「鬼滅の刃」の流行により、四字熟語は大いに気になる存在として浮上している。
冨岡義勇の「生殺与奪の権」や伊之助の「猪突猛進」などの他にも難しい四字熟語が散見され、中には意味はもちろん難しい読みのものも多いようだ。

今回のテーマは「画竜点睛」。
生まれは中国の故事であるようだが、通常の読み方ではなく大学受験試験にも多く登場する。
「画竜点睛」に使われている漢字の意味や作られた背景と合わせて、意味や使い方をみてみよう。解説してくれるのは
スタディサプリ高校講座の現代文講師 小柴大輔先生
「画竜点睛」「画竜点睛を欠く」の意味と使い方は?スタサプ講師...の画像はこちら >>

Z会東大進学教室で講師を務めるほか、ロースクール(法科大学院)や司法試験受験の予備校においても一般教養・小論文を指導している。
感覚ではなく論理的に答えを導く指導に定評があり、「現代文に対するイメージが変わった」と受験生から圧倒的な支持を集めている。
スタディサプリでは、現代文のほか、小論文や総合型選抜・学校推薦型選抜対策講座を担当。「画竜点睛」の意味と読み方は?
「画竜点睛」「画竜点睛を欠く」の意味と使い方は?スタサプ講師がわかりやすく解説!
意味は「最後に加える大切な仕上げ」「画竜点睛」の意味は、物事を完成させるために必要な最後の仕上げをいう。
「最後に加える」ことがポイントだ。
「点」は、画面を引き締めるために人物や物を添える「点景」と同様で、ちょっと手を入れる、さっと描くという意味をもつ。
そして、間違いやすいのが「睛」の漢字。
よく見てほしいのだが「晴れ」の漢字ではない。「睛」は「晴」とは別であり、「瞳」の意味をもつ。

つまり、竜を描いて瞳を点ず=竜の絵に瞳を入れて仕上げる。これが「画竜点睛」の意味だ。
正しい読み方は「がりょうてんせい」、「がりゅう」ではない注意したいのが読み方だ。
「がりゅうてんせい」と読んでしまいたくなるのだが、「画竜」の「竜」は「りゅう」ではない。「りょう」と読む。
古来、漢字の音読みには「呉音(ごおん)…主に中国南方系の発音」「漢音…主に中国北方系の発音」がある。
よく知られている読み方である「竜」(りゅう)は呉音だ。
例としては「青竜(せいりゅう)」「天竜川(てんりゅうがわ)」がある。
「りょう」は漢音の発音だ。
なじみが薄いかもしれないが「坂本竜馬」(さかもと・りょうま)の読み方と同じと考えれば、覚えやすいだろう。
「画竜点睛」の使い方は?「点睛」だけでも使える「点睛」だけで意味をもつため、独立して使うことも可能だ。
竜の瞳を入れることは、竜の絵を完成させるために必ず必要な作業である。

瞳を入れないことには仕上がりとは言えない。
「点睛」とは、最後に一筆加えて仕上げる最も大切な部分であり、物事の最も重要な部分の意味をもつ。
「点睛」だけで使う場合は、ポジティブな使い方が可能だ。【例文】
・コンクール出品作品の点睛にこだわる
・現場を実際に目にすることで点睛を知る
・点睛を意識することでケアレスミスを防ぐ【from小柴先生】
四字熟語「画竜点睛」が出題される場合、多くは読み方を解く問題です。
つい「りゅう」と読んでしまいがちなので注意しましょう。
画竜点睛という四字熟語だけが読み方が特別なわけではなく、坂本竜馬(さかもと・りょうま)のように意外とメジャーなところで実は読まれています。
大学入試レベルではよく出題される四字熟語です。「画竜点睛を欠く」としてネガティブな意味で使う四字熟語の「画竜点睛」を使う場合は、「~を欠く」がセットで付くことが多い。
意味は、「肝心な仕上げができていない」「詰めが甘い」だ。【例文】
・試験で悔いを残さないためにも、画竜点睛を欠くことがないように取り組む
・今思えば、あの時の失敗は画竜点睛を欠いたことが原因だった【from小柴先生】
「~を欠く」とついて初めてネガティブな意味をもちます。
「画竜点睛」の意味は「最後の仕上げ」であり、それだけではネガティブな意味にならないことに注意しよう。「画竜点睛」の類語と対義語は?
「画竜点睛」「画竜点睛を欠く」の意味と使い方は?スタサプ講師がわかりやすく解説!

「画竜点睛」の類語は「肝」「仕上げ」一番大切な部分に一筆を入れるということで、「肝」「仕上げ」「要」「肝要」「肝心」「締めくくり」が類語となる。

また、「有終の美」「有終完美」(ゆうしゅうかんび)も類語に数えられるだろう。
意味は、最後までやり通し立派な成果をあげること。中国の古典『詩経(しきょう)』由来の言葉だ。
「画竜点睛を欠く」の類語は「仏作って魂入れず」二字熟語での類語は、「未完」「半端」「不足」「不備」がある。仕上がっていない状態を指す。
ことわざとしては「仏作って魂入れず」がある。
仏像の仕上げは魂を入れること。魂を入れなければ、それはただの物質の塊に過ぎない。
一番大切で肝心な仕上げをしていないという意味だ。
「画竜点睛」の対義語は「蛇足」「画竜点睛=一番大切な部分の仕上げ」の対義語は、同じ中国の故事成語である「蛇足」だ。
意味は、「必要のないものを最後に付け足すこと」であり、以下の故事がある。昔、中国の楚 (そ) の国で酒を賭けて蛇を早く書く競争をした際、一番早く書けた男が「こんなに余裕がある」と示すために必要のない足を書き加えてしまったため、酒をとられてしまった。
また、「過不足」の「過」「過剰」も行き過ぎているという意味では対義語である。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」は、良いことでも行き過ぎてしまえば悪いこととなる、何事もやり過ぎは害になるという意味だ。
こちらは『論語・先進』にある孔子の言葉に基づく。 【from小柴先生】
四字熟語は、中国の故事を由来としているものがたくさんあります。
しかし、中には少ないのですが英語由来もあり、その代表的な例が「試行錯誤」です。
これは、「trial and error」が語源となっています。
他、「natural selection」で「自然淘汰」などもあり、明治以降につくられた、比較的新しい四字熟語です。「画竜点睛」の由来と語源は?
「画竜点睛」「画竜点睛を欠く」の意味と使い方は?スタサプ講師がわかりやすく解説!

中国の故事成語に由来する「画竜点睛」は、元は中国の言葉であり故事成語だ。昔、南朝の梁(りょう)の頃に、張という画家が、都の金陵にある安楽寺の壁に4つの竜の絵を描いた。
しかし、竜の瞳は白いまま。
不思議に思った人々が張に理由を尋ねると、「瞳を入れると、私が描いた竜は飛び去ってしまう」という。
信用しない人々は張に瞳を入れるように頼んだ。

そこで張が龍の瞳を描き入れた途端、竜は壁から抜け出して空へ昇っていってしまった。「画竜点睛」の英語・中国語表現は?「画竜点睛」の英語表現は「finishing touch」画竜点睛を英語で表現すると、finishing touchとなる。
「最後の一筆」という意味で、画竜点睛と同じように使えるだろう。
「画竜点睛を欠く」は英語で「forgot to dot the i’s but cross the t’s」最後の肝心なところを入れ忘れる意味での「画竜点睛を欠く」を英語で表現するのであれば、「forgot to dot the i’s but cross the t’s」(iの上の点を書き忘れてtの横線にした)が適当だ。
「一番重要な箇所を入れ忘れて失敗する」という意味になる。
ほかの例としては、以下がある。中途半端な気持ち
a half-hearted effort
そのシステムには重大な不備がいくつかあった
There were several serious defects [flaws] in the system.
この書類には不備がある
These papers have something lacking.
津波対策の不備
a lack of countermeasures against tsunami
法の不備
a legal loophole
参考文献:ジーニアス英和(第5版)・和英(第3版)辞典【from小柴先生】
画竜点睛の対義語である「蛇足」には、とてもよい英語表現があります。
不必要なものを追加しても意味がない。余計なものは必要ない。
There is no point in making unnecessary additions. We don’t need a fifth wheel.
a fifth wheelは(四輪車の)5番目の車輪のことで,「余計なもの」という意味。
5輪目の車輪とは非常にわかりやすいたとえであり、言い得て妙だと感心しますね。
参考文献:ジーニアス英和(第5版)・和英(第3版)辞典「画竜点睛」の中国語表現は「画龙点睛」「画龙点睛之处」画竜点睛は、中国の故事から生まれた四字熟語のため、同じ意味の中国語がある。

「画龙点睛」(仕上げを入れる)、「画龙点睛之处」(最後の仕上げ)があり、どちらも画竜点睛と同じ意味で使われる中国語だ。【from小柴先生】
「画竜点睛」は、書くという問題はありません。
おそらく「睛」が常用漢字ではないということがあるのでしょう。
読み方、意味を問う問題が出題されます。
しかし、中には「蛇足」の意味と勘違いしている例が多く見受けられるので、注意が必要です。「画竜点睛」について、漢字が難しく、意味がわかりにくいと思っていた人もいたかもしれない。
しかし、由来となった故事成語や語源を知ることで、一気に理解しやすくなったのではないだろうか。
「画竜点睛を欠いている」とならないよう、読み方も漢字も正確に覚えておこう。
取材・文/櫻庭由紀子 監修/小柴大輔 デザイン/ロンディーネ 構成/寺崎彩乃(本誌)
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