テレビやスマホゲームは子供にとって無駄な時間なのか。スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長の星友啓さんは「脳科学の研究ではゲームが脳の働きを高める“脳トレ”になりうることがわかっている。
ゲームのやり過ぎはよくないが、上手に付き合うことが大切だ」という――。
※本稿は、星友啓『なぜゲームをすると頭が良くなるのか』(PHP新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
■「ゲーム=悪」は本当なのか
アーケード、家庭用ゲーム黎明期から数十年の時を経て、テクノロジーが大きく形を変えても、まだまだ根強い人気なのがシューティングゲーム。先駆けの「コンピューター・スペース」のように、ミサイルや銃などを用いて敵を倒すことが目的で、射撃(シューティング)の操作が中心のゲームジャンルです。
日本のゲームシーンで懐かしいところだと、ツインビー、グラディウス、ゼビウスなどなどがありますが、今でもコール オブ デューティなど大人気のものがあります。
また、シューティングゲームのように、キャラクターに対してさまざまな操作を行い、ゲームの中での出来事に反応して、ステージをクリアしたり、与えられたミッションを達成したり、対戦したりするゲームのジャンルを、より広いゲームジャンルとして「アクションゲーム」といったりもします。
シューティングゲームやアクションゲームは、科学的研究では最も長く効果検証がされてきました。そうした研究の積み重ねの中で早くから明らかになってきたのは、シューティングゲームやアクションゲームは、空間認識能力と注意力を高めてくれるということです。
■集中力と記憶力が同時に鍛えられる
ゲームをすることで、意識できる視野が広がり、目の前で起こる変化をより正確に把握できるようになり、視覚情報の処理スピードがアップする。さらに、注目すべき対象に焦点を当てて、無関係の出来事に惑わされない集中力がアップする(※1)。
画面に映るキャラクターを認識して、周りの敵に気をつけながら、タイミングよくシューティングを繰り返すことで、集中を保ちながら、視覚情報に素早く反応する認知能力がアップするのです。
さらに、ゲームをやることで、ワーキングメモリー(※2)や短期記憶(※3)の能力が上がることもわかってきました。

「ワーキングメモリー」は、自分が認識したものごとを現在の意識にホールドして、整理したり、組み合わせたり、なんらかの「コマンド」を意識の中で実行する働きのことです(※4)。
「5+7」という足し算を今意識して、「5」と「7」を足し合わせることができるのは、まさにこのワーキングメモリーのおかげです。
■クリアできるのは短期記憶のおかげ
一方で、いったん意識したものを、少しの間記憶にとどめておく能力を、短期記憶といいます。
たとえば、シューティングゲームをプレーしているとしましょう。
難しいステージで、何度やっても、どうしても中盤でストップしてしまう。
無我夢中でプレーを続けているうちに、やっと、中盤でうまくいくやり方を見つけることができた。
次のプレーは、念願のステージクリアを目指す。まずは目の前の画面で起こる出来事に集中して、適切に対応していく。それができるのはワーキングメモリーのおかげ。
そして、にっくき中盤。先ほどのうまくいったプレーを思い出して、同じようにやってみる。見事、難関をクリア! そうやって、中盤の成功プレーを思い出すことができたのは、短期記憶のおかげです。

このように、ゲームの中では、ワーキングメモリーと短期記憶の力を最大限に利用し、難関ステージをクリアしたりしているわけです。
まさにゲームは認知能力アップのトレーニングの役割をしてくれているのです。
■「時間の無駄」は大間違い
そしてさらに極め付き! 空間認識能力やワーキングメモリー、短期記憶を良くすることは、理系の力を伸ばすことに直結します(※5)。
前述の例にもあるように、数字を意識して、足し算を実践したり、図形や実験を観察したり、道具や機械装置の操作を覚えて実践したり。空間や形を認識する能力や、目の前にあるものに注目したり、意識したりする力、さらには、いったん意識したものを思い出す力。これらの能力は理系のスキルには欠かせません。
つまり、ゲームは、理系の力を訓練してくれる効果的なツールなのです。
それだけに、「ゲームはエンタメにすぎず、時間の無駄遣い」などとネガティブな印象に惑わされて、ゲームを忌み嫌うのは実にもったいないのです。
ゲームをやることで私たちの認知能力に良い結果が出ることが科学的に明らかにされてきている。ゲームから完全に逃れることが難しい現代の社会の中で、その効果をうまく使わない手はありません。
さて、ここまで解説してきたゲームの認知能力アップの効果は、最新の脳科学の成果によっても裏付けられています。
たとえばfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使って、脳の活動を可視化してみると、シューティングゲームをよくやっている人は、空間全体に注意をうまく分散させていることがわかります(※6)。

■脳科学研究が示す「ゲーム=最強脳トレ」
また前述したように、ゲームをプレーすると、短期記憶の役割を果たす海馬の灰白質が増大したり、ワーキングメモリーを支える前頭葉(背外側前頭前野)が拡大、活性化することが報告されています(※7)。
つまり、ゲームをプレーすることで、脳自体に変化が起き、その変化が空間認識能力のアップや、ワーキングメモリー、短期記憶の向上につながっているわけです。
こうした研究結果を受けて、脳科学の専門家たちが世界的な科学論文誌Natureの論文レビュー誌において、以下のように総括しています。
集中したゲームの使用が、認知機能の改善につながるというエビデンスは増える一方です。ゲームは、とてもやる気の上がる、制御された行動訓練プログラムとして捉えることができます。ゲームをプレーすることで、情報処理能力、注意力、記憶、認知力や社会性が上がることはこれまでに報告されている通りです。
行動の変化が脳の変化から生じるため、タスクのパフォーマンスの向上とともに、生理学的および機能的な神経回路の再構築が起こっているのです(※8)。

まさにゲームはモチベーション爆上がりの効果的脳トレプログラムなのです。
他にもゲームをプレーすることのいい効果がいくつも確認されています。その1つがマルチタスクの能力です。「マルチ」は「複数」、「タスク」は「作業」なので、複数の作業を「同時」にこなす「ながら作業」のことです。
■マルチタスク能力にプラスの効果
電話をかけながらメモを取ったり、家事をしながらテレビを見たり、テレビを見ながらスマホを見たり。
私たちは生活のいろいろな場面でマルチタスクをしています。
そしてこのマルチタスク、異なる作業を同時にやっているように感じるわけですが、実は、そうではありません。
実際には、1つのタスクから、もう1つのタスクにと、素早い切り替え作業が行われているにすぎないのです。
たとえば、テレビを見ながらスマホをいじっていたとしましょう。テレビとスマホのマルチタスクです。そのとき実際に起こっているのは、少しテレビを見ては、少しスマホを見るというこまめな切り替え作業で、自分の意識が、テレビとスマホを行ったり来たりしている状態です。
そして、マルチタスクをしている際に、1つのタスクから、もう1つのタスクに戻るとき、一定の時間の隙間が生じてしまうことがわかっています。
テレビからスマホ、もしくは、スマホからテレビに切り替わるとき、どうしてもすぐには意識を切り替えることができず、一瞬の空白時間が生じています。
■だからゲーマーの作業効率は圧倒的に高い
そのように、あるタスクから違うタスクに切り替えるときに生じる時間の隙間のことを「タスク切り替えコスト」と呼びます。
これまでの研究で、ゲームプレーヤーは、マルチタスク時のタスク切り替えコストが格段に短いことがわかってきました(※9)。
確かにゲームの中はマルチタスクだらけです。画面を見ながらコントローラーを操作したり、画面の右側の出来事に注意しながら、左側のキャラクターを操作したり……。

ゲームをうまくプレーするにはいくつものことに気を配りながら、まさにマルチタスクをしなくてはいけません。
そうした自然なゲームのプレーが、マルチタスクの切り替えコストを減らすトレーニングになっていると考えられるのです。

※1 Green CS, Bavelier D (2012) "Learning, Attentional Control, and Action Video Games." Current Biology, 22(6):R197-206.

※2 Blacker KJ, Curby KM, Klobusicky E, Chein JM (2014) "Effects of Action Video Game Training on Visual Working Memory." Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 40(5): 1992-2004.

※3 Looi CY, Duta M, Brem AK, Huber S, Nuerk HC, Kadosh RC (2016) "Combining Brain Stimulation and Video Game to Promote Long-Term Transfer of Learning and Cognitive Enhancement." Scientific Reports, 6:22003.

※4 Cowan N (2008) "What are the Differences between Long-Term, Short-Term, and Working Memory?" Progress in Brain Research, 169:323-38.

※5 Wai J, Lubinski D, Benbow CP, Steiger JH (2010)"Accomplishment in Science, Technology, Engineering, and Mathematics (STEM) and its Relation to STEM Educational Dose: A 25-year Longitudinal Study." Journal of Educational Psychology, 102(4):860-71.

※6 Bavelier D, Achtman RL, Mani M, Föcker J (2012) "Neural Bases of Selective Attention in Action Video Game Players." Vision Research, 61:132-43.

※7 Brilliant TD, Nouchi R, Kawashima R (2019) "Does Video Gaming Have Impacts on the Brain: Evidence from a Systematic Review." Brain Science, 9(10):251.

※8 Bavelier D, Green CS, Han DH, Renshaw PF, Merzenich MM, Gentile DA (2011) "Brains on Video Games." Nature Reviews Neuroscience, 12(12):763-8.

※9 Colzato LS, van Leeuwen PJA, van den Wildenberg WPM, Hommel B (2010) "DOOM'd to Switch: Superior Cognitive Flexibility in Players of First Person Shooter Games." Frontiers in Psychology, 1:8 10.3389/fpsyg.2010.00008.

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星 友啓(ほし・ともひろ)

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長

哲学博士、EdTechコンサルタント。1977年東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。その後渡米し、Texas A&M大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士を修了。同大学哲学部の講師として教鞭をとりながらオンラインハイスクールのスタートアップに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアにむけて教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。全米や世界各地で教育に関する講演を多数行う。著書に『スタンフォード式生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『全米トップ校が教える 自己肯定感の育て方』『脳を活かすスマホ術 スタンフォード哲学博士が教える知的活用法』(共に朝日新書)がある。

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(スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長 星 友啓)

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