日本工学院八王子専門学校 サッカーコースは横浜F・マリノスとの教育提携のもと、プロ選手、指導者、審判を目指すコースとして設置された。
78名の学生が在籍し、2025年シーズンはAチームの日本工学院F・マリノスが神奈川県社会人2部リーグ。
インタビュー企画、1人目は2024年4月にマリノスアカデミーから同校の総監督に就任した皐月昌弘氏。プロの目線からどんなチーム作りを心がけているのか、指導理念や今後の目標を聞いた。
人としての成長がないとサッカー選手としての成長もない
――今シーズンを振り返って、率直な感想をお聞かせください。
「勝ちきれない試合が多かったシーズンでした。特にAチームは神奈川県1部リーグへの昇格争いに加わることができずにちょっと残念だったし、力不足だったなというのが率直な感想です。ただBチームは3部リーグでグループ1位になって、昨年は果たせなかった2部への昇格戦に出場することができ、よく頑張っていたなと思います。Cチームも昨年に比べると、やるべきことをちゃんとやって、それなりに成果は出ました」
――試合以外の部分でもサッカーコース全体として、どのような成長を感じましたか。
「選手には『日常を変えていこう』と言い続けています。少しずつですけど、練習に取り組む姿勢やサッカー以外での行動の面で意識が高くなってきたのは成果かなと思います」
――人間的な成長も重視されているということですね。実際にはどのような指導を行っていますか。
「オンザピッチでもオフザピッチでも、まずはルールを守るところから。ゆくゆくは社会に出ていく準備の年代なので、サッカーというスポーツを通して当たり前のことを教えていきたいです。
やっぱりサッカーは人間性というか、その人の行動がプレーに表れるスポーツだと思っているので、まずは人としての成長がないとサッカー選手としての成長もないと思います」
――「勝つこと」と「育てること」は両立が難しいテーマです。
「本当に難しいテーマですが、トレーニングしていることが試合に出ているかを一番重視しています。勝とうと思えばリスクを負わないで蹴りまくることもできますが、まだ学生ですし勝つことを優先しすぎると、ここで失敗をしたら…というマインドになりがちです。
内容が良くなくて勝っても、それは選手の成長には繋がらない。両立することは難しいですが、自分たちがトレーニングで積み上げてきたものが、しっかりとゲームに出ているかが先ずは大事だと考えます。結果は二の次で、何回もチャレンジを繰り返して積み上げていく。
昨年の公式戦でAチームが1対5で負けた試合があったのですが、ゲーム内容はすごくよかったんです。相手はグループで優勝したチームでしたが、本当に紙一重で素晴らしいゲームでした。結果としては負けましたが、私たちが目指しているものに近づいた試合だったと選手やスタッフに話しました。
神奈川県2部リーグで奮闘する日本工学院F・マリノス(右)
(C)Qoly社会人に勝つためには、やっぱり走ること
――上手くいかない時期もあったと思います。選手たちにどのように声をかけていましたか。
「月に1回、全体ミーティングがあって、サッカーコースで目指していくフィロソフィーを選手たちと共有しています。以前はそれぞれのチームがそれぞれの監督の考えでやっていて、目指す方向性が統一されていませんでした。けど、AチームもBチームもCチームも結局やる事は一緒。方向性だけ間違わないように、毎回繰り返してきました。
その結果、上手くいかない時期があっても、今年は選手たちが自分たちでしっかりとお互いに声をかけ合いながら乗り越えました。そういう点では逞しさはあったと思います」
――トレーニングで特に力を入れたポイントはありましたか。
「一番はフィジカルですね。高校を卒業してすぐの学生たちが、いざ社会人のチームと試合をすると、どうしても当たり負けたり、球際で競り負けたりするので、今年はMFC(※キャンパス内に設置されたメディカルフィットネスセンター)で週に2回フィジカルトレーニングをして体を変えていきました。食事や私生活に関してもスタッフが選手と面談をして、食事はどうだろうとかバイト疲れしていないか、ちゃんと眠れているかをヒアリングして、日々改善に努めています。
そういった指導に加え、今年は学校にお願いしてGPSを導入しました。
自分が今どういう状況か、心拍数がどう上がってるか、この練習でどのくらい走ったか、GPSがあることによって選手たちも指標になります。ちなみにJリーグのスタッツでは一番走っているクラブで1試合119キロ。マリノスは平均115キロから116キロでした。うちは120キロぐらいは目指したいと思います」
就任2年目で確かな手応えを語る皐月総監督
(C)Qoly“サッカーを仕事に!”夢を諦めない選択肢になりたい
――来シーズンに向けての目標や抱負をお聞かせください。
「上のカテゴリーに昇格することが目標ですが、同時に今シーズンよりもいいゲームがしたいです。 紙一重で勝点を落とした、勝ち切れなかった原因は点が取れなかったことに尽きます。守備の面ではチームとして戦う意識がだいぶできてきたので、やっぱり攻撃のところ。点を取るために必要なことを来シーズンは意識して取り組んでいく必要があると思います。もうちょっと運動量を上げて、もっとアグレッシブなサッカーをやっていきたいです」
――日本工学院の「強み」を教えてください。
「強みは間違いなく施設ですね。
――サッカーコースへの入学を考えている高校生に向けて、メッセージをお願いします。
「高校を卒業するとともにサッカーを離れる、辞めてしまう子が多いと聞いています。それは日本工学院のような専門学校があることを知らないことも理由なのかな、と。大学でサッカーを続ける自信がない。けど中途半端な思いがあって、もう少しサッカーを続けたい学生に本当にたくさん来てほしいです。その子たちの良さを僕らがさらに引き上げてあげられる。それだけの環境とスタッフが間違いなく揃っています。
ぜひセレクションを受けたり、オープンキャンパスでサッカーコースの活動を見てください。たくさんの高校生たちに成長の機会を与えたい想いはスタッフみんな持っています。
また、マリノスと教育連携していることもあり、卒業後はサッカーやスポーツ関連の仕事に就職している学生が多いです。指導者になる道もあります。
内田大貴(エブリサ藤沢ユナイテッド/神奈川県社会人1部)は日本工学院八王子専門学校 サッカーコースを卒業後、横浜F・マリノスの練習生を経て、2013年にセロ・ポルティーニョPF(パラグアイ)でプロデビュー。その後、チリ1部に所属するCDウアチパトに移籍し、日本人として同国リーグ初出場を記録している。
内田は自らを“ガツガツ系”と称するデュエルタイプ。ボランチを主戦場に海外で5シーズン、日本復帰後は社会人とのデュアルキャリアで選手としての経験を積み重ねてきた。
「キャプテン翼が来た!」と現地で話題になった海外プロ時代のエピソードを中心に、現在の心境やサッカー観などを聞いた。
中澤選手のひと言が海外へのきっかけに
――サッカーを始めたきっかけは何ですか?
「3歳から始めました。父が転がしてきたボールを手で拾わないで足で蹴ったことからサッカーをやらせちゃおうって感じになったらしいです(笑)。高校は帝京高校サッカー部で、卒業後に縁があって日本工学院のサッカーコースに進学しました」
――専門学校時代で特に思い出に残っている経験はありますか?
「スペイン遠征ですね。メッシ選手が在籍していた頃のFCバルセロナに帯同して練習したり、試合を観戦したりすごくいい経験をさせていただきました」
――当時のチームメイトは内田選手にとってどんな存在でしょうか?
「今も仕事で繋がりがある仲間もいますし、年に1回は集まったりしています。いつでも学生時代に戻れるのはメンタル的にいいことです。楽しい時間を過ごせていますね」
――日本工学院を選んでよかった点を教えてください。
「サッカーコース以外にもいろいろな分野でのトップクラスの先生がいます。怪我をしたとき、トレーナー学科の先生に足のケアや体の使い方を教えてもらいました。
――卒業後、横浜F・マリノスの練習生になりました。思い出すエピソードはありますか?
「当時のマリノスは天皇杯に優勝した年で日本代表がゴロゴロいました。中村俊輔選手、中澤佑二選手、栗原勇蔵選手、大黒将司選手。同級生には齋藤学選手がいました。
中村選手にフリーキックを教えてもらったときの話ですけど、インパクトがすごすぎて、蹴った瞬間おなかが痛くなるくらい音が響きました。あれはもう衝撃的でしたね。
中澤選手は10時からの練習に毎朝7時に来て一人でトレーニングをしていました。僕もあやかって一緒に練習させてもらったんですけど、僕のことを『絶対に海外向きでしょ』ってちょろっと言ったんですよ。その言葉で気持ちが奮い立って、挑戦するしかないと思って。結果、マリノスでの練習生の経験が海外に行くきっかけになりました」
CDウアチパト(チリ1部)時代の内田(前列中央)
(C)Qoly「キャプテン翼が来た!」と現地で話題に
――最初に契約したクラブはパラグアイでした。
「はい。パラグアイのセロ・ポルティーニョPFと契約したんですけど、誰も時間を守らないんです。2時間ぐらい待って、ようやく練習を始めるんですよ。あれは衝撃でした。会長が日本人嫌いということもあって試合にはなかなか出場できませんでしたね。
あと、サッカーの話ではありませんが、詐欺にも遭いました。あのときは落ち込みましたね…。けど、生活環境も含めて結構なれちゃうと大丈夫なものです(笑)」
――大変でしたね…。その後、チリに移籍しています。
「試合に出られない環境を変えようと思い、南米各地から100人くらい選手が集まる合同セレクションを受けました。僕一人だけ合格して、当初はチリ2部のクラブと契約する予定だったんですけど、地元メディアに『キャプテン翼が来た!』と紹介されたのがきっかけで、1部のCDウアチパトからオファーをもらうという劇的な展開で…」
――そんなことがあるんですね!「キャプテン翼」の影響は絶大ですね。CDウアチパトでは同国初の日本人プロ選手としてデビューしています。
「CDウアチパトは前年リーグ制覇した強豪でした。ちょうどボランチの選手がイタリアのクラブに移籍したこともあって、カップ戦を含めると17、8試合は出場していると思います。ちなみに当時の風貌は長めの金髪でした。まるで超サイヤ人。『キャプテン翼』が来たと思ったら『ドラゴンボール』だったとサポーターに言われました(笑)」
「横浜F・マリノスで海外へのきっかけを掴んだ」と当時を振り返る
(C)Qoly楽しくやるから勝てる。それ、つまり“楽勝”
――働きながらサッカーを続ける生活の難しさはありますか?
「何も苦しくないですね。楽しくやっています。基本的になんでも“楽勝”だと思うようにしている。けっして生意気な意味ではなく、楽しくやっているほうが勝てるんじゃない?と…。きつい仕事もあります。夜9時から11時までトレーニングをしたあと、朝3時半起きで仕事なんて日もあって、周りから心配されたりもしますが、まあ楽勝です」
――続けられている原動力は何ですか?
「家族ですね。社会人との両立に関しては、サッカーはシンプルに好きなので辞める理由がなくて、仕事に関しては“続けることの大事さ”を息子に教えなきゃいけないし、大変ですけどやりきるって感じですかね」
――今後、どのような夢や目標を持っていますか?
「父親としては子どもがサッカーをできるくらいの広さの家を買うのと、エブリサ藤沢ユナイテッドでの目標は3位以内に必ず入ることです」
――将来、海外でプレーしたい選手たちに伝えたいことは?
「目標を立てて、そこからの逆算で今何をすべきか?考えながらサッカーをやったほうがいいですね。自分だけの力でプロになることは難しいので、一流の人がいる中で、聞いて知恵をもらったりして、今やるべきことを選んでやっていくべきじゃないかなと思います」
――話は戻りますが、日本工学院には一流の環境があります。高校生たちに向けてメッセージはありますか?
「そうですね。いや、本当に日本工学院はまず環境が素晴らしい。ただ、人って環境に慣れちゃう生き物なんですよ。常に向上心を持って、ギラギラやることが大事。あとは情報をたくさん収集すること。トップクラスの先生がいる中で、やっぱり吸収しないともったいないと思います。情報を集めて自分にインプットして、毎日成長できる環境だと思うので、しっかり成長していけば、将来プロになれると思うので、ぜひ頑張ってほしいですね」
渡邉まひろさん(日本工学院八王子専門学校 サッカーコース2022年3月卒業)は現在、公益財団法人東京都サッカー協会に勤務する同校OGだ。都内で開催される公式戦の運営や広報、普及活動などを行っている。
サッカーコース在籍時にはマネージャーとしてコースを支え、現場での実戦経験を通じて学んだノウハウは現職でも活かされている。学生時代の仲間との絆は今も健在だと語る同氏に、当時の思い出やサッカー業界で働く魅力を語ってもらった。
「記念受験でもいいから…」実った信念
――現在の仕事に就いたきっかけは?
「実家がテニスコートを経営していて小さい頃からスポーツが身近にありました。祖父や叔父がスポーツ関係の仕事をしていることもあり、スポーツの仕事に就きたいなと考えていた中で日本工学院のサッカーコースに入って、サッカー関係の仕事をしたくて就活をしていた結果、先生から東京都サッカー協会を紹介していただいて、ここまでたどり着きましたという感じです。
一般企業の内定をいただいていましたが、最後の最後までサッカー関連の就職は探していました。卒業期の冬休みまでに決まらなかったら一般就職しようと先生と話していて、もう諦めていましたが、冬休み直前に話をもらい、これがラストチャンスだと思って、悩まずその場でお願いをしました。正直、記念受験でもいいから受けてみようみたいな感じでした」
――やりがいを感じる瞬間はどんなときですか。
「私自身も小さい頃からずっとサッカーをやっていました。当時からの知り合いや日本工学院のみんなと一緒に仕事ができたときや、選手や関係者の方にお礼を言われたときに一番やりがいを感じます。
入局1年目の10月、Jリーグの試合で日本工学院の同級生や後輩、先生と一緒に仕事をしたことと2024年のクラシエカップの決勝で、所属していた少年団の憧れの先輩と一緒に仕事ができたことが今までですごく嬉しかったエピソードです」
――サッカーコースに入学しようと思ったきっかけは何ですか?
「スポーツの仕事に就きたいと思ってからそんなに悩むことなくサッカーを選び、サッカーを専門で学べるところは少なかったので、マネジメント系も見ながらオープンキャンパスにはたくさん行きました。そんな中でサッカーをメインに学べる学校は2校ほどしかなくて、親や先生とも話した結果、日本工学院を選びました」
――ほぼ男子しかいないコースですが、抵抗はありましたか?
「そこはサッカーコースの先生方にも入学前から心配されたところではありましたが、私はそもそも男兄弟の中で育っています。兄と弟がいる真ん中でしたし、少年団のときも100人の中で私も含めて女子が2人程度しかいない環境だったので特に抵抗はありませんでした」
天皇杯決勝で日本工学院時代の同級生と再会。やりがいを感じるひとときだ
(C)Qoly臨機応変に対応する力がついた
――実際にサッカーコースで行っていたことは何ですか。
「高校のサッカー部のマネージャーとほぼ一緒なんじゃないかなと思います。朝、選手よりも早く行きビブスや用具の準備をしたり、コロナ直後だったので、各自のスクイズボトルの水を入れたりとか。練習中は使わないマーカーコーンを片付けるなどをしていました。
私がやっていたことは、私が入学前は専属でやっている人がいたわけではなく、一から何をしたらいいかを考えながら学校生活を送っていたので、自分で考える力が身につきました。今でも試合の運営では予想していたことと違うことが起きたりするので、そこで臨機応変に考える力がついたのは日本工学院での2年間があったからかなと思います」
――当時の仲間とは今でも交流がありますか。
「はい。特に社会人1年目は日曜日にみんなの試合を観に行って、話を聞いてもらって、月曜日からまた仕事を頑張るという感じでした。職場では周りに同世代の社員がいないので、学生時代の同級生や先輩後輩、先生を大事にしています。
サッカーコースは月曜日しか休みがないので、1週間のうち6日間、しかも朝から晩まで一緒にいたので、どちらかと言えば友達よりは家族のほうがイメージは近いです」
日本工学院八王子専門学校時代の渡邉さん(後列右から3人目)
(C)Qoly率直に向き合い続けた2年間。あだ名は“ママ”
――学生時代を振り返って、思い出に残るエピソードはありますか。
「学生時代は強気の発言しかしていなかったと思います(笑)。卒業期の1月にAチーム(日本工学院F・マリノス)の神奈川県1部リーグ入れ替え戦がありました。負けたら2部に落ちるという試合で、それがちょうど二次面接の2日前でした。私自身も面接を前にものすごく緊張していて、落ちるかもしれないプレッシャーの中で迎えた試合で、雰囲気としては最悪でした。
その年は負けてばかりで、正直この試合もダメなんじゃないかと感じていました。気持ちがばらばらで試合に入ったのですが、日本工学院が先制点を取りました。気づいたらキャプテンが泣いていて、ハーフタイムで帰ってきたときも泣いていたので、『今泣いている場合ですか。試合は終わってないですよ。勝たないと2部ですよ』みたいなことを言ったのを覚えています。
結局5対2で勝って、終了のホイッスルを聞いた瞬間には全員泣いて喜びました。1チーム年間20試合・30試合以上とやっていた中で最終的には一番いい雰囲気でやれた試合だったと思います。
高校選手権の最後のロッカールームのような選手を慰めるマネージャー像なんかは全くなくて、先輩だろうが後輩だろうが喝を入れることしかしてなかったと思います。朝、電話で選手を起こしたりもしていたので、あだ名は“ママ”でしたね(笑)」
――サッカーやスポーツ業界で働くうえで大切なことは。
「学ぶ力と吸収する力だと思います。言われたことに対して、やらずに反論する人ってどこにでもいると思うんですけど、やってみて吸収したほうが絶対にいいと思います。何かを言われたら一回考える。突っぱねるのではなくて、『こうしたほうがもっと良くなるんじゃない?』と言われていると思ってやる。そういう吸収する姿勢が大事だと思います」
――最後にこれからスポーツ業界を目指す皆さんにメッセージをお願いします。
「スポーツ業界は一般企業と違い求人が基本的に外には出てきません。やりたい気持ちがあるなら、クラブのアルバイトやボランティアスタッフの募集を見つけて、そういうところから自分をアピールしていくことや、人に伝えたり、言い続けることが大切だと思っています」
「横浜出身だけど川崎」「川崎出身なのに横浜」なサッカー選手5選
※この記事はQoly編集部と日本工学院八王子専門学校の産学連携企画として実現しました。同校スポーツ健康学科スポーツビジネスコースの学生が取材・撮影・執筆した内容を掲載しています。

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