株式会社ダイヤモンド社が、2022年12月に発売した『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』(小杉拓也:著)は発行部数46万部を突破した大ヒット書籍です。一般的に、九九(くく)までは小学生でも暗算できますが、この1冊をやるだけで2ケタ(19×19まで)のかけ算もパッと答えられるようになると話題です。
日販・トーハンの「2023年上半期ベストセラー」では学習参考書としては史上初となる総合3位にランクイン、2023年上半期の「日経MJヒット商品番付」などにも選ばれました。
学習参考書として史上初!『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』が2023年上半期ベストセラー3位にPR TIMES×このストーリーでは、本書の企画のきっかけやこだわりなどについて、担当編集・吉田瑞希さんに話を聞きました。(構成/根本隼)
担当編集の吉田瑞希さん
吉田瑞希(以下、吉田) 2022年4月に、人気のプロ算数講師である小杉拓也先生から「19×19まで暗算できる『おみやげ算』の企画はいかがですか」とお声がけいただいたのが、そもそものはじまりです。
私自身、大人になってから暗算をする機会がほとんどなくなり、ちょっとした計算でもスマホの電卓機能に頼っていたので、うしろめたい気持ちがもともとあったんです。なので、小杉先生に「おみやげ算」の具体的なメソッドを教えてもらったときには、自分の力だけであっという間に暗算ができるようになり、驚くとともに爽快感がありました。
「この方法なら、誰でも簡単に楽しく暗算できるようになる」と確信したので、絶対に世に出したいと思い、迷いなく企画に着手しました。
吉田 編集者にもさまざまなタイプの人がいますが、私は「ベストセラーはあえて見ない」派です。ベストセラー本の装丁やタイトルを一度見ると、どうしてもそれを意識してしまい、アイディアの可能性が狭まると思うからです。
なので、私は過去のベストセラーをリサーチするかわりに、かつて書店営業部にいた経験を生かして、都内の大型書店や教育熱が高い東京・世田谷の書店の学習参考書売り場を見て回りました。
そうやって陳列状況を観察した結果、ふと気づいたポイントがありました。
しかも今回の企画は、小学校の算数のなかでも、「19×19までの暗算」というニッチな内容です。「棚差しになる可能性が高い」と思いました。であれば、手に取ってもらえるかどうかは「タイトルの良し悪し」しだいです。タイトルは、一語一語にまでこだわろうと決めました。
吉田 表紙のデザインを決めるうえでキーポイントになった出来事がありました。
私が学参売り場の陳列を見ていたら、近くにいた小学生ぐらいの男の子が棚から1冊を取り出して、表紙を指差しながら「これ面白そうだから買って!」とお母さんに言ったんです。すると、そのお母さんは何のためらいもなく「即買い」していました。
私はその現場を目撃して、子どもの自発的な「買ってほしい」アピールが親の心に刺さるということ、そして「楽しそう」「面白そう」と直感的に思えるデザインの表紙が子どもの心を動かすということを実感しました。なので、表紙を決める際には、親戚の子どもたちに意見を聞き、全員が「楽しそう」と言ってくれたのがいまの表紙です。
タイトルが大事なのはもちろんですが、タイトルに惹かれて本を手に取った子どもが次に目にするのは表紙です。子どもたちの率直な意見を取り入れた表紙も、ヒットの要因になったと考えています。
吉田瑞希(以下、吉田) もともと、著者の小杉拓也先生から「19×19まで完全に暗算できる本」というタイトルをご提案いただいていました。そこに、たとえ書店で棚差しになっても「誰が、どうなれるか」が背表紙でパッとわかるように、「小学生がたった1日で」という要素を入れました。
さらに、小学生にやさしい言葉を意識して、「完全に」を「かんぺきに」に変えて、タイトルが完成しました。
『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』というタイトルは長めではあるのですが、デザインでメリハリをつけることでわかりやすさ・とっつきやすさがうまく表現できたように思います。
―タイトル以外のこだわりを教えてください
吉田 本の中身については、気が散るような派手な色は使わず、集中しやすい青色を基調にしつつ、楽しさも演出したいのでフクロウのイラストを随所に入れました。
また、紙についても、鉛筆・シャープペンシル・ボールペンのどれを使っても書き心地がいいものを選びました。
吉田 要因は3つあると考えています。
1つは、メインターゲットの小学生だけでなく、お孫さんがいる「おじいちゃん・おばあちゃん世代」がたくさん買っているということです。これまで寄せられた読後の感想も、圧倒的にシニア世代が多いですね。
意外だったのは、シニア世代の方々は自分用の脳トレ本として本書を活用しているだけでなく、「おみやげ算」という画期的な計算法を「孫に教えたいから購入した」という声が後を絶たないということです。
お孫さんにただ買い与えるのではなく、自分で計算法を習得して、それをお孫さんに教えたいというニーズには、発売前には気づいていませんでした。親子の場合も同じですが、おじいちゃん・おばあちゃんとお孫さんとのコミュニケーションのきっかけにもなっているんだと思います。
本を開いてすぐに難易度の高い内容が出てくると、子どものやる気を削いでしまいますし、最悪の場合は「算数は嫌い」と投げ出してしまいかねません。なので、スモールステップで、子どもが「できた」という達成感を積み重ねていけるつくりになっていることが、支持されている要因だと思っています。
ちなみに、本の末尾には、「おみやげ算マスター認定書」があって、その内容も「100点をとってすごい」ではなく「最後までやり抜いたきみはすごい」という文章になっているので、最後まで自己肯定感が高まる仕組みになっています。
3つめは、書店の入り口など目立つ場所に売れ筋の本が平積みで並ぶ「話題書」コーナーに置いてもらえるように、書店営業部が売り込んでくれたことです。
TSUTAYA 坂戸八幡店
この「話題書」コーナーでの展開によって、購買層が小学生からビジネスパーソン、そしてお孫さんを持つ世代にまで一気に広がりました。
これら3つの要因がうまくかみ合って、ここまでの大ヒットにつながったと感じています。
読者の皆さんからは、「もっといろいろな計算方法を知りたい」という声を数多くいただいたので、実はいま続編の制作にとりかかっています。ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。
定価:1,100円(税込)
発売日:2022年12月7日
発行:ダイヤモンド社
判型:B5並製・96頁
https://www.amazon.co.jp/dp/4478116563
著書は『ビジネスで差がつく計算力の鍛え方』『この1冊で一気におさらい! 小中学校9年分の算数・数学がわかる本』(ともにダイヤモンド社)、『改訂版 小学校6年間の算数が1冊でしっかりわかる本』(かんき出版)、『増補改訂版 小学校6年分の算数が教えられるほどよくわかる』(ベレ出版)など多数。
日販・トーハンの「2023年上半期ベストセラー」では学習参考書としては史上初となる総合3位にランクイン、2023年上半期の「日経MJヒット商品番付」などにも選ばれました。
学習参考書として史上初!『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』が2023年上半期ベストセラー3位にPR TIMES×このストーリーでは、本書の企画のきっかけやこだわりなどについて、担当編集・吉田瑞希さんに話を聞きました。(構成/根本隼)
担当編集の吉田瑞希さん
「おみやげ算」の爽快感を多くの人に知ってほしかった
―書籍編集の仕事について5年目の吉田さんですが、「学習参考書」を手がけるのは初めてですよね。この本の企画のきっかけを教えてください。吉田瑞希(以下、吉田) 2022年4月に、人気のプロ算数講師である小杉拓也先生から「19×19まで暗算できる『おみやげ算』の企画はいかがですか」とお声がけいただいたのが、そもそものはじまりです。
私自身、大人になってから暗算をする機会がほとんどなくなり、ちょっとした計算でもスマホの電卓機能に頼っていたので、うしろめたい気持ちがもともとあったんです。なので、小杉先生に「おみやげ算」の具体的なメソッドを教えてもらったときには、自分の力だけであっという間に暗算ができるようになり、驚くとともに爽快感がありました。
「この方法なら、誰でも簡単に楽しく暗算できるようになる」と確信したので、絶対に世に出したいと思い、迷いなく企画に着手しました。

ベストセラーは見ない。かわりに「売り場」をみる
―初めて挑戦する「学習参考書」ということで、特に心がけた点はありますか?吉田 編集者にもさまざまなタイプの人がいますが、私は「ベストセラーはあえて見ない」派です。ベストセラー本の装丁やタイトルを一度見ると、どうしてもそれを意識してしまい、アイディアの可能性が狭まると思うからです。
なので、私は過去のベストセラーをリサーチするかわりに、かつて書店営業部にいた経験を生かして、都内の大型書店や教育熱が高い東京・世田谷の書店の学習参考書売り場を見て回りました。
そうやって陳列状況を観察した結果、ふと気づいたポイントがありました。
それは、小学校から高校までの各科目の参考書やドリルがところ狭しと並ぶ学参売り場では、横幅をとる「平積み」のスペースがビジネス書と比べると少なく、発売直後の新刊でも背表紙しか見えない「棚差し」になるケースが多いということです。
しかも今回の企画は、小学校の算数のなかでも、「19×19までの暗算」というニッチな内容です。「棚差しになる可能性が高い」と思いました。であれば、手に取ってもらえるかどうかは「タイトルの良し悪し」しだいです。タイトルは、一語一語にまでこだわろうと決めました。
書店で見かけた“親子の会話”がヒントに
―書店に直接足を運んだことで、ほかに発見はありましたか?吉田 表紙のデザインを決めるうえでキーポイントになった出来事がありました。
私が学参売り場の陳列を見ていたら、近くにいた小学生ぐらいの男の子が棚から1冊を取り出して、表紙を指差しながら「これ面白そうだから買って!」とお母さんに言ったんです。すると、そのお母さんは何のためらいもなく「即買い」していました。
私はその現場を目撃して、子どもの自発的な「買ってほしい」アピールが親の心に刺さるということ、そして「楽しそう」「面白そう」と直感的に思えるデザインの表紙が子どもの心を動かすということを実感しました。なので、表紙を決める際には、親戚の子どもたちに意見を聞き、全員が「楽しそう」と言ってくれたのがいまの表紙です。
タイトルが大事なのはもちろんですが、タイトルに惹かれて本を手に取った子どもが次に目にするのは表紙です。子どもたちの率直な意見を取り入れた表紙も、ヒットの要因になったと考えています。
敬遠されがちな長すぎるタイトルにした理由
―タイトルはどのようにして決めましたか?吉田瑞希(以下、吉田) もともと、著者の小杉拓也先生から「19×19まで完全に暗算できる本」というタイトルをご提案いただいていました。そこに、たとえ書店で棚差しになっても「誰が、どうなれるか」が背表紙でパッとわかるように、「小学生がたった1日で」という要素を入れました。
さらに、小学生にやさしい言葉を意識して、「完全に」を「かんぺきに」に変えて、タイトルが完成しました。
『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』というタイトルは長めではあるのですが、デザインでメリハリをつけることでわかりやすさ・とっつきやすさがうまく表現できたように思います。

―タイトル以外のこだわりを教えてください
吉田 本の中身については、気が散るような派手な色は使わず、集中しやすい青色を基調にしつつ、楽しさも演出したいのでフクロウのイラストを随所に入れました。
また、紙についても、鉛筆・シャープペンシル・ボールペンのどれを使っても書き心地がいいものを選びました。
想定していなかったシニア層の意外なニーズ
―発売から半年で発行部数は46万部。細く売れ続けるロングセラーが多い学習参考書では異例のペースですが、大ヒットの要因は何だと思いますか?吉田 要因は3つあると考えています。
1つは、メインターゲットの小学生だけでなく、お孫さんがいる「おじいちゃん・おばあちゃん世代」がたくさん買っているということです。これまで寄せられた読後の感想も、圧倒的にシニア世代が多いですね。
意外だったのは、シニア世代の方々は自分用の脳トレ本として本書を活用しているだけでなく、「おみやげ算」という画期的な計算法を「孫に教えたいから購入した」という声が後を絶たないということです。
お孫さんにただ買い与えるのではなく、自分で計算法を習得して、それをお孫さんに教えたいというニーズには、発売前には気づいていませんでした。親子の場合も同じですが、おじいちゃん・おばあちゃんとお孫さんとのコミュニケーションのきっかけにもなっているんだと思います。
ヒットの要因は「スモールステップ」の解説か?
吉田 2つめは、計算法を難しく感じさせないように、簡単な内容から少しずつ達成度を高めていく「スモールステップ」の構成になっていることです。本を開いてすぐに難易度の高い内容が出てくると、子どものやる気を削いでしまいますし、最悪の場合は「算数は嫌い」と投げ出してしまいかねません。なので、スモールステップで、子どもが「できた」という達成感を積み重ねていけるつくりになっていることが、支持されている要因だと思っています。
ちなみに、本の末尾には、「おみやげ算マスター認定書」があって、その内容も「100点をとってすごい」ではなく「最後までやり抜いたきみはすごい」という文章になっているので、最後まで自己肯定感が高まる仕組みになっています。
3つめは、書店の入り口など目立つ場所に売れ筋の本が平積みで並ぶ「話題書」コーナーに置いてもらえるように、書店営業部が売り込んでくれたことです。

TSUTAYA 坂戸八幡店
この「話題書」コーナーでの展開によって、購買層が小学生からビジネスパーソン、そしてお孫さんを持つ世代にまで一気に広がりました。
これら3つの要因がうまくかみ合って、ここまでの大ヒットにつながったと感じています。
読者の皆さんからは、「もっといろいろな計算方法を知りたい」という声を数多くいただいたので、実はいま続編の制作にとりかかっています。ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。
■『小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本』
著者:小杉拓也定価:1,100円(税込)
発売日:2022年12月7日
発行:ダイヤモンド社
判型:B5並製・96頁
https://www.amazon.co.jp/dp/4478116563
■著者プロフィール:小杉拓也(こすぎ・たくや)
東京大学経済学部卒。プロ算数講師。志進ゼミナール塾長。プロ家庭教師、SAPIXグループの個別指導塾の塾講師など20年以上の豊富な指導経験があり、常にキャンセル待ちの出る人気講師として活躍している。現在は、学習塾「志進ゼミナール」を運営し、小学生から高校生に指導を行っている。毎年難関校に合格者を輩出している。算数が苦手な生徒の偏差値を45から65に上げて第一志望校に合格させるなど、着実に学力を伸ばす指導に定評がある。暗算法の開発や研究にも力を入れている。 ずっと算数や数学を得意にしていたわけではなく、中学3年生の試験では、学年で下から3番目の成績だった。数学の難しい問題集を解いても成績が上がらなかったので、教科書を使って基礎固めに力を入れたところ、成績が伸び始める。その後、急激に成績が伸び、塾にほとんど通わず、東大と早稲田大の現役合格を達成する。この経験から、「基本に立ち返って、深く学習することの大切さ」を学び、それを日々の生徒の指導に活かしている。
著書は『ビジネスで差がつく計算力の鍛え方』『この1冊で一気におさらい! 小中学校9年分の算数・数学がわかる本』(ともにダイヤモンド社)、『改訂版 小学校6年間の算数が1冊でしっかりわかる本』(かんき出版)、『増補改訂版 小学校6年分の算数が教えられるほどよくわかる』(ベレ出版)など多数。
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