英国出身の3人組エレクトロ・ユニット、クリーン・バンディットが12月1日、京都・東福寺にて、セカンド・アルバム『ホワット・イズ・ラブ?』の発売を記念したスペシャル・イベント<アルバム発売イベント『LIVE FROM KYOTO ~古都から世界へ』を開催した。

当日は、サポート・メンバーのヤスミン・グリーンとカーステン・ジョイを迎えて新作からの楽曲を中心に披露。
さらに「ベイビー」では、SEKAI NO OWARIのリーダーNakajinと、この曲でリード・ヴォーカルを務めるマリーナも参加するというスペシャルなコラボレーションも実現し国内外のファンを魅了した。

代表曲「Rather Be」のMVを日本で撮影したほか、これまで何度も来日を果たしてきた彼ら。移住まで考えるほど、この国に魅了されたのは何故なのだろうか。ニューアルバムの制作エピソードはもちろん、日本にまつわる思い出などたっぷりと語ってもらった。

─今回の来日は、新作『ホワット・イズ・ラブ?』のローンチ・イベント『LIVE FROM KYOTO ~古都から世界へ』を、その名の通り京都で開催し配信するというのが目的でした。実際、やってみていかがでしたか?

グレース・チャトー(チェロ):まるで夢の中にいるようだったわ。今回、私たちはウェディングケーキのように3段重ねになった、円形のステージにエレクトリックな機材を積んで演奏したのだけど、目の前にはブッダの銅像と、800年前に建設されたという由緒ある寺院があって。照明にもものすごく凝った、かなりクレイジーなショーをやることができた。しかも、生配信されていたのよね。とてもエキサイティングな経験だったわ。

英国出身のクリーン・バンディットが京都に魅せられる理由

Photo by 渡邉一生

英国出身のクリーン・バンディットが京都に魅せられる理由

Photo by 渡邉一生

─みなさんは大の親日家としても知られていますが、京都の街並みに関してはどんな印象がありますか?

ジャック・パターソン(ベース、サックス、キーボード):印象的だったのは、すごくよく計算された都市構造になっているということ。つまり、大昔の建造物と、モダンな建造物が絶妙なバランスで融合されているんだよね。
古い建造物も、ただ古いだけじゃなくて。例えば雨どいの仕組みなど、ディティールを見るととても機能的だしね。日本人の精緻さや気遣いのようなものが、そこに投影されている気がする。日本の文化、アティテュードの象徴が京都という街じゃないかな。

─伝統的なものと、モダンなものがミックスされている。それってクリーン・バンディットの音楽性にも通じるところもある気がしますね。

グレース:わあ、ありがとう(笑)。今回、アルバムのローンチ・イベントを京都でやろうと思ったのも、そうした共通点を感じたからなのよ。異質なもの、予想外のものを組み合わせた時のケミストリーみたいなものを、確かに私たちもいつも楽しんでいるわ。

─今作のタイトル『ホワット・イズ・ラブ?』にちなんでお聞きしたいのですが、愛とはズバリなんだと思いますか?

グレース:そうね……それはアルバムを聴けばわかるわ(笑)。

ルーク・パターソン(ドラム):そう、しかもアルバムを10回繰り返して聴くときっと答えが見つかるよ(笑)。

─(笑)。
「愛」の定義って、若い頃に思っていたのとは違ってきますよね?

ジャック:そう思う。まず優先順位が変わってくるかも。自分が誰を好きなのか、どういう人を好きになるのかを見極められるようになってくるし、いわゆる「衝動」や「情熱」みたいなものも、若い頃より落ち着いてくるよね(笑)。それよりも、大切な人やモノに囲まれていることがどれだけ幸せで、愛に満ち溢れているかを身に染みて感じるようになるというか。

グレース:愛の対象が「人」だけじゃなく「もの」でもあり得ることを知るのも大事だと思う。そうしないと、あらゆることがオートマティックに進んでしまいがちというか。私、近藤麻理恵さんの「片付け術」に関する書籍を読んだんだけど、それによれば、Tシャツや手紙や写真……家にある要らないモノを、どんどん片付けていくと、本当に自分に幸せをもたらすもの、あるいはもたらさないものが分かってくるらしいの。それで早速、私も書籍に倣ってやってみたのね。まずは洋服を処分したのだけど、そのうちにふと、「私は今まで何に喜びを感じるのか?なんて、深く考えたことなかったな」ということに気づいたの。それについて向き合い、自分を深く理解することが、人との関係性や仕事への取り組み方に深く影響を及ぼしたと思う。

─なるほど。

グレース:あなたの言うように、アルバムではいろんな愛の形を歌っている。
家族愛や兄弟愛、母性愛……もちろん、ロマンティックな恋愛についてもね。「What Is Love?(愛とは何か?)」と、「What isnt love?(愛ではないものは何か?)」の両方について考えたわ。というのも普段、私たちが何気なく触れているポップ・ミュージックやハリウッド映画の世界では、「愛」のエピソードはとってもクレイジーだし、ドラマティックに美化され「これぞ愛!」みたいにされているじゃない?でも、必ずしもそれだけが愛じゃないよね?ということを、一歩引いた視点から考えてもいるの。

ルーク:そういう意味では、僕らにとって内容の一貫性を重んじた初のアルバムだといえるね。歌詞だけでなく、例えば曲と曲の繋ぎや流れなんかにもこだわったし。そう、サウンド面では今まで以上にノスタルジックな要素が強くなったかもしれない。70~90年代ポップからの影響も強いし、モダンなフィーリングなのに、よく聴くとディティールに昔っぽさが含まれているよ。

─しかも今作は、いろんな国でレコーディングしたそうですね。中にはウガンダのあるバスルームでレコーディングした部分もあるとか。

グレース:あはは! そうなの。「Beautifu」という曲では、ラヴ・サガ(現在はソロで活動している元オリジナル・メンバー)に参加してもらったんだけど、彼に歌ってもらった歌詞の中で1ラインだけ、どうしても後から書き換えたくなって。そこを歌い直してもらえないか相談しようと連絡したところ、ちょうど彼はウガンダにいたの。
録音機材も何もなかったから、スマホか何かに録音したものを送ってもらった。なので、本当にバスルームなのかどうかは定かではないんだけど、おそらく家の中で一番声が響くところといえばバスルームだから、きっとそこで録ったんだろうねってみんなで話していたのよ(笑)。

─そういうことだったんですね(笑)。この曲はナイジェリアのシンガー、ダヴィドもフィーチャーされていますよね。

ジャック:彼の声を入れるのも大変だった。今、ロンドンではナイジェリアの音楽が流行っているのもあって、彼はレコーディングでも引っ張りだこでさ。ちょうど他のアーティストのレコーディングでロンドンに来ていて、どうにか歌録りの時間をもらえることになったんだ。で、真夜中に指定されたスタジオへ行ったら長蛇の列ができていて。そう、みんな彼の声をもらいに来てたんだよ(笑)。

グレース:私もルークもすでに各々の寝室でくつろいでいたから、「そんなに時間がかかるならもう、帰ってきたら?」ってジャックにメールしたんだけど、朝の5時まで粘ってようやく録ってもらえたんだって(笑)。

─そんな貴重なテイクだったんですね。

ジャック:何しろ3年がかりで作ったから、本当にいろんな思い出があるよ。
ジュリア・マイケルズが参加してくれた「I Miss You」もすごかった。トラックはすでに完成していて、そこにジュリアの考えたメロディを乗せてもらうことになっていたんだけど、案の定何も準備せずに現れたんだ(笑)。

なので、まず30分くらいおしゃべりしながら「こんな感じの曲」ってピアノで聞かせて。それで録音ブースに入ってもらったんだけど、曲の頭から徐々にメロディを作り上げ、45分後にはメロディも完成し歌いこなせるようになってたんだよ。そのプロセスをずっと録音していたのだけど、なぜ彼女がそういうやり方でレコーディングを行ったのか、最後のテイクを聴いたときに全て察したんだ。その場で作り上げたメロディを、全く直しを入れずに歌いきったテイクが出来上がったからね。ものすごく貴重な場面に立ち会うことが出来たなって今でも思うよ。

グレース:たった45分でメロディを仕上げちゃうなんてすごい!って私たちは思ったんだけど、ジュリアン曰く「ジャスティン・ビーバーに提供した曲は28分で作れたわ」って(笑)。

ジャック:ショーン・ポールも、その場でメロを作り上げてヴォーカル・テイクを仕上げてしまう才人だよ。僕の知る限りでは、彼とジュリアンくらいだね、そんなやり方をしているのは。まるで鍾乳洞みたいというか、ポタポタとしたたる水滴が、気がついたら鍾乳石の形を大きく変えてしまうのに似ているなって思う。

─とてもユニークな喩えです。
そろそろ時間なので最後の質問なのですが、クリーン・バンディッツは兄弟2人と女性1人という、とてもユニークな編成ですよね。結成して来年で10年ですが、お互いの関係って変化してきました?

ジャック:確かに、この10年で変わったと思う。ようやく落ち着いてきたというか、ファミリー感が出てきたな。一緒にいて楽しいしリラックスできるし、今回も新幹線でメンバーやスタッフみんなでコーヒー飲みながら話していて、「ああ、こういう環境がずっと続いているのって素晴らしいなあ」としみじみ思っていたところだったんだ。

ルーク:バンドといっても、結局のところ僕らは3人だけでなくスタッフやセッション・ミュージシャン、みんなで成り立っているからね。それがありがたいことだと若い頃よりも理解しているし、ほんと、収まるべきところに納まったって感じがする。

グレース:私たちって親同士も仲が良くて、それもいい影響を与えているな。実は、最初に私たちが日本に来たのは今から12年前、まだバンドも結成してなくて、ジャック達の両親と、うちの両親も含めた家族旅行という感じだったの。東京、京都、宮島、広島と回ったのかな。それがきっかけで、私たちは日本が大好きになった。なのでクリーン・バンディットは、バンドとスタッフ、さらには家族も含めた「大きなファミリー」だと思っているわ。

英国出身のクリーン・バンディットが京都に魅せられる理由

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