2026年の日本経済は昨年の低い経済成長基調を引き継ぐほか、最大の貿易・投資国の中国との関係悪化が影響する。日銀の政策金利引き上げにもかかわらず円安・物価高が継続する見通しで、厳しい年となるのは必至だ。
25年7~9月期の実質GDP(国内総生産)は6四半期ぶりにマイナス成長となった。トランプ米政権の高関税措置が日本経済のけん引車である自動車の輸出を直撃したことが主因。26年も輸出の低迷は続き、企業収益が減退する懸念は大きい。さらに中国客の減少により訪日客需要の先行きにも不透明感が見られる中、日本経済を成長軌道に戻すには物価高を上回る賃上げを早期に定着させ、内需の柱である個人消費を底上げすることが課題となる。
自動車メーカーの利益圧迫
大手自動車メーカーはトランプ米政権による自動車関税の引き上げに対し、輸出価格を下げることで米国での販売数量を維持してきたが、7~9月は対米輸出が右肩下がりで推移。各社とも一部車種で関税分の販売価格への転嫁を進めているが、価格競争力を失えば販売台数の大きな落ち込みにつながる。
世界販売の約7割を米国市場に依存するスバルは「24年度の(連結)営業利益4000億円の約半分を主に関税の影響で失った」と明かした。ホンダも「値上げは難しく、下期も苦境が続く」と認めている。関税率は9月中旬に27.5%から15%に下がったものの、従来の2.5%と比べれば高水準で、輸出の下押し圧力は今年も継続する見通しだ。
昨年7~9月期には景気を下支えしてきた訪日客消費がマイナスとなり、先行きにも暗雲が漂い始めている。台湾有事を巡る高市早苗首相の発言を受け、中国外務省は自国民に日本への渡航自粛を呼び掛けた。24年の中国からの訪日客数は約698 万人で全体の2割弱。渡航自粛が宿泊や飲食、小売りなどの業界に打撃を与え、経済成長を抑える恐れがある。
一方、個人消費は微増にとどまり、低空飛行が続く。長引く物価高で家計の節約志向は根強い。
中小企業のコスト削減は限界
中小企業の多くは「材料費が高騰し、コスト削減は限界だ」と嘆く。連合は26年春闘で「5%以上」の賃上げを求める方針を掲げた。中小企業は人材確保のための「防衛的賃上げ」で精いっぱい。継続的な賃上げ余力は乏しいのが実情だ。
政府は11月末に家計支援や成長投資を柱とする総合経済対策の裏付けとなる25年度補正予算案を閣議決定した。「責任ある積極財政」を掲げる高市政権が初めて策定した予算案の一般会計歳出総額は18兆3034億円。コロナ禍対策などに巨費を投じた20~22年度を除き、過去最大の規模に膨らんだ。財源の6割超を新規の赤字国債発行で賄い、借金頼みの財政運営となる。
歳出規模は前年度補正の13兆9433億円を大きく超える。歳入面では、新規国債を追加で11兆6960億円発行。前年度補正での発行額6兆6900億円を大幅に上回り、財政状況は一段と悪化する。
円安、株安、債券安のトリプル安の恐れも
高市政権は大型の総合経済対策をまとめ、おこめ券配布や電気・ガス料金補助などの家計支援、中小企業の賃上げ支援を講じた。先進国で最大の財政赤字に陥っている日本にとって放漫財政が長期金利の急騰を招くとの恐れも大きい。円安、株安、債券(金利上昇)のトリプル安から「日本売り」圧力が高まると懸念する声も多い。
日銀は19日、政策金利を0.75%と30年ぶりの水準に引き上げることを決めた。これを受け同22日の国内債券市場で10年物国債利回りは一時2.065%に上昇(債券価格は下落)した。1999年2月以来、約27年ぶりの高水準。金利が自由に動くようになり、景気や物価の先行きなどの予測を反映する「経済の体温計」としての機能がよみがえった。急速に上昇する長期金利は、転換点を迎える日本経済の変化を映し出す。
こうした中、外国為替市場で円安が進行。円は1ドル=157円台後半と1カ月ぶりの安値を付けた。利上げを決めた日銀の植田和男総裁が事前の想定ほど金融引き締めに前向きではないと受け止められたためだ。市場では今後160円前後まで円安・ドル高が進むと見る声が多い。
野党の要求をのむ減税策が目立つのは高市政権の基盤が弱いためだ。与党は参院で過半数に届かず、26年度予算案の円滑な成立に向けて野党の協力を得る狙いがある。自民党税制調査会幹部の顔ぶれが積極財政派に一変した影響も大きい。当初は低所得層向けだった「壁」の引き上げを国民民主の要求で中所得層まで広げ、減収規模が年6500億円に膨らんだのは象徴的だ。26年から2年の時限措置とし、恒久財源の手当てを先送りした。今後2年で低所得層に絞って生活を支援できる給付付き税額控除の具体化を急ぐ必要があろう。
防衛力強化、赤字国債増発に頼るのは危険
防衛力の強化では復興特別所得税の税率を1%下げ、代わりに27年1月から所得税額の1%相当を充てる。法人税、たばこ税に加え、基幹税である所得税で薄く広く防衛財源を手当てするのは妥当だが、防衛費の一層の増額を見込むとなお不十分だ。安易な赤字国債増発に頼るのは、戦前に戦時国債を増発し破滅した過ちを繰り返すことになる。国民の理解を得て税金を財源に充てる必要があろう。
自動車に関する税制では、道路維持を理由に自家用の電気自動車(EV)に車両重量に応じて課税を重くする新たな税負担も導入。一方で、エコカー購入者への補助金は拡充する。ガソリン税の旧暫定税率の廃止は温暖化ガス削減に逆行。
脆弱な政権基盤の下、今後も与党が野党の減税要求を丸のみし、財源の裏付けなしに財政が野放図に拡張する懸念は消えない。与野党は財政問題の核心である社会保障費の効率化や消費税を含む安定財源の確保策から逃げずに正面から議論すべきだ。
日本経済の中国依存は甚大
高市首相の「台湾有事」を巡る発言をきっかけに日中関係が悪化した。
日本経済の中国への依存度は甚大だ。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、対中輸出額は 1564億5524万ドルで、対中輸入額は 1671億1943万ドル。最新の調査では、中国に進出している日系関連企業の総数は 2万6955社に達する。
24年の訪日外国人の消費額は約8兆1000億円。うち、中国人は最大の個別国別シェアを占めており、復調が続く中国人訪日客の消費回復が日本の観光消費全体に与えるインパクトは大きい。有力シンクタンクの試算によると、今回の中国の対抗策により、日本経済は1兆7900億円の損失につながり、GDPを0.29%押し下げる見通し。産業界には、中国がレアアースの供給を規制するリスクもあると懸念する声もある。
26年の日本経済は、0%すれすれの潜在経済成長率の中で「厳しい状況が続く」と言わざるを得ない。











