■2026年に日本のビットコイン投資は変わるか
日本では、仮想通貨ビットコイン(BTC)に関する税制の改正が検討中で、2026年税制改正により変更される見込みという報道が流れた。以下は金融庁・自民党税制調査会で議論中の「たたき台」である。
もし、この税制改正が実現すれば、次の点において日本でもビットコインの投資がしやすくなり、税引後投資利益が大幅に改善されることになる。
ビットコイン投資のメリット(予測)
1.個人投資家にとって「最大55%→20%」および「総合課税から分離課税への移行」はインパクト大。投資利益が大幅に改善されるため、利益確定売りのハードルが下がり、流動性増加が見込まれることになる。
2.法人課税の緩和で国内上場企業の財務戦略としてBTC保有が現実味を帯びる可能性あり。
ただし正式な税制改正大綱(2025年末に閣議決定予定)までは流動的であり、実際の資金計画決定はそれ以降にする必要がある。
ビットコインは「デジタルの金」と呼ばれている。インターネット上にだけ存在する改ざん不能な金塊ということだ。この金塊は2009年1月3日に謎の人物「サトシ・ナカモト」によって発明されると16年の間に何と1000万倍以上の価格にまで高騰した。
■2020年に購入すれば約17倍ものリターンが
以前の記事では金が直近の23年間で11.5倍になったことを紹介したが、その100万倍の上昇率だ。
この数年の間でも、例えば2020年の7月に100万円分を購入しておけば、2025年7月には1750万円、5年で1650万円のリターンがあったことになる。
そうしてビットコインは多くの「億り人」を生み出したが、一方で財産を失った人も多い。一般にビットコインは危険な投資とみなされているか、本当にそうだろうか?
この記事では、ビットコインは投資の仕方によっては決して危険な投資ではないことと今後どんな事象に注目して投資をすればよいかについて述べてみたい。
■コインでも紙幣でもない、ビットコインとは?
ビットコインは、インターネット上にだけ存在するお金だ。銀行や国が発行するのではなく、世界中の参加者どうしが直接やり取りし、その記録をブロックチェーンと呼ばれる公開台帳に刻みこむことで成り立っている。
ブロックチェーンは10分ごとに「ブロック」という箱をつくり、その中に取引の履歴をまとめて鎖(チェーン)のように順番につなげていく。
ブロックチェーンの仕組は以下の通りで改ざんすることがほぼ不可能だ。金が化学反応を起こして変わることがないのと同じなので、「デジタルの金」と呼ばれている。
・各ブロックには直前のブロックの「ハッシュ値(暗号化した指紋)」が入るので、どこか1カ所でも書き換えると後ろのブロック全部のハッシュが崩れる。
・さらに台帳の動きをマイナー(採掘者)や取引所、取引所に頼らない個人投資家などがそれぞれのコンピューターから監視する。
台帳のコピーを世界各地にあるコンピューターが同時に持ち、過半数のコンピューターが同意したブロックだけが鎖に追加されるため、改ざんがほぼ不可能になる。この台帳のコピーを持つコンピューターを「ノード」という。
■投資商品として人気になった3つの理由
ブロックを作る役目を担うのが「マイナー(採掘者)」で、ブロック1個を完成させると報酬として新しいビットコインを受け取る。ところが、そのビットコインの発行数は最初から2100万枚で打ち止めと決められており、永遠に増えつづける円やドルとは違う。金でも、新たな埋蔵が発見されて量が増えることはあるが、ビットコインの場合はその可能性もないので、金よりも希少性が高いといえる。
「半減期」とは約4年に1度訪れるマイニングの報酬が半分になる節目のことだ。それは21万ブロックごとに訪れる。その時点で、マイニング報酬が半分になるため、マイナーはマイニングを控える。そのため「新しく市場へ出るコインの量」が減少し、供給が減るので価格は上昇する。過去4回とも半減期の前後で大きな価格上昇が見られた。
こうして、
1.希少性(発行上限あり)
2.透明性(ブロックチェーンの公開記録によりすべての取引履歴がわかる)
3.需要サイクル(4年ごとの半減期により価格は上昇する傾向)
が重なり合い、ビットコインは誕生からわずか16年で0.01ドルから11万2509ドルという1000万倍以上の桁違いの上昇を達成した。
■市場流通量が調整される「半減期」に注意
図表2は発明から現在までの価格チャートだ。半減期ごとに価格が波打ったように上昇していることがわかる。
図表3はそれを文章で解説したものだ。
■値動きは激しいが、長期で見て価格上昇
1.マイナーの報酬が半分になるので新規コインの採掘を控え供給ペースが突然減る
→一時的に供給不足に陥る
2.希少性ストーリーが再注目される
→ETFや機関投資家の買い需要が増えやすい。
3.実績:図表3のように、4回とも半減期から1年以内に過去最高値を更新している。
ビットコインは改ざんが非常に難しい、発行総量が限られている、半減期のたびに価格が上昇する傾向があるため、長期的に上昇基調にある。ただし、値動きは激しく、価格は数年単位で70~80%下落することもあり、保有するときには「分散投資と長期目線」が欠かせない。
簡単に言えば、投資の割合はせいぜい総資産の10~20%に抑えること、何によって価格が左右されるかを理解して、その事象の動向を見守りながら投資を続けることだ。
投資における戦略的アイテムとして割り切ること、そう割り切れば、ビットコインへの投資は面白いと思う。
■今後の動向を左右する「5つの軸」
今後のビットコインの価格は何によって左右されるだろうか? ここでは次の5つの事象について述べてみたい。
1.米国トランプ政権の「戦略ビットコイン備蓄(SBR)」
アメリカ政府は2025年3月、大統領令で金・石油に並ぶ第3の国家備蓄としてビットコインを恒久保有すると宣言した。
目標は3年で最大50万BTC(発行上限2100万枚の約2.4%)。押収済みBTCや他資産の売却益を充当する「予算中立」が建前。(新たな資金でビットコインを買い増しはしない)。
7月20日には約20億ドル(1ドル145円換算で約2900億円)相当を既に保有していると発表した。
国家がお墨付きを与えることで機関投資家の参入が進み、価格の下支えとボラティリティ縮小が期待される。
ただし議会与野党や次期政権の意向次第でペースが鈍化するリスクもある。
2.途上国の法定通貨化・資金調達
中米エルサルバドルが2021年、世界で初めてビットコインを法定通貨に採用した。目的は「観光促進+海外送金手数料の大幅圧縮」。IMFと衝突しつつも、火山債(BTC建て国債)や「ビットコイン・シティ」構想で外貨を呼び込もうとしている。
成功すれば「送金コスト1%未満」というメリットを求めて他のドル依存国が追随する可能性がある。
反対に価格急変で公共料金や給与が不安定になれば、法定化撤回論が強まる可能性もある。いずれにせよ海外出稼ぎで稼ぐ途上国では「送金/小口貯蓄のハードマネー」として定着するかがカギとなる。
3.制裁国・違法資金vs.規制強化
ロシアは資源輸出の一部をBTC決済で模索し、北朝鮮はサイバー攻撃で年1兆円規模の暗号資産を獲得しているとも言われている。
これらの行動に対しG7や金融活動作業部会(FATF)は「ブラックリスト」に乗せ「強制本人確認(KYC)」で汚染コイン排除を目指している。
取引所の強制本人確認が厳格化されればクリーンコインにプレミアが付く可能性があるが、取引の主体が規制の緩い地域へ移動する可能性もある。
■開発者たちは暗号資産を守る対策をしている
4.量子コンピューターがもたらす暗号解読リスク
最近ニュースで見かける量子コンピューターは、いま私たちが使うパソコンよりケタ違いに速い計算ができると期待される次世代コンピューターだ。
そこで開発者たちが用意しているのがQRAMP(クランプ)=“Quantum ResistantAddressMigrationPlan”。直訳すると「量子時代に耐えるアドレスへの引っ越し作戦」である。
この“QRAMP”の開発スケジュールが予定通りにいくのであれば、利用者がやることは“QRAMP”からの通知を見逃さず、正式な引っ越し時期が決まったら、案内どおりにボタンを押せば、「自動的に新しいアドレスに引っ越す」ことができる。
ビットコインの暗号を破ることができる量子コンピューターが出現するのは、2035年から2040年ごろなので、まだ時間がある。投資者は状況をきちんとモニターしておけばよいということになる。
最悪の場合でも、2035年以前に8~9割が新カギへ移行していれば、量子コンピューターが急に進歩しても、「いきなり全資産が抜かれる」事態は避けられるということだ。
そして5つ目の注目点は、冒頭で述べた日本の税制改正の動きだ。
■5つの要素を地図に例えるなら…
1.米国政策=北極星
備蓄方針が続く限り、「デジタル金」ストーリーは強力。ETFや年金マネーの流入で底堅さが増す。ポイントはアメリカ政府が計画通り備蓄できるかだ。
2.途上国=成長エンジン
法定通貨化&送金革命が成功すれば実需が拡大。
3.制裁マネー=もろ刃の剣
規制が甘い地域へ流動性が偏ると市場は二極化。取引所の本人確認基準(KYC)を必ずチェック。
4.量子コンピューター=長期テールリスク
2030年代を見据えてQRAMPが進むかが最大の技術課題。早めの情報収集とウォレット更新が必要。
5.日本税制=身近な実利
2026年に分離課税20%へ改正されれば、国内投資家の売買コストは大幅低下。法案の行方を注視。
ビットコインは目先の価格変動だけを追うと危険な投資のように見えるが、上の5つの軸を並べて眺めると「どういうニュースがどの軸を動かすのか」が見えてくる。
政策、実需、規制、技術、税制をセットでウォッチすることで、有効なビットコインへの投資戦略が立てやすくなるはずだ。
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浦上 登(うらかみ・のぼる)
コンサルタント
早稲田大学政治経済学部を卒業後、三菱重工業に入社、海外向け発電プラントの仕事に携わる。ベネズエラ駐在、米国ロサンゼルス営業所長などを歴任後、三菱重工グループの保険代理店に移り、取締役東京支店長。2009年にはファイナンシャル・プランナーの上位資格CFPを取得。2017年にサマーアロー・コンサルティングを設立、著書に『70歳現役FPが教える 60歳からの「働き方」と「お金」の正解』(PHP研究所)がある。
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(コンサルタント 浦上 登)