長く健康でいるためにはどんなことに気を付ければいいか。脳神経外科医の松井孝嘉さんは「首に負担をかけてはいけない。
首の筋肉が固まると神経を圧迫し、全身に不調をもたらすと考えられる。たとえば、ローテーブルにノートパソコンを置いて仕事をするのはやめるべきだ」という――。(第2回)
※本稿は、松井孝嘉『不調の9割は「スマホ首」が原因』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■「首によい習慣」でみるみる不調が改善していく
頸筋病(首こり病)は、言わば長年にわたって「間違った首の使い方」をしてきたために起きる病気です。
[編集部註 頸筋病:「頸性神経筋症候群」の別称。首の筋肉の異常(首こり)が原因で、頭痛、めまい、吐き気、自律神経の乱れなど、様々な症状を引き起こす]
長時間うつむきっぱなしでいたり、スマホやパソコンをずっと使い続けていたり、首を無防備に冷やしてしまったり、首に強すぎる刺激を加えたり……。そういう「首に悪いこと」を習慣的に長年積み重ねてきたせいで首の筋肉が疲弊し、頸筋病の症状に悩まされるようになっていくわけです。
これは、乱れた食事や生活習慣を長年にわたって続けていると、いずれさまざまな「生活習慣病」に悩まされるようになっていくのとちょっと似ていますね。
では、いったいどうすればいいのでしょう。
いちばんシンプルな解決策は、「首に悪い習慣」をやめて、「首によい習慣」を身につけることです。
もちろん、頸筋病の症状を治していくには東京脳神経センターなどを受診して治療を始めるのがもっともおすすめではあるのですが、首の状態はある程度までなら生活習慣の改善によって上向かせていくことができます。
つまり、これまでの「間違った首の使い方」を改めて「正しい首の使い方」を実践して、「首によい生活習慣」を身につけていく。
そうすることによって、頸筋病を予防したり改善したりしていくことが可能なのです。
■頸筋病を予防する簡単セルフケア
頸筋病を予防したり、頸筋病の症状を深刻化させないようにしたりするためのセルフケアの方法を紹介していきます。
首のために自分でできることは、けっこういろいろあります。
どれも、いますぐ実践できる簡単なことばかり。きっと、みなさんのなかには“なんだ、こんなに簡単なことをするだけでよかったのか”と拍子抜けする方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、その「簡単なこと」を習慣として日々続けていけるかどうかで、ゆくゆくは大きな差がついてくるのです。
ぜひみなさんも、これから紹介するセルフケアを日々継続して、「首にやさしい生活」を送っていくようにしてください。そして、毎日自分でできるだけのことを行なって、頸筋病のリスクを減らしていくようにしましょう。
■【セルフケア1】スマホは15分ごとに30秒休憩
これまで繰り返し述べてきたように、近年頸筋病に悩まされている人が増えたのには、スマホの長時間使用が大きく影響しています。スマホだけでなく、パソコンやゲームもそうですが、首の筋肉にとっては、うつむきっぱなしで長い間画面に集中してしまうのがいちばんよくないわけですね。
では、この問題を解決するにはどうすればいいのか。
じつは、この問題を解く答えは意外に簡単。
15分ごとに30秒程度、首を休ませる時間をとれば、それでOKなのです。
筋肉という器官は、正しく休ませてさえいれば、こりも疲れもたまることなく、半永久的に使えるものです。首の筋肉の場合、いろいろと研究を重ねた結果、15分に一度、30秒程度の休憩を挟むのがベストであることが分かりました。
つまりこれは、「15分ごとに30秒の休憩」のルールさえ守っていれば、どれだけスマホやパソコンを使っていても構わないということ。
この「正しい使い方」さえ守っていれば、首の筋肉を疲弊させることなく、存分に操作を続けることができるわけですね。
■100均にもあるタイマーが効果的
もっとも、仕事や作業、SNSや動画視聴などをしていると、15分という時間はあっという間に過ぎてしまうものです。おそらく、「15分で休むつもりが、気がついたら1時間以上も経っていた」なんていうこともあるでしょう。
そこで私が開発したのが「ネックレストタイマー」(図表1)です。これは15分ごとにアラームが鳴って、「首の休ませ時」を知らせてくれるタイマー。このアラームを目安に首を休めていれば、どんなに長時間スマホを操作していても、どんなに長時間パソコン作業をしていても、首の筋肉は疲れ知らずでついてきてくれるはずです。
私も、本の原稿を書いたり、うつむき姿勢で作業をしたりするときは必ずネックレストタイマーを使用していて、その効果が大きいことをいつも実感しています。
なお、30秒間で行なう首の休ませ方については、本書の〈首こり改善セルフケア4〉で紹介する「ネック・リラクゼーション」を参考にしてください。
この「首を休ませるコツ」をつかめば、より効果的に首の筋肉をゆるめることができ、より健康的にスマホやパソコンとつき合っていけるようになるでしょう。
■【セルフケア2】「ローテーブルにノートパソコン」はNG
コロナ禍以降、自宅でノートパソコンを開いてリモートワークをする時間が増えた人も多いことでしょう。
ところで、在宅ワークをしているみなさんにお聞きしますが、どのような机やイスで仕事をされていますか?
いちばん首によくないのは、ローテーブルにノートパソコンを置いてソファに座り、背中を丸め、深くうつむいて仕事をするパターンです。こんな姿勢で作業をしていたら、首はもちろん、肩も腰もバキバキにこってしまいます。
つまり、ノートパソコンを使う場合は、低い位置に置いて作業をしてはダメで、高い机に置いたり台などを用いたりして、目線を高めに据えられるよう工夫して作業するほうがいいのです。そうすれば、うつむき角度を最小限にとどめて、首にかかる負担を少なくすることができます。
■「作業目線の高さ」が重要
また、パソコンによる仕事が多い人は、できれば「ノートパソコン」ではなく、「デスクトップパソコン」を使うほうがいいでしょう。
デスクトップであれば、画面が大きいですし、画面の高さを調節できるタイプのものもあります。目の高さに画面が来るようにして使えば、うつむかずともラクに作業をすることができるでしょう。
とにかく、在宅ワークでパソコンを使う機会が多い人は、「作業目線の高さ」に十分に気をつけてください。それと、自宅だからといって気をゆるませることなく、15分ごとに30秒の休憩を挟むことを肝に銘じて作業しましょう。
ちょっとしたことに思えるかもしれませんが、日々これらに注意しているだけでも「在宅ワークの首こりリスク」を大きく軽減することにつながるはずです。

■【セルフケア3】車の運転や調理時の“うつむき”にも注意
現代社会では、スマホ、パソコン、ゲームなどの他にも「長時間のうつむきリスク」があるシチュエーションが少なくありません。
たとえば、車の運転。長い時間前傾姿勢をとってハンドルを握っていると、首に疲れがたまりがちになります。運転の場合、「15分ごとに30秒の休憩をとる」というわけにはいかないかもしれませんが、赤信号で停車するたびに首を休ませたり、小まめに休憩をとったりして、首の緊張をとるようにしてください。
とくに長距離ドライブの際は、姿勢が前かがみにならないよう注意しつつ、サービスエリアや道の駅で休む回数を増やすなど、できるだけ首のことを気にかけて運転する心がけが必要でしょう。
また、イスに座っての勉強や読書、手芸、ジグソーパズル、模型づくりなども、夢中になるとついつい時間を忘れてうつむきっぱなしになりがちなので注意してください。さらに、料理や洗い物などの台所作業もうつむきに要注意。とりわけ、身長の高い人が低いシンクを使って料理や洗い物の作業をしていると、深くうつむくことになって首を疲れさせやすい傾向があります。
こういった「長時間のうつむきシチュエーション」に心当たりがある方は、やはり「15分ごとに30秒休憩ルール」を守って、首に疲れをためないよう心がけてください。
■スマホやパソコンだけではない、不調につながる動作
それと、生活のなかの細かい動作に目を向けると、入浴時、髪を洗うときに前かがみになって頭を低く垂れてシャンプーやコンディショナーをしている人は、たいへん首に負担がかかる姿勢なのでやめたほうがいいでしょう。
背すじを伸ばし、頭を上げてシャンプーをしたとしても別に大きな問題はないはずです。そして、お風呂を出たら、首を冷やすのを避けるため、できるだけ早く髪を乾かすことも習慣づけましょう。

あと、歩くときの姿勢も、うつむきや前かがみで歩くのはNG。うつむき姿勢で長く歩いていると、歩みを進めるたびに頭の重みが首にのしかかってくることになります。だから、歩く際は常にしっかり頭を上げてあごを引き、背すじを伸ばして歩くようにしてください。背骨のまっすぐ上に頭が乗っているような感覚で歩くのがおすすめです。
なお、首の疲れには、鞄の持ち方も影響します。重いショルダーバッグをいつも同じ側にかけていたり、重い手提げ鞄をいつも同じ側で持っていたりすると、その側の首や肩の筋肉に疲労がたまりやすいのです。
重い鞄を持つ際は、適宜、左右を持ちかえたりかけかえたりして、バランスよく持つようにしましょう。重い荷物は手で持つよりも、カートを使ったほうが首や肩の筋肉を休ませることができます。

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松井 孝嘉(まつい・たかよし)

医学博士、脳神経外科医

1967年東京大学医学部卒業。アルバート・アインシュタイン医科大学で脳腫瘍研究ののちジョージタウン大学で世界初の全身用CTの開発に従事。帰国後、大阪医科大学助教授、帝京大学客員教授などを経て、現在松井病院院長・東京脳神経センター理事長。「頚性神経筋症候群」を発見し、医学研究を続ける。
スマホ首が自律神経を壊す』『自律神経が整う 上を向くだけ健康法』など著書多数。

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(医学博士、脳神経外科医 松井 孝嘉)
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