2020年3月26日に福島県をスタートする東京オリンピックの聖火リレーをつなぐランナーが続々発表されている。各地ゆかりのオリンピアン、アスリート、著名人らが名を連ねることが話題になっているが、一般のランナーも参加して行われる「オリンピックのシンボル」聖火リレーはどうあるべきなのか?
「平和・団結・友愛」を象徴する聖火リレー。
(文=小林信也、写真=Getty Images)
純粋な情熱の輝きが宿る聖火リレー
東京五輪の聖火をつなぐ走者たちが発表された。
宗茂・猛さんの宗兄弟、増田明美さんら、かつてオリンピックに出場した選手たちの名前がたくさん見えるのはうれしい。地元出身のタレントさんや著名人も、予想を上回る数で選ばれている。沿道の応援者を喜ばせ、話題を提供する意味では必要な選択なのだろうか。
私は数カ月前取材で訪ねた一人の女性が、「聖火を持って、この島を走りたいんです」と真剣な眼差しでつぶやいたときから、彼女が選ばれればいいなと、心から願っていた。その人は、自国開催の聖火リレーにはなくてはならない人だと思った。
まだ日本で女子マラソンのレースが開催される前の時代、42.195kmは男性だけが走る距離だと誰もが思い込んでいた時代にフルマラソンを走り、日本の女性が走れることを天下に知らしめた人だ。
1976年4月のボストンマラソンを佐渡・鬼太鼓座(おんでこざ)の仲間と走った。1979年2月には第28回別府大分毎日マラソンに女性として史上初めて参加が認められ、2時間48分52秒で完走した。これが日本の女子マラソンの歴史が正式に拓く出来事となった。
小幡さんは結婚して大井キヨ子さんになった今も、鬼太鼓座の流れをくむ鼓童のスタッフとして佐渡に暮らし続けている。
私は、新潟県が発表した聖火ランナーの名簿の中に彼女の名を探した。宇佐美彰朗、小林幸子、横澤夏子、おばたのお兄さんらの名と共に、大井キヨ子の名前があった。
平和の祭典にふさわしい最終ランナーとは?
メディアでは、まだ発表されていない最終走者を予想する報道も見られた。毎回、当日まで極秘とされ、サプライズで登場するのが恒例になっている。来夏もその方針が踏襲される可能性が高いが私はある選手の顔がふと浮かんだ。最終走者に、池江璃花子さんはどうか。池江さんの名前が頭に浮かんだ瞬間から、すぐに発表し日本中みんなでその日に向けて応援を重ねる選択があってもいいのではないかと考えるようになった。
折りしもこの日、池江さんの退院が発表された。入院後の検査で急性リンパ性白血病と診断され、合併症を併発したため、造血幹細胞移植を受けたという。池江さん本人は今後の展望について、
「2024年のパリ五輪出場、メダル獲得という目標でがんばっていきたいと思います」
とツイートしている。東京オリンピック出場は事実上消滅している。
今年の初めに病気が判明するまで、来夏の東京五輪で日本中の期待を担い、主役になるはずだった。
池江さんと共に開幕を祝い、世界中に平和の祭典の幕開けを伝える。東京五輪に特別な期待感が湧き上がったら何よりだ。日本中、世界中がONE TEAM(ワンチーム)になる劇的な瞬間。その日に向け、可能なアクションで点火できるよう、まず池江さんには体調回復を目標にしてもらう。国民こぞって池江さんを応援しながら、自分たち一人ひとりも健康増進に取り組む。そうやってオリンピック開幕を迎えることが、本来のオリンピック招致の目的にもかなうのではないだろうか。
<了>