上司から仕事を頼まれた時に分かる…｢人生をラクに生きる人｣と｢悩みだらけの人｣の決定的違い (2025年6月4日)

人間関係に悩んだときはどうすればいいか。精神科医の藤野智哉さんは「周囲の人の感情に影響されたり、自分の感情を出すのをためらったりするのは、『自分と他者の間にある境界線』があいまいになっているせいかもしれない」という――。※本稿は、藤野智哉『人間関係に「線を引く」レッスン 人生がラクになる「バウンダリー」の考え方』（ディスカヴァー・トゥエンティワン）の一部を再編集したものです。■「他人に引きずられてしまう人」の悩み最近、あなたはこんなことに悩んでいませんか？断るのがなんとなく苦手仕事も家庭も忙しすぎて、いつも時間がない仕事の連絡が休日にもあり気が休まらないつい意見の強い人に押しきられがち愚痴につきあったり、相談されることが多い待たされたり、相手に時間を合わせてしまう「理不尽」と思いつつ、結局、我慢してしまう「あなたのためを思って」の言葉にモヤモヤする不機嫌な人がいると、自分までイヤな気分になる期待に応えないと、なんだか罪悪感があるそんなあなたに足りないのは、人間関係に「線を引く」ことかもしれません。どういうことでしょうか？人間関係に「線を引く」と書きましたが、この「線」は心理学用語の「バウンダリー」という考え方がもとになっています。「バウンダリー」とは、「自分と他者の間にある境界線」のことです。もう少し詳しくいうと、「『どこまで相手と関わるか』『どこから自分を守るか』を自分が決めるための心理的な境界線」を意味します。■「できない」と素直に伝えればいいが…人にはそれぞれ「自分の領域」があります。そしてその自分の領域は、尊重されてしかるべきものです。けれども、本来なら誰からも侵入されないはずの「自分の領域」に、気づいたらずかずかと入ってこられてしまうケースは少なくありません。それが「バウンダリーを越えられる」ということです。そして、バウンダリーを越えられたら、自分を守るために、「それ以上はやめてください」と言っていいのです。たとえば、仕事上でよくあるのが「時間」のバウンダリーです。バウンダリーを適切に引けている人の場合、忙しい時期に他の仕事をふられたら、「今は仕事がいっぱいで、引き受けられそうにありません。もし、どうしても私がしたほうがいいというなら、1週間後なら引き受けることができます」と自分で「できる」「できない」の線引きをし、相手に素直に伝えて調整してもらうことができます。■あなたの時間の使い方はあなたが決められるバウンダリーがあいまいな人の場合、断りきれずになんとなく引き受けてしまいます。あるいは「断ったらこの人がかわいそうかな」と罪悪感を感じて、「その人のため」に引き受けたりします。結果、忙しくなって、自分の時間がなくなってしまうのです。自分の時間を「どう使うのか」「誰のために使うのか」を決めること、「時間」のバウンダリーは、最も基本的なバウンダリーの一つといえます。あなたの人生はあなたのもの、あなたの時間はあなたのものです。全部を自分のために使わなくても、少なくとも誰のために使うかは、あなた自身が決めていいのです。私は精神科医としての病院勤務に加え、医療刑務所の仕事もして、執筆業もして、SNS発信もマメにしています。まわりから「よくできるね」「忙しそう」といわれることがあります。これは、バウンダリーを意識して、人間関係に「線を引く」ができているからこそ、可能なのだと思います。■私が「時間は命」と発信する理由時間は有限です。自分のルールを決めずに何もかも引き受けていたら、自分の時間もなくなるし、自分にとって大切な人たち（今の患者さんであったり、仕事相手、家族であったり）を大切にできなくなってしまいます。だから、「自分の領域はここ」「自分はここまでしかできない」と線を決めて、自分の領域を守るようにしているのです。この「線を引く」を意識するのは、私のこれまでの個人的な経験も大きいのかもしれません。幼いころにかかった疾患の後遺症が心臓に残り、現在でも薬を飲む必要があります。心疾患で「人より人生が短いのかもしれない」と切実に感じた経験があるためか、「時間は大切」と思って生きてきた部分が多かったように思います。だから、X（旧Twitter）でもたびたびこのような発言をしています。「イヤな人のために、あなたの大切な時間を浪費しちゃダメです」「時間は命。時間を使うというのは自分の人生をあげることなので、この人になら自分を賭けてもいいと思える人にしか注いじゃダメです」ここでは、わかりやすいよう「時間」をあげましたが、バウンダリーには、いくつか種類があります。「考え方・価値観」「感情」などが想像しやすいでしょうか。■「～すべき人間」のベストな対処法「考え・価値観」のバウンダリーは、自分の考えや他者の考えを分け、異なっていても、お互いがそれを尊重するためのものです。けれども、「考え・価値観」のバウンダリーがあいまいだと、次のような悩みをもちがちです。まわりの意見に簡単に影響され、自分の考えがわからなくなる「みんながそうだから」という理由で行動を決めて、あとから後悔する価値観の合わない環境でも、それを認識できずにストレスをためてしまう上司が「若いうちは残業は当たり前」と考えていても、その考えとは一線を引いて、自分は「ワークライフバランスを重視する」という価値観をもって働いてもいいのです。バウンダリーを引けると、まわりの人から「～すべき」「～が正しい」などと価値観を押しつけられたときにも、「あなたはそう考えるのですね。でも、私は違います」と穏やかに主張できるようになります。まわりの声に流されず、自分の判断で物事を決めることができるようになります。■相手の感情は放っておくくらいでいい「感情」のバウンダリーとは、自分の感情と他者の感情を区別し、自分の感情を守るためのものです。「感情」のバウンダリーがあいまいだと、次のような悩みをもちがちです。まわりの人の感情に影響されやすく、ふりまわされる自分の感情を出すのをためらい、抑えこんでしまう「相手を悲しませた」「相手を怒らせた」というように、他者の感情に対して過剰な責任を感じる「もうつらい」と言ったのに「この程度で『つらい』なんて甘えだ」などと、他人から自分の感情を否定されることもバウンダリーを越えられることです。バウンダリーを引けると、不機嫌な人がまわりにいるときにでも「相手の感情は相手の持ち物」とわりきって、放っておくことができるようになります。「相手を怒らせたかも」などと考えすぎるのは、相手に気をつかっているようで、相手の領域に侵入しているともいえるのです。■「自分を守ること」＝「相手を守ること」自分なりにバウンダリーを引くということは、人間関係に「線を引く」ということです。線を引かないままだと他人から、「自分の時間」を「ちょっとこれやっておいて」で奪われたり。「自分の意見」を「未熟だからわかってない」とつぶされたり。「自分の感情」を「甘えだから、我慢しろ」と否定されたり。どんどん自分の領域に他人が入ってきて、自分の人生なのに、自分のものではなくなってしまうからです。人間関係に線を引くことは、「自分で自分を守ること」「自分を尊重すること」でもあります。そして、同時に「相手を守る」「相手を尊重する」ことでもあります。自分も相手も尊重しつつ、限られた時間とエネルギーを大切にして、快適で充実した人生を送りたいですよね。■私生活に踏み込ませない「スルーフレーズ」人間関係に「線を引く」ときの基本は、あくまでも「言葉で伝える」こと、「話し合いで築いていく」ことです。ですから、自分の気持ちや考えを言語化することがすごく大切です。ただ、自分の気持ちや考えをすぐに言葉にできる人ばかりではないものです。「自分の領域を守る言葉」を覚えておくと便利かもしれません。たとえば、プライベートな質問をかわす「スルーフレーズ」です。「それはプライベートなのでちょっと秘密にしておきますね」「その話題はわりと苦手なので、別の話にしませんか？」のように、いったん、やんわりと話題を変えるフレーズです。「すぐやって」「その日は空けて」などスケジュールに口を出されたときの「マイペースフレーズ」なども便利でしょう。「今、集中したいことがあるので、またの機会にお願いします」「スケジュールがつまっていて、対応が難しそうです」■「前置きクッション」で相手を気づかう自分とは違う意見をゴリ押しされたときの「受け止めフレーズ」といったものもあります。「◯◯さんは、そういう意見なんですね（私は違います）」「考え方は人それぞれですよね」相手を尊重しつつ主張する「やんわり自己主張フレーズ」も。「その考えは素敵ですね。私はこういう考え方もあるとは思いますが」「私はこう思いますが、◯◯さんの意見もたしかにと思います」ここまでは「自分の領域」を守るフレーズでしたが、「相手の領域」を守るフレーズも知っておきたいですね。誰しもが知らず知らずのうちに線を踏み越えてしまうことがあるからです。たとえば、相手の時間や都合を気づかう「前置きクッションフレーズ」。「お忙しいところすみません、今お時間いいですか？」「急ぎじゃないので、ご都合のいいときでかまいません」無意識のうちにゴリ押ししてしまうのを防ぐ「NOでもOKフレーズ」。「大変だったら言ってくださいね」「ダメだったら断っていただいてかまいません」■語彙を増やすと、線を引きやすくなるこうした、バウンダリーを意識したフレーズをいくつかもっておくと、便利だと思います。また、人間関係に線を引くときの基本は「自分の気持ちや考えを言葉にする」が基本ですから、日ごろから「言葉で表現する」「言語化する」を意識しておくといいのではないでしょうか。「言葉にする」「言語化する」が本稿の目的ではないので、ここでご紹介したのは、あくまでも一例です。「言葉にする」「言語化する」については、いい本がたくさん出ていると思います。そうした本を読んで、自分の気持ちや考えを言葉にする練習をしてみてもいいかもしれません。----------藤野 智哉（ふじの・ともや）精神科医産業医。公認心理師。1991年愛知県生まれ。秋田大学医学部卒業。幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。学生時代から激しい運動を制限されるなどの葛藤と闘うなかで、医者の道を志す。精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見を発信しており、X（旧ツイッター）フォロワー9万人。「世界一受けたい授業」や「ノンストップサミットコーナー」などメディアへの出演も多数。著書に3.5万部突破の『「誰かのため」に生きすぎない』（ディスカヴァー）『自分を幸せにする「いい加減」の処方せん』（ワニブックス）、『精神科医が教える 生きるのがラクになる脱力レッスン』（三笠書房）などがある。----------（精神科医 藤野 智哉）