ジャック・ホワイトがステージに立った時に絶対に目にしたくない光景は、観客が自分の音楽よりもスマートフォンの操作に熱中している姿だ。
2018年4月19日からスタートするホワイトのツアーは、Yondrを導入して行われる最初の音楽ツアーとなる。ただし、緊急の場合に備えて、携帯電話を使用できるゾーンをいくつか設けることになっている。”チーム・ノーフォン”に参加しているアーティストはガンズ・アンド・ローゼスやアリシア・キースの他にも多数いる。例えば、ボブ・ディランのライブでは撮影しているファンを警備員が会場の外に出す。デイヴ・シャペルはYondr信奉者で、コンサート中に観客に向かって「お前ら、そろそろスマホから自由になれよ」と発言している。トゥールのメイナード・ジェイムス・キーナンが携帯電話ユーザーを拒否する理由は、彼らが勝手に写真や動画を撮ることではなく、勝手にあれこれ録音して近所に迷惑をかけるからだという。アーティストのこういった発言や行動に不満をもらすファンもいるが、アーティストたちはファンの理解を得るために事前に発表して筋を通している。
ボニー・レイットは「あれはとても気が散ることよ」という。彼女はコンサート中の写真撮影や動画撮影はしないようにファンにお願いしているが、最後のアンコールでは撮影を許可している。「ライブでは観客と私の間に神聖な空間が作られるけど、スマートフォンで撮影されていると、彼らの心と結びつくのが本当に難しいのよ」
一方で彼らに賛同しないスター・アーティストもいる。小さめの会場で、観客と近距離でライブを行うアーティストの場合、ステージから見える場所にスマートフォンがあるのを嫌うことはプロモーターたちも織り込み済みだ。しかし、若い世代のファンが多く、大きな会場でライブを行うポップ・スターたちにとって、スマートフォンは必須のツールである。あるコンサート・プロモーターはこう説明する。「ジャスティン・ティンバーレイクやドレイクなどのコンサートの場合は、スマートフォンによってファン同士が共有する体験が拡大し、ライアン・アダムスなどの場合は逆に減少するという傾向がある」
「アーティストたちが絶対にしたくないのは、ライブの最中に観客を外の世界から切り離すことだ。どんな状況であっても、SnapchatやInstagramが自由にできる回線容量がないだけで彼らは文句をいい出すからね」と、長年ナッシュビルでプロモーターをしているブロック・ジョーンズが教えてくれた。

ジャック・ホワイト、ハイム、クリス・ロックらが使用するYondrのポーチ
Yondrはチケット1枚につき約2ドル(約220円)を上乗せして、自社スタッフを派遣している。ジャスティン・ティンバーレイクは、最近行ったアルバムの試聴会でYondrを使用した。また、2017年にはYondrの名前すら聞いたことのなかった多くのプロモーターが、一定数のアーティストたちがライブを行う時に求めるアイテムとして受け入れるようになっている。「身体検査要員を雇ってやるわけじゃない」と、シカゴのジャム・プロダクションズ副社長アンディ・サーザンがいう。「これはメーカーが熟慮して完成させた実証済みの製品だ」と。生徒のスマートフォンの使用を制限したい学校にもこの製品を提供しているドゥゴーニは、スマートフォンなしのコンサートを体験して欲しいと繰り返した。
「最初は奇妙に思うかもしれない。でも音楽に集中すると、そのコンサートは格別なものになる。きっと社会経験に等しい体験になるはずだから」と、Yondrユーザーであるハイムのマネージャーのジョン・リーバーバーグがつけ加えた。
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