頭のいい子が育つ家庭と、そうでない家庭の違いはどこにあるのか。東大生作家の西岡壱誠さんは「学園ドラマの監修を務めていたとき、子供に期待していない親の意見が気になった。
過保護な姿勢では、勉強に限らず成長の芽を摘んでしまう」という――。
※本稿は、西岡壱誠『学園ドラマは日本の教育をどう変えたか』(笠間書院)の一部を再編集したものです。
■「ドラゴン桜」で東大に行きたい人が増えた
みなさんは好きな学園ドラマ・先生モノのドラマはありますか?
「熱中時代」(1978年、日本テレビ)、「3年B組金八先生」(1979年、TBS)、「GTO」(1998年、フジテレビ)、「ごくせん」(2002年、日本テレビ)、「ドラゴン桜」(2005年、TBS)、「女王の教室」(2005年、日本テレビ)、そして「御上先生」(2025年、TBS)など、学校の先生が登場するドラマはたくさんあります。
さて、これらの学園ドラマ・先生モノのドラマは、他のジャンルのドラマと1つ大きく違う性質を持っていると言われています。なんだと思いますか? それは、現実世界にも影響を与えることが多いということです。
探偵モノのドラマを見て探偵になるという人は少ないかもしれませんが、偏差値36から東大を目指す「ドラゴン桜」を観て、「自分も東大に行きたい」と考える人は多く、実際にドラゴン桜が放送された年の東大模試の受験者数、その後の東大の志願者数も例年に比べて多かったという記録が残っています。
また、「金八先生」に憧れて学校の先生になったという人の数はかなり多く、今の教育現場に大きな影響を与えたと言えると思います。このように、学園ドラマ・先生モノのドラマは、子供の進路や大人の生き方など、現実世界にも影響を与えることが多いのです。
■「息子が東大にいけると勘違いした」という批判
そんな中で私自身も、学園モノドラマのお手伝いをさせていただくことが多いです。例えば、TBSの日曜劇場「ドラゴン桜」や「御上先生」といったドラマの監修をさせていただきました。実際に作中に登場する勉強を考えさせていただいたり、脚本家の先生とお話しさせていただいたりしました。放送後には、SNSや学校現場の先生方へのヒアリングなどを通して、視聴者の反応や意見を集め分析する機会が多くありました。

そんな中で、自分が驚いたのは、これらのドラマに対する批判的なコメントの質でした。(今からする話は、しっかりとツールを使って分析をしたわけではないので僕の主観的な面が含まれていることは否定できないのですが、1000人以上からの意見を聞いているという点ではある程度信頼性があると自分は考えています。それを踏まえて、お聞きください)
日曜劇場「ドラゴン桜」を見た感想(批判的意見)として僕が一番驚いたのは、「うちの息子が、『ドラゴン桜』を見て、東大に行けるなんて勘違いをしている。どうしてくれるんだ!」という意見でした。つまり、親御さんが、東大を目指せる学力にない自分のお子さんが、ドラゴン桜に触発されて東大志望になったことを怒っているということでした。冗談のようにも聞こえる人もいるかもしれませんが、これが1件ではなく、何件かの親御さんからいただいた話でした。
■「御上先生」にも“子供への意見”があった
この意見の正当性は置いておいて、僕はこの意見を聞いたときに、「寂しさ」を感じました。この親御さんは、子供に対してあまり期待をしていないんだろうな、と。「うちの子には無理だ」と、初めから限界を決めてしまっているわけです。その背景には、期待の希薄さがあるように感じました。
確かに実際「ドラゴン桜」のように偏差値30台から東大を目指すことは難しいかもしれません。でも、実際自分は偏差値35から東大に合格している人間です(2浪はしましたが……)。
自分以外にも、偏差値30台から東大に合格している人はいます。そんな中で、「自分の子供は東大に合格することができない」という前提で考えている人がこんなに多いものなんだなと驚きました。最初から「無理」と決めてしまうのではなく、もう少しだけ信じてみてもいいのではないか、と。
このことから、僕は「令和の時代において、子供に期待をしない親御さんが多いのではないか」と考えるようになりました。そしてこれと同様のことを、日曜劇場「御上先生」の放送後にも感じました。「御上先生」を見た感想(批判的意見)の中で、僕が一番良く聞いたのが、「このドラマって、子供に背負わせすぎじゃないですか?」ということでした。
■“教育ドラマ”は内省を促している
多少のネタバレになってしまいますが、「御上先生」では、先生の教えを受けて、最終的に生徒たちが自分達で考えて行動し、学校や社会の不正を暴く、という展開になっていきます。この展開を見て、「子供に背負わせすぎだ」という意見が多かったのです。
「御上先生」のように、「先生の教えを受けた子供が、自分で考えて行動し、学校や社会を変えるような、大人が思いもよらない行動に出る」というのは、実は昔の教育ドラマでもよくあった展開です。
例えば「金八先生」でも、第2シーズンでは「腐ったミカン」と呼ばれた加藤という不良生徒が、金八先生のもとで教えを受けて、教育というものの本質を自分なりに考え、その教えをもとに以前通っていた中学を訪問し、放送室に立てこもって校長先生たちに対して自分の意見を伝える、という展開がありました。その場面では、中島みゆきの「世情」が流れ、当時は大きな話題になりました。あのシーンは、多くの視聴者の心に深く刻まれたと考えられます。

このように、学園ドラマの中での子供たちは、子供だからこそ突拍子もない行動をすることがあり、大人が思いも寄らないようなことをしていました。でも、それこそが子供であり、大人たちに「こういう行動をさせてしまった自分達にも何か問題があるのかもしれない」とか「子供のこういう勇気は自分も見習わなければならないかもしれない」とか、そんな内省を促していたのが「教育ドラマ」だったのではないかと感じます。
■令和は「大人が多い時代」
しかし、令和の時代において、子供に期待しない親御さんや、「背負わせすぎだ」という大人が多くなっているというのは、僕の感覚で言うとなんとなく残念な気持ちになります。
とはいえ、それも仕方ないのかもしれません。以前の記事(本当にいい教師は「金八先生」でも「ごくせん」でもない…日曜劇場「御上先生」が描く"頭がよくなるスゴイ授業")でもご紹介しましたが、今は少子高齢化の時代だと言われていますが、子供から見ると逆に、「子供が少ない時代」ではなく「大人が多い時代」です。
1965年の人口で見ると、15歳未満の人口が約2500万人なのに対し、15歳以上の大人の数は7000万人余りでした。1人の子供に対して大人の数は約3人いたわけです。しかし2020年代になり、15歳未満の人口は約1500万人なのに対して、15歳以上の大人の数は約1億1000万人。1人の子供に対して約7人の大人がいる計算になります。
■いつまでも“幼いまま”になってしまう
社会の中で、子供の割合はどんどん減っており、大人の割合がどんどん増えているわけです。そうなると、大人が子供を見る目線も、「保護するべき対象」へと変わっていっているのではないかと考えることができます。少子高齢化の進行によって、子供がますます「特別な存在」として扱われる時代になっていると見ています。

でも、そんな時代だからこそ僕は、子供のことを子供扱いするのを“あえて”やめてもらいたいなと思います。相手のことを「まだ子供だから」と考え、保護する目線で相手のことを見てしまうと、いつまで経っても幼いままです。もう立派な大人だと考える。そういう思考が、この令和の時代だからこそ、必要になっているのではないでしょうか。
実際、令和の時代、生徒たちはしっかりと自分で考えて行動し、学校を変革している事例も数多く存在します。僕たちが指導を担当している学校の中には、校則を生徒が考えるという学校や、生徒規約を生徒会執行部主導で作る学校などもあります。そういう生徒たちは、やはり受験でもその後の人生でも、結果を残している場合が多いのです。
■“学園ドラマの精神”を思い出してほしい
こんな話もあります。ある学校で、東大など難関大学を目指す生徒たちが「もっと遅くまで自習室を使わせてほしい」と校長に直接お願いしました。最初は「そんなこと頼んだら迷惑かな」とためらいもあったそうですが、自分達がより上の大学を目指すために必要だと考えて思い切って要望を伝えたのです。しっかりと学校の職員やPTAの人と相談をし、結果として自習室の利用時間が延長されることになったそうです。
そして、その生徒たちの学力は大きく伸び、進学実績も例年より格段に良くなったのだそうです。
このように、生徒たちは本来自分で学校や社会を変革する力を持っており、その力をしっかりと行使した生徒たちは、大きく成績を上げているのです。
子供はまだまだ未熟で保護しなければと思われがちですが、大人が思うよりも深く考え、ずっと賢く、ずっと勇気を持っています。その可能性を信じ、期待し、育てていく――そんな学園ドラマのあたたかい精神を、もう一度、思い出すべき時なのかもしれないと感じます。

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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)

現役東大生 カルペ・ディエム代表

1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。

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(現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)
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