中国の3月の自動車販売は国内、輸出共に好調だった。値引き合戦に支えられたとみられているが、この勢いは続くのだろうか。

情勢は昨年と異なり、電気自動車(EV)には逆風が吹き始め、さらに新たな変数が加わり、今後は大混戦必至の情勢だ。

3月のデータと今後の見通し

乗用車市場信息聯席会(以下、乗聯会)によると、3月の国内販売は前年同月比6.0%増の168万7000台だった。うち新エネルギー車(EV、PHEV、燃料電池車)は同29.5%増の70万9000台、国内ブランドは同51%増の93万台、外資系ブランドは同8%減の50万台だった。輸出は40万6000台で、前年比39%増で史上最高を記録した。新エネルギー車は2月に月間ベースで初めて前年実績を下回ったが、すぐに回復した。

乗聯会は、3月は様子見ムードが強かったとみている。ユーザーは春節休暇前から続くセール合戦の成り行きと22年発売モデルの改良やマイナーチェンジ状況を見極めたかったようだ。

今後は新モデル投入を契機とし、消費熱は高まると考えている。

もう一つの業界団体、中国汽車流通協会は4月の乗用車市場について、おおむね順調に推移するとみている。温暖な気候、各地で開催される春のモーターショー、話題の新モデルなどが好材料をもたらすだろう。しかしディーラー各社は、需要の伸びは不十分と考え、前月比で若干の減少を予想している。

政策支援と新車攻勢

政策支援が出てきた。国務院は3月、「大規模設備の更新と消費品の下取り・買い替え促進の行動方案」を通知した。自動車、家電、キッチン、浴室などの耐久消費財のリニューアルを全国規模で敢行する。

下取りし買い替えを促すことで、産業構造を近代化する。自動車がこの政策の看板で、方案には「自動車の下取り・買い替えを展開する」と明記されている。中央政府は地方政府と連携し、廃車と買い替えを奨励する。金融機関は法令順守やリスクコントロールを前提に自動車ローンを合理的に決定する。融資条件を緩和するのだ。上海市、重慶市、山東省などが積極的に反応し、すぐに下取り関連の補助金政策を打ち出した。
ディーラーの42.5%はこれが第2四半期(4-6月)の販売にプラスになると答えている。さらに、4~7月に新車11車種が市場へ投入される。値引きに加え、政策支援と新車攻勢が新たな変数として加わった。以下に話題の新車を取り上げたい。

シャオミ「SU7」

スマホ大手シャオミ(小米)は21年、IoTシステムのラストピースを埋めるためと称し、自動車生産に乗り出すと宣言した。あれから3年が経過し、初のEV「SU7」の発売にこぎつけた。

SU7はクーペ風のスタイリッシュなセダンで、価格は21万5900元(約453万4000円)から。

車載電池トップCATL(寧徳時代新能源科技)の最新型の三元系リチウムイオン電池「麒麟電池」を採用し、炭化ケイ素(シリコンカーバイド)を用いた超級400V高圧プラットフォームにより、一般条件下での航続距離は700キロで、テスラのModel 3より133キロ長い。最上級モデルでは800キロも可能。15分で350キロ分を充電できる。これもModel 3より100キロ長い。最上級モデルでは800Vプラットフォームで同じく15分で510キロ分が充電可能だ。

シャオミ創業者兼最高経営責任者(CEO)の雷軍(レイ・ジュン)氏によると、SU7の開発に100億元(約2100億円)を投資した。

SU7は最初の5日間で1073台を納入し、受注残は10万台を抱えている。雷氏はこれを「予想の3~5倍の成功」と称した。雷氏の知名度やマーケティングの巧みさが大きく貢献したようだ。

固体電池搭載車「智己L6」

もう一つの話題の新車は智己汽車(IMモーターズ)の「智己L6」だ。智己汽車は20年に上海汽車(国有最大の自動車企業)、張江高科(上海でハイテクパーク運営)、アリババが共同で立ち上げた。23年に純EVのSUV「LS7」と大型セダン「L7」を発売した。第3弾のクーペ風セダン「L6」は5月中旬に発売予定で、価格は23万元(約483万円)からとシャオミのSU7とほとんど変わらない。

L6の売りは世界初の量産型固体電池を搭載したことだ。これまでに比べ、出力は30%アップし、0→100キロ加速は2.74秒、航続距離は1000キロ。電池重量は25%軽量化され、急速充電も可能といいことずくめだが、コストは高い。

この電池は上海汽車がバックアップする青島清淘というベンチャーが開発し、「光年固体電池」と名付けられた。これまでの半固体電池とは一線を画したとしているが、固体か半固体か、業界では激しい論争が続いている。BYDとメルセデス・ベンツの合弁企業「騰勢(DENZA)」の幹部は、現時点で半固体電池を推進している人たちは言葉遊びをしているだけだと断じた。全固体へ一歩近づいたというのが実態だろうか。とはいえ、インパクトは大きかったようで、予約注文は最初の23時間で1万台を突破した。

消耗戦の先には

新車11車種の中に唯一の日本車、7月中旬発売予定のトヨタ新型プラドがある。生産は一汽トヨタで、2.4Lエンジン+モーターからなる得意のハイブリッドだ。予定価格は47万~57万元(約987万~1197万円)と発表され、予約注文の受付を開始すると、わずか1時間で5000台を突破した。1000万円クラスでこの数量はヒットといえるだろう。

これらインパクトの強い話題の新車は絶好調だが、それ以外の車種は値引きや補助金頼みの消耗戦となる。ディーラーはそれを覚悟しているがゆえに、慎重姿勢を崩さない。また、政府の企図した産業リニューアルも簡単ではない。EVの値崩れが激しく、これが中古車市場のみならず、市場全体に悪影響を与えているという。激しい消耗戦により、倒れる企業が出るのは確実だ。そして、その先は見えてこない。