2012年の設立以降、FKJを筆頭に様々なDJ/アーティストが所属し、ニューディスコ、ハウス、ファンクなどを自在に横断するパリの注目レーベル〈Roche Musique〉。このレーベルに初期から所属するアーティストのひとり、Zimmerが、キャリア初のアルバム『Zimmer』を完成させた。

Interview:Zimmer
━━あなたが最初に音楽に夢中になったときのことを教えてください。両親の家にピアノがあって、それが最初の音楽との出会いです。ピアノを弾いてみたい、と思ってレッスンを受けて、それを10年間続けました。その後、僕が16歳の時、友達と一緒にフランスのアヌシー湖のそばの公園で開催されたフリー・コンサートに行きました。そこでは大きいステージでDJがプレイしていて、あんな様子を見たのは生まれて初めてでした。パワー、人々の一体感、照明と爆音――それは僕にとって、まるでお告げのような体験でした。その瞬間から、僕も音楽に携わりたいと思うようになったんです。当時は「音楽で食べていくなんて無謀だ」と思っていましたが、たくさん努力して真剣に挑んできました。楽曲制作には細心の注意を払い、DJのやり方を習い、そして楽曲をプロデュースする方法を教わりました。
Roche Musique Best Of
━━フランスのクラブ・シーン自体にはどんな魅力を感じていますか? とても活気に満ちていて、常に進化しているところです。
Zimmer - Looking At You(Discotexas, 2011)
━━〈Roche Musique〉のアーティストから刺激を受けて、自身の音楽が変化していった部分はあると思いますか? もちろん、あると思います! 〈Roche Musique〉に入って間もないころ、僕は「ホリゾンタル・ディスコ(Horizontal Disco)」と呼んでいた音楽ジャンルに夢中でした。スロウ・モーションでスムーズな楽曲です。
Zimmer - Zimmer
━━制作にあたって、何かテーマのようなものを考えていましたか。核となるアイデアは、「自分が感じている音楽の魅力を、2つの極端な方向において探っていくこと」。とてもアトモスフェリックで、ドリーミーな音楽を聴く時は、まるであなた自身の音の旅に出るような気持ちになりますよね。かたや、パワフルな音楽はクラウドに一体感を与えます。僕は、こうした極端な感覚をラディカルな方法で探ってみたかった。そして、はっきりとわかる方法で、この2つの感情の間を行き来するような旅路をクリエイトしたいと思ったんです。このアルバム全体には、まるでミックステープのような連鎖感があり、全編を聴いてもらうことでテーマが完成する作りになっています。━━実際の制作は、どんなふうに進んでいったのでしょう? まずは2017年の初頭にデモをたくさん作って、いくつもの異なるサウンドやリズム、メロディーを考えていきました。時には、楽曲のアイデアを紙に書いて、どんな仕上がりになるのか試してみたりもしました。他には、たとえばアルペジオ・ギターを片手に8分音符を使ってスロウな曲を作ってみることもありました。シンセから作りはじめることもありましたね。
Zimmer – Landing
━━ゲスト参加しているパナマ(Panama)やローム(Laume from Yumi Zouma)との出会いはどんなものだったのですか? また、彼らとの制作で印象的だったことは?両アーティストとも、僕がもともとファンでした。2人とも、声にとてもドリーミーなヴァイブスを感じるので。そこで、それぞれにSoundcloudを通じてコンタクトを取って、いくつかインストを送ったところから制作をはじめました。僕が一緒に曲を作りたいと思うのは、基本的に、「自分の楽曲に欲しい何かを持っていて、かつ、僕には不可能なこと」を感じるアーティスト。ロームとは、ロンドンにいる時に一緒にレコーディングをして、パナマとはすべての作業をネット上で完結させました。実際に彼に会える日が楽しみ! ━━彼らは〈Cascine〉や〈Future Classic〉のような人気レーベルから作品をリリースしてきた人たちですね。そうですね。両レーベルとも、とてもエキサイティングだし、素晴らしい楽曲をたくさんリリースしていると思います。他のレーベルだと、クラブ・ミュージックならフランクフルトの〈Running Back〉や、パリ~ケルンの〈Correspondant〉が大好きです。━━アルバム名をあなたの名前『Zimmer』にした理由を教えてください。このアルバムは、自分が音楽の世界に足を踏み入れてからの、ある種の最高到達地点のようなもので、ZIMMERとして探求したいもののすべてが詰まっています。コンテンポラリーなエレクトロ・ポップやテクノ、自分が描くディスコのビジョン、ヨーロッパ的なクラブ・ミュージックや、スロウなエレクトロ・バラード……。自分のキャリアにおけるランドマーク的な作品なので、セルフ・タイトルを冠したことはとても理にかなっていると思います。━━アジアと欧米のクラブ、フロアに、違いを感じる部分はありますか? ここ最近、アジアはとてもいいエリアになっていると思います。アジアのいくつかの国では、エレクトロ・ミュージックが新たなブームになっているし、初めてエレクトロに接するときはとてもフレッシュな気持ちになりますよね。とても強いパワーを感じます。━━また、あなたが普段DJとして選曲時に大切にしていることなどもあれば教えてください。あなたの場合、様々なジャンルを自在に行き来していますよね。すごくいい質問! 僕がDJするときは、めちゃくちゃ踊るんです。そして、「ダンス」として何の曲が聴きたいかを考える。自分のDJセットをどんな方向に持っていきたいかを常に考えていて、2、3曲先のことを考えてながら、その方向に辿り着くためのヴァイブスや、どのように曲をビルドすべきかを考えながらDJをしています。僕みたいにジェットコースターのようなDJをする場合、ビジョンを持つことが重要です。エネルギーを失っていくのではなく、動かしていくことが大事。テクノからディスコへ、アップテンポからスロウテンポへ曲を変えていくのはチャレンジでもあります。でも、うまくいけば、それは魔法みたいなものになる。DJをするときには、リスクを厭わないことが大事だと思っています。
Zimmer @ Papa Cabane for Cercle
━━昨年から始めているライブセットについては、どんな思いからはじめたものだったのでしょう? また、どんな手応えを感じていますか。ライブのときは、もっと内向的になる感じがしますね。キーボードを叩いて、シンセをいじって、すべての音源をミックスして、エフェクトを加えるなど、たくさんのことをしなければならないので、より集中力が必要です。でも、ライブのゴールはみんなを旅路に連れていくこと。だから、各地でライブを行う時にはいつも自分の照明機材も一緒に持ち運んでいます。その照明を使うことで、オーディエンスを正確に自分のビジョンが示すムードへと連れていくことができる。照明はとてもパワフルなツールだと思います。プログラミングが正しければ、ミニマムな設備で多くのことが出来るから。━━楽曲で表現したいことと、ライブで表現したいことに違いはありますか?僕はDJとして「作品」を作り上げていくことにとても注力しています。そして、ライブ・パフォーマンスは全く別物として作り上げたいと思っています。DJとして15年間もやって来ているので、そろそろキーボードを弾いて、(クラブではなく)コンサートの時間に演奏して、自分で全てをトータル・コントロールできるフルセットのライブをしたいです。自分にとって、音楽とは感覚そのもの。そして、照明は音楽の次に重要なもの。トーンを整えて、現実から逃避するような感覚を増してくれます。だから、僕は自分の照明機材とともに移動しています。自分と自分のチームが行く現場には、それぞれの曲に対して「マップ」があり、その地図こそが、自分のビジョンを完璧に(照明として)映し出してくれるのです。━━あなたが音楽をつくるうえで最も大切にしていることを教えてください。常に自分自身を再創造することだと思います。何事も当然だと思わず、自分が共感できる、面白く感動させるアートを作るために頑張ること。そしてそれが他の人々にも届くといいなと思っています。今は、みんながようやく僕のアルバムを聞いて、どんなリアクションをしてくれるのかが楽しみ!! そして、秋のツアーに向けて自分のライヴをネクスト・レベルに持っていく予定です。

Text by Jin Sugiyama

Zimmer 本名:バプティスト・ムールアルプスとカリフォルニアで育った後、パリに2010年に移住して音楽制作を開始。 2011年に1stEPを発表。ほどなくしてジマー特有のスローで夢見心地なダンストラックや職人気質なリミックス、そして一連のミックステープ作品は世界中から注目を集めるようになり、若干25歳にしてヨーロッパ、北米そしてアジアツアーを敢行するスターDJとなる。2014年、パリの人気レーベルであるRoche Musiqueに加入し、それまでのディスコ調ビートからインディーポップ風ハウスへと作風が変わる。続いてEP2作『Coming of Age』(2015)と『Ceremony』(2016)を発表し、エレクトロシーンにて確固たる立場を築き、NYやサンフランシスコなど北米での公演も軒並みソールドアウト。そして2019年、アーティスト名を冠に掲げた本作を堂々と引っ提げ、世界中のフロアを揺るがす。 Twitter|Instagram|Facebook|AppleMusic|Spotify
RELEASE INFORMATION

Zimmer
2019.09.27(金)ZimmerRBCP-3332Rambling RECORDS¥2,300(+tax)Amazonで購入
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