健康で長生きをするにはどうすればいいのか。『医師のぼくが50年かけてたどりついた 長生きかまた体操』(アスコム)を書いた医師の鎌田實さんは「毎日を元気に過ごすには、年齢を重ねても筋肉を維持することが欠かせない。
その鍵を握るのがたんぱく質だ。手軽に手に入り、みそ汁に入れるだけでいい“スーパーフード”がある」という――。
■朝はたんぱく質を摂ることが大事
いつまでも健康で長生きしたい。それは、多くの人が持つ願いだと思います。ぼくの考える「長生き」とは、90歳を過ぎても元気で、自分の足でレストランや日帰り温泉に行って楽しむことです。
ぼくは今77歳で、現役医師として地域医療に携わっています。作家としても年間8冊ほどのペースで執筆活動をおこなっており、出版の予定は2年先まで入っています。趣味はスキー。冬になると毎日のようにスキー場に通い、昨シーズンは70日ほど滑りました。
こうして毎日元気に過ごせるのは、筋肉を保持してきたから。それを支えているのが、朝食です。
ぼくは意識的に、朝食でしっかりとたんぱく質をとるようにしています。
これを「朝たん」と呼び、長年推奨してきました。その理由は筋肉にあります。40歳を過ぎると毎年1%ずつ筋肉が減っていくといわれています。特に中高年の女性はフレイル(筋肉が虚弱の状態)になりやすく、そのまま要介護状態につながってしまうケースが少なくありません。
フレイルを予防するには、筋肉を維持・増やすと同時に、筋肉の材料となるたんぱく質をとることが大事。3食のなかでバランス良くたんぱく質をとるのが基本となりますが、効果をより高めるタイミングが朝なのです。
■“朝食抜き”はリスクだらけ
時間栄養学の研究により、たんぱく質は夜よりも朝にとったほうが筋肉に変わりやすいことがわかっています。また細胞を肥満化させる時計遺伝子「BMAL1」は、22時ごろから増加。そのためBMAL1が多いときに食べ過ぎると、脂肪をため込み太ってしまいます。しかし朝はBMAL1の働きが比較的弱いため、食べた分を筋肉に変えられる、ということです。
実際に、高齢女性を対象にした調査(長崎大学と早稲田大学を中心とする研究グループによる調査報告)では、夕食よりも朝食でたんぱく質を多くとった人のほうが、骨格筋指数や握力が高いという報告もあります。ところが最近は、年齢を問わず朝食を抜く人が増えています。
特に若い女性は朝ごはんを食べなければ1日のカロリーが減ると思い込んでいる場合が多い。
しかし、それは大きな間違いです。朝食を抜くとエネルギー不足になり、筋肉が減ってしまいます。また空腹時間が長くなり、その後の食事で血糖値が急上昇。かえって太りやすい体質になるばかりか、糖尿病や動脈硬化のリスクも高くなるのです。
ですから健康な体をつくるには、朝からしっかり食べることが必須。バランスは「朝4:昼4:夜2」の割合が理想的です。朝食をもっと充実させ、夜に食べる量は控えめにする意識をもつようにしましょう。
■「具だくさんみそ汁」がいい
毎朝にぜひおすすめしたいのが、みそ汁です。みそ汁と聞いて「塩分が多そう」と思った人が多いかもしれませんね。高血圧の原因になるのではと敬遠されがちなみそ汁も、ちょっと工夫するだけで減塩できます。ポイントは、野菜をたっぷり入れることです。

にんじんやキャベツ、ほうれん草などの野菜で具だくさんにすれば、全体の水分が少なくなり、必然的に摂取する塩分も減ります。さらに野菜から出る旨味でみその量を減らせるうえ、野菜に含まれるカリウムが体内のナトリウムを排出してくれるので、みそ汁を飲むと結果的に血圧低下につながるのです。
さらに最近の研究では、みそに多く含まれるペプチド類には血圧を抑制する作用があり、血圧を上昇させるどころか、血圧を正常に保つ作用があることが明らかになっています。
具だくさんみそ汁は、長野県民の平均寿命を伸ばすのにも役立ちました。長野県の諏訪中央病院に赴任して最初に手がけたのが、住民の塩分量を減らすことです。当時の長野県は、脳卒中の罹患率が全国ワーストクラス。塩辛い野沢菜の漬物だけでご飯を何杯も食べる文化があったため、血管が詰まるのも当然という状態でした。
■「高野豆腐」はスーパー食材
なんとか地域を健康にしたいと、減塩活動を開始。塩分を控え野菜の摂取量を増やすために考案したのが、具だくさんみそ汁です。これは、野菜に加えて海藻やきのこ、ベーコンなど冷蔵庫にある食材を投入してしまうというもの。そうした取り組みが実を結び、2010年には長野県は男女ともに平均寿命全国1位になりました。今でも日本有数の健康長寿県として知られています。
公益社団法人 国民健康保険中央会 平均自立期間
具だくさんみそ汁の効果はこれだけではありません。発酵食品のみそを取り入れることで腸内環境が改善し、免疫力がアップ。“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンの分泌が増えて脳の働きもよくなるなど、いいことばかりです。
具だくさんみそ汁には、どの食材を入れてもOKですが、そのなかでもイチオシの食材が、高野豆腐です。高野豆腐は、たんぱく質の塊。筋肉をつくるだけでなく、悪玉コレステロールを減らし、食後の血糖値の上昇を抑える「レジスタントたんぱく」も豊富に含む栄養満点のスーパー食材です。(「凍り豆腐の脂質代謝・糖質代謝改善効果とそのメカニズム」)
実は高野豆腐は、長野県の名産品。長野県では古くから冬場の寒冷地の特性を生かした高野豆腐(別名、凍り豆腐)づくりがさかんで、現在では全国に流通している高野豆腐の9割以上を県内で生産しています。
■みそ汁に入れるだけ、すぐに食べられる
50年前は長野県で高野豆腐を食べる人は減っていたのですが、高齢者には高野豆腐を食べる習慣が少し残っていました。スーパーで売っているお手頃な高野豆腐は戻し不要で、みそ汁に入れるだけですぐに食べられます。小さくカットされたタイプも売っていて、手軽に使えますよね。これなら高齢者でも取り入れやすいのではと考え、たんぱく質不足解消とフレイル予防のために高野豆腐を推奨するようになったのです。

長野県の伝統食である高野豆腐は現在、日本のみならず世界からも注目を集めています。同県飯田市に本店を置く高野豆腐のメーカーは、農業学で世界1位の評価を得ているオランダ・ワーゲニンゲン大学と共同研究をおこない、高野豆腐を次世代のスーパーフードとして紹介。フランス・パリにある日本のアンテナショップ「GOÉN(ゴエン)」で高野豆腐を販売し、現地の人々から好評を得たそうです。
高野豆腐が世界で脚光を浴びるようになったのは、代替肉として有効だから。代替肉とは、動物性の肉の代わりに植物性原料でつくられた肉のような食材のことです。大豆が主原料の「大豆ミート」が代表的な存在で、良質なたんぱく質を摂取でき、お肉のような食感も得られると広く支持されています。
■粉末にした「粉豆腐」もおすすめ
高野豆腐の主原料も大豆です。高たんぱくでありながら、糖質量は白米の約20分の1しかありません。またカルシウムや鉄分も豊富に含み、不足しがちな栄養素をしっかりと補えます。ベジタリアンやヴィーガンが多いとされる欧米において、大豆ミートに次ぐ代替肉として高野豆腐の注目度はますます高まっていくことでしょう。
高野豆腐は1枚サイズの長方形のものが一般的ですが、サイコロ状、短冊状など多様なタイプがあります。最近は細切りの高野豆腐が入った即席のカップ麺も販売されており、手軽にたんぱく質をとれる便利な商品が増えてきました。
そのなかでも特におすすめなのが、高野豆腐を粉末状にした「粉豆腐」と呼ばれるものです。
これがとても便利。ハンバーグや肉団子をつくる際、粉豆腐を入れてひき肉の量を減らすだけで、高たんぱくで低脂肪のヘルシー料理に変身します。3分の2を粉豆腐にしても味はほとんど変わりませんし、小麦粉やパン粉の代わりにもなり一石二鳥です。
鎌田家では小麦粉を粉豆腐に置き換え、豚バラやホタテ、牡蠣、そしてたっぷりのキャベツを入れたお好み焼きをよくつくります。普通のお好み焼きよりも味に深みが出ておいしいですよ。
■がんばらず、できるだけ楽をしていい
ぼくはずっと朝食の大事さを訴えてきました。近年、さまざまな論文が出てきたおかげで、朝食の大事さに気づく人が増えたように思います。
先述した通り、朝食を抜くのはNGです。「朝は忙しくて料理をする時間がない!」という場合は、トマトジュースを1杯飲んだり、三角形のチーズを1つ食べたりして、何かしら胃袋に収めるようにしましょう。
朝の時間に余裕がない人は「鎌田式みそ玉」をつくり置きしておくのもおすすめです。みそと顆粒だし、お好みの野菜やサバ缶、チーズを一緒に混ぜ、1食分ずつラップで包み冷凍しておくだけ。お湯を注げば高たんぱくのみそ汁が完成するので、忙しい朝の食事にピッタリです。
ぼくの人生のモットーは、がんばらないこと。がんばり過ぎずに、できるだけ楽をしてください。カット野菜や加工された食品を活用すれば毎日の調理も楽になりますし、それで手抜き料理だと罪悪感を抱く必要はありません。おいしいものを食べながらも、ちょっと工夫するのが鎌田式です。
大切なのは、とにかく続けること。継続こそ薬です。90歳を過ぎてもピンピン元気でいられるよう、朝に高野豆腐入りの具だくさんみそ汁をぜひ取り入れてみてください。

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鎌田 實(かまた・みのる)

医師・作家

1948年、東京都生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、諏訪中央病院に赴任。「地域包括ケア」の先駆けをつくり、長野県を長寿で医療費の安い地域へと導く(現在、諏訪中央病院名誉院長)。現在は全国各地から招かれて「健康づくり」を行う。2021年、ニューズウィーク日本版「世界に貢献する日本人30人」に選出。2022年、武見記念賞受賞。ベストセラー『がんばらない』(集英社文庫)ほか書多数。チェルノブイリ、イラク、ウクライナへの国際医療支援、全国被災地支援にも力を注ぐ。現在、日本チェルノブイリ連帯基金顧問、JIM-NET顧問、一般社団法人 地域包括ケア研究所所長、公益財団法人 風に立つライオン基金評議員ほか。

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(医師・作家 鎌田 實 聞き手・構成=山本 ヨウコ)
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