イギリスではエネルギー・デイスラプター(破壊的な変化をもたらす企業)として注目され、独自のデジタル技術を駆使して再生可能エネルギーを世界中に広めているオクトパスエナジーと、日本の電力自由化以降、新規市場参入した企業としては最大規模である東京ガスが、去る2020年12月、日本でオクトパスエナジーの事業を立ち上げるための合弁会社を設立するという戦略的提携を発表しました。これは、非常に伝統的なセクターを「破壊/Disrupt」する大胆な動きとして業界内外の多くのメディアで取り上げられました。
そして、この11月、いよいよオクトパスエナジーによる電力の小売りサービスが始まります。

事業開始の裏には、コロナ禍の長期にわたる渡航制限にもかかわらず、日本とイギリス間の距離を乗り越えて、完全リモートワーク(フルリモート)で新事業立ち上げにチャレンジする姿がありました。

オクトパスエナジーの日本事業を率いるCEO 中村肇(なかむら・はじめ)と戦略企画 悦喜亮二(えつき・りょうじ)が、日本での再生可能エネルギーの促進に「ゲームチェンジ」を起こすべく、日・英ワンチームとなって進めるオクトパスエナジー事業立ち上げの背景を語ります。

―日本とイギリスを結ぶ再生可能エネルギーの合弁事業ができたきっかけは?

中村:オクトパスエナジーは、再生可能エネルギーを世界中に広めるというビジョンと、それを実現するためのテクノロジープラットフォームを持っています。電力自由化後の日本市場における事業展開の可能性を探るなか、再生可能エネルギーに対するビジョンが一致する東京ガスと出会ったというわけです。まだ新型コロナウイルスのパンデミックが始まる前の2019年12月でした。

コロナ禍にフルリモートで立ち上げた数百億円ビジネス。オクトパスエナジーが実現した、イギリス-日本間での海を越えたコラボレーション


日本のオクトパスエナジーを統括する中村肇 代表取締役社長(写真左)

―その後、コロナ禍が猛威を振るいました。渡航停止などの影響はありませんでしたか?

中村:新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた時期は、ちょうど両社の提携に向けた本格協議が始まる時期にあたりました。両社のメンバーは、トップだけではなく、担当者も含めて一度も実際に会うことがなく、全てオンラインでの協議で検討を進めなくてはいけない状況でした。ただ、双方ともこのパートナーシップによって、自分達の知っているこれまでの世界を変えたい、というコミットメントの方が断然強く、コロナ禍にあっても、「我々ならどうにかできるはずだ」という姿勢でしたね。

―オンラインのみで日本とイギリスの間でジョイント・ベンチャーが立ち上がる、しかも数百億の事業提携ですよね。これは前代未聞では?

中村:まさに、その通りです!非常に刺激的なチャレンジでしたよ。


といっても、オクトパスエナジーの企業・組織文化や哲学、クラーケン(Kraken)という独自開発によるフルスタック(Full-Stack(注1))のテクノロジープラットフォーム、そしてその成長性などなど、オクトパスエナジーそのものが、日本にとって、いや、他の多くの国においても、従来の「エネルギー会社」のイメージを覆す魅力を秘めていることは誰もが理解していました。

当然、オンラインのみのやり取りでは、込み入ったコミュニケーションはなかなか難しいものがありました。皆、こんな状況は初めてだったと思います。トップからも、「何とかして直接会いに行けないのか」という要望がありましたが、やはり、社会情勢上不可能な状況でした。

しかし、たとえ不便でも、意識的に、丁寧に、疑心暗鬼を産まないように、信頼を前提にしたコミュニケーションを繰り返して関係を築き上げました。正式な合意に至れたのは、オクトパスエナジーが「日本のエネルギーのあり方に変革をもたらす」という思いで一つになれたからです。

(注1) 技術開発において、フロントエンドからバックエンドまでのコンピュータシステムやアプリケーションが一元的に統合されたプラットフォーム。

―そもそも、言語も違うし、二つの会社があれば社風もそれぞれ異なりますよね。

中村:基本的に、日本上陸にあたっては、社風も含めてオクトパスエナジーを丸ごと持ってくる、ということでトップマネジメント陣以下、徹頭徹尾、意志が統一されており、そこにワクワクを感じるメンバーが集まっています。ですので、実は、組織全体としての社風の問題はそれほど大きな議題にはなりません。

ただ、当然ながら、契約交渉の席についた時点で、すぐに「あ、うん」の呼吸で・・・というわけには行きませんでした。さらに、全てリモートという制約がついてくるわけですから、そりゃぁ、もう更にハードルが上がりました。


しかし、繰り返しになりますが、これほどワクワクするパートナシップに携わる機会は誰もが経験できるものではありません。時間がかかっても手間がかかっても何度でも話し合おうという熱意の方が何倍もありましたね。

ビジネス交渉前に、こういったカルチャーギャップを埋めるための様々なやりとりに時間をかけることについて、「余計な手間」と考える人もいるかもしれません。しかし、私たちにとっては、「異質な者同士」がひと手間もふた手間もかけて話し合うプロセスこそが価値であり、デメリットではないのです。

コロナ禍にフルリモートで立ち上げた数百億円ビジネス。オクトパスエナジーが実現した、イギリス-日本間での海を越えたコラボレーション


―では、その「オクトパスを丸ごと」についてもう少し教えてください。

悦喜:社風について、もう少し私からお答えしますと、英国オクトパスエナジーでは、既に1000人を超える従業員が在籍しながらも、チーム全体が団結していて、かつ、CEOのグレッグ・ジャクソンや他のエグゼクティブマネジメント陣一人ひとりとの距離が近いのです。

意思決定スピードの速さも特徴的ですし、上司の意見は聞くけれど、お客さまに対して、新しく正しい価値を提供できるチャンスがある、と感じれば、現場の判断で小さくトライできる自由さと権限が与えられています。

勝手に一人独走するのではなく、一人ひとりが素晴らしいプロフェッショナルであり、トライする時も、必要な人と必要なコミュニケーションや確認を取りながら進めるはず、という根本的な信頼があります。

コロナ禍にフルリモートで立ち上げた数百億円ビジネス。オクトパスエナジーが実現した、イギリス-日本間での海を越えたコラボレーション


戦略企画マネージャー 悦喜亮二

―社員一人ひとりがエンパワーされているわけですね。自由を感じますね。

悦喜:もちろん、なんでも闇雲に手を付けるわけではありません。

常に我々のミッション(最終目標)とオクトパスエナジーの哲学(「8つのタコ足」)に沿って動きます。
そして、新しい気づきや価値を見出し、そこから柔軟にスピードを上げてアップグレード、スケールアップしていく方針です。

ちなみに、オクトパスエナジーでは、肩書きを持つリーダー層が戦略と予算だけ設定して、現場に「指示する」という文化はありません。自分の手を動かしていないリーダーは一人もいないのです。例えば、CEOのグレッグも、お客様の問い合わせに直接応えることもしばしばです。オクトパスエナジーにとって、お客さまこそが我々の一番のパートナーであり、人と人との繋がりを重視しているからです。

ですから、お客さまが求めるよりよい生活・より良い体験について、社員一人ひとりが常にアンテナを張り巡らし、自分の頭と感性、得意なところを大いに使って発想し、役職を超えて誰とでもオープンに意見交換していく、それが行いやすい職場環境を大切にしています。

それ以外にもオクトパスエナジーの組織はこだわりが強く、あちこちで徹底した「オクトパスWAY」を持っているため、東京ガスから参加しているメンバーが社風の違いを感じることは多々あると思いますが、実際は、どこ出身であれ、オクトパスエナジーに参加・採用された新メンバー達は全員、多かれ少なかれ驚きや戸惑い、時々冷や汗をかきながらも、楽しんでプロジェクトに当たっていると思います。

―立上げの話に戻りますが、フルリモートの状況で、文化も、言葉も、社風も異なる二社が一つになっていった秘訣は何でしょうか?

中村:繰り返しになりますが、オクトパスエナジーを日本に丸ごと持ってくる、という基本的な価値に全員が合意していたことがまずひとつあります。両社ともに、リーガルやコマーシャルなどの契約内容を組み上げるキーメンバーが密な関係を築けたこと、そして、逆にオンラインだからこそ、しっかりと、丁寧に、時間をかけた協議を積み重ねられたことが功を奏したと思います。

理念と志の一致も当然ですが、企業対企業の交渉でもありますから、しっかりと両社の主張を提示し合い、変に妥協せず、一貫性をもって誠実に協議に当たったことが、現在の合弁会社の設立・運営にしっかりと活かされていると思います。

時差も悩みの種でしたが、状況に応じて、イギリスのチームが始業時間を朝方に寄せたり、逆に日本のチームが就業時間を遅く夜にズラして仕事をするなど、勤務時間を調整する努力をしていました。そのようにして、お互いに相手のためにもう一歩努力をすることで、お互いの尊敬と信頼を深めていったのです。


再生可能エネルギー、脱炭素を日本で促進していくために、東京ガスとの長期的なパートナーシップの下でオクトパスエナジーの事業を始められたことが、オクトパスエナジーの最初の価値ある実績と言えるかもしれません。

コロナ禍にフルリモートで立ち上げた数百億円ビジネス。オクトパスエナジーが実現した、イギリス-日本間での海を越えたコラボレーション


オクトパスの哲学をイメージした「8つのタコ足」をもつキャラクター(右)と中村(左)

―この海を越えたコラボレーションに支えられた日本オクトパスエナジーは、何をもたらすのでしょうか?

中村:「海を越えた」コラボレーションかどうか自体には大きな意味はありません。素晴らしいパートナーシップがたまたま海を越えて結ばれただけです。

オクトパスエナジーは、日本の消費者の「エネルギー」との付き合い方・見方を一変させる力があります。ひいては、それが再生可能エネルギーの促進を後押しすることにもなると期待しています。

一方で、日本のエネルギー市場、顧客文化は特殊だと言われており、外資のエネルギー会社が自力でこの特殊性を理解し適切に対応していくことは困難かもしれません。創立135年以上という歴史をもつ東京ガスが、市場・顧客理解の知見を総動員してそこを支えます。

日本のオクトパスエナジーは、ある意味で異質な組合せから生まれたと思われるかもしれませんが、このようなパートナーシップに支えられてこそ、これまでに無いような新しい価値の創造が可能になると思います。また、そのようなオクトパスエナジーの大胆さが日本の文化と融合し、さらに新しい次元に進化していくのではないか、とチーム一同面白さと希望を感じています。

オクトパスエナジー・グループについて

コロナ禍にフルリモートで立ち上げた数百億円ビジネス。オクトパスエナジーが実現した、イギリス-日本間での海を越えたコラボレーション


オクトパスエナジー・グループ(OEG)は、2016年、「テクノロジーの力でグリーンエネルギー革命を実現し、お客様の体験を変革する」というビジョンを掲げ、英国にて設立されました。 2020年12月、オクトパスエナジー・グループは、135年の歴史を持つ国際的なエネルギー企業である東京ガスと戦略的提携に合意し、「オクトパスエナジー」ブランドを日本で立ち上げるためTGオクトパスエナジーを設立したことを発表しました。

持続可能なエネルギーをテクノロジーを通じてより安価で透明性のあるサービスとともに世界中のお客さまに提供することを使命とし、2021年9月時点で、日本を含む、イギリス、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、米国の6か国で事業を展開しています。


<参考>TGオクトパスエナジーのプレスリリース一覧はこちら
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