ラーメン提供食数世界ナンバーワンを目指す牛丼の「吉野家」その道筋は

牛丼を主力とする吉野家ホールディングス<9861>が、ラーメン提供食数世界ナンバーワンを目指すことになった。

現在展開しているラーメン店「せたが屋」などの既存ブランドの事業拡大とM&Aによる新ブランドの獲得によって実現する計画だ。

コロナ禍の影響が薄れる中、業容拡大策の一つとしてラーメン企業を買収するケースは少なくなく、今後もラーメン業界でのM&Aの話題は途切れることはなさそうだ。

リージョナルドミナント戦略を採用

吉野家が現在展開しているのは「せたが屋」のほか「ばり嗎」「金澤濃厚中華そば神仙」「キラメキノトリ」の4ブランド。

「せたが屋」は煮干し醤油ラーメンや煮干し塩ラーメンなどをメインにしており、吉野家は2016年に運営会社のせたが屋(東京都世田谷区)の子会社化によってラーメン事業に参入した。

「ばり嗎」は、とんこつ鶏がら醤油ラーメンが特徴で、2019年に運営会社で「とりの助」なども展開するウィズリンクホールディングス(広島市)を子会社化した。

「金澤濃厚中華そば神仙」は濃厚豚骨ラーメンを提供しており、子会社のせたが屋が2019年に、運営会社の全力の元(金沢市)を子会社化。「キラメキノトリ」は、鶏白湯ラーメン、台湾まぜそばがメインで、2025年1 月に運営会社のキラメキノ未来(京都市)を傘下に収めた。

このほかに、2024年にはラーメン店向けに麺やスープなどを製造する宝産業(京都市)を買収している。

ラーメン店4ブランドについては、特定の地域に店舗を集中的に出店し、シェアを高めるリージョナルドミナント戦略を採用し競争力を高めるほか、海外でのFC(フラインチャイズ)展開などにも取り組む。

また麺やスープなどを製造する宝産業では、国内外の設備を増強し、今後3年間(2026年3月期~2028年3月期)で製造能力を1.5倍に引き上げる。4ブランドは宝産業の商材を活用することで、グローバル展開を加速する。

国内リージョナルM&A戦略も展開

一方、M&Aによる新ブランドの獲得については、国内リージョナルM&A戦略と海外M&A戦略を同時に推進する。

国内では、特定の地域の有望ラーメン店を買収し、シェアを高めることで競争力を強化し、海外では有力なラーメン店を傘下に収める計画で、今後5年間(2026年3月期~2030年3月期)にラーメン店の買収に400億円を投じる。

すでにジャンルとしては、煮干し醤油、とんこつ鶏がら醤油、濃厚豚骨、鶏白湯などがそろっており、地域は東京都、広島県、石川県、京都府で実績がある。

今後のM&Aはどの地方のどのようなジャンルのラーメン店になるだろうか。

ラーメン提供食数世界ナンバーワンを目指す牛丼の「吉野家」その道筋は
吉野家ホールディングスが買収したラーメン店と麺、スープの製造会社

ラーメンを牛丼、うどんに次ぐ第三の柱に

吉野家は既存ブランドの拡大とM&Aによる新ブランドの獲得によって、2025年3月期に80億円だったラーメン事業の売上高を2030年3月期に400億円に、営業利益は2025年3月期に4億円だったのを2030年3月期には40億円に、店舗数は2025年1月時点に国内外合わせて130店ほどだったのを2030年3月期に500店に引き上げる。

2030年3月期の全社の売上高は3000億円を計画しているため、売上高構成比は2025年3月期に吉野家67%、ラーメン4%だったのが、2030年3月期には吉野家61%、ラーメン13%となる見込み。

ラーメンを吉野家(牛丼)、はなまる(うどん)に次ぐ3番目の事業の柱に育て、吉野家依存型から収益分散型の事業構成に移行するのが狙いだ。

同社ではこれらの取り組みをやり遂げ、その後の2031年3月期から2035年3月期までの5年間に、ラーメン提供食数世界ナンバーワンを目指す考えだ。

ラーメン店の奪い合いに発展も

ラーメン業界では吉野家だけでなく、他の企業もラーメン店の買収に乗り出している。ラーメンは「国民食」ともいえる存在であり、人気店には安定した需要がある。また、海外でも人気が高く、海外展開が視野に入ることなどが、ラーメン店を対象にしたM&Aが増える背景にあると見られる。

ここ半年ほどを見ても、2024年12月にカレー専門店「カレーハウスCoCo壱番屋」を展開する壱番屋<7630>が、新たな外食業態の開発、展開を狙いにラーメン店「極濃豚骨らーめん小僧」などを展開するKOZOU(大阪市)の子会社化を発表。

ローカルビジネスのマーケティング支援を主力事業とするCS-C<9258>は、2025年2月に飲食店運営事業を収益の柱の一つに育てるのを狙いに、ラーメン店経営のプレディア(東京都目黒区)の子会社化を発表した。

さらに、居酒屋の「磯丸水産」や、和食の「かごの屋」など多くの外食ブランドを展開しているクリエイト・レストランツ・ホールディングス<3387>は4月に、麺ブランド事業強化を狙いに、人気つけ麺店運営の狼煙(さいたま市)の子会社化を発表。

また、焼肉チェーン大手のあみやき亭<2753>は5月12日に、関西エリアへの本格的出店の足がかりとするために焼肉・ラーメン店運営のクーデションカンパニー(京都市)の子会社化を発表した。

2月には、博多ラーメン「一風堂」を展開する力の源ホールディングス<3561>が、味噌ラーメン店経営のライズ(東京都大田区)の子会社化を、3月にはラーメン店「一刻魁堂」を展開する JBイレブン<3066>が、ラーメン・つけ麺店運営の55style(名古屋市)の子会社化を公表するなど、ラーメン店によるラーメン店の買収も活発化している。今後M&Aの対象となるラーメン店の奪い合いに発展することも予想される。

ラーメン提供食数世界ナンバーワンを目指す牛丼の「吉野家」その道筋は
最近の主なラーメン企業買収の動き

文:M&A Online記者 松本亮一

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