YKK APは経営理念の中心に「公正」をおくYKKグループの一員であり、中期経営ビジョン達成の重要課題の1つとして、持続的成長を支える「人材」―ダイバーシティ&インクルージョン(多様性&包括性)―を掲げています。公正な人事制度の実現のために、YKKグループでは2021年度より「定年制度を廃止」し、65歳以降の社員を対象にした新たな人事制度を策定しました。
新制度により、社員一人ひとりが年齢に関わらず自分の人生と仕事について「ありたい姿」を設定し、その目標の実現に向けて学び続け、行動に移していくことが求められます。

今回、65歳以降も働き続けることを選択したグローバルカーテンウォール本部 シニアオペレーションマネージャー 梶浦優さんのキャリアと仕事に関するインタビュー、および社員が望む働き方の実現に向けたYKK APのキャリア形成支援「キャリア60」研修についてご紹介します。

■ 65歳以降の人事制度で働く「グローバルカーテンウォール本部 梶浦 優さん」

経歴について①:ビルを彩るカーテンウォール設計と物件管理

1982年に入社してから6年程、黒部製造所の敷地にあった商品開発部でビル商品を担当し、当時「YCL、YCB」と呼ばれたカーテンウォール(※1)等を開発していました。2,3年で主なカーテンウォール案件も担当するようになり、自分みたいな若手にも思い切り仕事をやらせてもらえる会社だと感じました。その後、ビル外装のカーテンウォールのオーダーメイド設計を担当することに。当時、東京や大阪に行った時は高層ビルをよく観察していたので、上ばかり見て車の運転がおぼつかなかったことを覚えています。この時、自分が設計するカーテンウォール、特にオーダーメイド設計の製品が作品としてビルに残り続けることにやりがいを感じるようになりました。

社員と会社の未来を拓く、「定年制度廃止」後の働き方とキャリア形成支援


グローバルカーテンウォール本部 シニアオペレーションマネージャー 梶浦さん

経歴について②:キャリアの転機になる複数の海外勤務

大きな転機となったのが1988年のYKK香港社建材部(現:YKK AP香港社)への異動です。主力の窓に加えて、カーテンウォールの販売に力を入れるための設計部門への配属でしたが、営業、積算、調達、工場、現場対応など様々な仕事が目の前にありました。顧客との距離も近いため社外との折衝も多くなり、物件全体の管理についても学べましたし、業務の広がりを経験することができました。

その後、日本に帰ってビル物件をプロジェクト単位で管理する部門で働いていましたが、2006年には再び海外勤務をすることに。YKK AP香港社に社長として赴任することになり、まさに青天の霹靂でした。赴任直後から、商品の不具合や未払金の回収など問題は山積みでした。その中で、現地では欧米で使用されるユニット化したカーテンウォールが施工され始めていたため、香港社としてもカーテンウォールを主軸とするエンジニアリングカンパニーとして経営の舵を切りました。


社員と会社の未来を拓く、「定年制度廃止」後の働き方とキャリア形成支援


YKK AP香港社30周年記念パーティーにて(2012年)

香港社でカーテンウォールの事業が徐々に軌道に乗ってきた中、2014年末頃にYKK AP台湾社から大きな知らせが届きました。台北ランドマークの台北101タワーの隣に立つ「臺北南山廣場」物件で、70億円を超える大規模な物件受注です。その数日後、この物件のプロジェクトマネージャーとして台湾社に異動が決まりました。さらに半年後には台湾社の社長に就任することに。物件の規模からプレッシャーは相当なものでしたが、営業、調達、設計、製造、現場管理など多様なバックグランドを持つ社員とのプロジェクト体制のもと、安全、品質、スケジュール、コストへの総合的な対応によってなんとか無事に製品を納めることができました。現在は台湾社を離れて日本で勤務していますが、2023、2024年には当ビル近隣に南山新規ビル2棟の受注が決定し、臺北南山廣場の実績による顧客の信頼獲得で受注に繋がったものと感じています。

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臺北南山廣場(台北南山広場)

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「臺北南山廣場」事業者の潤泰集團、YKK AP関係者との会食にて(2023年)

現在の働き方について①:定年制度廃止と新たなスタート

63歳を迎える2021年11月には定年退職する予定でした。2021年を迎えて「定年まで残り1年をきったか」と思っていた矢先、2021年4月に会社で定年制度廃止の発表があり非常に驚きました。定年まであと半年程でしたから。定年制度が廃止になると当然ですが自分で退職のタイミングを決める必要があります。どうすればよいかと迷い、定年廃止の知らせから1年程考えた結果、現状の業務に一区切りついたと思い、退職を決断しました。しかし、当時のビル建材第一事業部長の北野さんに退職希望を伝えた際、「カーテンウォール事業の新組織 グローバルカーテンウォール本部の立ち上げ(※2)を手伝って欲しい」と言われて考えをあらためました。会社から必要とされているなら働き続けたいと思いましたし、家族に意向を伝えた際も「まだ働けて良かったね、体が動く限り働けば」と言われて安心して決断できました。
先ほどお話しした台湾の新規ビル2棟の管理を担当する中西崇人さんからも「私が良いというまで辞めないでくださいよ。私は初めてプロジェクトマネージャーになるので、最後の弟子だと思って教育してください。」と言われ、どうしたものかと思っています(笑)。

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プロジェクト管理部 担当部長 中西さん(左)と一緒に

現在の働き方について②:人材育成と精神伝承

今は在宅勤務を中心に、東京墨田区にあるYKK60ビルに週1回を目安に出社しながら海外事業会社が受注した物件の支援と、人材育成をしています。高層ビルなどの請負物件は工期が変動する為、売上の山谷が大きく、安定経営をするのが難しいビジネスです。そこでYKK APの強みである製造・販売・技術が一体となり利益を出すビジネスモデルを海外事業会社に展開し、安定経営できる事業にすることがグローバルカーテンウォール本部の役割です。海外事業会社をサポートして、物件の収益を上げるために計画を練り、工夫を凝らすことに今の喜び、達成感を得ています。

国や地域が異なると法律や慣習も変わりますが、それらを踏まえて契約内容を理解するとスムーズに物件を管理できます。契約の変更依頼の時の対応も重要なポイントです。引き受ける際は「分かりました。ただし、これだけの時間とお金がかかります」ときっちりと伝えることです。合意後は記録を残すことを徹底しますし、念には念をいれるように教えてきました。データをしっかりと残しておき、契約に基づいて商品を納めることができれば、どのような物件も安心して対応することができます。

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グローバルカーテンウォール本部 定例会議(YKK60ビル)

最近は台湾の新規物件が動き始め、月に1度は台湾に出張して直接現地の社員と話をしています。

最初の現場は2025年5月に着工し、複数の物件が同時に進行しながら2027年末に完工する予定です。私が台湾に赴任した当時の社員が今も全員在籍しているので、また彼らと一緒に仕事ができることを嬉しく思い、やりがいも感じています。ただ、私は今管理者ではなく、私自身が手足を動かして何かするわけでもないので、誰かにやってもらう必要があります。その際に彼らには指示ではなく、このようなことが考えられますよ、と提案することを意識しています。新たな気づきや工夫によりグローバルカーテンウォール本部や海外事業会社の社員が役割を果たせるように教えたいと思います。

そして、これからの世代にYKK創業社長の吉田忠雄が残した企業精神について、自分が腹に落ちたことを伝えていきたいです。入社時はあまり気にしていませんでしたが、自分の節目となる成功や失敗を振り返る時、その要因がYKKグループのコアバリュー「品質にこだわり続ける」「1点の曇りなき信用」「失敗しても成功せよ」につながっていると感じます。コアバリューは働き方だけではなく生き方にも当てはまり、時代が変わっても普遍的なことだと思います。YKK APの根底に流れている価値だと思いますし、私が会社を好きな理由でもあります。ですから、これらの企業精神について社員の実務と関係するように私なりに伝えていきたいと思っています。

自律的なキャリア形成を支援する「キャリア60」研修

YKK APは新しい人事制度のもと、学びの場や成長機会の提供の観点から、個人のキャリア開発・形成支援を強化しています。社員一人ひとりの自律したキャリア実現に向けた気づきの場やきっかけづくりとして、年代ごとにキャリア課題に沿った研修を実施しており、60歳を迎えた社員には「キャリア60」研修を実施しています。
「研修」という名称ですが、知識やノウハウを習得するものではありません。60代を迎えて今後の環境や心身の変化を想定しながら、この先会社の中で自分らしさを活かしながらどのようなフィールドで働きたいか、そのために何をしていきたいか、どのような学びが必要かを考える内容です。一方で、60代の部下を持つ上司を対象にした研修も行っており、上司の役割や心構え、組織内の世代間ギャップに関する課題を認識し、多様な世代での「共創」による組織の活性化等について考えます。2024年度はこれらの研修に約440名が参加し、受講後のアンケートには以下のような感想が寄せられました。

社員と会社の未来を拓く、「定年制度廃止」後の働き方とキャリア形成支援


「キャリア60」研修

「キャリア60」研修 受講後アンケート回答内容

<60歳社員>

  • 今後の人生について考える良い機会となり、自信を持って前向きに仕事に取り組む勇気がわいてきた。
  • 今まで培った経験、知識をもっと積極的に伝授、継承しようと思った。
  • 経験を生かす事と学び続ける事の両方が大切。目標を持ち続ける事が必要だと実感した。
  • いくつになっても「学ぶ」ことが、この先の自分を創ると感じた。若い人たちにこの大切さを伝えたい。


<60代の部下を持つ上司>

  • 60歳を過ぎてもやりがいを持てるような動機付け、強みを生かした役割を考えて目標を設定してもらい、成長を促すことが大切だと思った。
  • ベテランと若手、お互いの持ち味を寄せ合って助け合い、創造しあう「青銀共創」を実践していきたい。


キャリア研修を企画・運営する人材開発部 奥田和さんは「定年廃止に伴い、”自分のキャリアは自分で決める”ことが現実になります。いつまで働くか、どのように会社・チームに貢献するかを考え、忙しい中でも常に学び続ける意識を持ち、行動することが重要になっています。変化の激しい世の中、一人ひとりが自分らしく成長し続けられるよう、YKK APでは様々な新しい制度や機会を今後も提供し、サポートしていきます。」と制度の運用、社員の積極的な制度活用に向けた意気込みを語りました。

社員と会社の未来を拓く、「定年制度廃止」後の働き方とキャリア形成支援


キャリア研修を担当する人材開発部 奥田さん

※1 建物の荷重を直接負担しない非耐力壁。柱と梁を主要な構造体として、その構成部材にアルミやガラスなどの材料を用いて作られる外壁。

※2 カーテンウォール事業の取り組みついては下記ストーリーよりご覧ください

「グローバル連携で世界の都市空間づくりに貢献するカーテンウォール事業の取り組み」

https://www.ykkapglobal.com/ja/stories/20240529

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