河北省保定市の西大街は大勢の観光客で賑にぎわっていた。河北名物のロバ肉バーガーを販売する店「驢肉曹」の前には長蛇の列ができ、店の入り口から通りの曲がり角まで列が伸びていた。
今年の夏休みシーズン、食欲をそそる香りを漂わせる熱々のロバ肉バーガーを食べるために、多くの観光客が中国各地からわざわざ保定市を訪れている。それは、単においしいものを食べる旅ではなく、没入型文化体験の旅ともなっている。
昨年の五一労働節(メーデー、5月1日)に合わせた5連休中、保定市のロバ肉バーガーがショート動画プラットホームにおいて突如爆発的人気となり、一夜にしてグルメ界の「トップスター」の座に就いた。
今年の夏は、ロバの形のバーガーやロバ肉入りの酥餅(お菓子)、ロバのミルクを使ったアイスクリームやミルクティーなど、工夫を凝らした斬新で独特なロバ肉バーガーグルメと関連商品が続々と登場し、保定市のロバ肉バーガー店の人気が急上昇。「ロバ肉バーガー」経済が若者の心をとらえ始めている。
ロバ肉バーガーは今、保定市の文化観光の発展を力強くけん引している。保定古城保護建設開発の龍涛(ロン・タオ)マネージャーによると、ロバ肉バーガーが大人気となって、同市を訪問する観光客が目に見えて増加している。例えば、2024年に西大街を訪問した観光客は延べ640万人だったのに対し、今年は7月末の時点で前年同期比33.45%増の延べ638万7000人に達した。五一労働節に合わせた5連休中には、最も多い日で、西大街を訪問した観光客は延べ13万人に達し、北京市・天津市・河北省における人気の観光スポットの一つとなった。
今では、西大街は単にロバ肉バーガーを食べる場所ではなくなっている。おいしいご当地グルメを食べ歩きするだけでなく、無形文化遺産の手作り体験や伝統パフォーマンス鑑賞、文化クリエイティブグッズマーケットでのショッピングなどを楽しみ、1000年以上の歴史を誇る古城の文化の鼓動を感じられるスポットとなっている。
保定市の各観光スポットにある文化クリエーティブグッズショップでは、ロバ肉バーガーをモチーフにしたマグネットや縫いぐるみが超人気商品となっている。「これはロバの肉。これは『燜子』(ロバ肉スープをゼリー状に固めたもの)。包丁で切って挟めば、ロバ肉バーガーの出来上がり」。西大街の「瞻岳文創」というショップの前では、縫いぐるみ版「ロバ肉バーガー」の作り方を紹介するパフォーマンスが行われており、多くの観光客が足を止めて見ていた。店員の俎思萌さんは、包丁の縫いぐるみを持って、ふわふわのロバ肉の縫いぐるみを薄く「切り」、慣れた手つきでそれをふんわり起毛の「ロバ肉バーガー」に挟み、ロバのイラストが描かれた紙袋に入れていた。これは、本物の「ロバ肉バーガー」を作っているのではなく、「味覚の記憶」を呼び起こしてくれるクリエーティブなパフォーマンスだ。店長の張倩さんは、「これは当店がAIアシストを活用してデザインした第4世代の『ロバ肉バーガー』。より丸みがあり、かわいくて、若者の好みに合うデザインになっている」と説明する。
曲がり角を曲がると、深煎りコーヒーの香りと、その向かいにあるロバ肉バーガーショップが漂わせている香りが絶妙に混ざり合い、保定という街ならではの独特の香りを漂わせていた。コーヒーショップ「翡冷翠珈琲(FirenzeCafe)」の中では、責任者の張帥雅さんが「ロバ肉バーガーラテ」という業界の垣根を越えたコラボ商品を作っており、竹串に出来立てのミニロバ肉バーガーを刺し、カフェラテを入れた茶器の上にトッピングしていた。「1年以上かけて試行錯誤を重ね、最終的に、特製のゴマソースを使うとロバ肉バーガーの風味を出せることに気づいた」と話す張さんは、スマホに保存されている記録を見ながら、「『ロバ肉バーガーラテ』は単なるドリンクではなく、伝統の食文化と近代的な消費シーンのコラボレーション」と笑顔で話した。