健康的に痩せるには、何をしたらいいか。京都大学名誉教授の森谷敏夫さんは「きつい食事制限ダイエットをやめたときには、ダイエットを始める前よりも基礎代謝も筋肉量も減って『太りやすい体』になる。
※本稿は、森谷敏夫『京大式 脂肪燃焼メソッド』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■結局もとにもどる「水の泡ダイエット」
私は、体重がみるみる減る「糖質制限ダイエット」のことを「水の泡ダイエット」と呼んでいます。せっかく一生懸命食事制限をしても、体脂肪は燃えずに、水分だけ抜けていくからです。
糖質制限ダイエットは、そもそも「糖尿病の患者さん向けの食事療法として有効」とされたものでした。健康な人向けではないため、極度な糖質制限生活を続ければ、ダイエットどころではなく寿命さえ縮めかねません。
危険なダイエットは、糖質制限ダイエットに限りません。1日の摂取カロリーを抑えるために、食事を抜いたりする「極端な食事制限ダイエット」も、体を栄養不足におとしいれる、きわめて不健康なダイエットといえます。
糖質制限ダイエットと、極端な食事制限ダイエットの何が怖いのか。ここで詳しく見ていくことにしましょう。
〈危険なダイエット1〉糖質制限ダイエット
これまでたびたび、短期間ダイエットで急激に体重が落ちるのは、体脂肪が減ったわけではなく、水分や筋肉が落ちただけ、というお話をしてきました。このことがもっともわかりやすいかたちで表れるのが、糖質制限ダイエットでしょう。
糖質の摂取量を抑えると、どのように体の水分が抜け、筋肉が溶け出していくのか、そのしくみを説明します。
■肝臓のグリコーゲンは、脳の「非常食」
まず知ってほしいこと。それは、脳は1日に400キロカロリーものエネルギーを必要とする「大食漢」だということです。
その脳の唯一のエネルギー源が糖質です。ちなみに、糖質に食物繊維がついたものが炭水化物。糖質(糖)と、炭水化物は同じものと考えてさしつかえありません。
糖質を使っているのは脳だけではありません。糖質は筋肉にとっても大切なエネルギー源。というのも、体は安静時でも、筋肉を使って体温を維持したり、心臓を動かしたり、姿勢を保つといったことをしています。
そのために消費されるエネルギーが基礎代謝と呼ばれるもので、この基礎代謝の4~5割ほどが、糖質でまかなわれているのです。
20代女性の基礎代謝の平均は、1日約1200キロカロリーです。
ところで、糖質はそのままのかたちで使われるわけではありません。
体内で消化吸収された糖質は、ブドウ糖に分解されます。ブドウ糖は血液によって、脳や筋肉へ運ばれ、そこで消費されるのです。そして、使われずに残ったブドウ糖は、「グリコーゲン」という物質として肝臓や筋肉にたくわえられます。
肝臓のグリコーゲンは、脳の「非常食」です。脳がエネルギー不足に陥ったときに、すぐさまブドウ糖に変換されて脳に届けられます。
■なぜ炭水化物を抜くと、簡単に体重が落ちるのか
対して筋肉のグリコーゲンは、基本的には筋肉自らのエネルギーとして使われます。グリコーゲンには「体内の水分を引き寄せ、くっつける力が強い」という特徴があります。
そのため、グリコーゲン1個には4個もの水の分子がくっついた状態で、肝臓や筋肉の中にたくわえられているのです。
糖質制限ダイエットでは脳のエネルギー源である糖質をカットするので、脳は1日か2日でエネルギー不足に陥ってしまいます。
そこで、体はまず、肝臓にたくわえているグリコーゲンをブドウ糖に変換して、脳へ与えます。グリコーゲンがなくなれば、そこに結合していた4個の水の分子もいっしょに消えます。
そのため、体から大量の水分が出ていき、体重が1日で1キログラム程度は簡単に落ちるというわけです。
■糖質制限で消えるのは脂肪ではなく、筋肉
糖質制限ダイエットを続けていると、ダイエット開始後、2~3日で肝臓のグリコーゲンは底をつき、脳へのエネルギーが再び足りなくなってきます。
すると、今度は筋肉にあるタンパク質が使われます。
万が一、脳がエネルギー不足で動かなくなれば、それは死を意味します。そこで、体は筋肉をけずってでも、脳にエネルギーを与えることを最優先にするのです。
ただ、脳の唯一のエネルギー源は糖質。筋肉のタンパク質はそのままのかたちでは使うことができません。そこで、筋肉はタンパク質を糖質に変えるという離れ業をやってのけます。
具体的には、タンパク質を構成するアミノ酸の1つ、アラニンという物質を筋肉から肝臓に送り込み、そこでブドウ糖につくりかえるのです。
このように、アミノ酸から糖をつくり出すことを「糖新生」といいます。
糖新生によって100グラムの筋肉から、400キロカロリーのブドウ糖をつくり出すことができます。
糖質制限ダイエットを3~4日続ければ、糖新生が起き筋肉が少しずつ消えていきます。体重が50キログラムで、体脂肪率が20パーセントの女性だと、極端な場合、10日で1キログラムほどの筋肉が失われていってしまうのです。
しかも、糖質だけカットして脂肪の摂取を制限しないダイエットをしていたら、より恐ろしいことが起こります。脂肪には、ご飯などの炭水化物と違って「食べても満腹感がなかなかこない」という特徴があります。
ただでさえ糖質制限ダイエットでお腹がすいているため、脂肪が多い食事を過剰にとってしまい、ダイエット前よりも、むしろ体脂肪が増えてしまうなんてことも珍しくありません。
つまり、健康で締まった体に必要な水分や筋肉が落ちる上に、体脂肪が増えて、脂肪だらけの体となるのが、糖質制限ダイエットなのです。
■「糖質で太る」は、大きな間違い
「糖質が大切だということはわかったけれど、とりすぎるとどうしても太ってしまう気がする」
余った糖質は体内で脂肪に変わる……。多くの人がそう信じて、糖質を悪者扱いしています。医者でさえそう信じている人が結構いるのですから、この考えが「当たり前」といわれても仕方がないかもしれません。
ここではっきりといいましょう。余った糖質が体脂肪に変わるというのは、ラットの実験結果にすぎず、人間ではほとんど脂肪に変わったりしないのです。
ラットは脳が小さいので、脳のエネルギーはほとんど必要ありません。ですから、飢餓を生き延びるために、余った糖をすべて脂肪に変えて体に貯蔵しておいたほうが理にかなっています。でも、人間の脳は大きく、1日400キロカロリーものエネルギーを必要としています。
ですから、体は余剰の炭水化物を脂肪に変換するのではなく、脳の非常食として、グリコーゲンに変えて、肝臓と筋肉にたくわえるのです。
これに関しては1999年にアメリカの生理学会で画期的な論文が発表されました。論文によると、人間の場合、余った糖はほとんど脂肪にならないことが証明されたのです。
その実験ではまず、被験者にふだんよりも1000キロカロリー多く脂肪をとってもらいました。その1000キロカロリーぶんの脂肪は、すべて体脂肪になりました。ところが、糖質をふだんよりも1000キロカロリー多くとっても、体脂肪に変換されたのは、1日わずか10グラムだけでした。
しかも、どんなに多く糖質をとっても、体脂肪に変わるのは1日10グラムを超えることはなかったのです。
■ご飯を食べることで、体も肌も髪も水分をたっぷり得る
では、余分な糖質はどうなったのでしょう。まずは、先ほどお伝えしたように肝臓と、そして筋肉にグリコーゲンとしてたくわえられます。
さらに、肝臓も筋肉もグリコーゲンで満杯になってしまった場合には、なんとその日のうちにすべて熱になり、きれいさっぱり消えてしまったのです。
いかがですか。これで今日から安心してご飯が食べられるようになったでしょう。
もしかすると、夜に白米を食べると、翌朝体重が1キログラムほど増えているかもしれません。しかし、気にする必要はありません。脂肪が増えたのではなくて、4個の水の分子を抱えたグリコーゲンの量が増えただけの話です。
むしろご飯を食べることで、体も肌も髪も水分をたっぷり得て、ハリやみずみずしさ、若々しさをとりもどすこと間違いなしといえるでしょう。
〈危険なダイエット2〉極端なカロリー制限ダイエット
食べる量を減らすことで摂取カロリーを大幅に抑え、体重をグッと減らすダイエットも、糖質制限ダイエットと同様に危険なダイエットです。
なぜなら、このような「不十分な食事」を続けていると、体は一種の飢餓状態、栄養失調の状態になってしまうからです。さらに、怖いのが「欠食ダイエット」。
朝食を抜いたり、夕食を抜いたり、1日1食に抑えたりするダイエット法です。
これらを日常的におこなえば、栄養が偏って栄養失調状態に陥るだけでなく、骨がもろくなって筋肉が痩せ細り、内臓の機能が低下して、貧血になる可能性さえあります。
■過度なカロリー制限で、太りやすい体に
このような食事制限ダイエットは健康を害するだけでなく、痩せにくい体もつくります。
摂取カロリーを限界近くまで落としているのですから、体は一種の飢餓状態に陥っています。
そのため、体は「次にいつ食べものがくるか」不安になり、なるべくエネルギーを消費しない「省エネモード」に、自分の体を切り替えていく……つまり、基礎代謝を下げていくのです。
日本人の平均では、1日の総消費カロリーの約60パーセントを基礎代謝が占めているとされています。その基礎代謝が低下すれば、体はそれだけ痩せにくくなっていくわけです。
体に入ってくるエネルギー量が減ると、脳が「このままではエネルギー不足になる、エネルギーを節約せよ!」との指令を全身に向けて出します。この指令を受けて、心臓はゆっくりと打つようになり、体温も下がり、脳自体も活動を控えるようになります。
つまり、全身の活動レベルを低下させることで、消費エネルギーを抑え、それにともない基礎代謝も下がるわけです。
さらに、筋肉の材料であるタンパク質をはじめ、炭水化物やビタミン、ミネラルといった栄養素が不足することで、筋肉が痩せ細ってきます。
筋肉は安静時にも心臓を動かし、体温や姿勢調節のために働いていますので、筋肉量が減れば、それらの働きも緩慢になり、さらに基礎代謝が低下していくのです。
こうして基礎代謝が低下すると、ダイエットを始める前よりも確実に痩せにくい体になります。この基礎代謝の低下が、リバウンドの大きな原因になるのです。
そもそも「脂肪を落としていないダイエット」に対して、「リバウンド」という言葉は使いたくないのですが、ダイエットで落ちた体重が再び増えることを、リバウンドと呼ぶとしたら、むしろ、基礎代謝が低下した人が、リバウンドしないほうがおかしな話だといえるでしょう。
■今の20代女性は終戦直後より摂取カロリーが低い
きつい食事制限ダイエットをやめたときには、ダイエットを始める前よりも代謝も筋肉量も減って「太りやすい体」になっているため、食事を少しでももとに戻すと、体重が戻ってしまうか、もしくはダイエット前よりも太ってしまうのです。
無茶な食事制限ダイエットをしている人は、リバウンドをするためにダイエットをしているようなものです。
「そうはいってもきつい食事制限をしているのは一部の人でしょ?」と、思ったあなたに衝撃的なデータをお伝えしましょう。
令和5年度の厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、20代女性の1日の平均摂取カロリーは1630キロカロリーです。
これぐらいが「普通だろう」と思いましたか? 実はこの値は、1946年終戦の翌年で、日本人の大半が食糧難であえいでいた時期の平均摂取カロリーよりも少ないのです。
その頃の女性よりも、今の女性のほうが「食べていない」のですから、痩せたい一心で危険なカロリー制限ダイエットをしている方がいかに多いか、そして自分の摂取カロリーの低さに気づいていない人が、いかに多いかが伺えます。
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森谷 敏夫(もりたに・としお)
京都大学名誉教授
株式会社おせっかい倶楽部代表取締役。南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。テキサス農工大学大学院助教授、京都大学教養部助教授、米国モンタナ大学生命科学部客員教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て、京都大学名誉教授、中京大学客員教授に。専門は応用生理学とスポーツ医学で生活習慣病における運動の重要性を説く。『結局、炭水化物を食べればしっかりやせる!』(日本文芸社)、『おサボリ筋トレ』(毎日新聞出版)など著書多数。
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(京都大学名誉教授 森谷 敏夫)
その後に食事を少しでももとに戻すと、体重が戻ってしまうか、もしくはダイエット前よりも太ってしまう」という――。
※本稿は、森谷敏夫『京大式 脂肪燃焼メソッド』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■結局もとにもどる「水の泡ダイエット」
私は、体重がみるみる減る「糖質制限ダイエット」のことを「水の泡ダイエット」と呼んでいます。せっかく一生懸命食事制限をしても、体脂肪は燃えずに、水分だけ抜けていくからです。
糖質制限ダイエットは、そもそも「糖尿病の患者さん向けの食事療法として有効」とされたものでした。健康な人向けではないため、極度な糖質制限生活を続ければ、ダイエットどころではなく寿命さえ縮めかねません。
危険なダイエットは、糖質制限ダイエットに限りません。1日の摂取カロリーを抑えるために、食事を抜いたりする「極端な食事制限ダイエット」も、体を栄養不足におとしいれる、きわめて不健康なダイエットといえます。
糖質制限ダイエットと、極端な食事制限ダイエットの何が怖いのか。ここで詳しく見ていくことにしましょう。
〈危険なダイエット1〉糖質制限ダイエット
これまでたびたび、短期間ダイエットで急激に体重が落ちるのは、体脂肪が減ったわけではなく、水分や筋肉が落ちただけ、というお話をしてきました。このことがもっともわかりやすいかたちで表れるのが、糖質制限ダイエットでしょう。
何しろ、脳のエネルギー源である糖質に的を絞って、その摂取量を徹底的に抑えるダイエット法なのですから。
糖質の摂取量を抑えると、どのように体の水分が抜け、筋肉が溶け出していくのか、そのしくみを説明します。
■肝臓のグリコーゲンは、脳の「非常食」
まず知ってほしいこと。それは、脳は1日に400キロカロリーものエネルギーを必要とする「大食漢」だということです。
その脳の唯一のエネルギー源が糖質です。ちなみに、糖質に食物繊維がついたものが炭水化物。糖質(糖)と、炭水化物は同じものと考えてさしつかえありません。
糖質を使っているのは脳だけではありません。糖質は筋肉にとっても大切なエネルギー源。というのも、体は安静時でも、筋肉を使って体温を維持したり、心臓を動かしたり、姿勢を保つといったことをしています。
そのために消費されるエネルギーが基礎代謝と呼ばれるもので、この基礎代謝の4~5割ほどが、糖質でまかなわれているのです。
20代女性の基礎代謝の平均は、1日約1200キロカロリーです。
その4割は、480キロカロリー。これに、脳の400キロカロリーを足すと、20代の女性が1日に必要とする糖質の量は880キロカロリーにもおよびます。
ところで、糖質はそのままのかたちで使われるわけではありません。
体内で消化吸収された糖質は、ブドウ糖に分解されます。ブドウ糖は血液によって、脳や筋肉へ運ばれ、そこで消費されるのです。そして、使われずに残ったブドウ糖は、「グリコーゲン」という物質として肝臓や筋肉にたくわえられます。
肝臓のグリコーゲンは、脳の「非常食」です。脳がエネルギー不足に陥ったときに、すぐさまブドウ糖に変換されて脳に届けられます。
■なぜ炭水化物を抜くと、簡単に体重が落ちるのか
対して筋肉のグリコーゲンは、基本的には筋肉自らのエネルギーとして使われます。グリコーゲンには「体内の水分を引き寄せ、くっつける力が強い」という特徴があります。
そのため、グリコーゲン1個には4個もの水の分子がくっついた状態で、肝臓や筋肉の中にたくわえられているのです。
糖質制限ダイエットでは脳のエネルギー源である糖質をカットするので、脳は1日か2日でエネルギー不足に陥ってしまいます。
そこで、体はまず、肝臓にたくわえているグリコーゲンをブドウ糖に変換して、脳へ与えます。グリコーゲンがなくなれば、そこに結合していた4個の水の分子もいっしょに消えます。
そのため、体から大量の水分が出ていき、体重が1日で1キログラム程度は簡単に落ちるというわけです。
■糖質制限で消えるのは脂肪ではなく、筋肉
糖質制限ダイエットを続けていると、ダイエット開始後、2~3日で肝臓のグリコーゲンは底をつき、脳へのエネルギーが再び足りなくなってきます。
すると、今度は筋肉にあるタンパク質が使われます。
万が一、脳がエネルギー不足で動かなくなれば、それは死を意味します。そこで、体は筋肉をけずってでも、脳にエネルギーを与えることを最優先にするのです。
ただ、脳の唯一のエネルギー源は糖質。筋肉のタンパク質はそのままのかたちでは使うことができません。そこで、筋肉はタンパク質を糖質に変えるという離れ業をやってのけます。
具体的には、タンパク質を構成するアミノ酸の1つ、アラニンという物質を筋肉から肝臓に送り込み、そこでブドウ糖につくりかえるのです。
このように、アミノ酸から糖をつくり出すことを「糖新生」といいます。
糖新生によって100グラムの筋肉から、400キロカロリーのブドウ糖をつくり出すことができます。
糖質制限ダイエットを3~4日続ければ、糖新生が起き筋肉が少しずつ消えていきます。体重が50キログラムで、体脂肪率が20パーセントの女性だと、極端な場合、10日で1キログラムほどの筋肉が失われていってしまうのです。
しかも、糖質だけカットして脂肪の摂取を制限しないダイエットをしていたら、より恐ろしいことが起こります。脂肪には、ご飯などの炭水化物と違って「食べても満腹感がなかなかこない」という特徴があります。
ただでさえ糖質制限ダイエットでお腹がすいているため、脂肪が多い食事を過剰にとってしまい、ダイエット前よりも、むしろ体脂肪が増えてしまうなんてことも珍しくありません。
つまり、健康で締まった体に必要な水分や筋肉が落ちる上に、体脂肪が増えて、脂肪だらけの体となるのが、糖質制限ダイエットなのです。
■「糖質で太る」は、大きな間違い
「糖質が大切だということはわかったけれど、とりすぎるとどうしても太ってしまう気がする」
余った糖質は体内で脂肪に変わる……。多くの人がそう信じて、糖質を悪者扱いしています。医者でさえそう信じている人が結構いるのですから、この考えが「当たり前」といわれても仕方がないかもしれません。
ここではっきりといいましょう。余った糖質が体脂肪に変わるというのは、ラットの実験結果にすぎず、人間ではほとんど脂肪に変わったりしないのです。
ラットは脳が小さいので、脳のエネルギーはほとんど必要ありません。ですから、飢餓を生き延びるために、余った糖をすべて脂肪に変えて体に貯蔵しておいたほうが理にかなっています。でも、人間の脳は大きく、1日400キロカロリーものエネルギーを必要としています。
ですから、体は余剰の炭水化物を脂肪に変換するのではなく、脳の非常食として、グリコーゲンに変えて、肝臓と筋肉にたくわえるのです。
これに関しては1999年にアメリカの生理学会で画期的な論文が発表されました。論文によると、人間の場合、余った糖はほとんど脂肪にならないことが証明されたのです。
その実験ではまず、被験者にふだんよりも1000キロカロリー多く脂肪をとってもらいました。その1000キロカロリーぶんの脂肪は、すべて体脂肪になりました。ところが、糖質をふだんよりも1000キロカロリー多くとっても、体脂肪に変換されたのは、1日わずか10グラムだけでした。
しかも、どんなに多く糖質をとっても、体脂肪に変わるのは1日10グラムを超えることはなかったのです。
■ご飯を食べることで、体も肌も髪も水分をたっぷり得る
では、余分な糖質はどうなったのでしょう。まずは、先ほどお伝えしたように肝臓と、そして筋肉にグリコーゲンとしてたくわえられます。
さらに、肝臓も筋肉もグリコーゲンで満杯になってしまった場合には、なんとその日のうちにすべて熱になり、きれいさっぱり消えてしまったのです。
いかがですか。これで今日から安心してご飯が食べられるようになったでしょう。
もしかすると、夜に白米を食べると、翌朝体重が1キログラムほど増えているかもしれません。しかし、気にする必要はありません。脂肪が増えたのではなくて、4個の水の分子を抱えたグリコーゲンの量が増えただけの話です。
むしろご飯を食べることで、体も肌も髪も水分をたっぷり得て、ハリやみずみずしさ、若々しさをとりもどすこと間違いなしといえるでしょう。
〈危険なダイエット2〉極端なカロリー制限ダイエット
食べる量を減らすことで摂取カロリーを大幅に抑え、体重をグッと減らすダイエットも、糖質制限ダイエットと同様に危険なダイエットです。
なぜなら、このような「不十分な食事」を続けていると、体は一種の飢餓状態、栄養失調の状態になってしまうからです。さらに、怖いのが「欠食ダイエット」。
朝食を抜いたり、夕食を抜いたり、1日1食に抑えたりするダイエット法です。
これらを日常的におこなえば、栄養が偏って栄養失調状態に陥るだけでなく、骨がもろくなって筋肉が痩せ細り、内臓の機能が低下して、貧血になる可能性さえあります。
■過度なカロリー制限で、太りやすい体に
このような食事制限ダイエットは健康を害するだけでなく、痩せにくい体もつくります。
摂取カロリーを限界近くまで落としているのですから、体は一種の飢餓状態に陥っています。
そのため、体は「次にいつ食べものがくるか」不安になり、なるべくエネルギーを消費しない「省エネモード」に、自分の体を切り替えていく……つまり、基礎代謝を下げていくのです。
日本人の平均では、1日の総消費カロリーの約60パーセントを基礎代謝が占めているとされています。その基礎代謝が低下すれば、体はそれだけ痩せにくくなっていくわけです。
体に入ってくるエネルギー量が減ると、脳が「このままではエネルギー不足になる、エネルギーを節約せよ!」との指令を全身に向けて出します。この指令を受けて、心臓はゆっくりと打つようになり、体温も下がり、脳自体も活動を控えるようになります。
つまり、全身の活動レベルを低下させることで、消費エネルギーを抑え、それにともない基礎代謝も下がるわけです。
さらに、筋肉の材料であるタンパク質をはじめ、炭水化物やビタミン、ミネラルといった栄養素が不足することで、筋肉が痩せ細ってきます。
筋肉は安静時にも心臓を動かし、体温や姿勢調節のために働いていますので、筋肉量が減れば、それらの働きも緩慢になり、さらに基礎代謝が低下していくのです。
こうして基礎代謝が低下すると、ダイエットを始める前よりも確実に痩せにくい体になります。この基礎代謝の低下が、リバウンドの大きな原因になるのです。
そもそも「脂肪を落としていないダイエット」に対して、「リバウンド」という言葉は使いたくないのですが、ダイエットで落ちた体重が再び増えることを、リバウンドと呼ぶとしたら、むしろ、基礎代謝が低下した人が、リバウンドしないほうがおかしな話だといえるでしょう。
■今の20代女性は終戦直後より摂取カロリーが低い
きつい食事制限ダイエットをやめたときには、ダイエットを始める前よりも代謝も筋肉量も減って「太りやすい体」になっているため、食事を少しでももとに戻すと、体重が戻ってしまうか、もしくはダイエット前よりも太ってしまうのです。
無茶な食事制限ダイエットをしている人は、リバウンドをするためにダイエットをしているようなものです。
「そうはいってもきつい食事制限をしているのは一部の人でしょ?」と、思ったあなたに衝撃的なデータをお伝えしましょう。
令和5年度の厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、20代女性の1日の平均摂取カロリーは1630キロカロリーです。
これぐらいが「普通だろう」と思いましたか? 実はこの値は、1946年終戦の翌年で、日本人の大半が食糧難であえいでいた時期の平均摂取カロリーよりも少ないのです。
その頃の女性よりも、今の女性のほうが「食べていない」のですから、痩せたい一心で危険なカロリー制限ダイエットをしている方がいかに多いか、そして自分の摂取カロリーの低さに気づいていない人が、いかに多いかが伺えます。
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森谷 敏夫(もりたに・としお)
京都大学名誉教授
株式会社おせっかい倶楽部代表取締役。南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。テキサス農工大学大学院助教授、京都大学教養部助教授、米国モンタナ大学生命科学部客員教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て、京都大学名誉教授、中京大学客員教授に。専門は応用生理学とスポーツ医学で生活習慣病における運動の重要性を説く。『結局、炭水化物を食べればしっかりやせる!』(日本文芸社)、『おサボリ筋トレ』(毎日新聞出版)など著書多数。
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(京都大学名誉教授 森谷 敏夫)
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