夏休みの間、子供の勉強はどうするのがいいのか。家庭教師の齊藤美琴さんは「夏期講習に参加する子供を持つ家庭では、復習が追いつかないと悩むことが多い。
夏以降に成績を伸ばすには、テキストをすべてこなそうとしてはいけない」という――。
■夏休みの間にやっておくべきこと
夏期講習の時期になりましたね。「最後の夏は天王山」などと勇ましい気持ちで、夏季講習に臨む小学6年生のご家庭も多いのではないでしょうか。中には5年生でも指導日が20日以上ある塾もあり、夏休みの半分以上が塾通いというなかなかハードな生活になるご家庭もありそうです。
算数や国語は通常の授業だと1週間に1度程度なのに、夏期講習では毎日のようにあります。講習中の悩みとしてよく聞くのが、「これまでの家庭学習のペースだとどうやっても復習が追いつかない」ということ。
次の授業までの家庭学習の時間は短いのに、通常と同じ分量の学習をしないといけないので、途方に暮れてしまいますよね。がむしゃらに頑張って力尽きることのないよう、学習のポイントを伝えるようにして、気持ちを楽にしてほしいと思っています。
通常時と夏期講習期間の一番の違いは「塾に通う頻度」。「次は気をつけようね!」という場合の「次」が、翌日や翌々日にあるわけですから、1週間後だと忘れてしまうような意識付けを定着させやすい期間です。
たとえば国語で、「素材文の中の『接続詞』と『筆者の主張』が出てきたらマークする習慣をつけたい」というときは、夏休みの期間を使って声掛けを繰り返すと習慣化しやすいでしょう。
■「テキストのすべてをこなそう」と思ってはいけない
毎回の授業終わりに必ずやってほしいことは、確認テストの復習です。

漢字や計算、理社を含む知識問題など小さな確認テストが毎授業ある塾も多いと思います。このような確認テストの直しはその日のうちに行うといいですね。講習で疲れて帰ってきても、確認テストの間違い直しはやるというように。
間違い直しをためてしまうと、後半にしわ寄せがきます。「できないところをできるようにする」が受験勉強の基本なので、勉強の効率が上がります。
前述のように「確認テストの解き直しはその日のうちに」が鉄則ですが、そこで見つけた学習の穴や苦手単元をすぐに解決しようと思うと途端に復習が大変になります。たとえば「四則計算の基本をもう一度やり直したほうがいい」「比や割合がわかっていない」と気が付いた場合など。
子供たちは夏休みでも、親は仕事や家事などがあります。「早く寝たいのに終わらない」「こんなにサポートしているのに子供ができない」といった気持ちが毎日続くのはとてもストレスですよね。無理をせずに、「見つかった苦手分野はまとめて、塾も親も休みの日にやろう」などと割り切れるとストレスが減ります。
またテキストのすべてをこなそうと思わないことも大切です。
先生たちもクラス毎にやるべきものが違うことを意識した上で、授業を進めています。
テキストは同じであっても、クラスによって授業で扱う問題が違うということはよくあること。
授業で扱う問題がまず押さえてほしい内容なので、授業で扱わなかった問題には手を出さず、授業で扱った問題のうち、理解不足なものを中心に復習するようにしましょう。
■シンプルだけれど「超有効」なルール
子供のテキストやノートを見るだけでは、授業で扱った問題の理解度はなかなかわからないものです。「授業中に○がもらえなかった」という問題も、時間が足らなかったのか、やり方を忘れていたのか、そもそも理解していないからやり方を解説されてもわからなかったのか……など状況はさまざまです。
問題ごとに「これは何でできなかったの?」といちいちヒアリングしていては時間がいくらあっても足りませんから「授業中に扱ったけれど、解説を聞いてもよくわからなかったものには、必ず印を付ける」というようなルールを徹底させるといいです。
星やハテナのマーク、付箋を貼るなど親子で約束事を作って、やってきてもらいましょう。毎日押し寄せる課題の山の仕分けも効率よくすすむはずです。
夏期講習の肝は子供が授業を集中して聞くことにあります。夏期講習期間中に夜遅くまで復習をやってしまい、寝不足の状態で講習に行くなんてもってのほかです。気温が高く夏バテしやすくなっていますから、睡眠時間と栄養をしっかり取らせて気持ちよく講習に送り出してくださいね。
■慶應に合格した子がやっていたこと
実際に、こんな生徒がいました。
塾に通うこと自体にはすっかり慣れた5年生のAくん。
5年生の夏期講習の日数に怯んでいましたが、“印付け”を意識して夏期講習を受けたことで、夏期講習期間に、自分がわかっていることとできることの違いがわかるようになりました。
授業中にわからなかった問題には必ず「印」を付けるという習慣は6年生になっても続き、勉強時間が無駄に長くなることなく、志望校の対策にたっぷりと時間が使えるように。効率的に学び、良いコンディションで本番を迎えられました(慶應普通部、中等部合格)。
いくら家で口酸っぱく言っても、塾に行った時には忘れてしまうのが子供です。ノートを取らせる塾だったら、例えば意識してほしいことを書いた付箋を、その日使うページのはじめに貼るなど工夫が大事です。
また塾がない日の自習も親の悩みの種のひとつ。
親としては受験生の自覚を持って自主的に机に向かってほしいと思っていても、そのようにいかないケースがほとんどです。
親子喧嘩としてよく聞くのが、親が仕事を終えて帰ってみると、「(何をやればいいかわかんなかったから)やらなかった」と子供が一日中遊んでしまっていたケース。やらなければいけないことぐらいわかるでしょう! と声を荒らげたくなりますが、まだ小学生なので自らやることを考えて机に向かうのは難しい年齢です。
■塾がない日のスケジュール
塾がない平日はスケジュールを大まかに作っておくいいでしょう。例えば以下のように。
午前中:学校の宿題、計算・漢字ドリルなど毎日のルーティンになっているものに取り組む
午後:宿題や、苦手分野の克服のための演習時間に充てる

塾の自習室が利用できる場合は、環境を変えて午後は自習室を利用するのもよいでしょう。
自習室がない塾に通っている場合は、夏の間だけ個別指導の授業を取るなどして苦手分野の克服に充てるのも一つの方法です。個別指導塾によっては、受講生は授業のない日も自習室が使えるところもあります。
おおまかなスケジュールを立てた上で、親がいない時間に、子供に課題をやらせるにはどうしたらいいのか。これは、各家庭で合う方法を見つけていくしかありませんが、次ページではこれまで私がサポートしたご家庭が、実際に行っていた対応をお伝えします。
■親がいなくても子供が机に向かう4つの技
1 「やることBOX」を午前午後に分けて用意
やるべき教材に付箋をつけて入れておく。その日にやってほしい課題をファイルケースに入れ、勉強スペースに置いておく。やる時間や順番は子供が決める
2 学校や塾と同じように、親が「時間割」を作り貼っておく
その日の課題を何時にやるのか、時間割を親が作り、見える場所に貼る。子供が確認しながら課題に取り組む
3 子供の携帯電話にアラームをセットし、定期的に何をやったかを連絡をとる
例えば11時と13時、15時などと時間を決め、その時間になったら親子で電話やLINEで連絡を取り合い、やった課題を確認する
4 子供に同意をとった上でウェブカメラを設置し、親が勤務先などで見守る
簡易ウェブカメラを勉強スペースに付けておき、子供の様子を勤務先から親がチェックできるようにする
子供は時間の感覚が大人よりも未熟です。そのため親がこのくらいはできてほしいということができません。
1や2のように、親が課題の量を設定する場合は、親の希望ではなく、その子の性格を踏まえて、実際どの程度学習を進められるかを考えて、決めてほしいと思います。また、タイマーや時計を子供の見えるところに置くなどして、時間を意識させる環境づくりをしてほしいと思います。
毎日のことなので、本人が納得していない方法で管理しようとすればストレスが溜まりますよね。
4のウェブカメラを設置する方法などは特に“本人の納得感”が必要です。大事なのは、可能な限り、当事者である子供と一緒に相談をして決めることです。
■子供との「交換日記」が有効的
4年生のBくんのご家庭は、お母様は、その日やることを朝に指示しているつもりなのに帰ってきたら何も終わっていないということに悩まれていました。
本人からは「どれやればいいのかわからなくて、時間が足りなくなった」という返事がくると。よくよく聞いてみると、前回の続きがどこからかわからなくなっていたり、ひとつの課題に時間をかけすぎていたりということがあったようです。
子どもに指示を残すときは、「目安は○○分。わからないところに赤い付箋をつけて次に行くこと」「今日はこの付箋のページまでやること。帰ってきたら口頭チェックするよ」など、具体的すぎるくらいの指示と時間の目安を記していくのが良さそうです。
共働きで自習時間が長いご家庭でしたが、やりとりを1冊のノートに残して、交換日記のようにすることで1人勉強の時間もうまく使えるようになりました。
その結果、できない問題を繰り返す回数が増え、練習量が大切になる算数と理科の成績が上がってきています(現在指導中)。
■リフレッシュに最適なスポット
受験生とはいえ、全く休みなく勉強しなくてはならないわけではありません。勉強のやり方とともに考えてほしいのはリフレッシュ時間についてです。
夏期講習が休みの時期にはリフレッシュの時間をつくってほしいと思います。6年生でも休んでいいの? と聞かれますが、もちろんOK。
例えば、公共交通機関を使っていける映画館、博物館や美術館など、建物の中の涼しい施設を利用しての気分転換はどうでしょうか。海やプールなど夏らしい遊びも良いですが、夏はどこに出かけても暑く、体力を消耗します。遠出をして渋滞などに巻き込まれたりすると、さらに疲れてしまいますよね。
ポイントはなにかを学びに行くぞ! という勉強モードにならず、純粋に楽しんだりリラックスしたりすること。受験生は目を酷使しています。視覚を使うことから離れて、生の音の世界に浸ることができるコンサートもおすすめです。終わる時間も決まっていますから、スケジュールさえ合えば6年生でも取り入れやすいでしょう。
ちなみに……わたしの小学校時代は、サピックスの6年生の夏期講習の合間(そこしか休みがなかったのに!)に、友人と他塾の受験合宿に参加しました。合宿最終日は新宿で解散したあとに、そのままサピックスの夏期講習に遅刻して参加しました。かなりのハードスケジュールでした。勉強漬けでかわいそう、と思う方もいるエピソードかもしれませんが、私自身は楽しかったし、友人と秘密の特訓をしてきたような気になって、その後の夏期講習にモチベーション高く臨めました。
リフレッシュ方法はお子さんによって異なります。お子さんを交えて話し合い、ストレスを上手に解消できる過ごし方を見つけてくださいね。

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齊藤 美琴(さいとう・みこと)

幼・小・中学受験家庭教師

「12歳までの可能性を広げる」をモットーに、受験との向き合い方、成績の伸び悩み、保護者の関わり方など、多様な受験相談に対して家庭の力を引き出すコーチングを行う。SAPIXの個別指導部門プリバートで国語科専任として指導にあたるなど、中学受験指導の実績多数。JAC幼児教育研究所(四谷教室)での講師を経てフリーランスとして独立。自身も黎明期のSAPIX生として中学受験を経験し、慶應義塾中等部へ進学。慶應義塾総合政策学部、法学部を卒業。

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(幼・小・中学受験家庭教師 齊藤 美琴)
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