高度経済成長期を経て、その時代の生活様式や流行に合わせた形で進化し続け、今では当然のように日々の食生活に絶対的な存在感になったカレー。その国民食のひとつであるカレーを専門店チェーンとして多店舗化したのが株式会社壱番屋である

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 株式会社壱番屋は愛知県に本社を置き、カレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)を運営するカレー専門店チェーンである。2013年には「世界で最も大きいカレーレストランのチェーン店」としてギネス世界記録に認定された。今年5月には、群馬や神奈川など25店舗をフランチャイズ展開する「スカイスクレイパー」の新社長に22歳のあるアバイトの女性が抜擢されたことも話題になった

ギネス世界記録に認定されたCoCo壱番屋

 カレーハウスCoCo壱番屋を中核(1412店)として、総店舗数(1457店)の97%を占めており、ほぼCoCo壱番屋の会社である。その他の業態は「パスタ・デ・ココ」(27店)、「旭川成吉思汗 大黒屋」(4店)、「麺屋たけ井」(8店)、「博多もつ鍋 前田屋」(4店)がある(いずれも2024年2月末時点)。

 日本の外食チェーン店舗数ランキングを見ると、約3000店舗のマクドナルドを筆頭に、1000店を超えるチェーンは11ブランドのみだが、その中にも堂々と入っている。カレーハウスCoCo壱番屋の現在の店舗数は国内1200店(直営店107店、FC店1093店)、海外合計212店(直営店86、FC店126店)で合計店舗数は1412店となっている。


 カレーハウスCoCo壱番屋の店舗売上(24年2月期決算)は国内884億8500万円、海外169億6900万円、総合計1054億5500万円)と1000億円を超えていて(24年2月時点)、そのほとんどがフランチャイズ(国内・海外含めてFC店比率86.3%)である。

 株式会社壱番屋(本部)の売上は551億3700万円(前年比114.2%)、利益47億1500万円(前年比130.5%)、営業利益率8.6%(前年比114.7%)となっている。財務基盤は自己資本比率が70.2%と安定している。ROE(株主が出資した資金に対して企業がどれだけの利益を上げているかを示す指標)は8.7%と、自己資本比率が高い割には、その資本を効率的に活用し、利益を上げているのが分かる。

創業者夫婦が始めた喫茶店がきっかけ

CoCo壱番屋、多店舗展開で成功。22歳バイト出身社長も生んだ“独自の制度”とは
CoCo壱番屋のメニュー
 CoCo壱番屋は、50年前の1974年に創業者の宗次德二(現・特別顧問)が妻と開業した喫茶店で出したカレーライスが好評で、1978年そのカレーライスの専門店である「カレーハウスCoCo壱番屋」を創業した。

 店名は「ここが一番や!」という思いから決定。「ニコニコ・キビキビ・ハキハキ」を掲げ、「お客様第一主義」「現場主義」をスローガンにした店づくりをしていった


 各メーカーのカレールーを試したが、選んだのがハウス製品であったことから、店で出すカレーのスパイス調合などで、開店当初からハウス食品との協業を強化していた。そのハウス食品グループは2015年に壱番屋を連結子会社化している。

昭和は「我が家のカレー」が当たり前

 日本の国民食のひとつであるカレー。トロッとしたカレールーに肉(牛・豚・鶏)・玉ねぎ・にんじん・じゃがいもを入れて煮込んだものが基本である。そもそも、カレーは家庭で簡単に作れ、昔は家庭で食べるものといったイメージがあり、それぞれの家庭に「我が家のカレー」があった。昭和は特にそうだったものである。

 市販のカレールーを使いながらも、家庭独自で味噌・ウスターソース・赤ワインなどの隠し味をつけ足し、バランスよく調和されると、懐かしい我が家ならではの味になる。
時々、無性に食べたくなるのが、人に自慢したくなるのが、他にはない「我が家のカレー」ではなかろうか。

 また、経済成長に伴い、共稼ぎ世帯が増えるといった社会の変化を背景に、忙しい中での家庭の食事は簡便化ニーズが高くなる。そのため、まとめづくりができて、「冷蔵庫に保存しておけば、いつでも食べられる」といった利便性に対応したのも、カレーが普及した要因である

 寝かせれば寝かしただけ深い味わいのカレーになってより美味しさが増したものであった。

カレー専門店の多店舗展開は不可能?

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俳優の山田裕貴がイメージキャラクター
 その後、核家族化など世帯人数の減少から、家で作らずレトルトカレーで済ませるという家庭が増えてきた。メーカーが開発し、販売するのは、ボリュームのある市場を狙った標準味のレトルトカレーが多いものである。

 その標準的なレトルトカレーに食べ慣れた人たちが増えてきたのもカレー専門店が増えた要因であろう。
あまりこだわると、人には好みがあるから、市場を限定してしまうし、その味が好みだったら、とことん食べまくった上で飽きがきて全く食べなくなるのも消費特性である。

 あえてカレーを飽きが来なくて、毎日でも食べれる味にして、来店頻度を高めた上で、辛さや豊富なトッピングを用意し、顧客のほうでカスタマイズさせる工夫が受け入れられたのがCoCo壱番屋であろう

  多店舗展開をするなら標準的な味でボリュームゾーンであるマス市場に投入するのが一般的である。それぞれが持つ個性豊かな家庭のカレーをそれぞれの人たちが持つなかで、標準的なカレーでのチェーン展開は難しいというのは、外食業界ではよく言われていた。それを覆し、国内1200店まで大規模化したのがCoCo壱番屋である。

CoCo壱番屋の強みは何だったのか?

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CoCo壱番屋のカレー
 そこまで店舗拡大で来たCoCo壱番屋のストロングポイント(強み)は何だったのだろうか。まずお客目線では「組み合わせ自在のオーダーメイドカレー」が挙げられるだろう。


 ポーク、ビーフ、甘口ポークなど5種類のルーと、辛味の増減で自分好みに調整ができ、またその日の予算や気分で多くの選択肢からトッピングを選定できる。つまり自分だけのオリジナルカレーが作れる楽しさがあるのだ。毎日カレーでも問題のないカレー好きの人には特にうれしいだろう。

 そして「飽きない味のカレーである」のは店側としてもメリットがある。味に個性がありすぎると、その味を好む人たちだけになるなどお客が限定される場合があるが、肝となるカレーソースの味は自社工場で安定的に生産している。

 CoCo壱番屋のカレーは家庭の味を思わせる味で毎日食べても飽きがこないから、幅広い客層にも美味しいと感じられ、市場を拡大できる
店としても来店頻度を高められ、売上向上が期待できるといったメリットがある。

多店舗展開できた原動力は何か?

 なぜCoCo壱番屋は多店舗展開できたのか。まず理由としては「他人資源を活用して、費用を抑えた店舗網の構築」したことが考えられる。

 CoCo壱番屋では店舗の86%がフランチャイズと、他人資源の積極活用で低コストでの勢力拡大を実現できている。店舗を自ら持つのは出店費用と管理費用を考えたら相当なコストになり、イニシャルコストとランニングコストの負担にはよほどの資本力が必要である。

 それをフランチャイズという形で成功を再現できるパッケージなどを作れば、他人の資金を活用して、同じ志のもとで多店舗展開できる。その結果、コストもリスクも抑えられるものである。CoCo壱番屋はフランチャイズシステムを効果的に活用して多店舗展開に成功している企業である

多店舗展開できた2つ目の理由とは?

 そして、2つ目に「本部と加盟店が経営理念共同体として強固な関係を維持」していることも大きい。CoCo壱番屋では、正社員として壱番屋に入社し、独立を目指す「ブルームシステム」という支援制度を導入し、店舗展開力を強化している。この制度は将来、CoCo壱番屋のオーナーになる事を前提に、店舗運営のノウハウを徹底的に教え、本部と加盟店が経営理念共同体として強固な関係を構築するものである。

 だから、ほとんどがフランチャイズなのに、経営理念がしっかり店に浸透し、ブレない経営を実践しているので、本部としてもお客さんとしても安心感があるのだ。単なるフランチャイズとは違う、本部と加盟店がウィンウィンの関係を構築する制度の導入で多店舗展開を実現しているのだ。

 筆者もフランチャイズ運営部のSV(スーパーバイザー、経営指導員)をしていた経験があるが、フランチャイズ加盟店を管理統制をすることは難しい。生まれも育ちも文化も習慣も違う人たちを束ねて、同じベクトルに向かわせるということは至難の業である。

 店が順調なら上機嫌の加盟店オーナーだが、業績が悪化すると本部に罵詈雑言。本部が強すぎてもいけないが、加盟店が強いのもまた問題で、均衡の取れた緊張関係の維持が相互が成長する要因だと思う。

 今年5月には、群馬や神奈川など、1都8県で25店をフランチャイズ展開する「スカイスクレイパー」の新社長に22歳のあるアバイトの女性が抜擢されたことも話題になったが、それも納得の出来事であろう。なお、当然ながらデメリットとして、店舗経営者としての能力が身につくまでは独立できないことでも挙げられる。

日本のカレーは外国人にも人気

CoCo壱番屋、多店舗展開で成功。22歳バイト出身社長も生んだ“独自の制度”とは
テイクアウトもできるCoCo壱番屋
 成熟社会では好みも個性化・多様化・高度化し、またアレンジのしやすさから数十種類のスパイスを混ぜた独自のスパイスカレーも誕生している。カレー専門店を渡り歩く熱烈なファンも多くおり、定年退職後に自分の店を持って第二の人生を切り開こうとする会社員も多い。

 その際、飲食業は開業しやすいが、廃業率も高いというリスクがある。約半数の飲食店が2年以内に廃業し、開業3年では約7割が廃業し、10年後の生存率は1割程度という統計が出ている。だから、優れた本部のブランドや経営ノウハウや成功事例の再現性が容易なパッケージを利用できるメリットは大きくリスクも低い。

 だから、独立志向の高い人はこういう選択肢もいいのではないかと思う。日本のカレーは訪日外国人にも人気があるようで、コロナ収束後の今、盛り上がるインバウンド需要も吸引しており、今後の明るい材料でもあり、追い風でもある

 企業理念に沿った正しい判断、正しい行動によって事業の永続的な発展を目指している壱番屋。これからもカレーを通じて食生活の豊かな提案を期待したい。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan