香港誌の亜州週刊はこのほど、タイ下院の首班指名選挙で圧勝して首相続投を決めたアヌティン首相が、イラン危機によって引き起こされたエネルギー価格の高騰で、国政の難しいかじ取りを強いられるようになった状況を紹介する記事を発表した。
アヌティン首相は2025年9月に就任したが、国内政治を中心に野党との対立が強まったために、25年12月11日に下院(日本の衆議院に相当)の解散に踏み切った。
しかしタイ国内ではほぼ同時に、イラン危機によって引き起こされたエネルギー価格の高騰や燃料不足が発生した。各地のガソリンスタンドには車の長い列が出現した。一部の寺院は遺体を火葬するための燃料が不足しているとして、緊急事態を宣言した。
タイ政府は約90日分の石油の備蓄があると表明し、運転手に対してパニックになったりガソリンを買いだめしたりしないよう呼びかけた。政治学を専門とするラームカムヘン大学のカラウェクパン講師は、「原油価格の上昇は物流コストを押し上げ、あらゆる物価の上昇をもたらし、生活費の高騰を招くので、民衆の不満を生み出します。これはアヌティン政府が直面する難題の一つです」と指摘した。
実際に、米国とイスラエルがイランに対する軍事攻撃を開始して以来、タイでは燃料、食品、交通などが価格が高騰し、人々の生活を圧迫している。低所得世帯は特に、総支出に占めるエネルギーと食品の支出の割合が大きいので、より大きな影響を受けている。
タイ政府は価格統制と補助金を通じて、ガソリンとディーゼル燃料の価格上昇の勢いを抑えようとしている。確かに一定の効果が出たが、政府の財政負担は増大した。
石油化学産業への影響も実に深刻だ。ホルムズ海峡経由のナフサなどの輸送が止まったために、プラスチック、化学繊維、合成ゴムの原料になるオレフィンの製造装置の一部は、生産停止に追い込まれた。タイでのプラスチック樹脂の価格はわずか数週間で30%から40%上昇した。影響は消費財にも及んでおり、タイを代表する即席めんのママの製造企業は包装用のプラスチックフィルムの不足に直面している。
輸出については、ホルムズ海峡の閉鎖と紅海で日に日に激化する不安な情勢により、海上の保険料が4から6倍に上昇した。主要な海運会社はすでに船舶の航路を変更して喜望峰を迂回させており、納期が10から15日延び、物流コストの大幅な増加を招いた。
中東情勢の緊迫はタイのGDPの9%を占める農業にも打撃を与えている。
なお、世界貿易機関(WTO)のジャン=マリー・ポーガム事務局次長も3月25日時点で、世界で化学肥料不足の問題はまだ起きていないと説明する一方で、「戦闘が続くことで湾岸地域からの化学肥料の搬出ができなくなれば、主要な穀物生産国は直接の打撃を受ける」と指摘した。天然ガスは尿素など窒素系肥料の主要原料であり、中東はこうした肥料の重要な輸出地域だ。ホルムズ海峡は、世界の海上輸送による化学肥料取引の約3分の1を担っている。
タイ政府は生鮮食品、農産物、建築資材を含む59種類の製品の価格統制をすでに強化した。違反したり「買いだめ」や「売り惜しみ」をした場合には、最大で7年の禁固刑が科せられる。
アヌティン政権はそれ以外にも長期的な試練に直面している。すなわち長年にわたり成長が予想を下回っている経済の立て直しだ。経済団体や経済学者はアヌティン政権に対して、短期的な応急措置を捨て去り、明確な計画により競争力を高め、生産の近代化を実現し、構造的な欠陥を解決するよう繰り返し強く促している。(翻訳・編集/如月隼人)











