■“極端なこと”を言うと視点が変わる
あなたは、近所で人に道を尋ねられたら、何と答えますか? 「この先の角を右に曲がって……」といった感じで説明するのではないでしょうか。私は、少し違います。世界地図(または地球儀)を取り出して親切に指でなぞって教えあげます。
「いやいや、それじゃデカすぎて分からないでしょ!」と、頭の固い人からは怒られるかもしれません。もちろん冗談ですが、普通の人であれば、ひと笑い起きて場が和むんじゃないかと思います。
私は常に、どうやったらウケるかを考えています。そういう時に、極端な発想をするというのは、定番です。面白いことが言えるということもありますが、視点を変えるうえでも「一度、思いっきり極端なことを言ってみる」というのは悪い手ではありません。常識で凝り固まった頭が、視点を変えるモードに切り替わっていくからです。
ビジネスシーンで、視点を変えた発想をしよう、という時に、「普通」に考えていては、変えようとしてもなかなか変えられません。まず、真っ先に「常識」が頭に浮かんでしまうからです。
■振り切ると突破口につながる
たしかに、常識に沿って考えれば大きな間違いは起こしません。誰からもバカにはされません。しかし、その常識が行き詰まって新しい答えが欲しい時には、周りからどう思われようが思いっ切り視点を変えることが必要です。そういう時は、思い切って一度考えを極端な方向に振り切ってみるといいでしょう。
極端に振り切る要素はいろいろあります。ビジネスに関連して考えてみれば、時間、年齢、分量、大きさ、材料、立地、予算……どれか1つを思いっきり極端に振り切ってみれば、突破口につながります。
例えば、打ち合わせ。だらだらと雑談が続いて時間が長くかかり、生産性が悪いというのはどこの会社でも起こりそうな話ですよね。であれば、「時間」という要素に着目して「1つの議題につき10分以内に結論を出す」とか決めてみてはどうでしょう。長く話せばいい結論が出るとは限りません。むしろ短時間で話すほうが物事に集中できます。
さて、ここで1つ問題を出します。
【問題】あなたは、ドーナツチェーンに勤務しており、新規出店計画を練っています。ライバルに負けないお店にするには、どうしたらいいでしょうか。
■「深夜0時に開店するドーナツ店」がヒット
「やっぱりお客さんがいっぱいくる駅前に大きな店を出すといいんじゃないかな」
それが普通の答えですね。それができれば一番いいでしょう。ただし、予算も莫大になりますし、ライバルも多く、簡単ではありません。「クーポンを配布する」という手もありますが、効果は一時的なものにとどまりそうです。
ここでも「時間」で振り切ってみてはどうでしょうか。
【回答例】開店時間を午前0時にする
例えば、「時間」に着目すればこうした答えもありでしょう。以前、東京の吉祥寺で「午前0時に開店するドーナツ屋」が実際にありました(ドーナッツプラント吉祥店)。他店と違う客層で勝負する、という意味では極端な視点の変え方です。一時は行列ができるほどの人気だったようです。
こうして広げていくと、いろいろな考え方ができますよね。どんな業種、業態でも極端に振り切ってみるというやり方は試す価値があります。時間でいえば、今では当たり前になっている24時間営業ですが、最初に始めたのは牛丼チェーンの吉野家で、1960年代のこと。これも、当時としては極端で常識を破壊するやり方だったことでしょう。
極端に振り切る場合、極端すぎてそのままではビジネスで使えないアイデアになるかもしれません。それでも、「そんなバカなことはできない」と思っていたら頭が固いままです。いったん極端に振ってみることは、視点を変える最初のきっかけになり、そこから発想が広がるということもめずらしくありません。
■水族館が“クラゲ特化”で大成功
「おんせん県」とは、どこの県か分かりますか。答えは大分県。別府などの有名温泉地を多数抱える大分県が、PRのために設定した名前です。大分には温泉以外にも数多くの魅力がありますが、あえて「おんせん」に絞り込むことで、個性が際立ち、魅力が増します。
「うどん県」もあります。
山形県にある鶴岡市立加茂水族館も「限定」したイメージで成功した例です。この水族館、かつては年間入館者数が過去最低の9万人(1997年)を記録したこともあり、まさにどん底だったのですが、2014年には71万人にまで回復し、2024年には累計500万人を達成するなど、奇跡の復活をとげたのです。その理由は、展示する生き物を極端に絞ったこと。
通常、水族館は多種多様な水の中の生物を展示するのが通例です。多くの生き物が見られるというのは、魅力の1つです。しかし、それはどこの水族館も考えること。思い切って特定の種類に特化して、その魅力を最大限に引き出す展示を行ったらどうなるのか。
加茂水族館が選んだ道は「クラゲ」に特化することでした。自ら「クラゲドリーム館」と名乗り、現在世界中に生息する60 種類以上のクラゲが見られるそうです。
■オフィスの電話番も“限定”してみる
クラゲといえば、半透明でゆらゆら泳ぐ姿に癒されるという人も多い生き物。半透明の体は光に当てると美しく、1万匹のクラゲが泳ぐ姿にスポットライトを当てた幻想的な「クラゲドリームシアター」は、映(ば)えスポットとして大人気です。地方の水族館でも、極端に振り切ってしまえば、世界から注目される人気スポットにもなり得るのです。
ちなみにこの「限定する」という方法、普段のオフィスの課題解決でも使えるんじゃないでしょうか。例えば、オフィスにかかってくる電話対応に追われて、なかなか本来の仕事に手がつかない、なんて「あるある」じゃないでしょうか。
であれば、いっそお客さんにも「電話に出るのは13時から17時までです」などと限定しておくのも手です。その時間を過ぎたら、留守電に切り替わるようにする。あるいは、電話に出られる社員が何人かいるのであれば、午前中はAさんとBさん、12時~15時はCさんとDさんといったふうに、時間を限定して振り分けておくのも1つのやり方かもしれません。
■行き詰まったら「真逆」を考える
「押してダメなら引いてみな」
昔からよく言われる言葉ですよね。よく考えてみると、これも視点を変えることで行き詰まった局面を打開する方法として、昔から受け継がれてきた言葉だと思います。この場合、どんなふうに視点を変えているのか。それは「真逆」だと思います。
「ピンチはチャンス」これもよく言われることですが、物事を捉える視点を真逆に変えることで、課題解決につなげるということだと思います。真逆の発想を使ってみると、面白い仕事ができると思います。例えば、真逆とは具体的にどんなものがあるのか。すぐに思いつくのは、次のようなものです。
熱い ⇔ 寒い
早い ⇔ 遅い
暗い ⇔ 明るい
いろいろ思いつきますから「とりあえず、真逆を試してみる」だけでも、案外面白い組み合わせが見つかったりします。スイーツは甘いというのが定番ですが、真逆で「辛く」した商品とかアリじゃないでしょうか。
高級チョコ「MAGLIO」が発売している「マーリオチョコレート島とうがらし大辛口」は、文字通り辛いチョコレート。これが意外に大人気で、大手航空会社の機内販売商品として採用された際には、人気がありすぎて欠品が出たというエピソードがあります。固定観念にとらわれずに試してみると、意外といいものが生まれる例です。
■「北海道マンゴー」が大人気になった
人気フルーツのマンゴーの真逆は何でしょうか? 一般的には甘いフルーツというイメージなので、辛いマンゴーというのも面白いかもしれません。とはいえ、何しろ相手は植物ですから、チョコレートのように人為的に作るのは難しいと思います。
では、産地はどうでしょう。一般的にマンゴーといえば、宮崎などの「南国」のイメージです。これを逆さにして北の大地で作ったらどうなのでしょうか。そんなマンゴーが実際にあります。
北海道・十勝地方で栽培されている「白銀の太陽」というブランドマンゴーは、温泉と雪という再生可能エネルギーを利用して、冬に完熟マンゴーができるように育てています。南国で採れるマンゴーは夏が旬ですが、季節をずらして真冬にできる北海道マンゴーは大人気で、なかには1個5万円の価値がつくものもあるのだとか。
学習塾でも、真逆戦略で当たっているのが「武田塾」。普通の学習塾は、授業で生徒に勉強を教えます。そのため、授業の質や中身が問われます。学習塾にニアリーな存在の予備校でも、生徒に人気の「名物講師」が結構いますよね。なかには、ヤンキー先生とか金ピカ先生など、かなりキャラ立ちした先生がいたケースも。「今でしょ!」の名セリフで有名な林修さんも予備校の講師です。そうした先生の存在は集客の役目も果たしています。
■オンリーワンの存在感を出せる
ところが、武田塾がとった戦略は「授業をしない」というものでした。「授業をする」のが当たり前の学習塾において、真逆の方法です。どんなに面白い授業であっても、弱点はあります。それは講師1人に対し、生徒が多数であるため、1人ひとりに合わせた学習が成立しづらいのです。
武田塾はその生徒のレベルに合った「参考書をやり切る」「進捗管理をきちんとする」という独自のスタイルで、オンリーワンの存在感を出し、現在は全国で400校を超えるまで支持を伸ばしています。
「極端」に視点を変える思考法は、ビジネスにおいて幅広く活用できる考え方です。
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野呂 エイシロウ(のろ・えいしろう)
放送作家・戦略的PRコンサルタント
1967年、愛知県に生まれる。愛知工業大学在籍中に、学生起業家として活躍後、雑誌編集者に。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で放送作家としての活動を開始し、数々の人気番組を手掛ける。30歳のとき、戦略的PRコンサルタントの仕事をスタート。これまでに、大手広告代理店をはじめ、150社以上と契約。著書に、『「話のおもしろい人」の法則』『心をつかむ話し方 無敵の法則』『先延ばしと挫折をなくす計画術 無敵の法則』(すべてアスコム)、『プレスリリースはラブレター テレビを完全攻略する戦略的PR術』(万来舎)などがある。
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(放送作家・戦略的PRコンサルタント 野呂 エイシロウ)