私事で恐縮だが、筆者は今年70歳になった。いわゆる古希である。
2060年、80代後半が最多に
グラフをご覧いただきたい。これは、2020年から2100年までの間、日本の人口の最大勢力が5歳刻みのどの年齢層になるかの推移を表したものだ。〇は男性、⚫は女性。それによると、今年2025年は50~54歳の男性が最も多い。2030年以降は予測値になるが、人口は比較的正確な将来予測が可能なので、よほどの予期せぬ事態(大戦争、疫病、大災害など)が発生しない限り、このグラフ通りになると考えられる。
第二次世界大戦後、日本の人口で最も多かったのは、長く団塊世代(1947~49年生まれ)を中心とする1940年代後半生まれの人たちだった。しかし、2020年にその子供にあたる団塊ジュニア世代(1970年代前半生まれ)の男性に首位の座を譲った。グラフによると、団塊ジュニアは今後も首位の座を守り(2035年以降は女性の方が多くなるが)、2060年まで最大勢力であり続ける。その時の年齢は85~89歳(!)である。
このグラフを作ったのは、以前当欄でも紹介した元日本銀行理事の山本謙三オフィス金融経済イニシアティブ代表。山本氏は、「真の高齢化社会はこれから始まる。強烈な人手不足、経済成長率の低下、財政悪化圧力の高まり、地方から大都市部へのこれまで以上の人口移動などが予測される」と警鐘を鳴らす。
現在、日本人の平均寿命は男女とも世界トップクラスだが、これは国民皆保険制度のたまものと言える。公的な健康保険制度が未整備な米国の平均寿命が先進国の最低レベルにあるのとは対照的だ。しかし、少子化と高齢化により、1人の働き手が支えなければならない非労働力人口(高齢者と年少者)は確実に増加する。そうした中で、皆保険制度は維持できるのだろうか。皆保険制度が崩壊したとき、高齢者の健康は守られるのだろか。
長寿になったのに労働期間は短縮
山本氏はまた、高齢化が進む日本社会の意外な一面をあぶりだす。「長寿化にもかかわらず、日本人は働かなくなった」というのだ。
同氏が各種資料に基づき試算したところ、生涯の平均労働期間(社会に出てから、完全に仕事を終えるまでの期間)は、1970年時点では52年間だった。それが、2024年には47年間と、5年短くなっているという。
それに伴い、リタイアしてから亡くなるまでの平均期間は、平均寿命の伸びもあって1970年の11年から、2024年には19年と2倍近くになった。この期間に何をするかが重要だが、山本氏は「長寿になった恩恵を、働いて社会に返す」よう提言している。確かに元気な高齢者が長く働けば、多少なりとも人手不足は緩和され、税収や社会保障制度の維持にもプラスに働く。政府や自治体、民間企業には、意欲のある高齢者が働きやすい環境を整えることが望まれる。
高齢化対応で雁行モデル?
10月に就任した高市早苗首相が、台湾有事をめぐりこれまでより踏み込んだ国会答弁を行ったことで、外交・安全保障問題に関心が集まっている。また、高市政権は外国人受け入れの厳格化を打ち出しており、それについて検討する有識者会合も動き出した。もちろんこれらの問題も重要だ。しかし、必ず訪れる「真の高齢化社会」への対応は、それらに劣らず重要な問題だ。外国人政策は人手不足にも関係するだけに、単独で議論するのではなく、高齢化対策の中で検討する方が生産的ではないか。
少子高齢化は日本だけの問題ではない。ニッセイ基礎研究所によると、2024年のアジア諸国の出生率は、韓国0.734人、台湾0.863人、中国1.013人と、日本(1.217人)よりさらに低くなっている。
バブルのころ、一部の日本の経済学者が「雁行モデル」によるアジアの経済発展を唱えたことがある。当時、アジアで傑出した経済力を誇った日本が、リーダーとして韓国、台湾、シンガポールなどに投資と技術移転を行い、それが中国や他のアジア諸国にも波及し、アジア経済全体の底上げを図るという構想だ。雁(がん)がリーダーを先頭に斜めに列をなして飛ぶことからこの名がついたが、中国が世界2位の経済大国となり、1人当たりGDPでシンガポールや韓国が日本を抜いた現在、もはやそれを主張する者はいない。
しかし少子高齢化という面では、いい悪いは別にして、日本が先頭を走っているのは事実だ。雁行モデルのように、日本が自らの経験や政策を各国と共有し、協力して問題の解決に取り組むことがあっていい。それはアジアにおける日本の存在感の回復にも寄与するだろう。











