国民･玉木代表の｢1年たったら動物のエサ｣は不適切なのか…政治家を狙うマスコミの｢失言報道｣に抱く違和感 (2025年5月29日)

政治家の発言を「不適切」と報じるマスコミの姿勢に問題はないのか。ネットメディア研究家の城戸譲さんは「報道の中には、読者を煽情する目的のものもみられる。マスコミが勝手に作った『かもしれない失言』に惑わされてはいけない」という――。■「コメ買ったことない」で農水相が辞任政治家の「不適切発言」が、このところ問題視されている。なかには職を追われる者もいて、民意とのズレを感じさせる発言には、強い逆風が吹いている。一方で、ふとこんな疑問も浮かぶ。「マスコミによる『不適切発言』報道は、本当に不適切なのか」。その問いに向き合ってみると、「作られた“不適切”」の実像が見えてきた。直近の大型失言と言えば、前農水相の江藤拓氏による「コメ買ったことない」だろう。コメ不足が指摘されるなかでの発言とあって、TPOをわきまえていないと非難が殺到。石破茂首相も、いったんは続投の方針を示したが、後に事実上の更迭を決めた。■「博多の女性はきれい。男はまぁまぁ」は失言か失言で注目されるのは、閣僚だけでなく、勢いに乗る野党幹部もそうだ。2025年5月26日には、国民民主党・榛葉賀津也(しんばかづや)幹事長が、街頭演説で「博多の女性はきれいだね。男性はまぁまぁだね」と発言。その後の記者会見で、メディアから発言の意図を問われて「他意はない」としつつ謝罪した。どちらも、「なぜこのご時世で、この発言をしてしまうのか」といったパターンの発言だが、批判一辺倒だった江藤氏の発言に対して、榛葉氏の発言には擁護の声が少なくない。SNSやYahoo!ニュースのコメントを読むと、「この程度の発言で問題視するのか」といった投稿が多々見られる。たしかに榛葉氏の発言は、ルッキズムと性差の“ダブルパンチ”と言える内容であり、世情を考えると、不適切だとの指摘も理解できる。ネットではよく「女性を下げて、男性を上げる」系の表現が炎上する。今回のケースも、男女が逆だったなら、より燃えていたのかもしれない。ただ江藤氏との一番の違いとして、「職務に直結するか」がある。榛葉氏が女性活躍担当相だったら話は別かもしれないが、そうした立場ではない。なにより、もし不快感を覚えたならば、国民民主党に投票しなければいいだけであり、閣僚とは状況が大きく異なる。■マスコミの「失言判定」はガバガバ榛葉氏の発言は、先ほども紹介したように、マスコミが報じたほど、不適切とは受け止められていない。そこで浮かぶのが、メディアによる“不適切”判定は、どこまで高い精度を持っているのか。“炎上”判定と同様に、年々ガバガバになりつつあるように感じるのだ。報道機関にとって「世情とのズレ」は、ニュースバリューが高い。それが政治家のような、影響力を持つ人間であれば、なおのこと高まる。最近であれば、ウェブニュースとして配信されるため、よく読まれる記事が（少なくとも商業的には）正義とされる傾向がある。そのため、芸能人の不倫や、政治家の失言のように、読者の感情を揺さぶり、クリックさせたくなる扇情的な話題は重宝されるのだ。しかしながら、メディアである以上、“社会の公器”としての体裁を保たなければならない。そこで、読者をある種の共犯関係に引き込み、SNSでの拡散を任せ、「あくまで自分たちは材料を提供しただけであり、炎上を起こしたのは読者」だとの理屈をこねる。そこには、最近話題の“犬笛”とも近い構図が存在している。■「何がどう不適切なのか」すら説明しない報道もある振り返れば、政治家による失言は、古くから存在している。記憶に残るところだと、2007年には、鳩山邦夫法相が「私の友人の友人がアルカイーダだ」、柳澤伯夫厚生労働相（いずれも当時）が「（女性は）産む機械」と発言した。いずれも今回の江藤氏のように、所管官庁に関連する事柄であり、「職責を果たすに足りる人物ではない」と批判が出るのも無理はない。カギカッコでくくられた発言を読むだけでも、これはダメだろうと感じる人がほとんどだろう。しかし最近の“不適切発言”報道には、発言そのものを読むだけでは、なにがどう不適切なのか、読者に伝わってこないものが多い。なかには、ご丁寧に背景を説明しつつ、「波紋を呼ぶ可能性がある」「蔑視と受け取られかねない」といった表現で、余韻を残すものまである。■客観を装い読者の判断を勝手に「代行」するこうした“かもしれない失言”は、ネットにおいては着火剤だ。実際に批判の声が大きくなったり、有名人が言及したりすれば、「民意や著名人による批判」として体裁が保てるが、そうでなければ、ただのマスコミによる一方的なジャッジに過ぎない。読者や有権者が行うべき価値判断を勝手に代行する。それは本当に、“客観報道”だと言えるのだろうか。最近よく「記者目線で報じた『エモい記事』」が批判の的になる。日常や取材で感じたアレコレを感情豊かに届ける、これらのフォーマットは、読む側の興味をかき立てる。しかしながら一方で、記者のフィルターを通した主観的表現を、客観報道に混ぜ込むのはいかがなものかという指摘も理解できる。個人ブログならまだしも、社会面にそうした記事が載る違和感は、確かに存在する。■「オレがニュースと決めたらそれがニュースだ」という姿勢こうした姿勢が透けて見えると、「オレがニュースと決めたら、それがニュースなんだ」といった、上から目線に対する不快感へと変わっていく。そして、その先にあるものは、「マスゴミ」批判だ。SNSの普及で情報収集が多様化した昨今、ニュースバリューの判断は、受け手それぞれに託されている。当然ながら、その中にはメディア側で付けられた“色”を好まない人もいる。しかもそれが、「国民は～」「消費者は～」といった大きな主語でくくられてしまうと、「あなたの言っている『国民』や『消費者』に、私は入ってないんですけど⁉」と、より強い反感を覚えるだろう。ネットメディアに目を向けると、数カ月前に話題になった、カップうどん「赤いきつね」をめぐる騒動が思い出される。女性がうどんをすするウェブCMに対して、広告コンサルタントなどの一部から「性的な表現だ」と批判が上がり、後に「炎上」と報じられた。しかし実際には、不快だといった否定的な投稿は、炎上とまで呼べる件数ではなかった。これから燃え上がるかもしれないが、いまは火種にすらならない状況。まさに“かもしれない炎上”の段階で報じられた代表例だろう。■こうして「炎上発言」は今日も作られていく話を失言に戻すと、一番悪いのは「ツッコミどころのある発言をした政治家」だ。メディアはただ、その言動を報じただけであり、火にまきをくべたのではない――といった論理のもと、きょうもSNS上には燃料が投下され続けている。5月28日には、国民民主党の玉木雄一郎代表が、衆院農林水産委員会で、備蓄米について「1年たったら動物のエサになる」といった趣旨の発言をした。現行制度において2021年産の備蓄米は、来年で5年が経過するため、飼料用米として売り出される予定だった、といった意味合いだったが、多くのメディアは不適切発言の文脈で報じている。これも同じ構図だ。「前提となる文脈があってもダメな発言だ」と判断するのは、本来ならばメディアでなく、読者サイドではないか。もっとも今後は、こうした“かもしれない失言”や“かもしれない炎上”は、減少していくだろう。生成AIの進歩によって、「どこまでが客観で、どこからが主観だ」といったジャッジは、機械的に行えるようになると考えられるからだ。当然ながら、主観表現が悪いわけではない。問題は「客観の体をとった主観」にある。ファクト（事実）とエモーション（感情）をきっちり分けて、それぞれの論旨で勝負できるメディアや書き手が生き延びていくはずだ。かくいう私は、その生存競争に勝ち残れるのだろうか。「最近のマスメディアは～」などと、大きな主語でくくって、上から目線で語っている姿は、まるで自分が批判している対象とウリ二つ。このコラムもまた、メディア批判の業火に、まきをくべているのである。----------城戸 譲（きど・ゆずる）ネットメディア研究家1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ニュース配信会社ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長、収益担当の部長職などを歴任し、2022年秋に独立。現在は「ネットメディア研究家」「炎上ウォッチャー」として、フリーランスでコラムなどを執筆。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。----------（ネットメディア研究家 城戸 譲）