【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡

J2得点ランキングトップタイ(V・ファーレン長崎MFマテウス・ジェズスとともに10得点)を走るブラウブリッツ秋田FW小松蓮は、J1王者ヴィッセル神戸に完全移籍を果たした。

これまでリーグ戦10得点をマークし、圧倒的な空中戦の強さと豪快な左足でゴールを重ねてきた。

今回神戸へ移籍する点取り屋にQolyはインタビューを実施。

秋田が誇るストライカーのこれまで、新天地への決意を聞いた。

(取材・文・構成 高橋アオ)

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田F...の画像はこちら >>

大学進学、決意のプロ転向

J2得点ランキング首位に立つ小松は、決して順風満帆な軌跡を歩んでこなかった。

高校時代は松本山雅U-18に所属し、大型レフティとして大きな期待を受けていたが、トップ昇格を果たせなかった。

――松本U-18を卒団してから、産業能率大に進学された経緯を教えてください。

「当時、大学にまったく興味がなくて、大学に行きたくありませんでした。『高卒でプロになる』という目標を中学くらいから掲げていたので、そのために松本(のアカデミー)に入ったところもあったんですよね。大学(進学)は考えていませんでしたけど、その中でクラブにお願いをしてもらって、アスルクラロ沼津とツエーゲン金沢の練習に参加させてもらいました。

そのときに吉田謙さん(当時は沼津、現秋田)と(練習参加で)お会いしました。ただ両方ともダメで、大学に切り替えようとなったときに、一番最初に声をかけていただいたのが産業能率大でした。産業能率大には、『小松選手がプロ入りにチャレンジする12月までは待つから、全部ダメで大学進学を考えたときに来てほしい』と言っていただいた。大学も他のチームからいろいろと(話が)ありましたけど、どこに自分が行きたいかを考えたときに、一番熱量高く声をかけていただいたところに行きたいと思っていました。純粋にうれしかったので、産業能率大を選びました」

――アカデミー時代は絶対的な存在だったと記憶しています。

トップチームに昇格できなかった際に抱いた思いを教えてください。

「もちろん昇格したいという気持ちは当時ありましたが、練習参加には行っていて、『まだまだ通用しない』と思う部分も多かった。そういう部分では『トップに上がれないのも仕方がないか』と思うときもありました」

――大学サッカーはいかがでしたか。

「当時の産業能率大は県リーグだったので、『すぐ試合に出て活躍しよう』と思っていました。産業能率大のメリットとしては、湘南ベルマーレの練習参加に行けたり、練習試合が多く組まれるところが魅力の一つでした。松本山雅のトップには上がれなかったから、『そこでアピールするぞ』と思いながら行ったことを覚えています。ただ実際に行ってみると、当時産業能率大は(競技に)力を入れ始めた段階で、すごくいいプレーヤーが全国各地の強豪校やユースから集まっていました。僕自身、松本山雅でずっとやり続けて、外に出たこともあまりなかったので、そこの差を痛感することになって『意外と大変だな』と思ったことはいまでも覚えています。

入部したのは大体2月くらいと早くて、4月くらいには世代別の日本代表の候補に呼ばれることになりました。正直、まさかの招集だったので、自分も『いい経験になるだろうな』と思いながら参加しに行って、『どうなんだろう』というイメージがつかなかったので。(そんな状態)で行ったんですけど、そうしたら意外とやれた。『この中に入ってもぜんぜんいけるな』と感じて、そこから世代別の代表に毎回呼ばれるようになりました。

それと同時に自分のレベルが引き上がったので、大学の方でもずっと試合に出るようになりました」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
AFC U23アジアカップに臨むU-21日本代表に招集された小松(右、Getty Images)

――当時の世代別代表のチームメイトは東京五輪世代。すさまじいメンバーでしたね。

「いま代表に入っている選手で二つ上の早生まれだと、板倉滉選手、中山雄太選手。(一つ上が)三笘薫選手、旗手怜央選手、(同期が)田中碧選手ですね」

――現在はプレミアリーグやブンデスリーガで活躍されている選手もいますけど、刺激を受けましたか。

「当時は彼らに刺激をあまり感じていないというか、思っていませんでした。どちらかと言ったら、彼らの中でやることが精一杯というか、必死でした。ただその中でやれている自分もいたので、だからこそ1年でプロに行きたいという思いが強くなりました。

彼らの中にはプロで活躍している選手たちもいたので、一緒にやっている中で、『早くプロにいってプレーしたい』という思いがあったので、『もうすぐに(大学を)やめて(プロに)行こう』と思いました」

――大学進学から1年後には松本からアプローチがかかりました。大学からプロ転向の経緯を教えてください。

「『プロに行きたい』という思いがあったので、そこも大学側といろいろとありました。(授業料など)全額免除で入学していたので『やめる』という選択もすごく難しくて、ただ最終的には僕の気持ちを汲んでくれました。僕はもともと松本山雅に帰ると決まっていなくて、(大学を)やめるのが先だったんです。

そのとき、いまの代理人が付いていたので、やめてからいろいろなチームに練習参加して『どこか入ろうか』という。その中で呼んでくれるクラブもあったので、練習参加しようと思っていたんですよ。

まず大学をやめるのもすごく時間がかかったところがあるのと、その過程で1年で大学をやめてプロに行くことは当時すごく難しい状況でした。いまでこそ多くなっていますけど、当時はまったくいなかったので、デリケートな話だったんですよ。

それで一番いい形というか、いろいろな物の見方を大人の方たちにしていただいて、『これが一番いい形なんじゃないか』というのが松本山雅に入ることだったんです。当時も松本山雅が僕を獲りたいかはまったく分からないというか、多分ほしくはなかったのかなと思っていて。

当時プロになって何年目かのシーズンが終わった後、クラブとの面談で『別に獲りたくて獲ったわけじゃない』という話をされたりもしたので。1年目はまったく試合に出ていなくて、ゼロ試合でしたからね。そのときの松本山雅は強くて、フォワードも飽和状態だった。そういう意味ではそこまで僕を必要とはしていなかった」

――あのときは高崎寛之さんがいましたね。

「ヒロ(高崎)さん、永井龍くん、ミシ(三島康平)くん、ヤマ(山本大貴)くんがいて、ジネイが夏から入ってきました。

そのときJ2を優勝したんですよ。

フォワードは1トップで、選手もそろっていた。そう考えたらわざわざ僕を獲るべきではない時期だった。それでも松本で育ったところと、世代別に入っていたところもあって、(僕を)獲らざるを得なかったという状態だったのかなと思っています」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
当時松本のワントップに君臨した高崎さん(Getty Images)

――出戻りでいうと山田満夫選手(現オーストラリア独立リーグ、ウロンゴン・ユナイテッドFC)と近いですね。

「そうですね。ただ僕はちょっと特殊でした。僕が『大学をやめたい』と(言ったことを)聞いて、松本山雅もさすがに他に出すわけにもいかないし、大学側も『松本山雅だったらいいよ』と言っている中で、獲らないわけにもいかなかったのかなと思います」

――当時はモヤモヤされていたんですね。

「そうですね。チームは正直どこでも良かった。最終的にプロになれれば、その舞台に立てればいいかなと思っていました。当時ユースから昇格できなくて悔しくて、じゃあ湘南に行ければと思って産能(産業能率大)を選んだわけですけど」

――当時は大型レフティとしていろいろな媒体で東京五輪出場に期待されていていましたね。

「自信はありましたけど、ただ松本山雅に入って、(プロの)レベルにまだ達していないと痛感させられる毎日でした。試合に出られなかったのも明らかに自分のせいではあったので。

世代別(代表)では点を取れているけど、いざプロの世界に入ってからはすごく厳しいものがあり、現実を目の当たりにした。プロに入ってからは自信はなかったですね」

衝撃のシンガポール行きもあった苦難のキャリア

2023年シーズンにリーグ戦19得点でJ3得点王に輝いた小松だが、松本山雅でのキャリアは紆余曲折と言っていいものだった。

期限付き移籍で金沢、レノファ山口を渡り歩き、シンガポール移籍の可能性もあり、順風満帆とはいかなった。

J3得点王になっても、思い描いたオファーは届かなかった。

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
松本時代を振り返る小松

――2019年シーズンは高校生のときに練習参加した金沢に期限付き移籍しました。

「金沢に移籍してすぐ開幕から試合に出て、すぐスタメンになれて、プロとしてのキャリアをようやく始められました。松本山雅で(試合に)出られないシーズンでしたけど、いざスタジアムの上から観ていても、『俺だったら点を取れる』という自信だけはありました。早い段階から『来年どこかにレンタル移籍したいです』と代理人に言っていました。そのときに金沢と山口から声をかけていただいて金沢へ行きました。

第3節で初スタメンに入って初ゴールを決めることができました。そのときは『やっぱり俺はいける』と思ったことをすごく覚えています。ただ僕自身もそのときは若くて、サッカーに対して真摯じゃなかったところがあった。調子に乗ってしまったというか。

ハーフシーズンくらいで監督の信頼をなくして、スタメンからベンチ外になってしまったり、そのときチームでは一番か二番くらいに点を取っていたけど、(試合に)出られなくなってしまった。金沢時代はプロの世界はチームのルール、規律にしっかり寄せていかないと試合に出続ける、信頼を勝ち取るのは無理だということを痛感しました」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
金沢、山口時代を振り返る小松

――翌シーズンは山口へ期限付き移籍しましたね。

「山口のときは監督が霜田(正浩)さんで、試合にはほぼ出してもらっていました。ただ僕自身は、まったく点を取ろうとしていなかったという感じでした。チームのために守備をして、走って、頑張ることがメインになっていましたね。結局試合には使ってもらえるけど、蓋を開けたときにキャリアを上に進めていくことはできなかった。なおかつ、最終的な評価も高くならないという現実を痛感しました。

当時はチームの状況も良くなくて、最下位だった。コロナ禍だったので降格はなかったんですけどね。僕らは当時よく“ディフェンシブFW”と言っていたんですけど、守備ばっかりしているフォワードだったので、シーズン37試合に出て3得点でした。自分でもゴールというものの価値を悪い意味で高めていたというか、『点を取ることは大変だ』と思っていた。

『それでは点を取れないよね』というシーズンを過ごしていました。ただ、頑張ること、守備すること、走る部分での成長はすごく感じていて、金沢時代では試合に出られなかったけど、シーズンを通して試合に絡み続けていられていたので、毎年いろいろなものを得ていました」

――J2から松本が落ちた2023年シーズン、J3で19得点と得点を量産しました。ここに至るまでの努力や工夫を教えてください。

「山口に2年間いましたけど、最後のシーズンは渡邉晋(すすむ)さんが監督で、シンプルなサッカースタイルに僕はまったく合っていなかった。技術があるタイプではないので、すごく難しさを感じて、そのシーズン半分くらいしか試合に出ていませんでした。

その後、松本山雅に帰りましたけど、そのシーズンはJ3で初めて戦って、ほぼ試合に出してもらって、シーズン(リーグ戦)5点で終わってしまった。そのときで松本山雅との契約が終わりだったんですよ。だいたい試合にも出たし、点を取った数でいうとチームで2、3番目くらいでした。だから自チームで『ある程度試合に出て活躍したから多少年俸も上がったりするかな』という期待を持っていました。ただシーズンが終わってからの2022年の面談では減俸もされ、なおかつ来年1年延長はしていただいたんですけど、その1年を『シンガポールに行かないか』と言われました」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
衝撃のシンガポール移籍を振り返る小松

――シンガポール移籍!?そんなことがあったんですね。

「ゲイラン(・インターナショナルFC)というクラブなんですけど、松本山雅が提携しているんですよね。そこに行かないかと強化部から言われたときに、たぶん誰もがそれを聞いたら1年で契約が終わって、それで終わりだなというイメージがわくじゃないですか。権限はこちらにあったので、『行かない』という選択を最終的には取った。

子どもが(奥さんの)お腹にいたので、さすがに海外に行く選択ができなかった。それ(シンガポール)を聞いたときは、結構ショッキングでしたね。そのときの目標で言えば、松本山雅で少し出てJ1のプレーヤーになれればいいかなと。そこで『このままじゃまずい』と死にそうなくらいの危機感を抱きました。当時監督だった名波(浩)さんがその年で退任して、最後にあいさつへ行ったとき『メンタルだぞ、メンタルが変わったら変わるぞ』と話をしていただきました。

それでメンタルトレーナーを2022年12月に付けて、一気に変わったのはそこからです。ゴールに目覚めて、ゴールというものの価値観がいい意味で低くなって、ゴールこそが自分の最大の生きる喜びくらいまでいったのはそこですね。

生活も180度ガラッと変わって、24時間すべてをサッカーのために費やすようになりました。そのタイミングでまた霜田さん(2023年シーズンに松本山雅監督就任)と出会って、もう点を取れるシーズンというか、毎試合『きょうも取れる』というメンタリティでプレーできるようになりました」

秋田移籍は『夢』を優先したから

2023年12月にJ3得点王となった小松は秋田に完全移籍した。

所属するディヴィジョンは秋田が上だが、クラブの財政規模では松本が秋田を上回る。

環境面などは松本が上だったにもかかわらず、J2中小規模クラブの秋田をなぜ選んだのか、小松に尋ねた。

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
ボールを追いかける小松(左から二人目、白)

――23年シーズンに得点王になって、その翌年に秋田に移籍しました。オファーは引く手あまただったと思いますけど。

「ぜんぜんです。僕もすごく期待を抱いてオファーを待っていましたけど、正直ぜんぜんなくて。最終的に、秋田ともう一つのクラブと松本山雅に残るという三つしか選択肢がなかった。僕自身は、当時はさらに上に行けるようなチームに行こう、J1からオファーが来ないかなとか思っていました。

当時夏まで得点王を争っていた福田翔生選手(現デンマーク1部ブレンビー)が夏に湘南へ行ったので、そういうステップアップを見ていると自分も二つステップを上げられたらいいなと思っていました。ただ現実はそんなオファーはありませんでした。秋田は、一番最初に声をかけていただいて、シーズンが終わる前から声をかけていただいていた。もちろん松本山雅に残る選択もできたと思います。山雅とブラウブリッツだと、金銭面、環境面も松本山雅のほうが良かった。練習場はいまでこそ、これだけ立派なクラブハウスができましたけど、僕が去年来たときはクラブハウスもないし、シャワーも練習が終わったら浴びられない状態で、冷たいシャワーを浴びていた。

松本はその辺がしっかりしているというところと、1年間僕自身も得点王を取って信頼を得ていた。いまだから言えますけど、年俸も秋田より松本山雅のほうが高かった。ただ僕が一番大事にしていることは、より上の舞台でプレーするということ。何より夢があるので、そのためには僕も年齢が年齢なので、もう1年上に行けるチャンスがあるのに同じカテゴリーでやることはできなかった。

ただ得点王を取ったときの夏にお話はいただいていましたけど、このシーズンは松本山雅でやろうと決めていたので、そこも含めて焦りを感じていた。松本山雅に残るという選択は一番最初になくして2チームのどちらかでやろうという決断でした。でもほぼ決まっていて、秋田でやろうと決めました。ただそのときはいろいろな人に相談すると、秋田に行くことは一番反対意見が多かったと思います(苦笑)」

――J3得点王の秋田移籍は当時驚きとともに報道されました。

「多くの人に僕も言われたし、当時は秋田で点を取るのは難しいと言われていた。『あそこに行ったらもう点を取れないぞ』とめちゃくちゃ言われた。ただ僕の中ではそんなことなくて、このチームでいっぱい点を取れるイメージは湧いていた。それくらいできると自分に自信もありました。めっちゃ迷いましたけど、そこに後悔はなかったですね」

――移籍前に秋田を訪れた経験はありましたか。

「ないですね。東北自体が初めてでした」

――移籍前に抱いていた秋田のイメージを教えてください。

「どんな感じでしたかね。まず長野から車で秋田に行くんですけど、だいたいのところは高速(道路)一本で行けるじゃないですか。ここまで来るのに高速を2回くらい下りなきゃいけないんですよ。新潟から山形に入る、山形から秋田に入るので山道を通るんですよ。それで『もはや別の国なのかな』くらいの感覚(苦笑)。不安まではいかないですけど、想像できなかったですね。どういうところなのか」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
今季リーグ戦10得点でチームをけん引する小松(左、ブラウブリッツ秋田提供)

――実際に住み始めてからはいかがでしたか。

「快適ですし、人も内気な性格といったらですけど、恥ずかしがり屋というか。松本に比べたら、僕に気が付いているのに声をかけてないんだとか。松本のファン・サポーターは『あ、蓮くん!』と声をかけられてすごいんですよ。

それに比べたらみんな『あっ』みたいな感じになるけど、声をかけてこないところが県民性なのかなと。ただすごくみんないい人です。街もそんなに松本と変わらない。僕は田舎にしか行ったことがない。僕の地元は諏訪なんですけど、秋田よりぜんぜん田舎なので何も不便はなかったです」

――秋田のサポーターはいかがですか。

「温かいと思います。松本山雅は人数も多いので、その分アンチじゃないですけど、得点を取ったシーズンですらチームが勝てないと、1試合でも点を取れないと『お前のせいだ』というDMがしょっちゅう来ていた。秋田に来てからは一切ないので(笑)。たぶんみんな優しいと思います」

――松本山雅はJ1にいたチームですしね。

「そうなんですよ。ファンが多くなればなるほど、アンチの量は増える。そういう意味では秋田はまだまだサポーターを増やしていく余地があると思うし、増えていかなきゃいけないなと思っています」

――泣くほど苦しかったと、秋田の公式YOUTUBEで明かしていましたけど、秋田では適応に苦しみましたか。

「そうですね、苦しかったですね。(昨季は)僕のフィジカルコンディションも含めて、秋田のサッカーをやれる状態ではなかった。すごくうまくいかないシーズンというか、夏くらいまで苦しかった。松本山雅で得点を取ったシーズンと今シーズンとでいえば、去年の夏くらいまでは『俺が出ていないほうがチームが勝てるんじゃないかな』と思うときもあるくらい点を取れる自信がなかった。『このチームじゃ点は取れない』と思ってしまった時期もありましたね」

――吉田謙さんの下でどの部分が具体的に成長しましたか。

「中盤エリアでボールを引き出したときに前を向くプレーや、運ぶプレー、あとはジャンプの高さ、最高到達点までいくスピードは上がったと思います。あとは自分でシュートまで行く意識は謙さんの下でやれたからこそ成長したと思います」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
秋田を指揮する吉田謙監督

――吉田謙さんは人として、指導者としてどのような存在ですか。

「謙さんは個人の成長を何よりも考えているとすごく感じています。むしろチャレンジしないほうが厳しく言われるというか。だからこそこの1年半で苦手な、ウィークな部分をチャレンジできました。そこはすごくありがたかったです」

秋田が誇るエアマスターのストライカー論

今季J2で10得点を挙げた秋田の背番号10は、圧倒的な空中戦の強さでチームをけん引してきた。

Jリーグスタッツによると、今シーズンの空中戦勝利数が133回とトップであり、2位FC今治FWマルクス・ヴィニシウスの93回に40差と跳び抜けている。さらにヘディングゴール数も7回とトップであり、制空権をほしいままにしている。

183センチと大柄ではないものの、優れた跳躍力、ボールの落下点に素早く入り込む身のこなし、打点の高さなどでピッチ上空を支配している。

現在15位と攻撃のチャンスが決して多くないチームでゴールを量産する勝負強さも持ち合わせているエアマスターに、ストライカーの技術を聞いた。

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
ブラウブリッツ秋田提供

――スタッツでも分かる通り、空中戦は圧倒的な強さを見せていますね。

「高校生のときからこういうヘディングはやっていました。ただ、そこまで強いという自信があったわけではないですけど、秋田に来てヘディングの回数がすごく多くなりました。試合をやっている中で、だいたいは勝てるという感覚でいる。だから秋田に来て、より強くなったと思います」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
トレーニング中に強烈なヘディングシュートを見せた小松

――実戦の経験で強くなったのですね。

「そうです。実戦でめちゃめちゃ数をやると成長スピードは早い。ただ練習でヘディングをやっているよりは、ぜんぜん成長の度合いは変わってくると思います」

――今月22日開催された第20節モンテディオ山形戦での先制点のアシストは見事でしたね。チャンスメイク、うまさは今シーズンみがきがかかっているように見えます。

「アシストはそんなに狙ったりはしていないです。自分が点を取ることが一番と思ってやってきたんですけど、J2リーグという中で少し余裕が出てきたところもあって、ああいうラストパスを落ち着いて狙ったところに蹴る余裕が出てきたと思います」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
ベガルタ仙台戦で精度の高いクロスを上げた小松(左)

――理想のストライカー像を教えてください。

「レアル・マドリーに行ってからのクリスティアーノ・ロナウド。ゴール前で足を止めないプレー、ゴール前の入り方、常にゴール前にいるところが大好きです。あとはルイス・スアレスのような南米人らしさのあるストライカーがすごく好きです」

――先ほど吉田監督の下でウィークポイントを鍛えられたと仰っていました。どの部分を鍛えましたか。

「自分でボールを持って運ぶプレー、自分でシュートを打ちにいくのはあまりいままでなかったです」

――ポストプレーも光っていますね。

「そうですね。このチームはボールが入ってくる回数も多い。ロングボールが多い」

――今季リーグ戦10得点と得点ランキングでトップですけど、何がこの結果に結び付いていますか。

「昨年の最後、すごくいい感じで点をポンポンと取れていた自信が、まず今シーズンにつながった。あとはチームメイトが僕を見てくれる回数がすごく多くなったところ。僕自身、このJ2リーグでも点を取る『ここにいれば(得点を)取れる』感覚というか、ヘディングやクロスに入っていくタイミング、入るポジションはすごく精度が上がっているので、そこが大きいと思います」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
シュート練習で鋭いシュートを見せた小松

――なかなかチャンスが少ない中で得点を量産しています。その秘訣を教えてください。

「もしかしたら上にいるチームに比べたらチーム全体のチャンスの回数が少ないかもしれませんけど、ただその中で自分がシュートにいくことはできる。そこが課題にしていたところでした。シュートを打てるポジションにいるとか、シュートを打ちにいくとか、そこの過程を大事にしていた。あとシュートが入る、入らないは日々のシュート練習の量かなと思います」

――きょうもずっと打っていましたね。

「はい。ずっと朝から練習終わりまでひたすら。やらないといざというときに足を振れないし入らない。後悔するのは自分なので」

新天地ヴィッセル神戸での挑戦

今月4日に神戸への完全移籍が発表された。秋田での最後の試合は5日午後6時にホーム・ソユースタジアムで開催される水戸ホーリーホック戦となる。

J2最強のストライカーに1年半過ごした秋田への感謝、新天地神戸への意気込みなどを聞いた。

――新天地ヴィッセル神戸での意気込みを教えてください。

「僕自身は点を取りたいですし、点を取ることがすごく好きで、生きがいです。まずはそこをヴィッセル神戸というチームで、J1でもできるようにしていくというところですね。

初のJ1挑戦ですから、どういうレベルなのかなどはまったく未知数なので、そこもすごく楽しみな部分です。なおかつ素晴らしい選手たちが多くいるので、いろいろなものを吸収しながらとんでもない成長をして、さらに上に行きたいと思います」

――大迫勇也選手と宮代大聖選手とのポジション争いは楽しみですか。

「そうですね。僕自身、『学びます』という姿勢はもちろんありますけど、そこで試合に出ないと何も意味がないし、何も進んでいきません」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
笑顔で新天地“神戸”での意気込みを語る小松

――今季の目標を教えてください。

「まったくイメージしていなかったので、これからまた考えます。ぜんぜん決まっていません」

――今後のキャリアビジョンを教えてください

「日本代表になるところと、ヨーロッパでプレーしたいが一番にありますね」

――今回の移籍もそのためのキャリアアップですか。

「そうですね。神戸で試合に出て活躍することができれば、そこにより近づくでしょう」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
秋田に深い感謝を述べた小松

――小松選手にとってブラウブリッツ秋田、秋田県はどのような存在ですか。

「キャリアの中では一番成長したと思う1年半でした。謙さんに感謝したいと思います。あとはこのチームのファン・サポーターが僕自身に期待してくれていたし、楽しみにしてくれていたし、すごく心地良い1年半だったと思います」

――秋田に対して感謝を教えてください。

「僕なりに秋田のために何ができるのかなとすごく考えました。初めて『地域のためにサッカーをするには、どうしたらいいんだろう』と吉田謙さんの影響で考えました。一人でもサッカー人口が増えてくれればと思いましたし、それができるのはスタジアムに来た人たちを多く笑顔にすること。

そのためにはゴールというものが一番それに近づくので、いろいろな方から「蓮くんの影響で息子がサッカーを始めました」「サッカーに興味がなかったのに試合を観に行くようになりました」という声を今年すごくいただきました。

そこに少しでも携われたことが僕自身誇らしいですし、それで一人でも多くの子たちが、僕らブラウブリッツ秋田を応援してくれていることが何よりもパワーになる。本当に感謝しています」

【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡
【インタビュー】ヴィッセル神戸移籍決断のブラウブリッツ秋田FW小松蓮「未知数なので、すごく楽しみ」J2最強ストライカーが歩んだ軌跡

秋田で得点を量産してきた小松は、J1覇者である神戸で新たな道を歩む。秋田から羽ばたいていったストライカーはトップディヴィジョンでどのような活躍を見せるのか。北東北で見せたダイナミックなゴールをJ1チャンピオンの本拠地であるノエビアスタジアム神戸で見せてほしい。

編集部おすすめ