子どもの悩みに親はどう対応すべきか。精神科医さわさんは「たとえば子どもが自分の外見にコンプレックスを持っている場合、親ならつい『そんなことないよ』と否定したくなる。
■理想と現実のギャップに悩む子どもたち
「もっと顔がかわいかったら、人生違ったかもしれない」
私のクリニックには、5歳から大人まで、さまざまな悩みを抱える方が訪れます。中には「生きるのがつらい」という大きな悩みを抱え、その一部として容姿への葛藤が現れるケースもあります。
特に小学校高学年から思春期にかけては、顔や体型などの外見に過度な関心を持ち、自分にダメ出しをする子どもが増えてきます。最近ではSNSやアイドル文化、画像加工アプリの影響で「理想の顔」と「実際の顔」とのギャップに悩み、「整形したい」と考える子も少なくありません。一度ネットで情報を調べると、関連広告が表示され続ける仕組みも、気持ちを強化してしまいます。
■“万能感”が揺らぐのは“成長の証”
でも実は、自分の容姿に疑問を持ったり、他人と比べて落ち込んだりするのは、思春期の発達段階においてごく自然なことです。小学生くらいまでは、子どもは「なんでもできる!」という“万能感”を持っています。だから親の「かわいいね」「すごいね」といった言葉を無条件に信じることができます。
その万能感が薄れ、「自分は他人からどう見られているのか?」を強く意識し始めるのが思春期です。容姿に限らず、勉強や運動の能力なども比較対象となり、自己評価が揺らぐ時期でもあります。だからこそ、「自分は人と比べて劣っている」と感じることは、ある意味では“成長の証”とも言えるのです。
私がよく診察室で話すのが、お笑い芸人のフットボールアワー・岩尾望さんのエピソードです。「ブサイク」をネタにされることが多い岩尾さんですが、幼い頃から家族に「あなたはかわいい」「最高にカッコいい」と言われて育ったそうです。そのため、芸人になるまで自分の見た目をネタにされるとは思っていなかった、といいます。これは「あるがままの自分を肯定される体験」が積み重ねられていた証です。
■なぜ「整形したい」と思うようになったのか
反対に、思春期までにそうした肯定的な経験が少なかったり、いじめやからかいによって自己肯定感が傷つけられたりすると、「整形すれば自分が変われる」「この顔ではダメなんだ」といった思考に陥りやすくなります。
では、実際に子どもが「整形したい」と言ってきたとき、親はどう対応すればいいのでしょうか。
つい「今のままで十分かわいいよ」「そんな必要はないよ」と言ってしまいたくなるかもしれません。その気持ちは愛情から来るものですし、当然の反応です。
でも、実はこの言葉が逆効果になることもあるのです。「自分の苦しみを親は理解してくれない」と、子どもが心を閉ざしてしまう可能性があるからです。
まずは、「整形したい」と思うようになった背景に耳を傾けてみてください。「そう思うようになったのは、どんなことがあったから?」「話したくないなら無理に聞かないけど、苦しんでいるなら力になりたいな」――そんな言葉で、子どもが話しやすい雰囲気をつくってあげてください。
■最終的に決断するのは子ども自身
整形するかどうかをすぐに決める必要はありません。いったん保留にする、一緒に情報を集めて考える、やめる選択も含めて、親子で丁寧に対話を重ねていくことが大切です。
私自身は、整形を肯定も否定もしません。ただ、メディアリテラシーがまだ育ちきらない年齢での美容整形が一般化してきていることには危機感を持っています。だからこそ、最終的にどうするかを“子ども自身が納得して選ぶ”ことが何より重要なのです。
「自己決定」は年齢にかかわらず、子どもの自立の根幹を支える力です。もちろん年齢に応じて選択肢を整理したり、情報を一緒に集めたりするサポートは必要ですが、「あなたの考えを大事にしたい」という姿勢が伝わることが大切なのです。
たとえ子どもの選択が親の望む結果にならなかったとしても、「信じてくれた」という実感は、子どもの中に確かな自己肯定感として残ります。
■親自身の“矛盾”に気づくことが第一歩
子どもが「整形したい」と言い出すのは、親自身の価値観を見直すチャンスでもあります。
子どもは、親の言葉だけでなく、普段の行動や表情、ちょっとした一言まで敏感に感じ取っています。親が「人は見た目じゃないよ」と言いながら、テレビを見て「この人は太ってるから売れないね」などと話していたら、どう感じるでしょうか。
このような、言葉と行動が矛盾している状態を心理学では「ダブルバインド(二重拘束)」といいます。
多くの親が悪気なくやってしまいがちですが、子どもはこの矛盾に深く傷つき、やがて親への不信感へとつながっていきます。
でも、親だって完璧でなくていいのです。大切なのは、「あ、今までこんなふうに言ってたな」「もしかしたら傷つけていたかも」と“気づくこと”。気づいたうえで、「あのときの言い方、ちょっとごめんね」と素直に謝る姿勢こそが、信頼を取り戻す第一歩になります。
■「ルッキズム」が行き過ぎると…
近年、「ルッキズム(外見による評価や差別)」という言葉が注目されています。これは医学用語ではありませんが、こうした価値観が極端になることで、摂食障害などの精神疾患につながるリスクがあることも事実です(もちろん要因はそれだけではありません)。
実際、「整形できないなら死ぬしかない」と訴えたり、髪型やメイクが思い通りにならないことでパニックになったり、朝の準備に何時間もかかって学校に行けなくなったりといったケースも見受けられます。
こうした日常生活への支障や、親として「少しおかしいかも」と不安を感じることがあれば、迷わず専門家に相談してください。いきなり精神科に行くのはハードルが高いと感じる場合は、まずスクールカウンセラーに相談するのも一つの手です。そこから医療機関と連携して支援につなげることも可能です。
親自身が「どう対応したらいいのかわからない」「自分のせいかもしれない」と思い悩むこともあるかもしれません。
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精神科医さわ(せいしんかいさわ)
精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師
医療法人「霜月之会」理事長。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。発達障害の娘の育児に苦労しながらも、シングルマザーとして2人の娘を育てる。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、2021年3月名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。これまで延べ3万人以上の診察に携わっている。著書に『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)がある。
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(精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師 精神科医さわ)
しかし、本当に大切なのは『親は私の苦しみを理解してくれている』と思わせることだ」という――。
■理想と現実のギャップに悩む子どもたち
「もっと顔がかわいかったら、人生違ったかもしれない」
私のクリニックには、5歳から大人まで、さまざまな悩みを抱える方が訪れます。中には「生きるのがつらい」という大きな悩みを抱え、その一部として容姿への葛藤が現れるケースもあります。
特に小学校高学年から思春期にかけては、顔や体型などの外見に過度な関心を持ち、自分にダメ出しをする子どもが増えてきます。最近ではSNSやアイドル文化、画像加工アプリの影響で「理想の顔」と「実際の顔」とのギャップに悩み、「整形したい」と考える子も少なくありません。一度ネットで情報を調べると、関連広告が表示され続ける仕組みも、気持ちを強化してしまいます。
■“万能感”が揺らぐのは“成長の証”
でも実は、自分の容姿に疑問を持ったり、他人と比べて落ち込んだりするのは、思春期の発達段階においてごく自然なことです。小学生くらいまでは、子どもは「なんでもできる!」という“万能感”を持っています。だから親の「かわいいね」「すごいね」といった言葉を無条件に信じることができます。
その万能感が薄れ、「自分は他人からどう見られているのか?」を強く意識し始めるのが思春期です。容姿に限らず、勉強や運動の能力なども比較対象となり、自己評価が揺らぐ時期でもあります。だからこそ、「自分は人と比べて劣っている」と感じることは、ある意味では“成長の証”とも言えるのです。
私がよく診察室で話すのが、お笑い芸人のフットボールアワー・岩尾望さんのエピソードです。「ブサイク」をネタにされることが多い岩尾さんですが、幼い頃から家族に「あなたはかわいい」「最高にカッコいい」と言われて育ったそうです。そのため、芸人になるまで自分の見た目をネタにされるとは思っていなかった、といいます。これは「あるがままの自分を肯定される体験」が積み重ねられていた証です。
■なぜ「整形したい」と思うようになったのか
反対に、思春期までにそうした肯定的な経験が少なかったり、いじめやからかいによって自己肯定感が傷つけられたりすると、「整形すれば自分が変われる」「この顔ではダメなんだ」といった思考に陥りやすくなります。
では、実際に子どもが「整形したい」と言ってきたとき、親はどう対応すればいいのでしょうか。
つい「今のままで十分かわいいよ」「そんな必要はないよ」と言ってしまいたくなるかもしれません。その気持ちは愛情から来るものですし、当然の反応です。
でも、実はこの言葉が逆効果になることもあるのです。「自分の苦しみを親は理解してくれない」と、子どもが心を閉ざしてしまう可能性があるからです。
まずは、「整形したい」と思うようになった背景に耳を傾けてみてください。「そう思うようになったのは、どんなことがあったから?」「話したくないなら無理に聞かないけど、苦しんでいるなら力になりたいな」――そんな言葉で、子どもが話しやすい雰囲気をつくってあげてください。
■最終的に決断するのは子ども自身
整形するかどうかをすぐに決める必要はありません。いったん保留にする、一緒に情報を集めて考える、やめる選択も含めて、親子で丁寧に対話を重ねていくことが大切です。
私自身は、整形を肯定も否定もしません。ただ、メディアリテラシーがまだ育ちきらない年齢での美容整形が一般化してきていることには危機感を持っています。だからこそ、最終的にどうするかを“子ども自身が納得して選ぶ”ことが何より重要なのです。
「自己決定」は年齢にかかわらず、子どもの自立の根幹を支える力です。もちろん年齢に応じて選択肢を整理したり、情報を一緒に集めたりするサポートは必要ですが、「あなたの考えを大事にしたい」という姿勢が伝わることが大切なのです。
たとえ子どもの選択が親の望む結果にならなかったとしても、「信じてくれた」という実感は、子どもの中に確かな自己肯定感として残ります。
■親自身の“矛盾”に気づくことが第一歩
子どもが「整形したい」と言い出すのは、親自身の価値観を見直すチャンスでもあります。
子どもは、親の言葉だけでなく、普段の行動や表情、ちょっとした一言まで敏感に感じ取っています。親が「人は見た目じゃないよ」と言いながら、テレビを見て「この人は太ってるから売れないね」などと話していたら、どう感じるでしょうか。
このような、言葉と行動が矛盾している状態を心理学では「ダブルバインド(二重拘束)」といいます。
たとえば、外では「うちの子には○○中学なんて無理よ」と謙遜しておきながら、家では「○○中学に入らないと将来はダメだから頑張りなさい」と言うのも同様です。
多くの親が悪気なくやってしまいがちですが、子どもはこの矛盾に深く傷つき、やがて親への不信感へとつながっていきます。
でも、親だって完璧でなくていいのです。大切なのは、「あ、今までこんなふうに言ってたな」「もしかしたら傷つけていたかも」と“気づくこと”。気づいたうえで、「あのときの言い方、ちょっとごめんね」と素直に謝る姿勢こそが、信頼を取り戻す第一歩になります。
■「ルッキズム」が行き過ぎると…
近年、「ルッキズム(外見による評価や差別)」という言葉が注目されています。これは医学用語ではありませんが、こうした価値観が極端になることで、摂食障害などの精神疾患につながるリスクがあることも事実です(もちろん要因はそれだけではありません)。
実際、「整形できないなら死ぬしかない」と訴えたり、髪型やメイクが思い通りにならないことでパニックになったり、朝の準備に何時間もかかって学校に行けなくなったりといったケースも見受けられます。
こうした日常生活への支障や、親として「少しおかしいかも」と不安を感じることがあれば、迷わず専門家に相談してください。いきなり精神科に行くのはハードルが高いと感じる場合は、まずスクールカウンセラーに相談するのも一つの手です。そこから医療機関と連携して支援につなげることも可能です。
親自身が「どう対応したらいいのかわからない」「自分のせいかもしれない」と思い悩むこともあるかもしれません。
でも、そう感じたときこそ、ひとりで抱え込まず、支援を求めてほしいのです。
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精神科医さわ(せいしんかいさわ)
精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師
医療法人「霜月之会」理事長。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。発達障害の娘の育児に苦労しながらも、シングルマザーとして2人の娘を育てる。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、2021年3月名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。これまで延べ3万人以上の診察に携わっている。著書に『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)がある。
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(精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師 精神科医さわ)
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