今季、アメリカ女子プロサッカーリーグ(NWSL)で飛躍を遂げた松窪真心。その成長を支えているのは、数字の伸びだけではない。

高強度の競争環境に身を置き、判断の速さや強度への対応を日常的に求められる中で、自身のプレーと向き合い続けてきた。JFAアカデミー福島で培った土台、U-20女子ワールドカップで味わった2度の準優勝、そしてなでしこジャパンで直面する新たな役割と課題。原点にある「負けず嫌い」を軸にしながら、力みすぎずに自分を表現する感覚も身につけつつある。NWSLを成長の土台とし、次のステージを見据える松窪真心の現在地を、言葉からひもといていく。

(インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=西村尚己/アフロスポーツ)

「負けず嫌い」はどう変わったのか。メンタリティの原点

――以前は点が取れず悔しさを涙で表現する場面も多かったと思います。自他ともに認める「負けず嫌い」なメンタリティは、アメリカ3年目でどのように変化しましたか?

松窪:負けず嫌いな性格自体は変わっていません。ただ、アメリカではうまくいかない時でも、あまり深く考えすぎないようになりました。周りの選手たちの切り替えが早くて、ポジティブな雰囲気があるので、そこから学ぶことも多いです。あまりに楽観的で、たまに腹が立つこともありますけど(笑)。自分にプレッシャーをかけすぎず、楽しんでプレーしたほうがうまくいく。最近はそう感じるようになりました。

負けず嫌いは大事ですが、とらわれすぎないほうがいいとも思っています。

――ピッチ内で感じたことを周囲に伝える姿勢は、アメリカでも変わりませんか?

松窪:感じたことはその都度伝えています。みんな自己主張がはっきりしているので、言い返されることもありますが、そういうやりとりはむしろ好きです。気を遣って言わずにモヤモヤした感じで終わるよりは、お互いに言いたいことを言って前に進むほうがいいと思います。

――今季を振り返って、自分自身の転機になった試合はありますか?

松窪:5、6月のブラジルとのアウェー2連戦(1-3、1-2)は悔しかったです。特に、先発した2戦目は印象に残っています。アメリカでは、第9節のシカゴ・スターズ戦で今季初ゴールを決めたのが大きかったです。リーグ戦も進んだタイミングでしたが、1点取れたことでホッとして、そこからゴールが続いたので、結果的に波に乗れた感覚はありました。

JFAアカデミー福島で築いた強度への耐性、U-20 W杯で得た転機

――アメリカでは大柄なディフェンダーがコンタクトで止めにくる場面もあると思います。ケガをしないように心がけていることはありますか?

松窪:特別に意識しているわけではないですが、感覚的にプレーしている中で、ぶつかってもケガはあまりしないですね。

――JFAアカデミー福島での経験が、現在の環境でどう生きていますか?

松窪:アカデミーでは2部練習が当たり前で、午前にグラウンド、午後にウエイトトレーニングというスケジュールでした。アメリカでも同じようなスケジュールなので、違和感はなかったです。アメリカの選手たちは結構重いウエイトを上げますが、アカデミーも割と重い負荷をかけていたので、ある程度慣れていました。

トレーニング前後のケアやストレッチも、アカデミーで身についた習慣だと思います。

――U-20女子ワールドカップを2度経験しました。両大会とも準優勝という結果でしたが、その経験は自身にとってどんな意味を持っていますか?

松窪:2024年大会では、22年大会に(飛び級で)一緒に出ていた同世代の選手が多く、決勝でスペインに敗れた後、「次の自分たちの代では絶対に優勝しよう」と話していました。24年大会の準々決勝で、(22年大会決勝で敗れた)スペインと対戦した時は、「スペインに勝てたらどこにでも勝てる」と思えるぐらい、気持ちを懸けていました。あの時はチーム一丸となって戦えていたなと感じます。

――オーストリア戦で相手GKのスーパーセーブに対してグータッチしたシーンは、相手へのリスペクトが感じられて象徴的でした。

松窪:そのシーンはよく覚えています。(土方)麻椰が打ったシュートで、「これは決まった」と思ったんですが、相手キーパーの(マリエラ・エル・シェリフ)選手がスーパーセーブで止めて。そこまで身長はないのに、跳躍力があって、試合を通して本当にいいプレーをしていました。あの場面は悔しさよりも、自然と「すごいな」という気持ちが先に出て、プレーを讃える意味でのグータッチでした。アメリカでは、相手の選手が試合中にいろいろ話しかけてくることが多いので、そういう感覚が自分の中で普通になっていたのかもしれません。

――アメリカでは、プレー中どんな声をかけられるのですか?

松窪:たとえば、対峙するディフェンダーが試合開始後に「私はあんまりトラブルに巻き込まれたくないから、今日はあんまりいいプレーしないでね」と言ってきたり。

コーナーキックでキーパーの前に立った時も、守備だって集中しないといけない場面なのに、こっちの気を逸らすためにいろいろ話しかけてくることがあります。

――そういう駆け引きにも慣れてきているのですね。育成年代ではスペインと北朝鮮が日本にとって大きなライバルだと思いますが、A代表で特に対戦してみたい国はありますか?

松窪:今年6月にアウェーの親善試合で対戦したスペインも強かったですが、個人的にはその前に対戦したブラジルのほうが印象に残っています。個人の強さやずる賢さ、ファールの使い方が本当にうまくて。試合によってやる気の波が激しい印象もありますが、アウェーで戦ったことで、ブラジル人選手たちの本気度を強く感じました。だからこそ、2027年のブラジルワールドカップでは、一番対戦したい相手です。

なでしこジャパンで直面する課題。役割を探る現在地

――代表では出場時間を伸ばしています。ニルス・ニールセン監督も松窪選手の成長ぶりを高く評価していますが、求められている役割をどう感じていますか?

松窪:ニルスさんと直接話す機会は多くありませんが、出場時間も増えてきましたし、スタメンで使ってもらえる機会も出てきたので、信頼してもらっている期待には応えたいです。ただ、代表では試合中に自分の役割をいろいろと考えすぎてしまって、まだ自分らしさを出し切れていないと感じる部分もあります。

――戦術理解とコミュニケーションでは、どちらがより課題ですか?

松窪:どちらもあると思います。代表は個々のレベルが高いので、「上手な選手をどう活かすか」を考えてプレーしています。

自分の役割を意識しながら周りとコミュニケーションを取っていますが、まだ課題は多いです。たとえば(長谷川)唯さんは「好きなようにやっていいよ」と声をかけてくれるので、すごくありがたいですし、自分の役割をしっかりやった上で持ち味も出していけるようにしたいです。

結果と判断の狭間で。カナダ戦が示した課題と手応え

――11月から12月にかけて、カナダとの2連戦は2連勝でした。1試合目は途中出場、2試合目は先発でしたが、改めて試合を振り返ってもらえますか?

松窪:正直、カナダ戦は結構落ち込みました。2試合ともチャンスは何度かあって、自分で足を振った場面もありましたが、映像を見ると(藤野)あおばさんが完全にフリーだった場面は、確実にパスを出してアシストにつなげるべきだったかなと反省しています。ゴールに向かう回数や、ボールを受ける機会は少しずつ増えてきたので、チャンスを決め切れる力をつけたいです。

――守備面でハイプレスの質を上げることが一つのテーマでした。連携面についてはどう感じていますか?

松窪:自分がプレスに行っても後ろがついてこられない時もあれば、逆に後ろを気にしすぎて奪いにいけないこともあります。ボランチで(長谷川)唯さんが先発した時は、唯さんが割と前目にポジションを取って自分を前に出してもらう形でしたが、後半、ボランチが(谷川)萌々子と(宮澤)ひなたさんに代わってからは、またやり方が変わりました。誰と組むかによって求められる役割は違いますし、その人に合わせられるようになる必要があります。チームとしても、もっと話し合って整理していかないといけない部分だと思いました。

――カナダ戦1試合目で藤野あおば選手が決めた3点目は、同世代の連係から生まれたゴールでした。

松窪:あの場面は、まず(浜野)まいかがすごくよく見てくれていて、難しいコースでしたけど、しっかりパスを通してくれたのが大きかったです。そのあと、(谷川)萌々子の走るスピードやタイミングも、(JFAアカデミーで)ずっと一緒にやっていたから、感覚的に分かっていた部分があって自然とコンビネーションが生まれたと思います。

結果で応えるために。代表とキャリアの未来図

――2027年のワールドカップ、そしてその先のロサンゼルス五輪を見据えて、個人としてこれから積み上げていきたいものは何ですか?

松窪:やっぱり結果ですね。代表だと、ライン間でつなぐプレーなどは、自分よりもうまい選手がたくさんいるので、そういう役割は他の選手に任せたほうがいいと今は思っています。その分、自分自身は前目の選手として、点を取れる存在になりたいですし、スタメンの選手を脅かせるような立場になりたい。その意味でも、結果を出せれば試合に使ってもらえるチャンスは確実に広がると思っています。

――ニールセン監督はメンタル面へのアプローチを重視している印象があります。声かけはプレーにどんな影響を与えていますか。また、リア・ブレイニー コーチの“褒める”声かけで伸びたと感じる部分はありますか?

松窪:リアコーチは、「いつか(得点が)くるよ」という言葉をずっとかけ続けてくれていて、それを信じてプレーできています。ニルスさんは、自分の性格を分かった上で、あえてプレッシャーになるような言い方をしないようにしてくれているのかなと感じます。

その距離感がありがたいですし、起用してもらっている以上は、しっかり応えたいと思っています。

――2026年には、オリンピック予選を兼ねたアジアカップも控えています。どのような気持ちで臨みたいですか?

松窪:大きな大会ですし、簡単な試合は一つもないと思います。だからこそ、何かしらの形でチームに貢献できる選手になりたいですし、チームに必要とされる、限られたメンバーの一人に食い込みたいと思っています。

――NWSLでの経験が、キャリアの大きな土台になりつつあります。その先の未来は、どのように思い描いていますか?

松窪:今年の活躍が、これからのキャリアの選択肢を広げてくれたと感じていますし、その先を考える時間も少しずつ増えてきました。新しいチャレンジをすることも大事だと思いますが、何よりも、自分が楽しくサッカーを続けられることが一番だと思っています。焦らず、じっくり考えながら前に進んでいきたいです。

【連載前編】NWSL最年少ハットトリックの裏側で芽生えた責任感。松窪真心が語る「勝たせる存在」への変化

<了>

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[PROFILE]
松窪真心(まつくぼ・まなか)
2004年7月28日生まれ、鹿児島県出身。女子サッカー選手。アメリカNWSLのノースカロライナ・カレッジ所属。ポジションはFW/MF。JFAアカデミー福島12期生。1.5列目でのゲームメイクや積極的な守備でチャンスを創出し、ゴール前では勝負強さを発揮するアタッカー。2020年チャレンジリーグ、21年なでしこリーグ2部で得点王とMVPを獲得し、最終年には主将も務めた。2022年にマイナビ仙台レディースへ加入し、WEリーグでも持ち味のスピードと積極的な守備で存在感を示す。2023年7月にアメリカへ渡り、ノースカロライナでは加入初年度からカップ戦優勝とMVPを獲得し、翌年、同チームに完全移籍。2025年シーズンは11ゴールで得点ランク3位に入り、NWSL史上最年少ハットトリックも達成。なでしこジャパンでは2025年のシービリーブスカップでA代表デビューを果たし、次世代ストライカーとして期待を集めている。

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