長野県松本に君臨するMASS-HOLEは、ヒップホップを体現する男だ。ラッパーとして、ソロから地元グループのKINGPINZとFOUR HORSEMEN、さらにISSUGI、仙人掌、Mr.PUG、YUKSTA-ILLらが名を連ねるコレクティブ、1982sで精力的に活動する彼は、MONJUやRC SLUM、KANDYTOWNの名だたるMCにビートを提供するプロデューサーでもあり、DJとしての腕前も一級品。
INTERVIEW:MASS-HOLE
前作からの変化と松本に対する思い
──前作『PAReDE』は、所属していたMEDULLAが休止中のなか、ビートアルバムをリリースしていたMASS-HOLEさんが初めて発表したソロのラップアルバムでした。6年前の作品を振り返っていかがですか?MASS-HOLE 気づいたら6年、あっという間でした。『PAReDE』は当時の持っていた力が発揮出来たアルバム。好きな作品ではあるんですけど、いま聴くと粗が目立つところもあるし、ビートメイカーとのリンクがもっと強ければ、より良い作品になったんじゃないという改善点も目に付きます。
──お子さんは今おいくつなんでしたっけ?MASS-HOLE 3歳になりました。生活を見直すなかで、子育ての大変さに改めて気づかされたというか、世のお母さんたちのスゴさを実感しましたね。ほぼ毎週末、家を空けていたので、なかなか遊ぶことも、世話することも出来なかったんですけど、コロナ禍でライブやDJはなかなか出来なくなる一方で、逆に家族と近くなれたのは良かったなと。──東京から長野県松本に戻ってから10年目に発表した前作『PAReDE』以降、KINGPINZ、FOUR HORSEMENとしても活動するなど、ローカリズムに根ざしたスタンスが際立っていますが、地元に対する思いはどう変わりましたか?MASS-HOLE 前作は地元にいながら東京に向けて音楽をやっているような、地元と向き合いきれない感覚もどこかにありつつ、MASS-HOLEが松本にいるということをアピールしたアルバムだったんです。それによって、松本といったら、WINTOWN=MASS-HOLEという認知はある程度浸透してきて。
この音楽は人と出会うということ
──本来のカルチャーは、演者もオーディエンスもアーティストもリスナーもなく、みんなで作る場ですもんね。MASS-HOLE あと、個人的には、どれくらいヒップホップを好きでいられるのか。街のなかで俺が一番ヒップホップ好きというのは自負出来るし、そこは負けたくない部分であって、それを証明するために作品を作っているところはあります。──ヒップホップが好きでいつづけられる気持ちの源はどこにあるんだと思います?MASS-HOLE 俺にとっては人に会うことですね。作品制作はビートメイクがそうですけど、一人の作業が多いじゃないですか。その状態が続くと、モチベーションを維持するのが難しかったりするんですけど、友人だったり、家族だったり、東京だったら、MERCYさんとか〈MIDNIGHT MEAL RECORDS〉のみんなだったり、人と会うと元気が出る。
MASS-HOLE "boast and attitude" pro. DJ GQ(Official Video)
新しい出会い、新しいビート
──MASS-HOLEさんって、今年で38歳なんでしたっけ?MASS-HOLE そうですね。──世代、価値観の違う若い才能が出てきて、下手すると老害みたいに言われる年齢だったりするわけじゃないですか。ラップを続けていく難しさは感じることはありますか?MASS-HOLE 所詮、年齢なんて数でしかないと思っているし、若い子に対して上から物申すことなく、フラットに付き合っているつもりなので、自分はあまり感じないです。WDsounds MERCY 自分はMASS-HOLEから若い子を紹介してもらうことが多かったりするし、「no party」とか言ってるけど、本質的にはクラブをハシゴするくら遊ぶのが好きだったりするから、感覚的には若いというか。作品を聴いていても根幹をなす音楽性は大きく変化しているわけではないんですけど、そのなかでも新しいものを取捨選択していて、細かい部分はアップデートされているんですよね。MASS-HOLE 俺、地方でライブをやって、みんなで遊んだ後、明け方になると大箱のクラブに行きたくなっちゃうんですよ(笑)。それで若い子に連れていってもらうと、客がはけた大箱のフロアに客が5人とか、CYBERJAPANが来てるらしいから行ってみよう、とか(笑)。まぁ、そういう経験が作品に反映されることはないんですけど、ここ数年、現場やネットを介して、若いビートメイカーからデモをもらう機会が多かったんですね。コロナ下で時間がある時にそれを聴き返したんですけど、そのなかでキラッっと光るものを上手く作品でフックアップできれば、ビートメイカーも良い方向にいくだろうし、新しいトラックを使うことで、自分のレベルも上がるんじゃないかな。──本作にビートを提供しているCeder Law$、METもそうやって知り合った2人なんですね。MASS-HOLE そうですね。“G.O.A.T.”のビートを手掛けたCeder Law$はデモをやり取りしつつ、話していくなかで、銀座でやったストリートイベント<GL>で俺のライブやDJを観てくれていたことが発覚したり、彼はISSUGIくんのことが好きなんですけど、本人に会った時、「いつか一緒に仕事をしたいので、サインください」って言って、もらったサインを宝物にしている話を聞いて、微笑ましく思ったり。“tour life”のビートを手掛けた(5人組のクルー)Sound's DeliのプロデュースをしているMETは地元が松本で、出会ったのは東京だったんですけど、もらったデモには自分にない色があったんです。それが大事な部分だったというか、“ze belle”、“home”を手掛けたTATWOINE、そこにフィーチャーしたShoko&The Akillaもそうなんですけど、自分にはないビート、音楽を欲していたんですよね。そこにはブーンバップ、トラップの区別もないし、基準は格好良い悪いだけでいいかなって。
──キャリアのあるビートメイカーの人選も“money”を手掛けたKUT、“no party”を手掛けたMONBEE(〈BCDMG〉)の起用が意外に感じました。MASS-HOLE その2曲はよく言われます。KUTさんとの“money”にフィーチャーしているSKYEEは(NYのレゲエ・レーベル)〈Wackies〉のオーナー、ブルワッキーの娘さんなんですけど、トラックをもらった段階ですでにボーカルが入っていて、曲が出来た後に誰なのかを知ったんですよ(笑)。それから今まで交流がなかったMONBEEは、実は長野出身で、〈BCDMG〉に所属してBADHOPをはじめ、メジャーな仕事を色々やっているんですけど、彼から送ってもらったストックのなかから俺が選んだのは異様に暗いビートだったんですよね──そうした新たなコラボレーションの一方で、ラッパーにISSUGIさん、ビートメイカーにDJ GQ、DJ SCRATCH NICE、ニューヨークのSTU BANGASといった常連アーティストに加えて、スクラッチでDJ SEROW、DJ SHOE、DJ YMGの3人を迎えているところに、MASS-HOLEさんの揺るぎないヒップホップ観が表れています。MASS-HOLE ISSUGIくんとの“82dogs”のビートを提供してくれたボザック・モリスはMERCYくんが提案してくれたんですけど、俺がミックスCDに入れるくらい気に入ってるコンウェイ・ザ・マシーンの曲もボザックが手掛けていたりして。俺の好きな遅いビートなんですけど、ISSUGIくんにとっては挑戦だったみたいで、レコーディングが楽しかったって。それから、スクラッチは、ヒップホップのなかで俺が一番好きな武器なので、そこはこれからも大事にしたいですね。ただ、ターンテーブリズムは近年、存在感が薄いと思いきや、去年出た21サヴェージとメトロ・ブーミンの『SAVAGE MODE Ⅱ』に入ってる“Steppin on Niggas”のアウトロでスクラッチが入ってたり、最近でもコンウェイ・ザ・マシーンとビック・ゴースト・リミテッドの『If It Bleeds It Can Be Killed』に収録されている2曲でD-Stylesがこすっていて。やっぱり、格好良いなと思いました。
exclusive MV “NEIGHBORHOOD”:MASS-HOLE/82dogs feat. ISSUGI
──こうしてお話をうかがってきて、このアルバムは、地元松本を軸に、東京や各地のシーンを支えるキーパーソン、NYのプロデューサーたち、旧友からニューカマーまで、全てが有機的に繋がっている作品なんですね。MASS-HOLE 人と会う話ともリンクするんですけど、各地の現場で繋がって友達になったビートメイカー、ラッパー、DJたちは自分が今まで培ってきた財産でもあるので、そこは作品に活かしたかったし、みんなにも紹介したかったんですよ。例えば、“gro"win" up in the town”にフィーチャーしたEftraは、年1回のペースでDJ、ライブをやっている富山で出会ったラッパーで。やつは富山という規模の小さなシーンで自分たちの音楽を貫いて続けていて、“rumber jack”にフィーチャーしているうちの地元の若手、MIYA DA STRAIGHTと同い年なんですけど、下の世代は下の世代同士で一緒に曲を作ったりしてて、そういう話を聞くと嬉しくて。そういう人と人の繋がりを全てひっくるめたのが“tour life”という曲なんです。各地で新たな出会いや別れがあったり、楽しかったり、嬉しかったりする。そういったことも全ては一つのツアーなんだよっていう。そこからラスト曲“home”の流れは自分の中で一つの物語に落とし込めたなと思っていて、色んなツアーを経ながら、最終的に帰るのは地元であり、家なんですよ。──まだまだ、先の見えない状況ではありますが、地元、家に帰ったその先というのは?MASS-HOLE これで一つ物語を完結させたので、次はMIYA DA STRAIGHTのEPを作ったり、今は自分のビートでEftraとかMAC ASS TIGERといった若手を交えたコンピレーションを作っている最中ですね。もしアメリカだったら、俺くらいの年齢になると会社を作って、若いやつらをフックアップする裏方に回ることが多いと思います。日本ではキャリアを重ねて、ラッパーと言いつつ作品を出さないまま先輩面する、そういうスタンスは良くないなとずっと思っているので、今後も作品を作り続けるつもりです。
Text by 小野田雄Photo by 堀哲平取材協力:QUINTETSP THX:WDsounds
EVENT INFORMATION
「DEVIL'S PIE vol. 17」
2021.06.05(土)KICHIJOJI WARPOPEN 17:00ADV ¥2,500(+1d)/DOOR ¥3,000(+1d)
release liveMASS-HOLE
featuring guestSHOKO&THE AKILLA
guest liveISSUGIMONDO BANDIDO(MIYA da STRAIGHT,BOMB WALKER,Eftra)J.COLUMBUS
liveILL-TEE
djMET as MTHA2TATWOINESIN-NO-SKESEROW
※入場制限あり
開催規模の縮小、スムーズなご入場のため、前売りでの販売とさせて頂きます。また、会場内での安全面を第一に考え、前売り券は上限数に達し次第販売を終了とさせて頂きます。当日券も販売致しますが、当日の混雑状況によっては販売を中止する場合もございますので、前売り券のご購入をお勧め致します。
詳細はこちらからRELEASE INFORMATION
『ze belle』
2021.01.27(水)MASS-HOLELABEL:WDsounds品番:WDSD0046¥2,800+税
Tracklist01. ze belle(pro. TATWOINE)02. rumber jack feat. MIYA DA STRAIGHT(pro. STU BANGAS/scratch. DJ SEROW)03. gro”win” up in the town feat. Eftra(pro. MASS-HOLE)04. vandana(pro. DJ SCRATCH NICE)05. money(pro. KUT)06. no party feat. COVAN(pro. MONBEE)07. 82dogs feat. ISSUGI(pro. BOZACK MORRIS/scratch. DJ SHOE)08. ice summer(pro. MASS-HOLE)09. G.O.A.T.(pro. Cedar Law$/scratch. DJ YMG)10. boast and attitude(pro. DJ GQ)11. tour life(pro. MET as MTHA2/scratch. DJ SEROW)12. home feat. SHOKO&THE AKILLA(pro. TATWOINE)
MIX&MASTER by ZKA(GRUNTERZ/BULL CAMP)Artwork by DAICHIPhoto by TEPPEI HORISupport by J.COLUMBUS
ここから聴くCopyright (C) Qetic Inc. All rights reserved.