過疎地域への出店を強化するローソンが、北海道稚内市に続き、8月には約60キロ離れた人口約3200人の浜頓別町へ出店する。渡辺広明さんが現地を取材してみると、そこには過疎地域ならではの課題もあった――。
(後編/全2回)
■人口3200人の町にもローソンが出店
前編から続く)
日本最北端の北海道稚内市から車で約1時間半。オホーツク海に面した漁業と酪農が盛んな人口約3200人の町・浜頓別町では、町内初のローソンの8月オープンを目指して店舗の建設工事が着々と進んでいた。
場所は浜頓別町役場から目と鼻の先。町内に2軒ある北海道のローカルコンビニ「セイコーマート」のうち1軒のすぐ近くで、「役場から最も近いコンビニ」となる。ある女性は「やってくるのが待ちきれない」とオープンを心待ちにしている様子。オープンすれば、町役場の職員が昼食を買いに訪れるのは想像に難くない。
ローソンは7月にも、浜頓別町からさらに30キロ南の枝幸町(人口約7500人)へ初めて進出。
北海道には、人口が少なく、セコマのみが出店しているエリアが複数あり、これまではセコマの独壇場となっていた。いよいよ本格的にローソンが出店し、人口が少ないエリアでも共存・競争が始まることになる。
浜頓別、枝幸の2店舗は稚内市のローソンとは配送ルートが別であるというから、この2店舗の売り上げ動向によっては今後さらに出店を増やしてコストを下げに来ることも十分考えられる。
道内のローソンを統括するローソン北海道カンパニーの鷲頭裕子プレジデントは「売り上げ、収益が出るのであれば、エリアに限らず出店できる環境は整っている」と自信をのぞかせた。
■コンビニの売り上げは立地で決まる
コンビニの売り上げの7~8割は立地で決まると言われている。
そう考えると、人口が少ないエリアでは先に出店して立地を押さえられれば、その地域の売り上げを独占できるだけでなく、他の大手コンビニの出店をプロテクトできる。前編で触れた稚内市へのローソン出店の成功は、全国の人口過疎エリアの指針となり得る。
都市部では日本全体の人口減によって、すでに各コンビニの過剰出店といわれる状態が続いており、新店舗の出店が年々難しくなっている。人口過疎エリアでの出店は国内における収益を上げられる桃源郷かもしれない。
ローソンが進出できたからといって、同じコンビニ大手のセブン‐イレブンやファミリーマートが北海道の過疎地域へ「後追い」できるかというと、決して容易ではない。今回のローソンは、前編で触れたように、配送回数のこだわりを捨てたことに加え、店舗で出来立ての中食を調理・提供できる「まちかど厨房」の存在が大きかった。
コンビニ店長出身の筆者はセルフレジが導入される前の「まちかど厨房」について、「クソ忙しい現場にさらに負担を強いる愚策だ」と反対の立場だった。ところが、大手コンビニの中でいち早く店内調理のノウハウを構築したことが、今回の稚内を含む道北エリアへの出店につながるとは思ってもいなかった。
セブン、ファミマは店内調理のできる店舗の展開をしていないため物流が止まった時のリスクが高いことや、人口数千人のエリアでの収益性などを考慮すると、同エリアへのすぐの出店は難しいと思われる。
■人手不足は都市部よりもさらに深刻
しかしながら過疎部の出店には当然課題もある。
稚内市の2店舗を含む道内10店舗でローソンをFC展開する浅見学オーナー(46)の頭を最も悩ませるのが、パート・アルバイトの確保だ。
「稚内市には大学が一つありますが、大学に進学するほとんどの高校生は卒業後、札幌や関東など、市外に出て行ってしまいます。
そのため、都市部の店舗と比べて人手の確保がとても難しいのです」
現在の北海道の最低時給は1010円。都市部のコンビニのパート・アルバイトの時給は、その都道府県の最低賃金にプラス10~20円上乗せした金額が一般的だ。ところが、浅見さんのローソンではそれ以上の金額を上乗せをして募集をかけている。人の集まりにくい深夜・早朝の時間帯には更に上乗せしているが、余裕を持った人繰りができるほど人は集まらないという。
「店舗を出せば出すだけ人手は必要になります。稚内市でもコンビニそのものへの潜在需要はまだまだあるかもしれませんが、人手の面で限界は感じることはありますね」
フランチャイズで複数店舗を経営する浅見さんの場合、どうしても人手の手配が付かないと、都市部の店舗で働く社員に泊まり込みで応援に来てもらうという。
だが、近年のインバウンド需要で稚内市でもホテル代は高騰。筆者が取材で訪れた際も、普通のビジネスホテルの素泊まりで1泊1万5000円を超えた。まさに、人件費やそれに伴う経費の膨張は過疎部のコンビニ経営にとって死活問題なのだ。
■カギを握る「セルフレジの進化」
その悩みを解決するかもしれないのが、ローソンが三菱商事、KDDIと合同で進めている「次世代型コンビニ」だ。
6月23日、ローソンは東京都港区の商業施設「高輪ゲートウェイシティ」に「Real×Tech LAWSON」と銘打った未来型コンビニの1号店をオープンさせた。
未来型コンビニでは、AIカメラによってお客一人ひとりに合った商品をおすすめするデジタルサイネージや、飲料を自動で在庫棚から売り場棚に補充できるロボット、機械に不慣れな高齢者にもやさしい、セルフレジを遠隔で支援する3Dディスプレイなどが導入され、効率化、省人化を進めるローソンの本気度が伺えた。

■当時は「酒・タバコ」の年齢確認ができなかった
中でも、今後のローソンの過疎地への積極出店を支える本家本丸はセルフレジの進化にあるといえよう。
実は、ローソンは2019年8月から半年間、横浜市磯子区の店舗で、深夜0~5時限定で無人化の実験を行ったことがある。入店はローソンアプリのQRコードか店頭の入店カード、顔認証カメラによる撮影の3通りで管理し、決済は一律でセルフレジという対応だった。
だが、無人化には大きな落とし穴があった。
コンビニは年齢認証の必要な酒・タバコの売り上げが約3割を占めている。磯子区での実験の段階では、深夜にニーズの多い年齢確認への対応がまだできていなかったため、これらを販売することができず、結局無人化そのものが次にはつながらなかったのだ。
だが、ローソンはあきらめなかった。6年越しのリアル×テックコンビニでは、セルフレジで酒・タバコを選ぶと、店外のスタッフが3Dアバターを操作して、遠隔で年齢確認を実施する。これによって、深夜の貴重な売り上げを逃すことなく店を開け続けることができる。
稚内でこのようなハイテク設備が導入されるのも時間の問題で、稚内の店舗ではレジ3台のうち1台を常設的なセルフレジにしている。
実際、取材中もお年を召した方がセルフレジを器用に操作しお買い物をされていた。
人口過疎エリアではこのように、夜は無人対応、昼はなるべくお客さまにセルフレジを使ってもらう対応を取れれば、ワンオペレーションでの運営が可能になっていき、人手不足も解決に導くことは可能だ。

■自治体、個人スーパーから出店依頼が舞い込む
過疎地への出店を始めたローソンには現在、地方自治体や個人経営の商店の経営者から、出店依頼や加盟の相談が寄せられているという。
筆者がコンビニ店長を務めていた約25年前もコンビニ加盟の相談は全国から寄せられていたが、当時は今よりも厳格な「1日3回配送」などが定められていたため、特に地方部では店舗を増やすことができなかった。
「札幌など都市部のコンビニと違い、山間部のコンビニは最初から買い物カゴを2つ持って入店されるような、いわゆるスーパー的な使い方をしていただいています。そのため、個人経営のスーパーをされている方から『今のままじゃ苦しいし、続けられないかもしれないから話を聞きたい』とご相談をいただいています」(鷲頭プレジデント)
■過度な競争ではなく、高め合って共存を
大手コンビニの進出は「買い物困難地域」といわれるエリアにとっては悲願だが、問題は進出だけでなく、いかに「生活インフラ」として持続可能な店舗運営を行っていくかだ。
また、買い物困難地域では競争の激化はあまり好ましい現象とはいえない。「大型ショッピングモールが進出して地元商店街が全滅」のような結末は目も当てられない。
「正直、セイコーマートさんに対して対抗意識は持っていません。お互い強み、強みでないところがあるので、都度お客様に選択していただけるといいと思っています」(鷲頭プレジデント)
日本には北海道以外にも、「僻地」と言われる買い物困難地域が多数存在する。
日本でコンビニが誕生してから50年以上が経ち、全国一律の商品・サービスが受け入れられて国民的小売業になった。だが、人口減少でその形態は変化を余儀なくされている。今後は店舗作業の削減・省力化とともに、エリアに合わせた品数の設定などがポイントとなりそうだ。
主戦場も人口密度が高い都市部から過疎エリアへと、戦いのステージが変わっていくのかもしれない。


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渡辺 広明(わたなべ・ひろあき)

流通アナリスト・コンビニ評論家

1967年、静岡県生まれ。東洋大学法学部卒業。ローソンに22年間勤務し、店長やバイヤーを経験。現在は(株)やらまいかマーケティングの代表として商品営業開発・マーケティング業に携わりながら、流通分野の専門家として活動している。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)レギュラーほか、ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演などで幅広く活動中。

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(流通アナリスト・コンビニ評論家 渡辺 広明)
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