世界市場で50億ドル(約5,500億円)という成長を築いたK-POP。BTSの『Love Yourself:Tear』がビルボード200で初登場1位を獲得し、史上初の快挙となったのも記憶に新しい。
アメリカ国内のスタジアム・ツアーをソールドアウトにするまでとなったK-POPの軌跡を振り返る。

ニュージャージーの蒸し暑い夏の日、数多くのファンが外国語で絶叫している。その週末、韓国のポップ・ミュージックのアメリカ人愛好者たちがニューアークのプルデンシャル・センターを埋め尽くした。駐車場には、EXO、Red Velvet、BTSなどの韓国のポップグループの楽曲のフックをつなげて歌っている一群がいる。その中でも、聞いた途端に自然と身体が動いてしまうBTSの「Fake Love」で、彼女・彼らの歌声は一層大きくなるのだ。近寄って見てみると、10代で構成されたダンスグループがK-POPのミュージックビデオで覚えた独特のダンスを他のファンに教えたりもしている。また、会場の他の場所では、ソングライターのミート&グリート、ヘアメイクの個人レッスン、「韓国でアイドルに会う:現実vs期待」などのテーマで複数のパネルディスカッションも行われている。(ここで司会を務めたK-POPブロガーのWhitneybaeが「韓国は礼儀に非常に厳しい。新人グループは敬意を示し、握手をし、90度のお辞儀をする。しかし、年長のベテラン・アイドルになると「元気か?」のように、フレンドリーでアメリカ的な挨拶をするようになる」と助言する。)

このイベント、KCONが初めてアメリカで開催されたのは2012年だが、その頃に参観していたのは200~300人程度のK-POPファンと好奇心旺盛な地元住民だけだった。その後、参加人数は12万5000人以上と膨れ上がり、現在はアメリカ両海岸でイベントが開催されている。
「前回イベントでのファンの歌声があまりも大きくて、主要な音楽業界の関係者は、天井を突き破りそうな勢いの、これほど大きな歌声は一度も聞いたことがないと話していた」と、KCONオーガナイザーのアンジェラ・キロレンが教えてくれた。KCONの人気上昇はK-POPのワールドワイドな認知度の上昇と比例している。この5年間で(韓国以外の国では)ニッチなジャンルだったK-POPが50億ドル(約5500億円)の世界市場と急成長した。そして、西洋世界におけるK-POPの存在感の大きさは10月6日に確固としたものになるはずである。その日、ニューヨークのシティ・フィールドで、韓国ソウルの7人組グループBTSが、アメリカ国内のスタジアムでコンサートを行う最初の韓国人グループとなるのだ。数分でチケットがソールドアウトとなったこの日の公演は、7月にビルボードUSホット100で初登場1位となったBTSのヒット曲「Fake Love」を引っさげてのライブとなる。ちなみに「Fake Love」のミュージックビデオ(MV)はYouTubeで初公開後24時間で3500万回以上再生され、テイラー・スウィフトの「ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ~私にこんなマネ、させるなんて」のMVの再生回数記録を追い抜いた。そして、5月にリリースされた彼らのアルバム『Love Yourself: Tear(原題)』はビルボード200で初登場1位を記録し、リリースから1週間で13万5000枚を売り上げている。

人気が出ているのはBTSだけではない。6月には4人組のBlackpinkの「Ddu-Du Ddu-Du(原題)」がチャートで55位となり、韓国の女性グループのシングルとしてはチャート最高位での初登場を果たした。また、12人グループのSuper Juniorは現在「Lo Siento(原題)」という、韓国語とスペイン語で歌うラテンソングがヒットしていて、YouTubeでの再生回数は3700万回を超えている。「どんな場合も、先陣を切ってジャングルに分け入り、道を切り開き、存在感をアピールする人が必要だが、K-POPに関して言えばそれを担ったのがBTSだと思う」と、アメリカ国内のラジオ局68局を所有するアルファ・メディアのコンテンツ部門副社長フィル・ベッカーが言う。
「たぶん、半年後には世界的に有名なアメリカの主要アーティストがK-POPのレコードに登場という話題を話していることだろう」と。

韓国のポップ・ミュージックがアメリカの音楽シーンに初めて登場したのは2012年。このとき、過激なビートと大胆なスタイルのビジュアルが融合したPsyの「Gangnam Style(原題)」のMVが、YouTubeで10億回を超える再生回数を初めて記録した。しかし、現在のK-POPファンの多くはあの曲を一過性のヒットと捉えている。「『Gangnam Style』は例外」と、キロレンが説明する。「この曲はインターネット・ミームとしてネット主体で拡散されたものだから。それこそ、『これ、面白から見てみろよ』というふうに」。また、その後、韓国の他のレーベルが世界進出を試みるも、徐々に消えてしまった。9人編成の少女時代が2011年にインタースコープ・レコードからデビューしてキャンペーンを行ったが、結局は「上手く行かなかった」と、ベテラン業界人が教えてくれた。少女時代の前にはワンダーガールズがジョナス・ブラザーズのオープニングとして彼らのツアーに同行したが、ヒット曲を出せずに失敗している。ブルーノ・マーズやワン・ダイレクションへ楽曲提供してきたクロード・ケリーが少女時代にも楽曲を提供したのだが、そのときにK-POPがブレークしなかった理由が理解できないと彼は言う。「彼の地(韓国)のポップスは、曲のサイズ的にこれまでずっとマイケル・ジャクソンの影響が強かった。
彼らは制作や金銭やリハーサルなどを明け透けに公開するので、あれほど大きな制作費を費やしたショービジネス作品が、そのポテンシャルほどアメリカ文化に影響を与えない理由は何なのか、いつも不思議に思っていたんだ」と。

K-POPはいかにして世界制覇を成し遂げたのか?

米ニュージャージー州ニューアークで2018年6月23日に行われたKCONに参加するK-POPファン。KCONは韓国で大人気のポップバンドやグループを集めて行われるコンベンション的イベントで、2012年から毎年北米で開催されている。

ケリーの疑問の答えは、その頃のグループは世界規模の観客にアピールしようと必死で、早期に結果を出そうと焦りすぎたことかもしれない。ワンダーガールズも少女時代も、自分たちのヒット曲を英語で吹き込んだにもかかわらず、離陸すらできないままで終わったのである。一方、BTSは韓国語で歌い続けながら、西洋のポップスを異なる形で音楽に取り入れていた。「『Fake Love』の音楽は本当によくできていて、普通に聞くことができ、普通に好きになる。歌詞はほとんど気にならない」と、テキサス州ヒューストンのラジオ局KRBEのラジオ番組ディレクターのレスリー・ホイットルが説明する。BTSの最初の全米トップ10アルバムである2017年の『Love Yourself:Her(原題)』にはチェインスモーカーズと共同で作った楽曲が収録されていた。その後、BTSはスティーヴ・アオキ、ゼッド、アリ・タンポジ(カミラ・カベロの「ハバナ/Havana」とケリー・クラークソンの「ストロンガー/Stronger」を共作)などとコラボレーションを行った。

そして、複数の異なるジャンルと文化を一緒に混ぜ込むことで、K-POPはアメリカン・ポップスでお馴染みのリズムを、一味違うものとしてパワーアップしているのである。「トップ40に入っている曲のリズムはミドルテンポからスローばかり。
その点、K-POPのリズムは楽観的で前向きな印象を残す」と、ホイットルが言う。そして、「韓国のポップ・ミュージックは他との区別化と変化が好きなの」とソングライターのロドネー・”チック”・ベルが説明する。「アメリカのポップ曲1曲内のメロディーは平均して4つ、時々5つのことがあるけど、K-POPの場合は8つから10ね。その上、ハーモニーが重厚よ」と。これはアメリカ人のR&Bのヒットメーカーにとって朗報だ。彼らの中にはアメリカ国民がR&Bに背を向けて、現在の主流となっているヒッピホップで多用されるループやミニマル・メロディーを聞くようになっていることにフラストレーションを感じている人がいるのである。テディ・ライリー(ブラックストリート、キース・スウェット)とハーヴェイ・メイソン(マリオ、トニ・ブラクストン)は90年代を彷彿させるR&Bによって海外での仕事を新たに見つけた。「今、僕たちは逆輸入で米国内に紹介されるという現象になっているよ」と、前出のケリーが言う。彼の説明によると、K-POPのアクトは「君が昔やったこれはカッコいいし、僕たちは今でも大好きだ」(ケリー談)という反応らしい。

アオキは、K-POP革命はストリーミング革命なくして実現しなかっただろうと指摘する。「ストリーミングが出現したおかげで、今のファンは大きな影響力を持つようになった。だからこそBTSがセンセーショナルな現象となったんだ。
つまり、ファンが彼らを現象にしたってこと。かつてのパンクやハードコアのアンダーグラウンド・カルチャーと同じ感じでね」と、アオキ。そして「そこでBTSが飛び出したってだけ。それに、とにかくファン主導が大騒ぎしているから、これ以上の広がりはないだろうね」と続けた。

K-POPコミュニティの中でも最大級のSoompiは1998年から活動を続けていて、このサイトに集うファンの大多数は韓国人ではない(彼らはKCONに参加する熱烈なファンでもある)。しかし、現在ユーザー数2200万人で、その数が急激に増えているこのサイトのユーザーたちは、何時間もかけて歌詞を翻訳し、複雑なことで有名なMVを分析している。K-POPのMVは殺人、家族の裏切り、夢の果て、傷心、タイムトラベルも含む、さまざまなプロットが散りばめられているのだ。「その多くが視覚に訴える力が強い」と、Soompiを所有する企業のコミュニティ・マネージャーを務めるクリスティン・オーツが説明する。「服装やMV、精巧に作り込まれたストーリーラインを通して、ファンは自分の考えや思いがどんどん内面に向くような体験をすることができるの。これは西洋の音楽では滅多にないことね」と。また、韓国語を理解するファンはK-POPアーティストのインタビューを解読して翻訳する。そのため、初めて接するにしても、言葉の壁はそれほど高くない。
「韓国ではすでにK-POPが文化の一部になっていて、彼にとって韓国語は母国語よ」とオーツ。「一方、アメリカでのK-POPは自己発見のプロセスとなるため、その点でファンはかなり興奮してしまう。ユーザーが最初にお気に入りの曲を1曲見つけると、その後は勝手に深く掘り下げるようになるわね。アメリカ人アーティストたちからは得られないようなモチベーションとファン同士の交流が存在するの」と続けた。そして彼女によれば、ファンの中には最終的に韓国語を学び始める人もかなりいると言う。

K-POPはいかにして世界制覇を成し遂げたのか?

2016年のアジア・アーティスト・アワーズに到着してポーズを取る韓国のガールズグループBlackpink。

Soompiのユーザーはほとんどが若い女性だ。2017年、アメリカン・ミュージック・アワードでK-POPグループとして初めてパフォーマンスするBTSがロサンゼルスに到着したとき、空港に集まった大勢のファンがブリティッシュ・インヴェイジョンを思い起こさせる騒々しい出迎えをした。「K-POPのグループは男女とも当時のビートルズと同年代なわけだから、これは音楽の歴史に於ける必然と言えるでしょう」とキロレン。そして、K-POPは「継続的に起きる音楽の乾き」にすんなり浸透し続けていると、彼女は付け加えた。

BTSの記録破りの大成功にもかかわらず、アメリカのラジオ局はK-POPを通常のローテンションに入れることを今でも躊躇している。アルファ・メディアのベッカー曰く、彼の会社はその状況をどこで、どんなふうに変えられるのかを現在検討中だという。「英語じゃないというだけで退けることがよく起こる」と言って続けた。「私が仕掛けたチャレンジというのは、昨年最もラジオで流された曲が『デスパシート』なら、英語以外の歌詞の曲をもっと流してみたらいいのではないか、ということだ」と。(2018年初頭、「デスパシート」はダイアモンド認定された初のラテンポップソングとなり、Spotifyでは10億回以上再生されている。) その一方で、K-popにとってアメリカだけが唯一のターゲット国というわけでもないようだ。これはスーパー・ジュニアが放ったK-POPとラテンのクロスオーバー曲がヒットしたことからも明らかである。「リスナーは世界規模で音楽を俯瞰することを望み始めた」と前出のKRBEのホイットルが言う。「番組制作者として、現在の地球は前よりも小さくなっていることを実感し始めている」。
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