昨年メジャーデビュー20周年を迎え、ますます新たな冒険に乗り出しているKIRINJIが、最新シングル「killer tune kills me feat. YonYon」をリリースした。KIRINJIにとって2019年第一弾シングルとなるこの曲では、韓国と日本を繋ぐ形で活動するDJ/シンガー・ソングライターのYonYonとのコラボレーションが実現。
対談堀込高樹、弓木英梨乃(KIRINJI) × YonYon
KIRINJI「killer tune kills me feat. YonYon」Teaser
――今回の「killer tune kills me feat. YonYon」でのみなさんのコラボレーションは、堀込さんからYonYonさんに声をかける形で実現したものだったそうですね。堀込さんが、YonYonさんのことを知ったきっかけはどんなものだったんでしょうか。堀込高樹 車を運転しながらFMラジオを聴いていたら、SIRUPさんと2xxx!(ツートリプレックス)さんとの「Mirror(選択)」がたまたま流れてきたのがきっかけでした。最初は「あ、韓国語だ」と思ったんですけど、「いや、韓国語に日本語も混ざってる。この曲は何だろう?」と気になって。後で調べてみたらそれがYonYonさんだったんですよ。それで、最初はシンガーかと思っていたら、調べていくうちに『森、道、市場』にDJとして出ることを知って、「DJでもあるんだ?!」と(笑)。それで、すごくユニークな人だな、と思っていたんですよ。その後、しばらくしてKIRINJIのInstagramを開いたら、YonYonさんのアカウントからフォロー申請が来ていて。「もしかしてあのYonYonさん?」と聞いたら「そうです」と。それで、「もしKIRINJIでフィーチャリングすることがあったら、お願いできたりするの?」と聞いたところ、「いいですよ」と返事をもらいました。

――KIRINJIとYonYonさんの表現は、それぞれ違いはあるものの、同時に似ている部分と言いますか、リンクする要素も感じたりはしているのでしょうか?堀込 まぁ、音楽的に似ているというわけではないと思うんですけど、でも、YonYonさんがDJでかける曲というのは、自分が普段から聴いている曲とも似ているな、とは感じます。『森、道、市場』でのDJプレイを観ても、自分が知らない曲が色々とかかってはいたけれど、「この曲いいな」と思う感覚には、共感できるところがあって。それもあって、YonYonさんなら、KIRINJIがやっていることも楽しんでやってくれるんじゃないか、と思いました。それに、そもそもコラボするならば、我々のようなミュージシャンの場合、近いところで活動しているアーティスト同士でやっても、面白くはならないと思っているんです。

堀込 じゃあ、やべえやつみたいになってたんだ(笑)。YonYon いえいえ、そうじゃないんです(笑)。

――それぞれ曲調は違ったんですか?堀込 違いましたね。採用しなかった方はもっと暗い、サイケっぽいファンクだったので。でも、「killer tune kills me」の方がメロディアスでいいなと思って、最終的にこっちを選んだ感じです。そのときに、メロディの雰囲気も踏まえると、今回は僕が歌うよりも、弓木さんしかり、女性に歌ってもらった方がいいと思いました。弓木さんにはライブではたくさん歌ってもらっているし、アルバム曲でも歌ってくれていますけど、「そういえば、シングルで歌ってもらったことはなかったな」と思って。それで今回は、弓木さんに歌をお願いすることにしました。そこから、「もうひとり誰かに歌ってもらいたい」と考えたときに、「あ、そうだ!」とYonYonさんを思い出したんです。「killer tune kills me」は曲自体のハーモニーやメロディに女性っぽさがありつつも、ビートの強い雰囲気もあって――。――どこかディスコっぽい要素も感じられる曲になっていると思いました。堀込 そうですね。なので、クラブっぽいフレーバーも感じさせたいと思ったときに、YonYonさんならぴったりだと思ってお声がけした形です。――昨年のKIRINJIのアルバム『愛をあるだけ、すべて』は、KIRINJIの中にヒップホップやR&B、クラブ・ミュージックの要素が入ってきた作品だったと思うのですが、「killer tune kills me」も、その延長線上にあるようなサウンドになっていますね。堀込 まだその方向性に飽きていない、ということなんだと思います。僕がKIRINJIでこれまで作ってきた曲というのは、基本的に8小節のA(メロ)があって、また8小節のB(メロ)があって、サビがあってという、J-POP的な組み立てでしたけど、今回はBだけ少し変化はするものの、基本的には同じ進行のループを基調にした曲になっていて。最近は、それでも4分間飽きることなく聴いてもらえるような曲が、自分としても「上手く作れるようになってきたな」と感じているんです。そもそも、AがあってBがあって、サビがあって……という展開は、J-POP以外にはなかなかないですよね。それ自体はすごく好きだし、非常に面白いものだと思うんですけど、同時に僕はこれまでの活動の中で、「そういう曲はもう随分やったな」と感じている部分もあって。なので、今ライブだけでやっている新曲もループものなんですよ。その中で緩急をつける面白さを感じているところですね。――では、弓木さん&YonYonさんのボーカルパートはどんな風に進めていったのですか?堀込 弓木さんのボーカルパートについては、僕がメロディを考えて、それをもとに話し合って進めていきました。でも、だいたい弓木さんのイメージ通りだったよね?――聴かせていただいて、『愛をあるだけ、すべて』で弓木さんがボーカルを担当した「After the Party」と比べても、しっとりとした大人の余韻が感じられる歌い方だと思いました。弓木 そこはすごく意識しました。高樹さんとラジオをやってきた中で、高樹さんがThe Marías(ジャズやファンクの要素も取り入れたLAのビンテージ・サイケ・ポップ・バンド)を紹介して、「こういう曲、弓木ちゃんに合うと思うんだよね」ということを言われたことがあったんです。今回も「こういう歌い方はどうかな?」と、そういう雰囲気の音楽を共有して歌っていきました。そもそも、前のアルバムから、「あまり可愛く歌いすぎない」ということを少しずつ意識していたんですけど、今回はより意識した感覚です。私は口角を上げるとすぐ子供っぽい声になってしまうので、お家でも色々と聴いて歌い方を考えました。――歌い方を色々と工夫していった、と。弓木 そうですね。こんなに考えたのは初めてだったかもしれないです。KIRINJIに入った頃は、高樹さんが「もっと普段喋っているような感じで歌えばいいのに」と言ってくれていたんですけど、そういう時期を経て、今はまた歌い方を意識するようになりました。堀込 でも、今話しているときの声と、「killer tune kills me」の声って、割と近いようにも感じられるんだけど?弓木 だから、言葉にすると難しいんですけど、全部気を抜いてしまうのではなくて、「バランスを考える」ということを、初めてすごく意識したんだと思います。

――一方、YonYonさんのラップ&ボーカルパートはどんな風に考えていったんですか? YonYon デモをいただいた段階である程度テーマが決まっていて、弓木さんのパートの歌詞も既にあったので、私はそこにどういう要素を加えて、ストーリー性を持たせるか、ということを考えていきました。私の解釈では、恋に傷ついた女の子が、これまでずっと聴いていた曲が苦しくて聴けない状態になっているのが1番の歌詞で、その音楽=別れた彼氏なんだろうな、と思っていて。でも、最後はポジティブに終われたらいいな、と思ったので、2番の私のパートでは、何かしらのきっかけでその子が過去の曲に触れられるようになって、その曲や過去の恋を「いいものだった」と思えるような方向に持っていきたいと思いました。――過去に向き合えること自体がポジティブな体験だ、というニュアンスですね。YonYon はい。決して「もう一度やり直したい」ということではないんですけど、過去の恋愛もいい思い出として向き合えるような、そういう女の子にしたいと思ったので、まずは歌詞に出てくる「killer tune」をもう一度聴けるようになるきっかけづくりを、韓国語のパートに入れて、「その結果どうなったか」ということを日本語の歌詞にしていきました。――韓国語のパートには「絆創膏」のようなモチーフが出てくるんですよね?YonYon そうです。絆創膏って、人がケガをしたときに傷口に貼るものですけど、特に女性だと、「その傷口を見せないために貼る」という部分もありますよね。そのパートで書いたのは、「傷ついた心に絆創膏を貼って隠しても、結局その傷口は残ったままだし、まだ傷も癒えていない」ということですね。堀込 僕がもともと書いていた他のパートから歌詞の内容を汲み取ってくれて、そのディテールをさらに詰めてくれたような感覚でした。ドンピシャでいいものにしてくれました。

――そもそも、「killer tune」を終わった恋のモチーフとして登場させるというテーマはどんな風に出てきたアイディアだったんでしょう?堀込:最初は、サビの「♪killer tune~」という部分のメロディが浮かんで、そこに「killer tune」という言葉がはまって、そこから発想していきました。恋愛の話ではないんですけど、自分のことを考えてみたときに、ひとつの音楽に対して、今は10代の頃のようにどハマりできないな、という気持ちを感じていたんです。これは自分の年齢的なものが関係しているのかもしれないし、もしかしたらストリーミングサービスで聴くことが増えているからなのかもしれないですけど、思い返せば、10代の頃って同じ曲をずっと繰り返し聴いていて、ご飯を食べる以外の時間はずっとその曲を聴いているようなことがあったんですよ。――僕も音楽を聴くために友達の誘いを断って帰る日がありました(笑)。堀込 そうそう! 友達には全然理解されなかったですよね(笑)。もちろん今も「この曲いいな」と思って繰り返し聴くことはよくあるんですけど、過去にそれくらいひとつの音楽にどハマりする経験をしていたので、そのハマり具合って「昔は全然違ったな」「あんな経験って、もうできないのかな」と、少し寂しさを感じる部分があったりして。これってつまり、「キラーチューンに出会えていないんだな」と思ったんです。なので、「キラーチューンに出会えない」というのが最初のテーマだったんですよ。ただ、今回せっかく弓木さんとYonYonさんに歌ってもらうなら、「彼氏に出会えない」ことと「キラーチューンに出会えない」ことをくっつけて、どっちともとれるような組み立てにしたいと思いました。――堀込さんが10代の頃にひとつの曲に強烈に惹かれた経験と、恋愛において相手に強烈に惹かれるようなモチーフが、楽曲の中で重ねられているということなんですね。堀込 弓木さんとYonYonさんに歌ってもらえるなら、現代の若者の姿が浮かぶようなモチーフを入れたいと思ったので、歌詞の内容も、SNSやストリーミングサービスを使っているところを連想させるものになっています。でも、そうやって「あの人元気かな? 2人でよく聴いた曲を今聴くと、やっぱりいい曲だな」と感じることって、当然若い人だけではなくて、色んな世代の人に伝わることでもありますよね。だからこそ、今回の曲のテーマとしてもいいんじゃないかと思っていたんです。――なるほど。幅広い世代の人々に向けられたものになっている、ということですね。最後になりましたが、「killer tune kills me」というタイトルにひっかけて、みなさんが今思いつくお気に入りのキラーチューンを教えてもらえると嬉しいです。堀込 ここ何年かの曲で言うと、僕はファレル・ウィリアムスの「Happy」ですね。あの曲は誰が聴いてもキラーチューンだと思いますし、最近CMで流れてきても、いまだにいい曲だと思うので。あれはよっぽどのキラーチューンなんじゃないかな、と。「Happy」と言っているにもかかわらず、実は曲調は意外と落ち着いていて、「バカ明るい」という感じでもなかったりするところも好きですね。あと、ミックスがとにかくいいと思うんですよ。どこまで音量を上げていっても、うるさくはならないというか。YonYon 私の場合、DJという職業柄、ものすごい量の曲を聴くんですけど、その中でも最近ビビッと来た曲をキラーチューンとしてもいいですか? だとするなら、So!YoON!の「Noonwalk(Feat. SUMIN)」ですね。So!YoON!はもともとSe So Neonというバンドで活動しているボーカルの女の子のソロ・プロジェクトで、この曲は今年出たファースト・アルバムの3曲目です。フィーチャリングにSUMINというシンガー・ソングライターの方が参加しているんですけど、「Se So Neonっぽい音なのかな?」と思っていたら、全然違うもので、曲の展開がすごいんですよ。2分ちょっとまではモダンR&Bっぽい感じで進んでいくのに、そこから急にブルースのギターが入ってきたりしていて。その変わる瞬間にドキッとして「なんてかっこいい曲なんだろう」と思いました。弓木 その曲、聴きました。最近、YonYonさんが上げているプレイリストをチェックしたりもしているんですけど、私もすごく面白い曲だと思いました。最近、韓国のDEANの音楽もYonYonさんがきっかけで「いいな」と思いました。私のキラーチューンは……最近のものではないですけど、ジョン・メイヤーの「New Light」ですね。最近、「ギター・ソロが死んだ」という話があるじゃないですか? 自分はギタリストなので、その中でどうギターを弾いてかっこいいプレイを見せられるか、ということは考えているんです。たとえば、H.E.R.やセイント・ヴィンセントのような人たちって、普通に歌ってもいますけど、途中でギター・ソロを弾きはじめたりしますよね。そんなふうに、まだまだ色んなやり方があると思っていて。ジョン・メイヤーは、もともとギターが上手い人なのにそれを前面に出すわけではなくて、曲の中の短いフレーズだけでもギターのかっこよさを見せてくれる人だと思っています。この曲はとてもいい曲なので、最近聴いている回数が一番多い曲ですね。

Text by 杉山仁Photo by 山本春花
killer tune kills me feat. YonYon

収録曲
1. killer tune kills me feat. YonYonBonus Instrumental Tracks:2. 明日こそは/It’s not over yet3. AIの逃避行4. 非ゼロ和ゲーム5. 時間がない6. After the Party7. 悪夢を見るチーズ8. 新緑の巨人9. silver girl
https://jazz.lnk.to/KIRINJI_ktkm
KIRINJIイベント出演情報
CURRY&MUSIC JAPAN 2019
6月29日(土)横浜・赤レンガ倉庫イベント広場※YonYonゲスト参加決定!
https://www.yokohama-akarenga.jp/cmj/
Slow LIVE ’19 in 池上本門寺
8月30日(金)東京・池上本門寺野外特設ステージ
https://www.red-hot.ne.jp/slow/
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