女子バレーボールの強豪チーム・デンソーエアリービーズが、2024-25シーズンからホームタウンを愛知県西尾市から福島県郡山市に移転した。震災復興や地域再生に寄り添ってきたデンソーと、これまで“全国トップリーグのチーム”がなかった福島――。
(インタビュー・文=大島和人、写真提供=デンソーエアリービーズ)
なぜ今、郡山へ?――移転に至った経緯と決断
スポーツの世界では時々チームの「引っ越し」がある。プロ野球ならば北海道日本ハムファイターズは東京から北海道、福岡ソフトバンクホークスは大阪から福岡に移転して、それが飛躍に向けた転機になった。プロバスケならばアルバルク東京は実業団時代に愛知から東京への移転を経験している。
バレーボール界では今まさにデンソーエアリービーズが、福島県郡山市への「引っ越し」を進めている。エアリービーズはSVリーグ女子の所属で、2024-25シーズンは4位に入った有力チームの一角だ。デンソーの本社は刈谷市だが、バレーボール部は同じ愛知県の西尾市に拠点があった。
福島にはいわきFC(サッカーJ2)、福島ユナイテッドFC(同J3)、福島ファイヤーボンズ(バスケットボールB2)、福島レッドホープス(プロ野球独立リーグBCリーグ)といったプロチームが他にもある。ファイヤーボンズは同じ宝来屋ボンズアリーナをホームとしている。ただエアリービーズは県内唯一の「1部リーグ」のチームだ。
エアリービーズの挑戦は、SVリーグ発足と軌を一にしたものでもある。SVリーグは従前のVリーグをバージョンアップする形で、2024−25シーズンに発足した。
拠点移転の真意――SVリーグ参入と震災復興への想い
もちろん、何の理由もなく移転をしたわけではない。まずデンソーはトヨタ自動車と共同して、2021年から、福島県田村市で水素を活用した「カーボンニュートラル工場」を稼働させている。もう一つ、愛知県は最上位カテゴリー(旧V1/現SVリーグ)のチームが男女2チームずつある状況だった。
エアリービーズの杉岡憲部長はこう説明する。
「実業団チームにとって戸惑いもあったし、変化が必要でした。ホームを一つに決めなければいけないことも大きな決断でした。ただ前向きに捉えればチャンスです。我々はメインのホームを郡山市に移し、西尾市は『マザータウン』として引き続きやります。地域とのつながりは、(2018年に)Vリーグの試合を郡山市で開催するようになって強くなっています。集客は今までそれほど優先してきたわけではないのですが、お客さん目線に立ったプロモーションは選手の後押しにもなります」
繰り返しになるが、デンソー全体で福島に根づくミッションが進んでいる。SVリーグのチームが現状1つ(アランマーレ山形)しかない東北への移転は、バレーボールの普及にもつながる。エアリービーズの移転には、そのような意味と意義があった。
杉岡は続ける。
「エアリービーズは2011年3月の震災以降、福島県を中心に東北へ寄り添ってきたところを体現する一つの象徴です。皆さんを前向きにする、明るくする、エネルギーを分かち合うといったことも、チームとして体現できると思います。県や市、スポンサーの方々とお話をさせていただく中でも、『子どもたちのためにこういうことをしましょう』とご提案をいただきますが、それを実現できることも我々の価値です」
デンソーがスポーツに関わる3つの目的
福田実はエアリービーズの事務局長を務め、福島に常駐して様々な活動を担っている。デンソーでは福利厚生の部門に勤務していて、元々はバドミントンの選手でもあった。彼はこう口にする。
「2年前から(エアリービーズを)担当しています。2025年5月から福島に行かせていただいていて、その前の1年間も半分ぐらいは福島にいました。デンソーがスポーツをやっている目的は3つあります。一つは『従業員に明るい話題を提供し誇りを高める』こと。それから『地域の皆様としっかりつながる』、『日本スポーツ界の発展に貢献する』ことで、私たちはここに沿って考えます。地域の皆様にしっかりつながってお役に立つという視点からすると、まずホームゲームでしっかりと地域の皆様とつながっていく。そのためにはきちっと社会課題に取り組んでいくことが必要です」
福田は福島の土地柄、温度感をこう言葉にする。
「子どもたちの将来をすごく考えている土地柄だとまず思います。福島県庁さん、郡山市役所さんともにスポーツチームに色々な施策を依頼して、子どもたちの夢の実現、地域の発展に取り組んでいます。ホームゲームでの演出に参加いただく調整も、一緒にしていただけています」
雇用を増やす、地域の求心力を上げる、子どもが未来への希望を持つ――。それは日本の地方がどこも持っている問題意識だろう。ただ福島はそれがおそらくより強い。杉岡は強調する。
「福島は社会課題に対して、強い課題意識を持っていらっしゃる方々が多くて、そこはチームと強く結びつくところがあると思います」
デンソーは2025年3月期の売上が7兆1600億円、経常利益が5780億という日本のエクセレントカンパニー。この規模の企業になると、企業と地域は否応なく利害を共有するようになる。もう一つ、東日本大震災からまもなく15年が経つとはいえ、福島は復興の途上で、投資や活気を必要としている。そこは杉岡の言う「強い課題意識」の源でもあろう。
地域、人と人、組織と組織がつながる「ハブ」に
福田にとって大切なのはまず地域に入り、課題を知ること。彼はこのような活動を続けている。
「人と人との関係なので、まずしっかり関係を築くことが大切です。
もちろんエアリービーズが地域課題のすべてを解決できるわけではないが、スポーツには人を巻き込み、地域の象徴になるポテンシャルがある。福田は福島で開催するホームゲームの可能性をこう言葉にする。
「ホームゲームを地域のハブにしたいんです。県や市、地域の方がやりたいことをその場に持ってくる。そして、みんなによく知ってもらう――。そういったことを考えながら、ホームゲームの価値を上げていきたいと思います」
エアリービーズの試合が地域を巻き込み、人と人、組織と組織がつながる「ハブ」になる――。それこそが彼らの目指すところだ。杉岡は振り返る。
「11月8日のNECレッドロケッツ川崎戦は、中学生の子たちが吹奏楽をやってくれて喜んでいただきましたし、我々も非常にありがたかったです」
福田は今後の企画を進めている。
「協賛いただいたお金で福祉団体の方を招待する、豆まきをやる、郡山に西尾の名産品を持ってきて物産展をやる。そういった話をしています」
課題とこれから――選手への負担、チームに求められる役割
エアリービーズが目指すのは単にパートナーを増やす、スポンサー収入を増やす方向ではない。福田は「ベクトルを合わせる」ことを大切にしている。
「地元の関係を作った方にパートナーになっていただいて、そこからネットワークを広げて、パートナーさんを増やしていく形を取っています。最初に『デンソーがどうしてスポーツをやっているのか』を説明して、どんな取り組みをしているのかをお伝えします。皆さんがデンソーと何をされたいのかをお聞きした上で、協賛するかしないかを考えていただいて、我々も判断しています。皆さんのニーズは違うので、バレーを通じて何がしたいから協賛を申し入れてくれているのかも、しっかり聞いておかないといけません」
エアリービーズの地域密着は途上だ。チームの拠点はまだ移転が済んでおらず、選手は試合のたび愛知から移動している。地域活動などに選手が参加することはまだ難しい。今後解消される課題とはいえ、チームにとって悩ましい部分だ。
福田はこう説明する。
「去年は郡山の総合体育館(宝来屋ボンズアリーナ)を使えず会津、福島、南相馬、いわきと県内の主要なところを回ったんです。
それでも福島県内、特に郡山での認知度は日々上がっている。福田はこう口にする。
「去年と今年でもうまったく違いますね。去年はタクシーに乗ったとき、運転手さんが2割くらいしか私たちのことを知りませんでした。今はほぼ100%みんな知っています。病院に行っても、エアリービーズのマークの付いたウェアを着用していると『エアリービーズの方ですね?』と言われるんですよ。浸透が少しずつ広まっている実感はあります」
“郡山の一員”として――未来への展望と地域の期待
移転後への期待は大きい。
「直接のふれあいを増やすことができます。バレーを教えたり、子どもたちに夢を提供するような機会が増えてくるだろうと思います」(福田)
まずは一歩一歩取り組みを進め、2024-25シーズンを戦い切ったことが大切だ。目下の取り組み、課題について福田はこう口にする。
「シーズンは前半しか終わっていませんので、今やっていることをしっかり継続して作っていくことが必要かなと思います。そして、もっとネットワークを広げなければいけません。さらにいろんなステークホルダーと連携をして、地に足のついた取り組みをしっかりしたいと思います。同時にチケットを買ってまた見に行きたい、このチームを応援したいという雰囲気もしっかり作らなければいけません。初めて来ても応援がしやすいような演出になっているのかとか、それも含めてしっかりやっていきたいです」
エアリービーズの挑戦がチームとバレーボール界、何より福島県民にとって実りあるものとなることを願いたい。
【連載後編】SVリーグ女子の課題「集客」をどう突破する? エアリービーズが挑む“地域密着”のリアル
<了>
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