ドナルド・トランプ氏が再びアメリカ大統領に就任して100日。その間、他国の主権を脅かす発言や高すぎる関税政策で世界中を混乱に陥れてきたが、なぜアメリカ国民の42%(4月21日発表の支持率)はトランプ氏を支持するのか。
「トランプ信者」潜入一年』の著者である横田増生さんに聞いた――。
■トランプが大統領の座を追われた4年前、アメリカで潜入取材
――『「トランプ信者」潜入一年』(小学館)の取材時に、横田さんがアメリカに渡り共和党のトランプ陣営に潜入したのは、2020年の大統領選の時期でしたね。このときは民主党のバイデン氏が勝利し、トランプ氏が大統領の座を4年で追われました。
【横田増生(以下、横田)】2019年12月から21年1月までアメリカで、主に大統領選の取材をしました。そのときはトランプが敗北し、トランプ信者による連邦議事堂占拠事件の暴動を現場で目撃。そして、ジョー・バイデンが第46代大統領に就任したのを見届けてから、帰ってきました。それから4年間は、アメリカには行っていません。
――著書にも21年の時点で「トランプの政治生命はここで尽き果てた」と思ったけれど、「トランプはまだ生きていた」と書いていますが、2024年、トランプが再選された大統領選についてはどう思われましたか?
【横田】トランプとハリスの対決では、選挙人541人中270人以上を獲得した方が大統領になるわけですが、トランプが勝つとしても、世論調査のとおり僅差になると思っていました。しかし、蓋を開けてみると、トランプは選挙人数でも総合得票数でも勝利し、連邦議会でも上院と下院の過半数を共和党が獲得しての圧勝でした。正直、驚きましたね。
■大統領選に圧勝しカムバックしたトランプ、支持者が急増?
――それは単純にアメリカでトランプ支持者が増えているということですか?
【横田】そういう見方もありますが、それでは、なぜ2020年にトランプが負けたかという理由が説明できません。
アメリカの大統領選では約1億5000万人が投票し、そのうち「死んでもトランプに入れる」という固定支持者は5000万人から6000万人ていどだと言われています。
しかし、それだけでは勝てない。選挙で勝つには7500万票が必要ですから。
重要なのは、「浮動票」がどう動くか。その最大の層は白人女性、二番目に多いのがヒスパニック系の人。彼らは必ずしも共和党支持者でも民主党支持者でもなく、その時々の状況を見て投票先を決める人たちです。浮動票を持つ人はギリギリまでどちらの候補に入れるか悩むものですが、今回はトランプに流れたのでしょう。
■メチャクチャな関税釣り上げなど、「トランプ2.0」は想定内だが…
――アメリカでの街頭インタビューを見ると、「バイデン大統領とハリス副大統領がこの国をめちゃくちゃにしたから、トランプに入れる」と答えていた白人女性がいました。
【横田】それは何を「めちゃくちゃ」と捉えるかですよね。たしかにバイデン政権で物価は上がりました。しかし、安全保障において日米同盟をめちゃくちゃにするようなことはしていないし、NATO(北大西洋条約機構)をめちゃくちゃにするようなこともしていません。「バイデンがめちゃくちゃにした」と言うなら、物価高騰とダイバーシティ(多様性)政策に対する反発があったということでしょうか。
――2025年1月21日にトランプ第二次政権が発足し、約100日が経ったわけですが、これからアメリカはどうなると考えますか?
【横田】現状のとおり、アメリカはトランプのやりたいようになるでしょう。
彼は自分で「タリフマン(関税男)」と呼んでいたくらいですから、このまま関税を上げるでしょうし、アメリカが戦後、1945年以降に作り上げてきた世界秩序は壊れていくと思います。
2016~20年の第一次政権の時もNATOともめました。安倍晋三首相とは比較的うまくやっていたかもしれませんが、ドイツのメルケル首相とはうまくいかず、欧州との溝は深まりました。ウクライナとロシアの問題も「24時間で停戦させる」なんて言っていましたが、そもそも、そんなことが実現するわけがないんです。
今後もトランプの政策でさまざまな問題が噴出するでしょう。アメリカ人の大半はそれを分かった上でトランプを選んだのだと思います。2020年の選挙では、結果が出るまで3日ほどかかり、現地で祈るような気持ちでトランプに負けてほしいと思いました。しかし、今回はもう「なるようにしかならない」と半ばあきらめの気持ちだったので、今の事態に、驚きはないですね。
■1年半後、トランプ政治はもっと強硬になる可能性がある
――もうトランプ大統領を止めることはできないのでしょうか?
【横田】2020年の選挙で負け、ホワイトハウスを去ったトランプにとって、唯一のブレーキは「再選すること」でした。この4年間、彼は大統領に再選されたいから比較的無茶をしなかったわけです。しかし、大統領の任期は憲法で2期8年までと決まっているため、この先はない。だから、現状やりたい放題になっている。

しかし、やりすぎて、2026年11月の中間選挙(連邦議会議員改選選挙)で共和党が負けると、上院・下院の過半数が取れなくなる可能性があり、議会との調整が必要になるので、議席を守りたいとは考えている。それが唯一の歯止めになるかもしれません。今はまだ、おとなしくしている方なのかもしれない。中間選挙後は、もっと強硬に、さらに「めちゃくちゃ」になることだってありえます。
■そもそも「トランプ信者」とはどういう人たちなのか?
――トランプ氏は連邦議事堂占拠事件を扇動したわけですし、1月の就任後、株価は暴落しました。日本人の多くからすると、なぜアメリカ人はトランプを再選させたのか理解できないのですが……。
【横田】株価が落ちたし、アメリカの長期国債の利率は上がりました。しかしトランプはさんざん「関税をかける」と言っていたので、なぜ今の事態を予期していなかったのか、「今さらなぜそんなことで騒ぐのか」と不思議です。大統領選のときから、トランプは「タリフでディールを取る」と公言していましたし、民主党のハリス候補はトランプに「あなたの経済政策ではインフレになる」と指摘していました。そういった警告を見逃して、アメリカ国民がトランプを選んだとすれば、もうどうしようもないですね。
■集会で白人男性以外もトランプを支持するように見えるワケ
――横田さんは共和党陣営のボランティアとしてトランプ支持者を装い、住宅地などで票集めの活動をしたわけですが、トランプ信者はどういう人たちなのでしょうか?
【横田】わかりやすく言えば、白人男性が中心です。トランプの支持者集会に行くと圧倒的に白人が多い。
そして学歴が高いというより低めの人が中心です。ただし、トランプが集会で演説するとき、その背中側、後方に座っている人たちは特別席で、テレビに映るポジションのため勝手には入れず、トランプ陣営がいろんな人を意図的に配置しています。黒人やアジア人、女性も含めて、「私たちは人種差別主義者ではない」というイメージを作るために選ばれた人たちが座っているのです。私も一度「そこに座らないか」と声をかけられましたが、「ジャーナリストだから、行かない」と断りました。
――彼らは多様性政策の撤廃など、白人男性に有利な政策を行うから、トランプを支持しているのですか?
【横田】彼らが最も恐れているのは、2045年から2050年頃にそうなると予測されていますが、アメリカの人口比率において白人が半数を切ることです。彼らはダイバーシティ(多様性)が大嫌い。もちろん白人男性全員がそうではありませんが、日本にも外国人が移住してくることを嫌がる人がいるでしょう。そんなふうに変化を恐れる人、多様性を恐れる人たちがトランプを支持しています。
■トランプが「移民」として排除したがるのは有色人種
――トランプ大統領がハーバード大学をはじめアメリカの大学にダイバーシティ(多様性)プログラムの削減や排除を要求していることも、支持理由になりますか? やはりトランプ氏自身が差別意識のある人なのでしょうか。
【横田】トランプが第二次政権で大学にまで干渉するとは予想できませんでしたが、トランプ信者の中には喜んでいる人もいるでしょうね。にも書きましたが、そもそもトランプの父親がKKKの一員だったかもしれないという話もあるし、70年代にトランプ・エンタープライズが不動産事業で黒人を入居させないとして訴えられ、弁護士を雇って訴え返したという話もあります。その息子である彼自身、少なくとも多様性を重んじる人ではないでしょう。

トランプは移民3世で、彼の先祖はドイツ人とイギリス人で白人です。一方、オバマ元大統領は移民2世で、ルーツはケニア人とアメリカ人。移民という点では同じでも、トランプは白人の移民、オバマは有色人種の移民という違いがあります。トランプにとって問題なのは全ての移民ではなく、メキシコ人やイスラム系、中国人など有色人種なんです。
――経済政策において、中国以外の国に対する関税を90日間停止したのはなぜでしょう。
【横田】政権内で「やめろ」という声があったのではないでしょうか。支援者であるイーロン・マスクも反対していましたよね。株価がこれだけ下がって総資産が減るとなれば、関税政策にもやはり懸念が出てくる。なのに、日本の一部の評論家は「トランプにはちゃんとした戦略がある」などと言っていますが、そんなふうには見えません。スマホには関税をかけないが部品にはかけるとか、トランプの言っていることは支離滅裂ですよ。
■めちゃくちゃなトランプに振り回されないためには?
――そんなデタラメなことをやっているトランプ氏に振り回されないためには、どうしたらいいのでしょうか?
【横田】残念ながら振り回されてしまいますね。日本はアメリカの核の傘の下にいるわけですから、関税でも、どうしても足元を見られます。
彼らがあえて日米交渉を最初にしたのもそのためです。日本は与しやすいと思われているわけで、実際に大臣が自分から「格下」なんて言ってしまうわけですし、受け入れるしかないという気がしています。
――現在、就任式から3カ月が経ちましたが、あと45カ月。どんなに支持率が落ちたとしても、トランプ氏は4年間の任期を全うするわけですよね。
【横田】もちろん、そうなるでしょう。アメリカは三権分立で、大統領府、議会、裁判所がありますが、現在は大統領と議会が共和党多数で一致しているので、裁判所が「それはダメ」と言うぐらいしか、トランプに対する歯止めがありません。振り回されるのはあるていどあきらめて、この4年間を過ごすしかないということですね。
後編に続きます

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横田 増生(よこた・ますお)

ジャーナリスト

1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。2020年、本書の元となる『潜入ルポamazon帝国』で第19回新潮ドキュメント賞を受賞。その他の著書に、『仁義なき宅配』『ユニクロ潜入一年』など。最新刊は『「トランプ信者」潜入一年 私の目の前で民主主義が死んだ』。

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(ジャーナリスト 横田 増生)
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