やサービスを購入するだけでなく、その製品やサービスが提供する社会的、環境的価値にも注目するようになっています。そこで重要視されるようになってきたのが、パーパスブランディングです。
パーパスブランディングとは、企業が自身の社会における存在意義を明確にして、ブランド戦略の中心に据えるブランディング手法です。単に利益を追求するのではなく、パーパスに基づいて、商品・サービスの提供を通じてどのような社会的責任を果たし、価値を提供するか伝えることで、ユーザーのロイヤルティやブランドへの信頼を高めることを追求します。
商品・サービスがどのようなパーパスに基づいて開発されているのか、背景や解決したい課題、店の考えやポリシーが共感される文脈で伝わることで、買いたい気持ちが高まるのです。
■10代と60代が「パーパス買い」している
博報堂買物研究所が2022年に「パーパス買い(直近1年間で世の中や、人々の生活に良い影響をもたらしているブランドや企業の姿勢に惹かれて商品を購入した経験)」の実態を調査したところ、経験者は13%と一定の人がパーパスをもとに商品を購入していることがわかりました。
男女とも「10代」「60代」が多く、「お出かけやショッピング好き」「環境意識が高く、環境配慮の行動にも積極的」「情報は誰よりも早く入手し、周りにも広め、仲間の輪の中心にいたい」という価値観を持つ人がパーパス買いをしています。
ストーリー性のツボを効果的に活用しているのが、驚安の殿堂ドン・キホーテが展開しているプライベートブランド『情熱価格』です。
『情熱価格』は、ドン・キホーテを運営する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が企画・開発しています。
■パッケージに詰め込まれた商品への想い
『情熱価格』は、その特徴的で異彩を放つパッケージで、ストーリー性を表現します。
例えば、『素煎りミックスナッツDX』のパッケージを見てください。
そこには「〈年間売上20億円突破〉〈ナッツを愛しすぎた担当者が独断と偏見で決めたアーモンド・カシューナッツ・くるみの黄金の究極比率〉〈食塩・油を使わないこだわり〉」と、商品開発にかける思いや妥協しない姿勢が、商品説明として提示されています。
このように、商品のパッケージに商品誕生の裏側にあるストーリーを記載することでストーリー性を刺激しています。商品の説明でもドン・キホーテらしさの「ワクワク・ドキドキ感」を表現しており、長文でも商品に込められた想いを楽しく読むことができます。
■「驚きのニュース」を客に提供する
『情熱価格』は、2009年10月に「お客様の声をカタチに」というブランドメッセージを掲げて誕生しました。当初は690円の驚安ジーンズなど、ドン・キホーテらしさがあふれる商品を販売していたものの、安さを追い求めた商品開発の結果、次第に個性が薄れてしまい、認知率や売上高における構成比も横ばいという状態が続いていました。
そこで、ドン・キホーテの業態イメージをけん引するような、強い個性を持ったプライベートブランドを作るため、2020年からリブランディングを開始しました。
社内ヒアリングや議論を重ねた結果、ドン・キホーテらしさは、店頭で「ワクワク・ドキドキ」や「驚き」を感じる体験であることを再確認。ブランドの方針として、ドン・キホーテらしい面白い商品を開発して、「驚きのニュース」を提供することを目指すことになりました。
先ほど紹介した商品パッケージもこの方針で開発されており、開発担当者のこだわりの強さや開発までのストーリーを「驚きのニュース」として掲載して、ドン・キホーテらしさを伝えて買いたい気持ちを高めているのです。
■「ダメ出し」を新商品の開発につなげる
そして、21年2月から新しいブランドメッセージ「ドンドン驚キ」を掲げて『情熱価格』のリニューアルを行い、同時に「ピープルブランド宣言」を行いました。この宣言では、自社完結で開発するブランドとしての「プライベートブランド」ではなく、お客様と一緒に商品を作る「ピープルブランド」へ変革する思いが込められています。
お客様の目線で「驚きのニュース」がある商品を届けるために、お客様のダメ出しを受け付けるプラットフォーム『ダメ出しの殿堂-情熱的改善要求-』をブランドリニューアルに合わせて開設しました。「量が多すぎるから食べきれない」「パッケージから商品がイメージできない」など、客が感じたことを投稿してもらい集約することで新たな商品開発の起点になっています。
このように商品が生まれるまでの過程で自然と物語が生まれているのです。現在は『ダメ出しの殿堂-情熱的改善要求-』のサービス終了に伴い、『マジボイス』がその役割を引き継いでいます。
■絶対の自信があるからできた対決企画
面白いのが『ダメ出し旧ミックスナッツ』と『ダメ出し新ミックスナッツ』という商品のパッケージです。このふたつの商品のパッケージでは、消費者からのダメ出しを基に商品を改良する商品開発プロセスを「驚きのニュース」として伝えています。
以前販売していたミックスナッツへのダメ出しを集約、吟味し、ナッツの種類・配合・味付けすべてを見直した新ミックスナッツが開発されたのです。
しかし、開発担当者が旧ミックスナッツにも味と価格のコスパに絶対の自信を持っていることから、新商品と併売して「あなたの好みは新or旧どっち⁉」と客が選ぶ対決企画としてニュース性を作りました。
■「終売させます!」という覚悟も記す
新ミックスナッツのパッケージには、「多くのお客様からのダメ出しを基にナッツの種類・配合・味付け全てを見直した人類の理想?とも言える 新ミックスナッツ」、旧ミックスナッツには「Webサイトでも多くの人からダメ出しをもらってメッタ斬りにされました…それならば! 担当者的に味と価格のコスパで絶対的な自信を持ってる旧ミックスナッツ」と、それぞれの魅力の違いを訴求しています。
さらに新ミックスナッツは「旧ミックスナッツの売上を超えない場合は理想の品と言えども終売させます!」、旧ミックスナッツにも「今までより売上が下がるなら終売させます!」と、一歩踏み込んだ終売の覚悟までのせることで、ドン・キホーテらしいユーモアを交えながら、本気の商品開発であることが伝わるようになっています。
■「発見感」と「没入感」を提供する
最後に、ストーリー性のツボを効果的に刺激するコツをふたつ紹介します。
ひとつ目は売りたい商材を手に取るお客様の気持ちになり切って、「いい意味で期待を裏切る」情報になるようにストーリーを検討することです。お客様視点で「発見感」がなければ、興味を持たれず効果的ではありません。
例えば、5年間毎日ラーメンを食べ続けている開発担当者が作った新商品、銘柄がわからない状態で複数の商品をテストした上で選ばれた商品など、「発見感」を与えて商品への興味を喚起できているかを確認しましょう。
ふたつ目は、「ブランドの世界観に没入できる買物体験」です。例えば、プロダクトの美しさにこだわるブランドの店舗では、商品を一品ずつガラスケースに展示することで、美術館で芸術鑑賞をするような買物体験を提供できます。
加えて、店舗スタッフの服装や言葉遣い、内装、POP、包装紙など詳細にまで工夫をこらして、ブランドらしさへのこだわりをちりばめることで、商品の美しさをより強く感じさせ、心を動かして買いたい気持ちを高めます。
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博報堂買物研究所(はくほうどうかいものけんきゅうじょ)
2003年設立。「買物」を軸として20年にわたり、ショッパーマーケティング領域における研究開発・情報発信・ソリューションを提供している。『企業の「売る」を「買う」から考える』をフィロソフィーに、買物現場の真実に着目し、買物客の本音・買物のツボである「買物インサイト」を起点に、買物欲を満たす「買物シナリオ」を創造し、新しい買物を生み出すソリューションを提案・実行する実践的研究所。
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(博報堂買物研究所)