クルマの自動運転化はどこまで進んでいるのか。物流ジャーナリストの坂田良平さんは「われわれ一般人が想像する自動運転は実現していない。
しかし、一部の自動車メーカーは自動運転が可能かのように宣伝しており、ドライバーが勘違いする原因となっている」という――。
■1歳男児が「クルマへの過信」の犠牲に
最初に断っておきたいのだが、現在「どこでも」「どんな状況でも」走行することが許可された自動運転自動車は存在しない。
にもかかわらず、メディア、あるいは自動車メーカーは、あたかも自動運転が実用化されたかのような表現をやめず、結果として(自動運転機能ではない)運転支援機能を過信した交通死亡事故も発生している。
2024年9月、高知県内にある片側1車線の自動車専用道路において、60歳の男性が運転する車が対向車線に飛び出し、結果、ぶつかられた車に乗っていた1歳男児が死亡するという痛ましい交通事故が発生した。
この交通事故では、加害男性が、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)およびLKS(車線維持支援システム)機能を過信し、運転中に着替えを行っていた可能性が指摘されている。
■運転支援があっても運転義務は免れない
加害男性は、「事故のことは記憶にない」と証言している。しかし(詳報は今後の取り調べを待つ必要があるものの)、被害を受けたクルマのドラレコに男性の顔が写っていないこと、警察の取り調べに対し「日常的に自動運転モードにして着替えをしていた」という趣旨の供述をしていることが、この疑惑につながっている。
ACCとは、ドライバーが設定した車速を維持し、センサーで前車を検知した際には、車間を維持しながら車速をコントロールするシステム。
LKS(あるいはLKAS)は、センサーによって車線を認識し、車線内をキープして走行するために、車線逸脱時には警告の発報や操舵操作をアシストするシステムを指す。
詳しくは後述するが、これらは運転支援装置であって、自動運転ではない。したがって、ドライバーは周囲の状況を常に観察し、適正な運転操作を行う義務から免れることはない。
■レベル2運転の責任はドライバーにある
自動運転は、レベル0から5までの6段階に分類される(図表1)。

かいつまんで各レベルについて解説しよう。
・レベル0自動運転

ドライバーによる運転
・レベル1自動運転

システムは、加減速や車線維持など、いずれかひとつの操作しかできない。
・レベル2自動運転

ACCとLKSを組み合わせて、擬似的な自動運転を実現。ただし運転の責任はあくまでドライバーにあり、常に自身で運転しているときと同様の緊張感を持たなければならない。
・レベル3自動運転

「荒天下ではない高速道路」「許可された地域内」など、特定の条件下で許可される自動運転。ただし、ドライバーはシステムから要求があった場合には、すぐに運転を替わることができるようにスタンバイしている必要がある。
・レベル4自動運転

特定の条件下で実現する自動運転。レベル3と違い、原則としてドライバーは運転をシステム任せにできる。
・レベル5自動運転

いつ、いかなる状況下でもシステムが運転を行う。フィクションの世界で登場する完全自動運転が該当。
■レベル3以上はまだ「非日常」の存在
自動運転のレベルを表現するキーワードとして、「ハンズオフ」と「ドライバーフリー」がある。
ハンズオフとは、ドライバーがハンドル操作をシステムに任せ、手放し運転を行うこと。
ドライバーフリー(アイズフリーとも呼ぶ)とは、ドライバーが運転時に払うべき運転監督義務をシステムに委ねることができる状態を指す。
ハンズオフとドライバーフリーの双方が満たされ、初めて自動運転と呼ばれる。
自動運転のレベル分けにおける定義では、レベル3以上を本物の自動運転とするが、それは自動運転を研究するアカデミックな領域でのこと。われわれのような一般市民からすれば、レベル4、レベル5だけが、「私たちの感覚にマッチした」自動運転と言えるだろう。
国内において市販されたレベル3以上の自動運転自動車は、2021年3月に発売されたレジェンド(ホンダ、レベル3自動運転)のみである。ただし、市販されたと言っても台数は100台、販売形態はリースだけであった。
一方、レベル4自動運転車両が社会実装されつつあるが、これは石川県永平寺町、茨城県日立市など一部地域で運用されているバスなどに限られる。
■メーカーの売り文句が誤解を生んでいる?
繰り返すが、レベル2自動運転は、自動運転ではないし、私たちが想像する自動運転は、レベル4以上に該当する。
しかしハンズオフ機能を提供している自動車メーカーは、運転支援機能でしかないレベル2機能を自動運転だと断言してしまっている。
例えば日産は、2024年7月に公開したCMで以下のように宣伝している。
「自動で走るだけが自動運転ではない。何度でも、何度でも、自動で危険を回避する。


さあ、ぶつからない未来へ」
こんなCMを見てしまったら、運転支援機能でしかないクルマを、本物の自動運転自動車だと勘違いする人がいてもしょうがないだろう。
同様の問題は、海外でも発生している。
例えば、米連邦当局は2024年4月、テスラの運転支援機能「オートパイロット」を過信した結果、少なくとも死亡事故が13件発生しているとする報告書を発表。「テスラはそのような事態を予見できたはずであり、未然に防ぐためにもっと対策を講じるべきだった」と指摘している。
また中国では、2025年5月にシャオミに乗車していた大学生3人が死亡するという悲劇的な交通事故が発生した。この事故では、運転支援機能「ナビゲート・オン・オートパイロット」が障害物を検知して警告を発報、ドライバーは2秒後に手動運転に切り替えたもののコンクリート障壁に衝突したと報じられている。
中国当局はこの事故が発生してからすぐ、主要EVメーカー10数社を招集し、運転支援機能の安全ガイドライン強化について協議を始めた。
■消費者の知識不足につけこんだ悪質なPR
先に挙げた6段階の自動運転レベル分けは、アカデミックな意味合い、つまり技術進化のあり方を論じるうえで必要ではある。しかし、一般消費者がイメージする自動運転と乖離している車両を自動運転と呼ぶのは誤解を呼ぶ。
そもそも、自動運転の技術レベルが6段階に分かれていることを知っている人など、ごく少数だろう。
こういった高度かつ専門的な知識を前提とした名称を使い、自動運転を詐称する一部の自動車メーカーの宣伝行為は、極めて悪質である。
■レベル3も「自動運転」と呼ぶべきではない
冒頭に挙げた高知県内の交通事故において、ほとんどのメディアが「自動運転」と報じてていることも、一般消費者に誤解を生じさせる可能性が高い。

筆者は、レベル0~レベル2の自動運転車両を自動運転と呼称(あるいは宣伝)することを規制すべきと考えている。さらに言えば、「運転をシステムに丸投げできない」レベル3の自動運転車両も自動運転と呼ぶべきではない。
アカデミックな領域であればともかく、一般社会では「一般消費者がイメージする自動運転と乖離した機能」は、自動運転ではなく、運転支援機能、運転サポート機能など、別の呼称を用い、機能を過信・誤解したことで発生する悲惨な交通事故を防ぐべきだ。
■運転をシステムに委ねることのリスク
昨年、ADAS(Advanced driver-assistance systems、先進運転支援システム)の解説記事を別メディアで上梓したときのことである。
「ADASなんて使い物にならないよ。私も危うく追突事故を起こしかけたし」というSNSへの投稿があったので、詳しく話を聞いた。
投稿者は、渋滞中の高速道路上で、ACC+LKSを作動させていた。前車がブレーキを踏んだ際、「ACCが作動して自動的に減速するだろう」と思っていたが作動せず、あわててブレーキを踏んで追突を回避したという。「もしキャンプ等で荷物を満載にしていたら、間違いなく追突していた」とACCの能力不足に憤っていた。
このケースにおいて、ACCの能力不足は確かだ。したがって自動車メーカー側はACCの能力(特にセンシング能力)を高める義務がある。
ただしメーカーの技術向上義務と、ドライバーが負うべき義務は別物である。

なぜならば、投稿者が運転していたクルマは、自動運転自動車ではなかったのだから。
ACC、あるいはADASがどんなに進化しようとも、自動運転自動車でない限り、危険回避の責任は、ドライバーにある。だからこそ、先進運転“支援”システム(※ADASの和訳名)なのだ。
■われわれの理想に現実は追いついていない
もちろん、こういったことはクルマのマニュアルにはきちんと書いてある。しかし、(クルマに限らず)マニュアルをつぶさに読み、すべて記憶している人など稀である。
だからこそ、自動運転機能と運転支援機能が違うことを、もっと広く、もっと分かりやすく訴求する必要があるのだ。
クルマの自動運転と聞き、どういったものかまったく想像できないという人は少ないと思う。
なぜならば、ドラゴンボール然り、ブレードランナー然り、映画やアニメといったフィクションの世界では、自動運転機能が広く描かれており、われわれは「自動運転自動車とは、ドライバーが寝ていても目的地まで連れて行ってくれるクルマである」と刷り込まれているからである。
だが現実は、そこまで追いついていない。
自動車メーカーの宣伝に自動運転だと思い込み、怪我をした人、命を失ってしまった人たちの知識不足を謗(そし)るのは間違っている。確かに、その機能とその限界をきちんと知ろうとしなかったことは批判されても致し方ないが、その代償が自らの命というのは、あまりにも暴力的すぎる。
ただ、それが他人の命を奪ってしまったとなると、話は別であると断言しておく。

単なる運転支援機能を自動運転と言って恥じない、自動車メーカーの宣伝にこそ、根本的な原因があるのだから。

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坂田 良平(さかた・りょうへい)

物流ジャーナリスト、Pavism代表

「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。物流ジャーナリストとしては、連載「日本の物流現場から」(ビジネス+IT)他、物流メディア、企業オウンドメディアなど多方面で執筆を続けている。

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(物流ジャーナリスト、Pavism代表 坂田 良平)
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