一流のビジネスマンは初対面の相手とどのように距離を縮めるのか。数々のVIPをインタビューしてきた国際インタビュアーの斉藤真紀子さんは「ビジネスエリートはたとえ話やジョークを会話によく織り交ぜる。
中でもジョークは、万国共通でウケる『鉄板ネタ』がある」という――。
※本稿は、斉藤真紀子『たった1分で相手が虜になる 世界標準の聞き方・話し方』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
■一流はたとえ話、ジョークを会話によく使う
世界標準のビジネスエリートは、「どうすれば目の前の相手と瞬時に信頼関係を築けるか」にことさら気を配る。なぜなら仕事の成功を左右する大切な要因だからだ。
そのために、わかりやすい話し方が大切なのは言うまでもないが、ビジネスエリートの話し方にはほかにも特色がある。
たとえ話、決め言葉、ジョークをよく使うのだ。
こうした味付けが、直接的なものの言い方のワンクッション(緩衝)になり、互いの距離を縮めるコミュニケーションの潤滑油にもなる。
■緊張する話題も「たとえ話」で柔らかくなる
アメリカの地方銀行の経営者に、買収合併が相次ぐなか、「自分の銀行はどうするか」と質問をしたことがある。質問するほうも、されるほうも、緊張する話題だ。
銀行CEOは、「地方銀行はプロム(高校生の卒業ダンスパーティ)みたいな状況だよ、ハハハ」と切り出した。
プロムはまず、相手探しから始まるが、これがなかなか難しい。
高校生はお目当ての相手にパートナーとして一緒に参加してもらうために、作戦を繰り広げ、申し込みをするが、決まるまでがとにかく大変だそう。

質問する側の私も、プロム文化についてよく知らなかったので、「どんなことをするのか」と尋ねながら、「あなたは(買収相手に)どんなサプライズをしかけますか?」と、やわらかく核心に向かうことができた。
■ジョークは相手との距離を縮めるのに有効
ジョークはとくに、一緒に笑ったり、驚いたりするあそびの空間が生まれ、互いにリラックスできる。相手と心の距離がぐっと近づく。
ジョークは、パンチライン(落ち)がある気の利いた小話でなくても、気軽な感じでいい。
たとえば、ビジネスで日本に来ていたイギリスのビジネスパーソンは、東京のホテルに滞在中の朝、地震にあった。
「大丈夫だったか」と聞いたところ、「揺れでばっちり目がさめた。モーニングコールの代わりに、最新の『シェイキング(揺れる)コール』かと思ったよ」。
こんなダジャレもありなのだ。
自己紹介のとき、私が「格闘技をしている」と言うと、たいてい「意外だ」という表情をされ、構えのポーズをとると、ノリのいい相手からは怖がられたり、逃げるマネをされたりする。相手にウケるネタがあれば、また次の場面で使ってみる。
■「恐妻家ジョーク」は万国共通でウケがいい
とはいえ、文化背景が違う相手と、ジョークを交わすのは難しいときもある。面白さが通じない、相手の気分を害する、といったリスクもある。

英語のコミュニケーション力を強みに、企業のグローバル展開に貢献したある輸送機器メーカーの経営者は、世界標準のジョークを教えてくれた。
「恐妻家」ジョークである。「妻の許しがあればオッケーです」といったふうに、奥さんに頭が上がらない話をすると、誰を傷つけることもなく、笑って仲良くなれる。しかも、万国共通で笑いをさそう。
特定の人種や国籍、文化を話題にせず、誰かを見下したりしない配慮は必要だが、笑いがあれば、互いに心がゆるみ、友人のような対等で近い距離感になる。
■日本の「建前」は海外では通用しない
「正直であること」もまた、世界標準のビジネスエリートたちが大事にするコミュニケーションスタイルのひとつだ。なぜなら、率直に自分の思っていることを伝えれば、相手との距離が近くなり、関係性を築きやすいからだ。
・自分の感情や思い浮かんだことを、相手と共有(シェア)するつもりで伝える。
・できるだけ「弱音をはく」といったストレス解消ではなく、「正直に言うと、自分はこう思う」と相手に腹を割って話す。
・自分が悪かったと思うことを伝えたり、「言いにくいけれど、参考になれば」と相手に打ち明ける。

こうした姿勢は、敵対関係をつくらないだけでなく、信頼できる間柄になりやすくなる。
もちろん、本音と建前はどこの社会にもある。
しかし、正直であればあるほど、心を開いて「相手と対等に仲良くなれる」側面がある。
相手の考えていることを知り、違いがあれば尊重する。
一方、日本では「正直であること」より、相手への配慮が優先されがちで、結果として建前がよく使われる。沈黙とともに、「建前ばかりで何を考えているのかわからない」という印象は、仲良くなりにくい要因を生んでしまう。
■海外では皆が進んで「出る杭」になる
世界のエリートたちは「自分らしさ」を意識して会話に取り入れている。
たとえば、自分の目標、本当は何をしたいのか、何が好きか、といった自分の価値観を惜しみなくシェアする。仕事への向き合い方も含めて、その人らしさを全開にして話す。
そのような社会にいると、自然と自分も「好きなことは何だろう」「何か行動しなければ」「ほかの人と違う個性はどこか」と探さなければいけなくなる。
ほかの人と同じなら、話しても意味がない。出る杭は打たれるどころか、出ていなければ、誰にも興味を持たれないのだ。
とくに国際的な場面では「自分はこうしたい」「あなたはどうなの」という会話が頻繁に行われる。たとえまだ何も考えていなくても、「~に興味がある」とあえて言ってみてもいい。
初対面でも、役職や年齢が違っても関係ない。アメリカで働いていたとき、一般社員がCEOに堂々と自分の話をしていて驚いた。
対等であることは、相手との「違い」を認めることなのだ。
■対立こそ相手との距離を縮める大チャンス
議論やディベートが好きなアメリカ人は、頻繁に互いの意見をぶつけあい、ときにはけんかしているように聞こえることもある。もちろん、本当に険悪な関係に発展するケースはほとんどなく、議論が終わればまた仲良く話をしだす。
それは、彼らが「自分を表現する」ことに重きを置いて議論をしているからだ。
仮に意見が真っ向から対立したとしても、どんな理由で何を根拠に言っているかをとことん説明する。
さらに、「自分の生まれ育った環境」「両親の価値観」「これまでの経験」などその人ならではの考えにいたった道筋を丁寧に相手に示す。すると、意見が対立する相手であっても、「だからそう考えるのか」と一応、理解してもらえるのだ。
多様性のある環境では、考えも価値観もばらばらだ。日本でよくいう、「ふつうはこう考えるよね」という物差しがない。
もし対立をおそれたり、「嫌われたくない」という気持ちが強くなれば、意見を言わないほうがいいという選択になりがちだ。

しかし、自分がどうしてこの意見なのかをしっかり説明できれば、話す前より相手を理解できるようになり、仲良くなれる。
「対立」は「対等」の裏返しであり、相手との距離が縮まる大チャンスなのだ。
■「ふつう」は人によって違って当然
アメリカ人はよく、「自分はこういう環境で生まれ育った」と説明する。
「○○州郊外の中産階級で、父は△△出身、母は◇◇教の信者で、こんな会話をしながら育ちました」と具体的だ。
背景がわかると、「よく知っているような気でいたが、肝心なことは話した記憶がない、長年の友達」よりも、「会ったばかりで育った文化は異なるけれど、本質的な話をして理解し合えた人」のほうが、距離が近くなったと感じられる。
あなたが「ふつう」だと思っていることは、みんなと同じではない。「相手は違うかもしれない」との前提に立つことが、相手と仲良くなるための貴重な視点になる。

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斉藤 真紀子(さいとう・まきこ)

国際インタビュアー

兵庫県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業、米ブランダイス大学院文化人類学修士課程修了。丸紅米国会社(ニューヨーク)、日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版『AERA』の専属記者を経て、フリーのジャーナリストに。アメリカ在住歴8年、欧州、北米、中南米、アジア十数カ国で海外取材、日本語と英語で取材。これまで、ヒュー・ジャックマン、レディー・ガガ、マイケル・ムーアといった国内外のVIPをはじめ、ウォール・ストリートのビジネスピープル、世界的経営者など2000名以上をインタビューする。
金融、経済、ビジネス、社会、ジェンダー、エンターテインメント等、幅広い分野で新聞、雑誌およびウェブ媒体に記事を執筆している。

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(国際インタビュアー 斉藤 真紀子)
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