睡眠の質を高める方法は何か。医師の保坂隆さんは「日本人はとくに白を好む傾向が強く、ホテルや旅館の寝具はほとんど白で統一されているが、白い寝具で寝た場合、ほかの色と比べて浅い睡眠になるケースが多いとわかっている。
※本稿は、保坂隆『精神科医が教える 心と体をゆっくり休ませる方法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■不眠に悩む人に足りていないちょっとした活動の種類
睡眠の質を高め、心身を休めるには適度な運動が重要です。
昼間、しっかりと働き、体を動かすと、体温が十分に上がり、やがてそれが下がってくるころ、つまり夜になると眠くなってきます。私たち人間の体は、こうしたリズムを刻んでいるのです。
逆に、昼間、ごろごろしてあまり体を動かさないでいると、体温の上昇、下降といった生体のリズムが狂い、体内時計もずれてしまいます。当然、夜になっても、眠るというスイッチが入りません。現代人には、こういった不眠が増えているようです。
そのうえ、オフィスでは体を動かさず、パソコンの画面などと向き合ったままのワークが多いでしょう。このような場合、精神的疲労と肉体的疲労のバランスが大きく崩れてしまっています。
こうして、引き起こされるのも不眠なのです。精神的疲労ばかりが大きいと、ベッドに入ってからも、疲労の原因となったストレスから脳が解放されずに、むしろ目がさえてしまうからです。
体を動かすといっても、とくに気張ってスポーツジムに通う必要はありません。通勤時に1駅分歩いてみるとか、昼休みに軽いストレッチ体操をするだけでも、効果は期待できます。
普段使わない筋肉を動かすようにすると、体は思った以上に正直で、うまく反応してくれるのです。
ある30代の女性のケースですが、ダイエットで、会社の2駅前で地下鉄を降りて歩くことにしました。すると、ダイエットに成功しただけでなく、それまで寝つきも悪かったのに、自然にぐっすり眠ることができるようになったのです。
気がつくと、頭痛も肩こりも解消していたとか。不眠に悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。
ただ体を休めても、精神的疲労はとれない
■体を温めてから眠れば、寝つきがよくなる
あなたは、お風呂の温度はどれくらいが適温だと思いますか。「熱いお湯のほうがなんとなく疲れがとれる気がする」というのは錯覚です。
熱いお湯で、体がほてると、安眠から遠ざかってしまいます。少しぬるいと思える38~40度くらいのお湯に、ゆったりと20~25分ほどの半身浴が心地よい眠りに誘います。
体の芯から穏やかに温まる入浴法をやると、体を緊張状態にする交感神経の働きが弱まり、眠気を誘う副交感神経が優位に働くようになります。
また、寝つきをよくするためには体温の変化も重要です。人間の体温は、目覚める直前が最低で、それから徐々に上昇し、眠る前が一番高くなります。そして、睡眠中にだんだん下がり、やがて目覚めを迎えるというサイクルになっています。
一番高くなった体温が下降を始めるとき、眠気を感じるのです。ですから、眠る前にほどよく体を温めてやると、スーッと入眠できます。
■目が疲れて眠れないときは、湯湿布が有効
休日でもない限り、30分もお風呂に入っている時間はないとか、いったんベッドに入ったけれどなかなか寝つけないというようなときには、簡単にできる「腕浴」をおすすめします。
洗面台などに45度くらいの少々熱めのお湯を張り、ひじから10センチくらい上までを、そのお湯につけます。
時間は、片腕3分が目安。イスに腰かけてやると、さらにリラックスできるでしょう。「腕浴」を始めて1分ほどで、じんわり上半身が温まってくるのがわかるはずです。
肩まわりの血液の循環もよくなり、緊張していた神経もほぐれます。出た汗をふいて、タイミングを逃さず、ベッドに横になりましょう。
また、目が疲れて眠れないときは、湯湿布が有効です。熱いお湯にタオルをつけ、固く絞り、それを目にあてて、そのまま2~3分。
タオルが冷めたら、またお湯につけ、同じことを繰り返します。ホットタオルは、目だけでなく、肩や首の後ろにあてても気持ちよく、効果を感じるでしょう。
体温が下がるタイミングを逃さずに、眠ろう
■夜中には、あれこれ考えごとをしない
休むのが上手な人はオン・オフのメリハリが利いているものです。それは午前、午後、夜の過ごし方にしてもそうです。
午前中に1時間でこなす仕事の量は、午後の3時間の仕事の量に匹敵するとか、午前中に脳の働きがいいことは、誰もが薄々気がついているでしょう。さらに、午前中は考え方も前向きになりやすいようです。
一方で、夜中に考えごとをすると、どうしても後ろ向きの考え方になります。とくに失敗やミスをしたときはこの傾向が強いので、夜中にあれこれ悩んでも、挽回策など思いつきません。ドツボにはまるだけです。なので、休むのが上手な人は夜に考えごとをしません。
たとえば「夜に書いた手紙は出してはいけない」といわれます。たしかに、夜中に書いた手紙を翌日の朝に見直すと、「どうしてこんなに悲観的だったのか」と驚きます。夜はつまらない考えごとなどせずに、さっさと寝てしまうに限ります。
どうしても夜に考えごとをしなければならないときは、部屋をできるだけ明るくしてください。
脳を活性化するセロトニンという物質は、明るくなければ分泌されません。セロトニンには前向きな考え方をうながす働きがあり、夜に考えると後ろ向きになりやすいというのも、セロトニンの分泌量が減ることと関係があるのです。そこで、照明を明るくして、脳がセロトニンを分泌しやすくしてあげましょう。
またせっかくですので、楽しいこと、ワクワクすることをイメージしたりすると、いいでしょう。「休暇で訪れたフランスの景色が素晴らしかった」「デートではじめて手をつないだ」など、過去のよかった出来事などを思い出すのもおすすめです。
大事な考えごとや意思決定は、翌朝に回そう
■熟睡できる寝具の色は…
家で使っている寝具はどんな色でしょうか。ふとんやシーツ、枕など、清潔な印象なので白を使っているという人も多いと思います。
日本人はとくに白を好む傾向が強く、ホテルや旅館の寝具はほとんど白で統一され、クリーンな印象を出しています。
ところが、研究によると、白い寝具で寝た場合、ほかの色と比べて浅い睡眠になるケースが多いそうです。
「緑」と「白」の寝具で眠ったときの睡眠の質を調べてみると、白い寝具のほうが浅い睡眠が20パーセントも多くなることがわかっています。これは見過ごすわけにはいきません。
いったい安眠のためには、どんな色の寝具がいいのでしょうか。
イギリスのトラベロッジ社というホテルチェーンが、2000軒の家庭を対象にして「寝具の色と睡眠の関係」を調査したデータがあります。
それによると「ブルー」の寝具で眠ったときに、質のいい睡眠時間が最も長くなり、反対に、質のいい睡眠時間が最も短かった色は「紫」で、その差は約2時間もあったそうです。
■よく眠れない3つの色
また、寝具の色は目覚めたときの気分にも影響して、ブルーの寝具を使った場合、半数の人が幸福感やポジティブな気分を感じながら目覚めたそうです。 逆に、紫色の寝具で眠っていた人は、目覚めたときに疲労感があったりするといいます。
この調査では、睡眠にいい影響を与える色として、ブルー、黄、緑、シルバー、オレンジが挙げられました。よく眠れない色としては、紫、茶、グレーが挙げられています。
眠りが浅い人、目覚めがよくない人には参考になるのではないでしょうか。
自分がよく眠れる色を選んでみよう
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保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1952年山梨県生まれ。
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(精神科医 保坂 隆)
『寝具の色と睡眠の関係』を調査したデータでは、質のいい睡眠時間が最も短かった色は『紫』だった」という――。
※本稿は、保坂隆『精神科医が教える 心と体をゆっくり休ませる方法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■不眠に悩む人に足りていないちょっとした活動の種類
睡眠の質を高め、心身を休めるには適度な運動が重要です。
昼間、しっかりと働き、体を動かすと、体温が十分に上がり、やがてそれが下がってくるころ、つまり夜になると眠くなってきます。私たち人間の体は、こうしたリズムを刻んでいるのです。
逆に、昼間、ごろごろしてあまり体を動かさないでいると、体温の上昇、下降といった生体のリズムが狂い、体内時計もずれてしまいます。当然、夜になっても、眠るというスイッチが入りません。現代人には、こういった不眠が増えているようです。
そのうえ、オフィスでは体を動かさず、パソコンの画面などと向き合ったままのワークが多いでしょう。このような場合、精神的疲労と肉体的疲労のバランスが大きく崩れてしまっています。
こうして、引き起こされるのも不眠なのです。精神的疲労ばかりが大きいと、ベッドに入ってからも、疲労の原因となったストレスから脳が解放されずに、むしろ目がさえてしまうからです。
体を動かすといっても、とくに気張ってスポーツジムに通う必要はありません。通勤時に1駅分歩いてみるとか、昼休みに軽いストレッチ体操をするだけでも、効果は期待できます。
普段使わない筋肉を動かすようにすると、体は思った以上に正直で、うまく反応してくれるのです。
ある30代の女性のケースですが、ダイエットで、会社の2駅前で地下鉄を降りて歩くことにしました。すると、ダイエットに成功しただけでなく、それまで寝つきも悪かったのに、自然にぐっすり眠ることができるようになったのです。
気がつくと、頭痛も肩こりも解消していたとか。不眠に悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。
ただ体を休めても、精神的疲労はとれない
■体を温めてから眠れば、寝つきがよくなる
あなたは、お風呂の温度はどれくらいが適温だと思いますか。「熱いお湯のほうがなんとなく疲れがとれる気がする」というのは錯覚です。
熱いお湯で、体がほてると、安眠から遠ざかってしまいます。少しぬるいと思える38~40度くらいのお湯に、ゆったりと20~25分ほどの半身浴が心地よい眠りに誘います。
体の芯から穏やかに温まる入浴法をやると、体を緊張状態にする交感神経の働きが弱まり、眠気を誘う副交感神経が優位に働くようになります。
また、寝つきをよくするためには体温の変化も重要です。人間の体温は、目覚める直前が最低で、それから徐々に上昇し、眠る前が一番高くなります。そして、睡眠中にだんだん下がり、やがて目覚めを迎えるというサイクルになっています。
一番高くなった体温が下降を始めるとき、眠気を感じるのです。ですから、眠る前にほどよく体を温めてやると、スーッと入眠できます。
■目が疲れて眠れないときは、湯湿布が有効
休日でもない限り、30分もお風呂に入っている時間はないとか、いったんベッドに入ったけれどなかなか寝つけないというようなときには、簡単にできる「腕浴」をおすすめします。
洗面台などに45度くらいの少々熱めのお湯を張り、ひじから10センチくらい上までを、そのお湯につけます。
時間は、片腕3分が目安。イスに腰かけてやると、さらにリラックスできるでしょう。「腕浴」を始めて1分ほどで、じんわり上半身が温まってくるのがわかるはずです。
肩まわりの血液の循環もよくなり、緊張していた神経もほぐれます。出た汗をふいて、タイミングを逃さず、ベッドに横になりましょう。
また、目が疲れて眠れないときは、湯湿布が有効です。熱いお湯にタオルをつけ、固く絞り、それを目にあてて、そのまま2~3分。
タオルが冷めたら、またお湯につけ、同じことを繰り返します。ホットタオルは、目だけでなく、肩や首の後ろにあてても気持ちよく、効果を感じるでしょう。
体温が下がるタイミングを逃さずに、眠ろう
■夜中には、あれこれ考えごとをしない
休むのが上手な人はオン・オフのメリハリが利いているものです。それは午前、午後、夜の過ごし方にしてもそうです。
午前中に1時間でこなす仕事の量は、午後の3時間の仕事の量に匹敵するとか、午前中に脳の働きがいいことは、誰もが薄々気がついているでしょう。さらに、午前中は考え方も前向きになりやすいようです。
一方で、夜中に考えごとをすると、どうしても後ろ向きの考え方になります。とくに失敗やミスをしたときはこの傾向が強いので、夜中にあれこれ悩んでも、挽回策など思いつきません。ドツボにはまるだけです。なので、休むのが上手な人は夜に考えごとをしません。
たとえば「夜に書いた手紙は出してはいけない」といわれます。たしかに、夜中に書いた手紙を翌日の朝に見直すと、「どうしてこんなに悲観的だったのか」と驚きます。夜はつまらない考えごとなどせずに、さっさと寝てしまうに限ります。
どうしても夜に考えごとをしなければならないときは、部屋をできるだけ明るくしてください。
脳を活性化するセロトニンという物質は、明るくなければ分泌されません。セロトニンには前向きな考え方をうながす働きがあり、夜に考えると後ろ向きになりやすいというのも、セロトニンの分泌量が減ることと関係があるのです。そこで、照明を明るくして、脳がセロトニンを分泌しやすくしてあげましょう。
またせっかくですので、楽しいこと、ワクワクすることをイメージしたりすると、いいでしょう。「休暇で訪れたフランスの景色が素晴らしかった」「デートではじめて手をつないだ」など、過去のよかった出来事などを思い出すのもおすすめです。
大事な考えごとや意思決定は、翌朝に回そう
■熟睡できる寝具の色は…
家で使っている寝具はどんな色でしょうか。ふとんやシーツ、枕など、清潔な印象なので白を使っているという人も多いと思います。
日本人はとくに白を好む傾向が強く、ホテルや旅館の寝具はほとんど白で統一され、クリーンな印象を出しています。
ところが、研究によると、白い寝具で寝た場合、ほかの色と比べて浅い睡眠になるケースが多いそうです。
「緑」と「白」の寝具で眠ったときの睡眠の質を調べてみると、白い寝具のほうが浅い睡眠が20パーセントも多くなることがわかっています。これは見過ごすわけにはいきません。
いったい安眠のためには、どんな色の寝具がいいのでしょうか。
イギリスのトラベロッジ社というホテルチェーンが、2000軒の家庭を対象にして「寝具の色と睡眠の関係」を調査したデータがあります。
それによると「ブルー」の寝具で眠ったときに、質のいい睡眠時間が最も長くなり、反対に、質のいい睡眠時間が最も短かった色は「紫」で、その差は約2時間もあったそうです。
■よく眠れない3つの色
また、寝具の色は目覚めたときの気分にも影響して、ブルーの寝具を使った場合、半数の人が幸福感やポジティブな気分を感じながら目覚めたそうです。 逆に、紫色の寝具で眠っていた人は、目覚めたときに疲労感があったりするといいます。
この調査では、睡眠にいい影響を与える色として、ブルー、黄、緑、シルバー、オレンジが挙げられました。よく眠れない色としては、紫、茶、グレーが挙げられています。
眠りが浅い人、目覚めがよくない人には参考になるのではないでしょうか。
自分がよく眠れる色を選んでみよう
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保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1952年山梨県生まれ。
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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(精神科医 保坂 隆)
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