※本稿は、岩永憲治『トランプ経済 グレート・クラッシュ後の世界』(集英社)の一部を抜粋、再編集したものです。
■米国経済大暴落、“その後の世界”
前著〔『金融暴落! グレートリセットに備えよ』(集英社)〕を読んでいただいたか、あるいは私のXに目を通された方は、世界経済についての私の大局観を理解されていると思っている。
グレートリセット前の投資資金は、皆様には以下のように分散投資していただきたいと心から願っている。
ご自身のアセット・アロケーションを、まずは現金に40~50%、次にゴールドまたはゴールドETFに20%、短期米国債または米国債ETFに10%、電力・石油・資源エネルギー、世界公益株または世界公益株ETFに10%、一部・暗号資産などにシフトしていただきたい。
そのうえで、残る10~20%程度をどうするかを考えるために、将来的な成長が見込まれる投資先の方向性を考察してみよう。
2025年から少なくとも2年ないし3年は継続されることになるのが、グレートリセットによる金融暴落から米国株式市場崩壊、そして金融恐慌のタームである、と私は信じている。
そして金融恐慌はグローバルベースで同時多発的に波及する恐慌へと発展していく可能性もあるだろう。
■2033年頃までに息を吹き返す、ところが…
そんな中にあっても転んでもただでは起きず、計り知れないマグマのような底力を持つのが、米国経済と米国企業だと私は捉えている。
2028年から2033年あたりまでには、私は米国経済は「蘇る金狼」のごとく息を吹き返し、米国でしか見られない独特な力強さがおおいに発揮されるだろう。ただし、NYダウやS&P500のV字回復は見込めない。
しかしながら5年から8年先、金融恐慌・世界恐慌が落ち着いた頃には、新たに多種多様な業種・産業・市場において、世界最先端の技術力を持つ企業がパーシャルな市場を爆発的に席捲する時代になっていると、私は考えている。
現在のマグニフィセント7ではなく、次世代のマグニフィセント7が、確実にかつ驚異的に台頭してくるのだ。
言うまでもなく現在のマグニフィセント7とは、アルファベット(グーグル)、アマゾン、アップル、マイクロソフト、メタ(旧フェイスブック)を総称したGAFAMにNVIDIAとテスラを加えた米国を代表する時価総額で世界のトップテンに入るビッグ・テック企業のことである。
世界中の誰もがまだマグニフィセント7という言葉すら知らなかった時に、それらの企業がそうであったように、次世代のマグニフィセント7として期待できる新たな企業群は、今はひそかに莫大なエネルギーを“蓄積”している段階にあるのだろう。
■次世代の「マグニフィセント7」の顔ぶれは
グレートリセットの後に来る2028年から2033年の米国産業、米国経済を支え、なおかつマグニフィセント7の投資収益を凌駕する次なるマグニフィセント7候補の顔ぶれはどのようなものなのか?
我々は現状から見極めていく必要がある。
大掴みに言えば、医療、金融、エネルギー、AI、半導体、自動運転、EV車を除く一部米国自動車、防衛産業、ヘルスケア、メタバース、クラウド、暗号資産、ロボットなどのセクターにおけるゲーム・チェンジャーであろう。
メガ・トレンドによって、全世界の人口の3分の1程度に及ぶ20億人から30億人に普及させていく身近なもの、必要不可欠なものをつくるイノベーション企業に的を絞っていく。
過去にそれらの条件を満たしてきた企業、そして将来的に満たしていく企業とは、どんな企業だろうか?
例えば、1990年代のパーソナル・コンピューターのブームはマイクロソフトから始まった。続く2000年代にはITインターネット・テクノロジーが発展し、新たな消費スタイルをアマゾンがつくった。そして2020年代にスマートなデザインのパソコンで爆発的人気を博し、一気に大衆化させたのがアップルで、スマートフォンは現代人の生活に欠かせないものとなった。
■AIとの「コラボ」「融合」に着目する
ここで重要なのは、現在このビッグ・ウェイブの初期の段階に位置している技術革命イノベーションこそAI(人工知能)であるということだ。肝に銘じておきたいのは、そのAIとの“コラボ”、AIとの“融合”から発展し昇華していくものこそが今後のビッグ・ビジネスにつながるであろう。
例えば、ChatGPTに関しては、たった数カ月で1億人がインストールしたが、これは我々が過去に経験したことがないほどの驚異的スピードであった。そして、これはまだ始まりにすぎず、今後さまざまな分野のビジネスチャンスへと裾野が広がっていく光景を目の当たりにすることだろう。
ここで考慮すべきことは、今後のAIとのコラボ、AIとの融合で発展していくことになるビジネスとしての“規模”である。
■アマゾンもアップルも「1ドル以下」の株だった
今後5~8年で、金額にしてグローバルベースで20兆~30兆ドル規模(約3000兆~5000兆円)。
このレベルに波及していく新しいビジネス、新産業、新技術が揃った市場が膨れ上がる時、今のマグニフィセント7などが足元にも及ばないクラスの企業が出現するのである。
そして、これらの企業群への個人ベースの投資金額については、ごく少額でもよいのだ。日本人の多くが年末に期待を込めて購入する“宝くじ”並みの予算で十分に買える株式もかなりあるはずだ。
なぜならアマゾン株もアップル株もスタート地点では、1株=1ドル以下にすぎなかったのだから。そして米国株は1株からでも購入できるという利点があるのだ。
「あの時1株でも買って持っていれば……」というセリフ、すなわち株価が爆発的に高騰した後に誰もが言うセリフを言わないためにも、今からこれらの新興の企業に注目しておくのも良いだろう。
■バフェットが「石油業界」に乗り換えた理由
まずは、エネルギー部門の石油市場に目を凝らしてみよう。
今、米国の投資家たちが熱い視線を送っているのはエネルギー部門で、石油業界の巨大な再編と変革のサイクルが始まろうとしている。
バークシャー・ハサウェイを率いるウォーレン・バフェットを筆頭に、著名投資家たちが石油関連企業に投資を始めているのはメディアでもよく知られている。同業界内の動きは風雲急を告げるがごとく、めまぐるしい。シェブロンはヘスを買収し、エクソン・モービル(ExxonMobil Corporation)はパイオニア・ナチュラル・リソーシズを買収し、コノコフィリップスはマラソン・オイルを買収した。
なぜ今、この分野に投資熱が沸いてきているのか?
答えは、“電力の驚異的需要”の到来に他ならない。
■ChatGPTが消費する「1日当たりの電力量」
前回のビッグ・サイクルは、2000年代前半だった。中国経済の急発展によって、稀に見る年間10~20%増とも言われた石油需要の爆発が起こった。
そして、今回は拡大するAI市場のブームだ。わずか数カ月でユーザー数が1億人を突破するほど、熱を帯びてきたChatGPTが消費する一日あたりの電力量は、米国の一般世帯の一日の電力消費の1万7000倍とも言われている。
そのため、このAIの急成長において欠かせないのが、莫大な電力エネルギーの調達である。
2024年9月、米国カーボンフリー発電企業のConstellation Energy(コンステレーション・エナジー)は、2019年に稼働停止していたペンシルバニア州のスリーマイル島原子力発電所1号機を再稼働させた。そしてその全発電量(835メガワット)を20年間にわたりマイクロソフトに供給するという前例がない規模の契約を締結したと発表した。
上記の再稼働と電力供給は2028年からスタートする見込みとなっている。
■イーロン・マスク「ボトル・ネックは電力エネルギー」
こうした展開を導くのは、AIが消費する電力量があまりにも莫大であるために、エネルギー需要が急速に高まってきたからである。そして、このスリーマイル島原子力発電所を保有するConstellation Energyの株価は高騰している。
停止していた原子力発電所を再稼働させてまでConstellation Energyがマイクロソフトに電力を供給する理由は、AIの電力需要に応えるために他ならない。AIには膨大な計算量が必要であり、それが莫大な電力の消費を発生させるからである。
マグニフィセント7の一角であるテスラCEOのイーロン・マスクは、AIについては半導体開発が鍵であるが、これからのボトル・ネックは電力エネルギーである、と認めている。
■「石油市場は供給過剰になる」の誤解
そしてこのエネルギーの爆発的需要拡大は、さらにEV化を進めている自動車業界、航空業界で増大し、さらに第二の中国需要に匹敵するインド経済からの需要も旺盛となってくる。
だからこそバフェットはP&G、ジョンソン&ジョンソン、アップルや、ハイテク企業株を巨額で売却し、石油業界(銘柄:オキシデンタル・ペトロリアム)に乗り換えて投資をしているのだ。
EIA(米国エネルギー情報局)は2025年に米国のエネルギー消費は、史上最高に達すると発表しており、このような流れがメガ・トレンドを形成していくのは明白である。
一方、OPEC(石油輸出機構)は、2025年末まで原油の減産を発表しており、IEAは2025年のグローバルベースの石油市場は2024年末には供給過剰を予測しているが、これはAIブームによる爆発的な電力需要がいまだ反映されていないからであろう。
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岩永 憲治(いわなが・けんじ)
IWAグローバル経済研究所 代表、為替トレーダー
熊本出身。日本陸上自衛隊に所属後、精鋭部隊であるレンジャーの養成課程に選抜される。
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(IWAグローバル経済研究所 代表、為替トレーダー 岩永 憲治)