これはそんなIMADEYAが、私、小島を初の社外取締役として迎え入れたストーリー。その特異な経緯を、本人の目線からご説明します。
プロフィール
株式会社 いまでや 社外取締役 小島 雄一郎
立教大学法学部を卒業し、2007年に電通入社。営業職を経て、第1回販促会議賞(現販促コンペ)の受賞をきっかけにプランナーに転向。 その後、同賞を5回連続入賞。若者研究領域を専門とし、社内ベンチャーとして大学生向け事業を開発し、事業売却。またオフラインゲームの開発で、世界3大デザイン賞の1つであるドイツのRed dotデザイン賞、キッズデザイン賞などを受賞。 2023年に電通を退社し、独立。IMADEYAの社外取締役に就任。
著書は「広告のやりかたで就活をやってみた(宣伝会議)」
日経新聞とnoteのブログサービス「日経COMEMO」でキーオピニオンリーダーとしても連載を持つ。
■IMADEYAとの出会いのきっかけは「自宅の1階が酒屋だったらいいのに」という思いつき
今から3年半前の2020年8月、新型コロナウイルスの第3波なるものが日本を襲っていたあの頃。リモート出社が定着し、自宅にいる時間が格段に増えました。しかし私は独身(バツイチ)で、都心で主流の「3階建て」を買っても持て余すことは目に見えていました。さらに当時は、同じように住宅購入を考える人も多く、土地や住宅の値段は高騰中。そこで考えたのが「店舗付き住宅」というアイデアです。
通常、3階建て住宅の1階は駐車スペースとして使われますが、私はもともと車を持つ気はありませんでした。都心はカーシェアも進んでいるので、それで十分。「だったら、1階を店舗として誰かに貸してしまえばいいんだ。」そう考えて、近所で土地を購入しました。
いざ土地を購入すると、家の計画が具体的になります。次は1階をどんなお店にするべきかを考えました。しかしいくら私が考えても、実際にお店をやるのは別の人。私はあくまでも「大家さん」です。
その時の詳しい経緯は、私が連載している日経COMEMOに書いてあります。
https://comemo.nikkei.com/n/na59d08a0ec3c
こうして2021年8月、自宅の1階にIMADEYAが誕生しました。
■少しだけ知っていると、少しだけ豊かになる
よく聞かれるのですが、私はそれまでIMADEYAと面識がありませんでした。錦糸町のPARCOや、GINZA SIXに酒屋があることは知っていましたが、その2店舗が同じIMDEYAであることすら、きちんと認識していませんでした。お酒は好きでしたが「飲むのが好き」なだけで、専門的な知識はほぼゼロ。ただそれが誘致先に「酒屋」を選んだきっかけでもあります。「勉強することなく、自然と詳しくなれたらいいのに」と考えていました。
実際に自宅の1階がIMADEYAになってから、日々のお酒はそこから調達することが多くなりました。コンビニでお酒を買う機会は減って、IMADEYAのスタッフと話すことが増えました。
少しずつお酒のことを知り、生産者のことを知り、日々の食体験が変化していきます。例えば(お恥ずかしい話ですが)、それまでの私は「お酒に季節があること」を知りませんでした。
なので最初は、1年を通じてIMADEYAの品揃えがどんどんと変わっていくことに困惑しました。最近で言えば秋の「ひやおろし」というジャンルの日本酒が並んだと思ったらすぐに無くなって、次はワインのヌーヴォー(新酒)の季節がやってくる、とそんな具合です。
日本酒はお米から、ワインは葡萄からできているので、少し考えればわかることですが、それまでは「季節を意識していなかった」と表現した方が正しいかもしれません。
少なくともIMADEYAを通じてお酒を知ったことで、私の日常には季節感が戻ってきました。少しだけ、豊かになりました。
コンビニのお酒も好きなのですが、いわゆる「クラフト製品としてのお酒」を知ることで、日常が少しだけ豊かさを増した気がします。
■「もの言う大家さん」として実感した酒業界の現状。そして、IMADEYA参画へ。
お店がオープンして以来、当初の予想通り私は「もの言う大家さん」になっていました。Instagramの投稿が不揃いな点の指摘から始まり、次第にPOPの細かいデザインなどにも口を出すようになっていきました。合言葉のように言っていたのは「これじゃお酒ビギナーには伝わらない」との指摘です。
IMADEYAが取り扱うのは、飲食店やお酒好きなど「知っている人は知っている」お酒たち。それがわかるお客さんも多いので、お店のスタッフとのやりとりも専門用語ばかり。その呪文のようなやり取りに入っていけない(まるで私のような)お客さんの姿を自宅1階の店舗でたくさん見てきました。
IMADEYAスタッフの知識や熱量に感心しながらも「このままではマーケットが広がらない」と感じたことも事実です。お酒をきっかけに、その文化や背景を知れば、もっと生活が豊かになる。しかし今はそれが「一部の詳しい人たち」にしか開かれていないのが現状です。
お酒の専門家じゃなくても、もっと言えば、お酒を飲めない人でも、もっとその文化を味わってほしい。そんな想いで商品のコンセプト開発をお手伝いしたこともありました。
例えば、2022年の9月に発売した"Who"というIMADEYA限定のワインは、生産者のもとに眠っていた試作品のワイン。その背景には「価値が定まる前だからこそ、知識に関係なく楽しんでほしい」という想いがあります。
ある意味メジャーデビューする前なので、エチケット(ラベル)はなし。
IMADEYAのワイン担当も「生産者を全面に出さなくても売れるのか」と、新たな可能性を感じています。
また、最近リリースしたのは「旬の蒸留酒」というシリーズ。
「おじさんっぽい」というイメージで苦手意識がある方も多い焼酎ですが、実際に飲んでみると、フルーツや野菜に例えられる豊かな香りを感じることができます。
そのバリエーションを活かして、12種類の蒸留酒を毎月届く定期便に仕立てました。発表後はSNSで大きな反響があり「誕生月に渡したい」などの声もいただきました。
気がついたら、大家にも関わらず商品開発にまで首を突っ込み出していました。
そうこうしている内に、私も40歳という節目の歳に。これまでの2年間、大家さんとしてIMADEYAに関わった感想を今の経営者と話している時のこと。
「IMADEYAに来ちゃえばいいじゃん!?」
と、お誘いをいただき、今日に至ります。
前職の有休消化中となった先月は、IMADEYAの店舗に立ち、飲食店への営業に同行し、日々の配送トラックに同乗しました。
とは言え、完全業界未経験。
40歳の新入社員(?)となりますが、62年目以降のIMADEYAの経年変化をお楽しみいただければ幸いです。