■男性の結婚をめぐる「残酷な現実」
男性の結婚は年収で決まるし、年収の高い方から結婚していく。
こういうとすぐ「結婚は年収の多寡で決まるものではない」と反論が出るのですが、もちろん、「年収が高ければ結婚できる」などという無理やりな因果推論をするつもりはありません。
2024年にこども家庭庁が実施した「若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」によれば、「夫の年収は自分より高い方が望ましい」と回答している割合は、25~34歳の未婚女性で77.2%に達します。未婚女性だからこの割合になっているわけではありません。同じく25~34歳の既婚女性も、自分が独身の時はどうだったかという前提で聞いていますが、81.7%とむしろ未婚よりも高くなります。
つまり、結婚において男性は年収という値札で選別されるわけです。
結婚生活は経済生活ですから当然で、特に女性は、子が産まれた場合には、妻が一時休業や退職などで一時的に夫一馬力になるケースも考慮して、結婚相手の経済力をシビアに見るのです。
要するに、結婚を実現させるために「男性の年収」というものはそれくらい重要な位置を占めるのですが、それゆえ、結婚が減少している原因もまさにここにあります。
■婚姻減の本質は「お金の問題」
例えば、2022年就業構造基本調査において、30~39歳の年収700万円以上の男性の未婚率は2割を切りますが、年収200万未満では7割を超えます。男性の場合は、年収が下がれば下がるほど未婚率が高まるわけで、こと男性に限れば「結婚できるかできないかはお金の問題」であることは間違いありません。
それでも、人口ボリュームの多い中間層の年収があれば結婚できている(=未婚率が低い)のであれば、これほどの婚姻減少にはなっていません。
婚姻減の本質的な問題は、貧困層が結婚できなくなったのではなく、年収中間層の男性が結婚できなくなっていることにあります。
とはいえ、SNSやネット記事ではよく「年収300万円台では結婚できない」系の話題が多いですが、この300万や400万という絶対値で語ってもあまり意味はありません。
■10年間で起きた「インフレ」
同じく就業構造基本調査を基に、30~39歳の有業男性に絞って中央値年収未婚率を計算してみましょう。
まず、30代有業者全体の未婚率を見ると、2012年では37%でしたが、2022年は41%へと上昇しています。10年間で4%の増加ですが、それでも、過半数以上は39歳までに結婚しているじゃないかと思われるかもしれません。が、中央値年収での未婚率を計算すると2012年48%だったものが、2022年には55%へと7%も上昇しています。前述した全体の未婚率と比べれば、全体より中央値における未婚率の上昇の方が大きいわけです。
言いかえれば、2012年頃までは中央値の年収があれば、半分以上の52%は結婚できていたのに、2022年には45%しか結婚できなくなっている。つまり、結婚の年収ハードルがあがっているということです。
さらに、都道府県別に、中央値年収未婚率を2012年と2022年で比較すると、いかにこの10年間で結婚可能年収が全国的にインフレしたかがわかります。
図表1、白い部分が中央値未婚率40~50%未満、赤が50%超ですが、この10年間で白から真っ赤に変わっています。
2012年時点では、中央値未婚率50%未満が47都道府県中30もありましたが、2022年にはわずか7つに減少。かわって、未婚率60%超が2012年のゼロから2022年には14に増えました。
元々、東京圏や愛知、大阪などの大都市では、中央値年収では結婚ができない問題がありましたが、その傾向が地方に波及したと言えるでしょう。特に、宮城、福井、滋賀、徳島などは10年前より20ポイントも大幅に増えました。
かつて結婚できていた中央値年収では結婚が難しくなったことを如実に示します。
■結婚できる・できないの「年収格差」が拡大
そして、中央値年収未婚率があがってしまう要因は、結婚できる・できないの年収の格差が広がったことも意味します。
30代有業男性の未婚と既婚とで各都道府県の中央値年収を比較して、それぞれの中央値年収格差を調べます。それの2012~2022年の増減と未婚率の増減をプロットしたものが図表2のグラフです。
明らかに、未既婚の中央値年収格差が広がっているほど未婚率が高まることがわかりました。相関係数は0.6311ですから、強い正の相関があります。
誤解のないように、これはあくまで2012~2022年の増減率ですから、マイナスとなっているものが既婚より未婚の中央値年収が高いということではなく、その格差幅が10年前に比べて減少しているという意味です。
■未婚男性の中央値年収があがれば、未婚率は減少
逆に言えば、ある程度の年収以上の男性は結婚していることになります。つまり、これが結婚年収のインフレで、未婚は中央値年収では結婚できなくなってきたがゆえの、全体の婚姻減が起きているわけです。
ここで大事なのは、個々の都道府県の値云々より、未婚と既婚の年収格差、結婚できない者とできる者との年収格差が大きくなっているところほど未婚率が増える傾向にあるという全体の流れです。
あわせて、この10年間で、未婚の中央値年収の増加率とその中央値未婚率増減との相関も見てみましょう。
こちらは逆に、未婚男性の中央値年収があがればあがるほど、未婚率は減少するという強い負の相関になります。
■問題は「手取りが増えていない」こと
計算上は、未婚の中央値年収が17.5%あがれば未婚率は上昇しないということになります。年収17.5%アップと聞いてしまうと現実離れした話だと思うかもしれませんが、これは10年間の増加率で、1年あたり1.6%程度の年収アップで到達できる数字です。逆に言えば、この10年間未婚男性の年収はこの程度のアップすらできていなかったわけで、それ自体が異常だったというべきでしょう。
別の見方をすれば、年に2%ずつ賃上げが約束されているような安定した大企業勤務や公務員男性だけが結婚していっているのでしょう。
男性の場合、年収があがらなければ、結婚に至らないということは明らかです。同時に、女性の場合も、自分より低い年収の男性と結婚するくらいなら、一人で自由にお金も時間も使った方がマシと非婚化します。
だからといって、賃上げだけすればいいという話ではありません。額面の年収があがったからといって、手取りが増えていないのが今の問題です。社会保険料負担は増え続けている上に、さらに「子育て支援金」などという新たな負担が追加されるようでは、ますますこの中間層の若者の婚姻減は進むでしょう。
■今こそ「令和のお膳立て」が必要
とにかく、婚姻数が増えなければ出生数は絶対に増えません。何よりもっとも人口の多い中間層が結婚できなくなっていることに尽きます。具体的には地方の中小企業勤務の若者などです。
子育て支援も大事ですが、それだけでは新たな出生を生む婚姻には結び付きません。それどころか、未既婚格差をより広げてしまい、かえって婚姻数を減らしてしまうでしょう。
繰り返しますが、若者が貧しくなったというよりも、全体の中央値の年収があってももう結婚もできないし、家族を持つことなんて無理だとなってしまっていることこそが本質的な課題なのではないでしょうか。
「金がないから結婚できないは言い訳だ」などと若者の自己責任に押し付けたところで何の解決にもならない。
それでも、少なくとも、今回ご紹介したように、未婚男性の中央値年収があがれば未婚率は改善されている事実があることはひとつの突破口になります。
今こそ令和のお膳立てが必要です。それは何も昭和の時代のように、結婚に向けて背中を押してくれるお節介上司や世話焼きおばさんを復活させることではありません。中間層に対する経済的なお膳立てという意味です。
でないと、本当に男性の生涯未婚率が5割超えになり、ますます一部の裕福な層しか子どもを持てなくなる時代になります。
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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
男性の結婚は年収で決まるし、年収の高い方から結婚していく。
こういうとすぐ「結婚は年収の多寡で決まるものではない」と反論が出るのですが、もちろん、「年収が高ければ結婚できる」などという無理やりな因果推論をするつもりはありません。
が、少なくとも「男性の場合、年収が低ければ、結婚相手として女性から選ばれることは大体ない」ということは紛れもない事実です。
2024年にこども家庭庁が実施した「若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」によれば、「夫の年収は自分より高い方が望ましい」と回答している割合は、25~34歳の未婚女性で77.2%に達します。未婚女性だからこの割合になっているわけではありません。同じく25~34歳の既婚女性も、自分が独身の時はどうだったかという前提で聞いていますが、81.7%とむしろ未婚よりも高くなります。
つまり、結婚において男性は年収という値札で選別されるわけです。
結婚生活は経済生活ですから当然で、特に女性は、子が産まれた場合には、妻が一時休業や退職などで一時的に夫一馬力になるケースも考慮して、結婚相手の経済力をシビアに見るのです。
要するに、結婚を実現させるために「男性の年収」というものはそれくらい重要な位置を占めるのですが、それゆえ、結婚が減少している原因もまさにここにあります。
■婚姻減の本質は「お金の問題」
例えば、2022年就業構造基本調査において、30~39歳の年収700万円以上の男性の未婚率は2割を切りますが、年収200万未満では7割を超えます。男性の場合は、年収が下がれば下がるほど未婚率が高まるわけで、こと男性に限れば「結婚できるかできないかはお金の問題」であることは間違いありません。
それでも、人口ボリュームの多い中間層の年収があれば結婚できている(=未婚率が低い)のであれば、これほどの婚姻減少にはなっていません。
婚姻減の本質的な問題は、貧困層が結婚できなくなったのではなく、年収中間層の男性が結婚できなくなっていることにあります。
とはいえ、SNSやネット記事ではよく「年収300万円台では結婚できない」系の話題が多いですが、この300万や400万という絶対値で語ってもあまり意味はありません。
なぜなら、東京と地方とではそもそも年収の分布が違うからです。全国的な傾向として語るには、それぞれの中央値年収でどれくらい未婚率があるのか(結婚できていないのか)を見る必要があります。いわば、中央値年収未婚率です。
■10年間で起きた「インフレ」
同じく就業構造基本調査を基に、30~39歳の有業男性に絞って中央値年収未婚率を計算してみましょう。
まず、30代有業者全体の未婚率を見ると、2012年では37%でしたが、2022年は41%へと上昇しています。10年間で4%の増加ですが、それでも、過半数以上は39歳までに結婚しているじゃないかと思われるかもしれません。が、中央値年収での未婚率を計算すると2012年48%だったものが、2022年には55%へと7%も上昇しています。前述した全体の未婚率と比べれば、全体より中央値における未婚率の上昇の方が大きいわけです。
言いかえれば、2012年頃までは中央値の年収があれば、半分以上の52%は結婚できていたのに、2022年には45%しか結婚できなくなっている。つまり、結婚の年収ハードルがあがっているということです。
さらに、都道府県別に、中央値年収未婚率を2012年と2022年で比較すると、いかにこの10年間で結婚可能年収が全国的にインフレしたかがわかります。
図表1、白い部分が中央値未婚率40~50%未満、赤が50%超ですが、この10年間で白から真っ赤に変わっています。
青い40%未満は2022年消滅しました。
2012年時点では、中央値未婚率50%未満が47都道府県中30もありましたが、2022年にはわずか7つに減少。かわって、未婚率60%超が2012年のゼロから2022年には14に増えました。
元々、東京圏や愛知、大阪などの大都市では、中央値年収では結婚ができない問題がありましたが、その傾向が地方に波及したと言えるでしょう。特に、宮城、福井、滋賀、徳島などは10年前より20ポイントも大幅に増えました。
かつて結婚できていた中央値年収では結婚が難しくなったことを如実に示します。
■結婚できる・できないの「年収格差」が拡大
そして、中央値年収未婚率があがってしまう要因は、結婚できる・できないの年収の格差が広がったことも意味します。
30代有業男性の未婚と既婚とで各都道府県の中央値年収を比較して、それぞれの中央値年収格差を調べます。それの2012~2022年の増減と未婚率の増減をプロットしたものが図表2のグラフです。
明らかに、未既婚の中央値年収格差が広がっているほど未婚率が高まることがわかりました。相関係数は0.6311ですから、強い正の相関があります。
誤解のないように、これはあくまで2012~2022年の増減率ですから、マイナスとなっているものが既婚より未婚の中央値年収が高いということではなく、その格差幅が10年前に比べて減少しているという意味です。
例えば、東京は未既婚の格差は10年前より改善はされていますが、だからこそ未婚率の上昇は抑えられたとも言えます。
■未婚男性の中央値年収があがれば、未婚率は減少
逆に言えば、ある程度の年収以上の男性は結婚していることになります。つまり、これが結婚年収のインフレで、未婚は中央値年収では結婚できなくなってきたがゆえの、全体の婚姻減が起きているわけです。
ここで大事なのは、個々の都道府県の値云々より、未婚と既婚の年収格差、結婚できない者とできる者との年収格差が大きくなっているところほど未婚率が増える傾向にあるという全体の流れです。
あわせて、この10年間で、未婚の中央値年収の増加率とその中央値未婚率増減との相関も見てみましょう。
こちらは逆に、未婚男性の中央値年収があがればあがるほど、未婚率は減少するという強い負の相関になります。
■問題は「手取りが増えていない」こと
計算上は、未婚の中央値年収が17.5%あがれば未婚率は上昇しないということになります。年収17.5%アップと聞いてしまうと現実離れした話だと思うかもしれませんが、これは10年間の増加率で、1年あたり1.6%程度の年収アップで到達できる数字です。逆に言えば、この10年間未婚男性の年収はこの程度のアップすらできていなかったわけで、それ自体が異常だったというべきでしょう。
別の見方をすれば、年に2%ずつ賃上げが約束されているような安定した大企業勤務や公務員男性だけが結婚していっているのでしょう。
男性の場合、年収があがらなければ、結婚に至らないということは明らかです。同時に、女性の場合も、自分より低い年収の男性と結婚するくらいなら、一人で自由にお金も時間も使った方がマシと非婚化します。
どっちにせよ、「男の年収」が結婚の数を決定づけていると言えるでしょう。
だからといって、賃上げだけすればいいという話ではありません。額面の年収があがったからといって、手取りが増えていないのが今の問題です。社会保険料負担は増え続けている上に、さらに「子育て支援金」などという新たな負担が追加されるようでは、ますますこの中間層の若者の婚姻減は進むでしょう。
■今こそ「令和のお膳立て」が必要
とにかく、婚姻数が増えなければ出生数は絶対に増えません。何よりもっとも人口の多い中間層が結婚できなくなっていることに尽きます。具体的には地方の中小企業勤務の若者などです。
子育て支援も大事ですが、それだけでは新たな出生を生む婚姻には結び付きません。それどころか、未既婚格差をより広げてしまい、かえって婚姻数を減らしてしまうでしょう。
繰り返しますが、若者が貧しくなったというよりも、全体の中央値の年収があってももう結婚もできないし、家族を持つことなんて無理だとなってしまっていることこそが本質的な課題なのではないでしょうか。
「金がないから結婚できないは言い訳だ」などと若者の自己責任に押し付けたところで何の解決にもならない。
それでも、少なくとも、今回ご紹介したように、未婚男性の中央値年収があがれば未婚率は改善されている事実があることはひとつの突破口になります。
今こそ令和のお膳立てが必要です。それは何も昭和の時代のように、結婚に向けて背中を押してくれるお節介上司や世話焼きおばさんを復活させることではありません。中間層に対する経済的なお膳立てという意味です。
でないと、本当に男性の生涯未婚率が5割超えになり、ますます一部の裕福な層しか子どもを持てなくなる時代になります。
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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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